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表現意図に適した組写真の見せ方

写真の見せ方が、組写真では重要な要素

 単写真と組写真で異なる点の1つに、写真の見せ方があります。単写真の場合は、たった1枚しか写真がないので、工夫する必要はほとんどありません。

 それに比べて組写真は、考慮しなければならない点がいくつかあります。写真を見せる順序によって印象が変わります。また、1枚ずつ見せるのではなく、何枚かを並べて一緒に見せる方法も使えます。その際には、どの写真を組み合わせるかで印象が違います。

 見せ方によって印象が変わるということは、狙った表現意図の伝わり方も変わるということです。つまり、表現意図をより分かりやすく伝えるために、見せ方も考慮する必要があるのです。それは「写真の見せ方も、組写真による表現の大きな要素である」ことを意味します。

見せ方は、全体と部分に分けて考える

 見せ方というと、広い意味では、写真の展示方法や照明方法なども含まれます。しかし、純粋に写真の部分だけ考えると、展示方法に依存しない部分が、見せ方と中心となります。組写真においては、以下のとおりです。

・組写真全体での考慮点
  ・全体の表現方式(どこを強調するか、見終わった印象など)
  ・分解した要素の表現方式
  ・写真を見せる際の全体の流れ(主に見せる順序)
・個々の写真に近い部分での考慮点
  ・単独で見せるか、複数を一緒に見せる(グループ)かの判断
  ・グループの場合の表現方式

 分かりやすくするために、個々の写真に近い部分から説明します。用意した写真を見せるとき、個々の写真を1枚だけ見せる方法と、何枚かを一緒に見せる方法があります。この両方を組合せることも可能です。何枚かを単独で見せ、残りを数個のグループに分け、グループごとで一緒に見せるという形に。

 グループとして見せる場合には、見せ方を決めなければなりません。それがグループの場合の表現方式です。特定の写真だけ大きく見せたりなど、何種類かの表現方式があります。

 単独でもグループでも、写真の見せる順番を決めなければなりません。この順番が、全体の流れとなります。同時に、全体と要素の表現方式も決めます。要素の表現方式は、撮影前の準備段階で決めてあります。残るのは全体での表現方式で、どの要素を強調するとか、流れにメリハリを付けるとか、全体を整える役割を持っています。当たり前ですが、表現方式を選ぶ際に重視するのは、組写真の表現意図が上手に伝えられるかです。

 以上のように、組写真における見せ方は、全体と部分の両面から考えます。作業の順番としては、表現意図を意識しながら分解要素を先に決めていくのですが、内容を理解するには、写真に近い側から説明した方がよいでしょう。

グループ化した写真は、グループでの見せ方も決める

 一緒に見せるためにグループ化した写真の集まりは、見せ方となる表現方式を決めなければなりません。それには、次のようなことが含まれます。

・写真の重み付け
  ・同じ重みで並べる
  ・特定の写真(複数枚も可)だけ目立たせる
・特定の写真の目立たせ方
  ・写真を大きくする
  ・目立つ枠などを加える
・写真の配置
  ・単に並べるだけ(配置は気にしない)
  ・決められた条件で配置する(条件は様々)
・配置に関係する要素
  ・写真を並べる順序
  ・写真の位置(格子状、放射状、円形、バラバラなど)
  ・合わせる基準(地平線を揃える、目の位置を揃えるなど)

 グループに含まれる写真を比べ、重み付けが必要かを考えます。特定の写真だけ目立たせた方がよいなら、その写真を決めておきます。通常は、目立たせる写真とその他の写真という2段階ですが、場合によっては3段階以上を利用することもあります。

 目立たせ方は、展示方法を決める際に検討しますが、要素の内容に合わせて、ある程度決めておいた方がよいでしょう。もっとも一般的なのは、目立たせたい写真だけ大きくする方法です。

 写真の配置は、複数の写真を一緒に見せる場合、意外に重要な要素です。あまり意識せず並べたのに、並び順や配置で印象が少し変わってしまうからです。単に並べるだけの場合でも、余計な印象を与えないように、並び順や配置を決めた方が安全です。

