猫時間通信

2003年8月

 

■2003/08/24■ あつい〜〜/品川駅に思う

昨日もそこそこ暑かったけど、なんだか今日のは堪えた。湿気が多くて、太陽は白く鈍い眩しさ、光化学スモッグも出まくって、妙に白くくらむ光とともに目が痛い。さすがに日を避けて歩く人が多く、本屋やカフェに逃れてへろへろになる人、多し。

こちとら生き物で、スイッチ押すようには変われん。頼みますよもう、ほんとに〜。(お天道さまへ)


品川駅へ行くたび、工事をしている。改札を出て港南口に進む廊下から、天井を覆っていた幌がとれ始めた。高い天井、天井から下はガラス張り、その向こうに広がる空。一瞬、呆気にとられる。これまで暗かった工事中の印象を一変させてしまった。

品川の港南口(プリンスホテルとは反対側)は、品川インターシティなど複数の高層ビルが集まる街となり、その中央にある中庭を囲んだ歩道で結ばれている。ぐるりと一周するだけでなく、スカイウォークという橋がショートカットも助けている。夕刻、少し紅指す光の中に、ぽつぽつと歩道を照らす電球、窓が明るいカフェ多数。そこに至るに相応しい道を、というところか。

そういえば、品川は10月1日より東海道新幹線の発着駅となる。新しい品川駅は、現在の京都駅のように、巨大な船舶のようなイメージがかいま見えていた。品川は東海道の宿場、そして明治維新以降品川駅の発展期には、高輪や白金と行った地域にブルジョワが住んだ。戦後の発展が東京の西側へ移っていったのに対して、湾岸地帯の再開発(お台場、汐留、芝浦など)とともに、港湾に近く有名企業が多数ある品川にも新幹線機能を持たせれば、一見古くさい、しかし本来東京が持っていた商工業地区をもう一度掘り起こせる、ということか。

品川から一駅のJR田町駅。以前は改札を出ると三田側に出るのが正面、芝浦側へ出るには改札から裏方向に廻って暗い通路を歩くものだった。その改札を真っ二つに分け、三田側と芝浦側をまっすぐつなぐ通路を中心に据えてしまう。通路も窓が大きく明るい。これで三田側と芝浦側の両方にスムーズに動けるようになり、大量の乗降客を一気にさばける。久々に降りてみた芝浦側、以前は工場と事務所ビルばかりで「灰色の街」というイメージがあったが、マンションや雑居ビルが建ち並び、エクセルシオールカフェなども出来ていた。おまけに、芝浦工業大学はここから移転するそうである(跡地には巨大なマンションが建つとか)。

ここ数年の東京の変化は、かつてない規模で起きている。東京という都市のあり方が変化するほどの規模だが、それにしてもデザインの統一性、方向性などはあるのだろうか(大崎などは見ていて何となく感じるものがあるけど)。大規模な箱を作るのはいいけど、街全体をどうするのか。特に湾岸地帯に巨大ビルを建てまくると、海風を遮ってしまう。気候に対する影響は小さくないはず。京都洛中の高層化とともに、とても気になることの一つである。地上を歩き、風が腕をすり抜ける楽しみは、失いたくない。


 

■2003/08/21■ 涼しさで五感の開き方が・・・

8月中旬はちょっと暑くなったと思ったら、すぐにまた雨と曇り、そして再び上がらない気温。今日やっとたまりまくった洗濯をやっと干したが、それにしても蒸し暑い。夜、にわか雨。

この涼しさは尋常でない。1993年は冷夏と言われたが、毎日冷房を必要とするくらいの暑さはあった。それだけに東京の人々は冷夏を実感できず、いざ米も野菜も足りないとなると、大騒ぎして買い占めに走ろうとした。冷房がいらない夜が何日もあった今年は、日本のほとんどで実感しているはずだ、戦後最大の凶作と言われた1993年の比ではないだろうことを。せめて少しでもいいからまとまった日照があれば・・・それに、皆が冷静に対処すること、こっちは可能なはず。


涼しい日、こちらが長袖シャツを着ている日も、若い子はノースリーブで歩いている(特に女性)。涼しいんで夏物が異様に安くなってるし、安けりゃ買っちゃうだろうし、何より若けりゃ心意気だけで着倒すからなぁ。(まぁ、若い頃はもともと暑がりに傾きがちではあるけど。)

