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天気に合わせて写真の狙いを変える

写真撮影は天気に左右されるもの

 屋外で写真を撮るとき、無視できないのが天気です。まず、多く人は、雨が降れば撮影を中止するでしょう。また、晴れか曇りかで、ホワイトバランスを(銀塩カメラのリバーサル・フィルムなら、フィルムの種類を)切り替えなければなりません。

 これら以外にも、もっと根本的な影響があります。同じ被写体を撮影したとき、ホワイトバランスの影響を無視したとしても、写り方も変わるのです。晴れていれば影ができるし、雨が降れば被写体が濡れるからです。

 そこで、写真撮影と天気との関係を整理してみました。天気の種類ごとにどんな写り方になるのか、それをどのように利用するかなど、撮影に役立つ内容を解説しましょう。

撮影には、晴天より薄曇りが適する

 経験の浅い人は、撮影に最適な天気を晴天だと思いがちです。しかし、実際にはそうではありません。晴天だと、たいていの被写体で、ハッキリとした影が生じるからです。

 いくつか例を挙げてみましょう。凹凸のある建物なら、突き出ている部分の片側と周囲に影が付きます。影のない状態の建物と比べて、雰囲気がかなり変わるはずです。モデルなどの人物撮影でも、晴天だと困ります。髪の毛や鼻による影が顔に生じて、美しい状態には写せません。

 このように、影が生じる状況は良くないのです。フラッシュ撮影に照らし合わせると、もっと分かりやすいでしょう。フラッシュの光を被写体へ直接当てると、被写体や背景に影が生じます。そうならないように、フラッシュをバウンズしたり、フラッシュの前にディフューザーを付けて、光を和らげます。太陽による光も、これと同じなのです。

 では、どんな天気が良いのでしょうか。多くの人にとっては、薄曇りです。薄い雲によって太陽光が和らげられ、非常に撮影しやすい状態となります。被写体に影が生じないのに加え、まあまあ明るいし、ホワイトバランスも晴天に近いからです。

 実は、さらに良い天気があります。全体的に薄曇りで、たまに太陽が顔を出す天気です。これだと、影の生じない状態が大半を占め、影のできる状態も少し含まれます。2種類の光の状態を、1日で楽しめるわけです。

 薄曇りでなく完全な曇りの日もあります。この場合は、被写体の色が弱くてコントラストは低めという、少し寂しい感じになります。ホワイトバランスを曇りに設定すれば、晴天に近い雰囲気で写せるでしょう。ホワイトバランスの設定はデジカメごとに異なるため、使用するデジカメごとの癖を、前もって調べておく必要があります。曇りの日でも、ホワイトバランスが晴天の方が良いデジカメもありますから。この辺の選択は好みですが。

 曇りの日には、太陽が傾いた時間帯(早朝と夕方)に注意してください。曇りの特徴となる“青みがかる度合い”が、この時間帯に大きくなるのです。夕方には青みが目立つようになりますから、ホワイトバランスをオートに切り替えるなど、撮影した画像で確認しながら調整しましょう。

晴天なら、ギラギラした写真や光のグラデーションを狙う

 太陽が照る晴天ですが、撮影には完全に不向きなのでしょうか。そうではありません。晴天の時は、晴天に合わせた撮り方をすればよいのです。

 太陽の光が非常に強ければ、被写体にハッキリとした影が生じます。加えて、日向と日陰のコントラストが高いため、ギラギラした感じの写真に仕上がるでしょう。その特徴や雰囲気を、写真に利用するのです。被写体として、コントラストが高くてハッキリとした写真に適したものを探すとよいでしょう。せっかく生じた影を利用し、曇りとは異なる雰囲気を演出するのも可能です。

 影が生じた場所の一部では、光のグラデーションが現れます。曇りの日にもグラデーションは現れるのですが、晴天時のグラデーションは、よりハッキリした状態になるのです。こういった場所にこそ、魅力的な写真に仕上がりやすい被写体があります。該当する場所を探して、グラデーションが美しい写真を目指しましょう。