 写真の位置としては、格子状、放射状、円形、バラバラなど数多くあります。このうち、バラバラと格子状が、余計な印象を与えにくいものです。

 特殊な並べ方として、何かの基準を設けることもあります。たとえば、複数の写真で地平線を揃え、横に並べるとかです。各写真の地平線の位置が異なるとき、写真は上下が揃ってない状態で横に並びます。こうした並べ方も、表現上の意味があれば適切なのです。

表現意図の分解要素は、見せ方を考える単位でもある

 撮影前の準備として、表現意図を複数の要素に分解しました。その要素は、要素の表現方式を選び、1枚または複数の写真を求めます。この段階で、要素の表現方式は決まっているわけです。

 写真を単独で見せるかグループ化するか、それらをどの順序で見せるかは、分解した要素ごとに考えます。表現方式を選んであるので、それに沿って決めていくだけです。要素の内容がもっとも伝わる形で。

 分解した要素をさらに分解している場合には、下側の階層の要素から決めていきます。上側の要素に含まれているのは、写真ではなく複数の要素です。そのため、写真の順序ではなく、要素の見せる順序を決めることになります。

 このように、組写真全体ではなく、分解した要素で見せ方を考えるわけです。それにより、考える範囲が大きく広がるのを防げ、失敗が起こりにくくなります。

全体での表現方式は、分解した要素の調整役

 下側の要素から見せ方を決めていくと、最後には組写真の全体に達します。この段階で、全体の表現方式を考えます。ただし、要素ごとの見せ方を細かく決めてあるため、決める内容はそれほど多くありません。あくまで、全体の調整という役割です。具体的には、以下のようなことが含まれます。

・全体での流れや強弱
  ・表現意図が伝わる流れに(要素の順序)
  ・特定の要素を強調する
  ・リズムや印象の変化を加える
・要素間の接続
  ・要素の区切りの強弱
  ・要素のつながりを適した形に
・その他の考慮点
  ・見終わった際の印象を整える

 まず最初に、要素の見せる順序を決めます。その上で、どの要素を強調すべきか判断します。表現意図を分解した要素が、すべて同じ重みとは限りません。より強く良く伝えたい要素を選びます。強調する方法は、展示方法が決まった段階で検討するため、ここでは考えません。写真の枚数が多いときは、リズムや印象の変化などをどうするかも決めておきます。

 分解した要素ごとに写真を撮影してあるので、要素の区切りをある程度は示さないと、要素ごとに伝えたい内容が伝わりません。逆に、区切りが強すぎると、見ている人に余計な印象を与える場合もあります。その両方を考え、適していると思う区切りの強さを決めておきます。区切りを強く見せる場合には、つながりの部分をどうするかも決めます。要素ごとに写真の枠のデザインを変えるとか、いろいろな方法があるでしょう。

 組写真では、何枚もの写真を見せます。枚数が多いほど、後に見た写真の印象が強く残ります。こうした特性を利用して、見終わった際の印象を整えます。場合によっては、要素の順序を変えることもあります。また、途中で見せた写真を最後に再び見せる方法も可能です。特に印象深い写真だけ選び、前の方で見た内容を思い出させるとか、主な要素をまとめて思い出させるとか。

 この段階で決めるのは、組写真全体に関わることです。そのため、どの決定でも、狙った表現意図が一番伝わるように考慮しなければなりません。

作業の流れは、下側の要素から全体へと進む

 ここまでは、個々の写真に近い方から順に説明してきました。それは、実際に作業する流れとは異なります。そこで、もっとも効率的と思われる作業の流れを作ってみました。それは以下のとおりです。

・要素ごとに共通の作業(下側の要素から先に行う)
  ・要素の表現方式を決める(通常は撮影前に決める)
        ↓
  ・表現方式に合わせて、写真の単独/グループ化を判断
        ↓
  ・写真(または要素)の見せる順序を決める
    ↓
・要素の見せる順序を決める
    ↓
・要素の接続方法を決める
    ↓
・要素の強弱やリズムなどで全体を整える