一方、猫は例年より楽なようだ。毎年暑くてどうしようもない顔をしているが、今年は車の上、門柱の上などを選んで、風に身体を任せている。ノラなりに眠りが深いのだろう、しかも平均気温が低めのせいか、けっこう元気に歩く姿を見かける。今年生まれと思われるチビも、いっちょまえに短く太い足を投げ出して、テリトリーを主張している。

私はといえば、涼しさのためか、夏独特の感じ−−−五感が外へ向かって躍動する感覚が縮小して、どうも閉じた感じがする。いや、ふさぎ込んでいるわけではなく、秋に感じるような気持ちを味わっちゃってるんで、身体とアンバランスになっているというか。快適なポイントがどこにあるかわかりづらくなっているというか。そういう人、意外にいるんじゃないだろうか。どうすりゃいいか、身体にききながら過ごす毎日。


 

■2003/08/11■ 乾いた風は一日だけか

昨日(8/10)、東京は台風一過の大快晴。意外にも湿度が低めの風が吹く。大量の雨で空気中の粉塵が洗い流され、休日で車の量も少ないためか、保存されたように空気は澄んだままだ。空は青く高く、太陽の作り出す陰影の鮮やかなこと! あまりの気持ち良さと、首・肩の凝りの緩和のためにも、外を歩く。

腕をすり抜ける風が気持ちいい。光の透明度が高く、見るという行為はこんなに楽しかったかと驚く。やはりと言うべきか、カメラを下げている人々が多い。こんなきれいな空気は、東京では滅多にない。

ゆっくりと暮れる西の空が穏やかで乾いた紅に彩られ、それが群青色に溶けていく。今度は満ちつつある月がぽっかり上がる。しばらく目を離してまた空を見上げると、今度は火星も上がってきた。5万7千年に1度の大接近と報道されているが、本当に大きく赤い。

自宅でのすてきな月見。夜の10時半あたりに空が湿ってきて、それも終わる。地上の風も湿ってくるのがわかる。

今日の夜、満月前夜の月は薄いヴェールを纏っている。乾いた風は、一日限りか。残念。


 

■2003/08/08■ 神保町に新しい三省堂

梅雨が明けたら台風。昼間、突然降ってきたかと思うと短時間で止み、夕方には晴れてひどく蒸し暑い。夜に入って風が強くなってきた。この夏は、短いのだろうか。


今日の話ではないのだが、三省堂神田本店(神田とは言っても駿河台下交差点)の近くに出来た、新しい三省堂に行ってみた。三省堂本店から靖国通りを靖国神社方向に進むと、すぐに道がゆったり湾曲するが、その向かい。以前は三井住友銀行神保町支店があったビルの1階だ。この場所は、JRお茶の水から駿河台下・神保町方面へ坂道を下っていく際に、三省堂に用はないからとショートカットする道の出口にある。うまい場所をおさえたものである。

雑誌や話題の文芸書と並んで、食・旅・道(茶道、華道、その他趣味の道)など、遊びの本に力を入れた店舗。旅では京都と沖縄の書籍の充実ぶりが、なかなか楽しい。また、文具や雑貨なども高級感があって贈り物にもなる品揃えにふっている。書泉グランデのオタク充実系とは違って、雑誌にたとえるならサライやBRUTUSなどに親近感のある感じか。

最大の特徴は、三省堂から直接続くカフェ、上島珈琲店。ソファやスタンド付きカウンターなどがあって、セルフサービスでそこそこ居心地のよさそうな空間。試しに入ってみる。

コーヒーは、ネルドリップブレンドと称している。受け取ると、ミルクや砂糖はセルフサービスコーナーへ。スタバやセクセルシオールカフェの要領だ。ミルクは、コーヒー用ポーション(スジャータのようなタイプ)の他に、牛乳そのものをポットに用意している。これは予想外でうれしい。立ったまま一口コーヒーをすすると、まずくはないが、ちょっとなぁ・・・牛乳を入れてから、席につく。改めて味わう。ネルドリップはそれらしい味こそするけど、値段なりの豆を使っているのだろう、私にはブラックコーヒーでは飲めない。