 ただし、晴天時の被写体は明暗比が大きいため、適正露出を決めるのが難しくなります。露出を変えて何枚か写したり、適正露出の決め方を改善したり、何らかの対処が必要です。コントラストを低く設定するのも、1つの手です。

 日向と日陰の片方だけを使う表現もあります。日向を白く飛ばし気味にしたり、日陰を黒くつぶし気味にすることで、それらを目立ちにくくできます。こうすると、写真の要素として弱められ、その部分を消した効果が生じて、写真の要素を整理できます。

雨の日には、濡れた被写体や残った水を生かす

 雨の日の撮影でも、同じように考えます。雨の日に合わせた写真を狙えばよいのです。雨の日といっても、雨が降っている状態と、雨がやんだ状態の2種類があります。これらは少し異なるので、別の状態として扱いましょう。

 雨が降っている最中は、空中に水滴があるため、被写体が遠くにあるほど曇って見えません。霧とは異なりますが、それと似た特徴を持っています。また、被写体が雨で濡れているので、しっとりした雰囲気が出やすくなります。これらを利用して撮れば、それなりの雰囲気が簡単に出せるでしょう。ただし、ほとんどのカメラは水に弱いので、雨が降っている中での撮影は大変です。防水にだけは十分に注意する必要があります。

 雨がやんだ直後こそ、写真撮影にとって魅力的な状態の1つです。魅力的に濡れた被写体を、雨が降ってない状態で写せるのですから。雨が当たり続けていないので、被写体がよりハッキリと映し出せますし。もう1つの違いは、空中の水滴がなくなっているため、遠くの被写体が曇らないことです。それどころか、空気中の不純物を雨が流すため、晴天時よりも空気が澄んでいることもあります。これも、被写体によって利用できるでしょう。

 雨によって生じた状態も、撮影者にとって魅力的です。道路の水たまりを使うと、その反射を利用した写真が撮れます。植物に残っている水滴をマクロ・レンズで拡大すると、魅力的な光の様子が見付かります。これらに限らず、水は“光を演出する最高の小道具”なので、雨の後はいろいろな写真が撮れるのです。

天気に応じて狙いを変えるのが得策

 ここまでの説明で分かるように、天気によって撮りやすい写真があるのです。逆にいえば、天気によって撮りにくい写真もあるということです。

 だからこそ、撮影を開始する時点の天気を見て、その天気に適した写真を狙うのが、上手な撮り方となります。もし途中で天気が変わったら、新しい天気に応じて狙いを切り替えればよいでしょう。天気の変化に対応するように、狙いも臨機応変に変えるわけです。

 仕事で撮影するとか、休みが少ない場合は、撮影に使える日が限られてしまいます。そんなときは、その日に何とかするしかありません。ただし、何とかできるのは一部の状況だけで、次のような方法で対処します。

・晴天時に生じる影を消す
  ・顔などの影は、レフ版で光を当てて消す
  ・影が目立たないように、アングルや切り取り方を変える
・曇りの日の寂しい感じを解消
  ・コントラスト、彩度、シャープネスを高めた設定で写す
  ・撮影後、画像編集ソフトで雰囲気を修正する
・雨の水滴が当たる様子を消す
  ・数秒以上の長時間露出で写す
   (被写体が動くとダメ。NDフィルタが必要なことも)
・雨の雰囲気を少しでも消す
  ・数秒以上の長時間露出で写す
  ・雨の影響が強い(雨で変化した)被写体をできるだけ外す

 忘れてならないのは、これらが苦肉の策だという点です。こうした方法で対処しても、良い状況下で撮影した写真より劣りますから。だからこそ、最良の方法は、“狙いに適した天気のときに写す”ことや、“天気に合わせて狙いを変える”ことです。

(作成:2003年8月30日)
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