    ↓
・見終わった印象が良くなるように調整する

 流れで示したように、下側の要素から始めて、全体へたどり着きます。最後に全体を調整して、見せ方に関する決定は終了です。

 撮影前の準備段階では、表現意図から出発して、それを複数の要素に分解し、最後に個々の写真を求めました。表現意図が全体と同じですから、上側から下側へ進んでいるわけです。見せ方を決める際の流れとは、ちょうど逆になります。撮影前の準備では、分解しながら下側へ進み、見せ方を決める段階では、それに沿って戻ってくる感じですね。

 この流れが絶対ではありませんから、自分がやりやすいようにアレンジして使うとよいでしょう。

分解した要素を無視した見せ方も可能だが……

 ここまでの説明では、写真を見せる順序が、要素単位に分かれています。そうしたのは、各要素の内容が伝わりやすいようにと考えてのことです。その結果、組写真の表現意図も伝わりやすくなります。

 そうではなく、要素単位を無視した見せ方も、やろうと思えば可能です。ただし、表現意図を伝えるのが非常に難しくなるので、見せ方がよほど上手でない限りお薦めできません。たいていは、大失敗に終わりますから。

 1つの例として、次のような見せ方を考えてみましょう。表現意図を分解した要素が2つあり、それぞれの要素に10枚の写真があるとします。これを見せる方法として、2枚ずつのペアの10グループに分けたとします。ペアの左側には、分解した最初の要素に含まれる写真を必ず入れます。ペアの右側には、分解した2番目の要素に含まれる写真を必ず入れます。こうしたペアを10グループ用意し、順番に見せるわけです。

 この方法で、表現意図が伝わるでしょうか。左側と右側の写真は別な要素に属していて、次のペアが登場するたびに消えていきます。その結果、10個のペアを見終わった段階で、それぞれの要素を頭の中で整理する必要性が生じます。普通に考えて、要素ごとに区分けして見せた方が、要素の内容を理解しやすいでしょう。

 要素単位を無視した見せ方は、必ず悪いとは限りません。特別な理由、それも表現意図を上手に伝えられる理由があれば、やって構わないのです。しかし実際には、特別な理由があることはまれで、失敗することが多いでしょう。

利用する展示手段に適した展示方法を考える

 以上が、純粋に写真の部分だけ考えた見せ方です。実際に展示するときは、決めた見せ方に合わせる形で、展示の条件を整えます。最初に決めた見せ方を通常は変えませんが、展示場の制限などやむを得ない事情があった場合にだけ、見せ方を修正することもあります。もちろん、表現意図を邪魔しない範囲で。

 インターネットのおかげで、写真の展示手段が増えました。純粋に写真の部分だけ考えた見せ方は、ウェブ上での展示にも利用できます。というより、展示手段に影響を受けにくい部分なので、たいていの展示手段で利用可能です。

 どんな展示手段であっても、表現意図が一番伝えられるように、展示方法を考えることが大切です。つまり、展示場に依存する部分の設定も、表現意図を重視する形で決めなければなりません。

長く撮り続けるテーマは、途中で何度か発表も

 表現意図のテーマとして選んだ内容の中には、1回や2回の撮影で終わらないものもあるでしょう。さらには、5年とか10年とかの歳月が必要となるテーマもあるでしょう。

 そんなテーマの場合は、ずっと撮影し続けて最後に発表するのでなく、途中の段階でも発表して構わないと思います。2年ぐらいに1度の頻度で発表するとかです。もちろん、組写真ですから、複数の要素に分解して、それぞれの要素を写真に仕上げます。すべての要素が揃ってないと発表できません。揃うのが大前提です。

 発表した組写真の感想を聞いたり、分解した要素が適切か考え直したりすると、もう少し改良できる箇所が発見できます。また、要素は同じでも、それを表すための写真として、別な被写体を思い付いたりします。こうして見直しを繰り返すと、同じテーマの組写真でも、完成度はだんだんと向上するでしょう。

(作成:2003年8月24日)
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