カウンターは、三省堂に隣接しているのだが、席があいているか、書店側から覗かれる。これは少々辟易。ただ、それさえなければ悪くない。店の壁が堅いためか、声高な人が数名いるとかなり響くが、買った本を持ち込んで広げる人も多いため、すぐに適度な状態に戻る。イスはおそらく柳宗理デザインだろう。とにかく、すべてが無難で、そこそこ居心地いい。うまくチューニングしたもんだ。

書店とカフェの複合店は増えている。品川の港南口は、インターシティなどを中心に複合高層ビル街になっているが(中にはストリングホテルという新しいホテルもある)、ここには結構大きな本屋が3軒もある。そのうちの一つが、Tullys Coffeeと提携。品川ではないが、スタバもツタヤなどと提携している。古本屋と喫茶店、といった本や雑誌の特集があるくらいだし、個人的には悪くないのだが、チェーン店勝ち組じゃなく、もうちょっと別の形態の店を見てみたいなぁ。個人経営の喫茶店がのれん分けして拡大する際に、書店と提携するとか。

ところで、上島コーヒーって、聞いたことあるなぁ・・・と考えていて、思い出した。UCCである。そうか、なるほど、まぁスタバ提携とはまた違う方向は買います。でも、豆はもっといいものを使ってほしいです(50円あげてもいいから)。


ところで、昨年から肌で感じること。神保町を歩く人々の減少。とにかく人が少ない。新刊書店も古本屋も、そして喫茶店も。

減った人々はおそらく、池袋のジュンク堂書店あたりに足を運んでいると思われる。ここは平日も混雑しているが、土日などすごい。エスカレーターは常に人で埋まっていて、売り場は物色組・立ち読み組・冷やかし組も含めてくらくらするくらい人がいる。東京のベッドタウンになっている練馬や板橋、埼玉などに住む人々が、池袋を踏んで山手線圏内に入ってくることを考えれば、まぁこうなる。

ただ、私はもうちょっと別の感じを抱いている。自分より若い世代の人と話をしていると、神保町のように1つの店ですべての本を効率良く集められないこと自体、いらいらするし、時間がもったいない、そこへいくとジュンク堂はすばらしい、という声を聞くことが時々ある。つまり、神保町で何軒も周るのはつまらん、という人も結構いるということ。

いや、もともとそういう人々はたくさんいたはずだ。けど、神保町にわざわざ来る人々は、読書家であると同時に愛書家でもある。本がたくさんあるところで戯れて、コーヒーなど飲みながらちょっと寛いで、という行為自体が好きであり、そのような人々が日本の本を支えてきたのだと思う。目的の本が見つからなくても、思わぬ拾い物を喜ぶ傾向が強いし、そもそも豊かな教養というのは効率よく学ぶだけじゃなく、つくづくたくさんの無駄足を踏んで、勘を働かせて得られるものだ。神保町は長らく、そういう勘を働かせる道場のような街だったのかもしれない。

一方のジュンク堂、ほんとうにすばらしい書店だ。サロン的なトークショーを頻繁に開催するし(それを実現しやすいようにカフェを持っている)、品揃えにも気を配っている。神保町の大規模書店が意外に粗雑で、中規模店や専門店に行かないとわからない領域まで含めて、実にうまくカバーしている。

ただ、私は池袋という街にあまり魅力を感じないのだ。東京の東寄りは、問屋文化である。合羽橋の道具問屋に始まって、秋葉原電気街、衣料品の問屋街などの流れに、神保町もかぶっている。こうした問屋街は「客が自分の目で選ぶ」のが基本。店も、自分の扱う分野をある程度限定し、その分野だけは細かく揃える。客は縫うようにして買い歩く。その合間に、喫茶店や食堂が出来ていく。そのあり方が、超大規模店舗の存在で揺らいでいる、というのが神保町人口の減少に感じられる。愛書家という存在が減り、本からいかに効率良く情報をとりだすかに力点が移っていることも、背景にあるだろう。

ただ、過密型の街は、その形態にそって発展し直すものだ。秋葉原は、電気街としてはビックカメラなどの量販店に押されていても、オタクの街アキバとして再生している。

神保町はさて、どうなるのだろう。


 

■2003/08/02■ やっと梅雨明け、涼しかった京都

なんとも遅い梅雨明け。7月の最後には、1993年あたりの記録的冷夏、それによる不作を連想しかけて、せめて天気くらい景気よくいかんか、などと思ったり。やっと暑くなりそうだ。


7月末は用事だらけでえらくめまぐるしく、その上に京都まで行ってきた。京都ページに出す前に、ここで少し速報を。

新幹線のドアが開く瞬間、身体が熱気に包まれない。妙だ、こんなに涼しいなんて! すごしやすいんだから喜ぶべきなのに、この落ち着かない感じは何? 祇園祭もあまりの涼しさで、ちょっと空気が違っていたように思う。

それより不思議なのは、とにかく街全体の活気がないこと。人が溢れかえっていた1990年代が懐かしい。夜など驚くほど静かで人も少ない。

一方、7/31付けの京都新聞によれば、2002年の観光客数はワールドカップもあったため、史上最高を記録したそうだ。記事に出ていた観光客数の推移のグラフを見ると、建都1200年バブルが来る前は現象傾向にあった。お祭りが来てからは、基本的に増加傾向にあるという(阪神大震災の年は例外、そして1990年代後半は横這い傾向で、2001年以降再び伸びた)。ただ、不況もあって客の財布の紐もかたく、特に関西圏の客は日帰りの傾向が強いとか。

この観光数字と、私が街を歩いての実感は、とてもかけ離れている。1990年代の京都の繁華街、特に建都1200年祭を迎える前の、観光客が減り続けていた前半は、それこそ逆に人が溢れていた。街を行き交う顔は活気があったし、混雑をかいくぐって街の空気、店を見つける楽しみも大きかった(もちろん古寺観光もしていたけど)。この祭りが終わり、洛中にビル化の波が押し寄せ、京都駅も改装された頃から、むしろ徐々に街全体の元気がなくなっているように感じている。

この2年、街の活気はさらに衰えているような印象を受けてしまう。京阪神にもともと本拠地のあった企業の本社が移転し(もちろん東京へ行ってしまったことを意味する)、関東平野ほど土地がないといった事情もあるだろうが、もともと底力のある地域のはず。

ただ、ちょっと気になるのは、小耳にはさんだ話。「所用で六本木ヒルズなどいったんですが、ありゃすごいですなぁ」

もちろん、東京でもあんな建物は稀である。そうはいっても、東京の再開発における、建造物の規模と商業施設の大きさは、他の地域を大きく引き離しているのかもしれない(他にもお台場、新橋、汐留などがあるし)。あんなものがぼこぼこ立ち並ぶなんて、他の地域はどう逆立ちしたって東京にかなわない・・・そんな気分が日本のあちこちにあるのだろうか。

でも、あんな巨大ビルだけが発展の基ではないはずだ。


京阪三条駅は大改装を行っていたが、完成した。終結していた市バスターミナルを周囲の街に散らし、路線まで変更して、地下鉄・京阪電車とバスとの組み合わせを際立たせてきた。廃止された路面電車の跡地に、KYOUENという黒塗り2階建ての施設を完成させた。白っぽい中庭(白砂のミニ枯山水や小さな池もある)を、黒い建物が取り囲む。中庭を向くように各店舗が入り、外からはところどころに商業施設が入っていることがわかる程度しか見えない。

つられて入ってみる。中庭は決していいものとは思わないが、鴨川の東側にある建造物として、景観を崩さないような配慮はしてある。店舗は、東京・南青山のIDEE(雑貨・レストラン)、同・代官山のイタリアンの他に、神戸・芦屋の花屋など、外から入ってきたものも多い。ただ、パッケージングだけは京都なりのやり方だろう。

これがいいかどうかは別にして(やや中途半端な印象は否めない)、単なる懐古趣味ではない、京都特有の新しもの好きを活かした街づくりはあるはず。何しろ、老若男女を問わず、あれほど喫茶店を使う街もなく、カフェ文化が語られるや、有数のカフェ都市になったくらい。何でも年齢や職業のセグメントで店のあり方を決めてしまう東京の不愉快さを、この地域ではあまり感じずに済むし(もちろん別のクラス分けはあるけどね)、それは失われてはいけないものだ。

がんばれ、京都、そして大阪・神戸。


 


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