写真道>機材活用
<前 次>

Kenko MC SOFT 85mm F2.5の味

少し絞っても欠点のない写りが魅力

 ケンコーのMC SOFT 85mm F2.5は、35mm一眼レフ用のソフトフォーカス・レンズです。マウント交換型のため、同社製の各種マウントに付け替えることで、ニコンやキヤノンなど、いろいろな35mm一眼レフに付けられます。でも残念ながら、フォーサーズ用の交換マウントは提供されていません。執筆時点では、ですけど。ケンコーさんにお願いしておきましたので、今後登場するかも知れませんね。

 この種のレンズとしては一般的な、ソフトフォーカス機能を備えています。ソフトフォーカス効果が開放で最大となり、絞るほど効果が減っていき、ある程度まで絞ると普通のレンズと同じように写ります。

 ソフトフォーカス効果による写り自体は、同種のレンズとほぼ同じです。ピント位置よりかなり前だと、普通のレンズと同じようにぼけ、ピント位置では芯を持ちながら柔らかくぼけます。ピント位置より後ろ側では、ぼけの量が大きくなって、ピント位置より離れるほど芯が弱まります。ピント位置よりかなり後ろでは、芯が消えて、単なるぼけと同じです。

 というわけで、このレンズの特別な味というのは、ほとんどありません。それでも、同種のレンズとしては、安心して使えますし、より広く使える特徴を持っています。この点こそが、このレンズの味と言えるかも知れませんね。

 安心して広く使える理由は、ペンタックスの同種のレンズと比べてみると明確になります。長所と短所に分けて挙げてみました。

・長所
  ・開放がF2.5と少し明るい
  ・円形絞りに近く、少し絞ったときの点光源のぼけが美しい
  ・ソフトフォーカス効果が弱めで、広く使える
  ・開放付近の絞り値の刻みが細かい(1/3EV)
・短所
  ・AFに対応していない
  ・自動絞りの機能すらない
  ・ピントリングに距離目盛りがない
  ・明るさの割には、大きくて重い

 ソフトフォーカス効果が弱めな点に関しては、補足が必要でしょう。効果が約1EV分だけ弱いので、同じ効果を得るのに、約1絞り分だけ開けて撮影できます。最大よりも弱めて使うことが多いので、少しでも明るい方が助かります。また、絞りが明るいことで、被写界深度も浅くなりますから、ぼけも大きくて助かります。以上が、広く使える理由です。

 もう1つ、安心して使える理由は、少し絞ったときの写りです。ペンタックスのレンズのように、点光源が絞りの形に写るのとは違い、ほとんど丸に近い形で写るため、何も気にせずに絞ることができます。ソフト量を絞りで調節するタイプなので、安心して絞れることは非常に重要です。

 こうした差があるため、特別な理由がない限り、このレンズの方を持ち歩いてます。逆に、ペンタックスの方を用いるのは、より大きなソフトフォーカス効果を得たいときで、たまに利用しています。

大事なところで手を抜いてない設計

 私は、このレンズの設計者を素晴らしいと思っています。限られたコストで作らなければならない中、写りと使い勝手に関する箇所だけは手を抜かず、それ以外の箇所で上手に手を抜いているからです。

 ソフトフォーカス・レンズの写りで大事なのは、少し絞ったときの点光源のボケ方です。絞りの形が悪いと、点光源として現れてしまい、せっかくの雰囲気を台無しにしてしまいます。ところが、このレンズは、13枚の絞り羽根を用いて、絞ったときの形が悪くならないように作ってあります。

 絞りリングにも特徴があります。絞りの値が、開放に近い範囲では1/3EV単位に、少し絞ると1/2EV単位に、最後は1EV単位となります。つまり、ソフトフォーカス効果の変化が大きい範囲では細かく、変化が小さい範囲では粗く作ってあるのです。しかも、これらの中間位置にも設定でき、1/3EV単位の範囲内なら1/6EV単位程度で細かく調整できるのです。この種のレンズ使用者の使い勝手を深く考えた、素晴らしい設計です。ソフトフォーカスでの写真撮影をよく知っている人だと思います。

 かと思うと、徹底的に手を抜いている部分もあります。自動絞りは備えていませんし、ピントリングに距離目盛りが付いていません。おそらくコスト低減のためでしょうが、写りに関係ない箇所では徹底的に手を抜いた、上手な設計です。

 こういう設計者には、もう「お見事!」と言うしかないでしょう。レンズを使うたびに、拍手を送りたくなります。

柔らかい雰囲気を演出するときに活用

 使いやすさが特徴のソフトフォーカス・レンズですから、このレンズだけの特別な使い方はありません。一般的なソフトフォーカスとして、その効果を生かした形で使うことになります。

 ソフトフォーカス効果を利用した撮影は、大きく分けると、2つの考え方があります。1つは、ソフト効果を強く組み入れ、ぼけやグラデーションを生み出すことで、映像の美しさを作り出す方法です。もう1つは、写真全体をソフトに仕上げ、柔らかくて印象的な雰囲気に変える方法です。整理すると、次のようにまとめられます。

・ソフトフォーカス効果の写り方を強く組み入れる
  ・光る箇所を入れ、ソフトフォーカス効果で美しく仕上げる
  ・夜の街などで光源を入れ、幻想的な映像に仕上げる
  ・ソフトフォーカス効果により、グラデーションを生み出す
・写真全体をソフトに仕上げる
  ・思い出の景色など、印象的な感じを演出する
  ・普通の風景を写し、柔らかな感じに仕上げる

 別な見方をするなら、前者は、ソフトフォーカス効果自体を演出の一部として使う方法で、光による演出が主な目的です。後者は、全体の雰囲気を重視し、狙った雰囲気に仕上げるのが演出の主な目的となります。

光学ファインダーでの効果確認には要注意

 ソフトフォーカス系のフィルターと違って、ソフトフォーカスの効き具合を変更することが可能です。一眼レフですから、ファインダーで覗きながら最適な効き具合に調整できると思うでしょう。でも、実際に試してみると、ファインダーの見え方とできあがった写真には差があります。ファインダーで見えた状態より、効果がより効いた状態で実際の写真は仕上ります。この傾向は、ソフトフォーカス・レンズに共通するものです。

 どの程度の差があるかは、一眼レフのスクリーンによって異なると思います。自分の使っているスクリーンで、どの程度の差があるのか、大まかな傾向を把握しておいた方がよいでしょう。

 具体的には、次のようにして調べます。自分がイメージした効果の大きさを、絞りを変えながらファインダーを覗いて探します。そのときの絞り値で撮影し、続けて絞りを細かく変えながら(少しずつ絞りながら)5段階ほど撮影します。これらの写真をパソコン上で見て、ファインダーで覗いたイメージに一番近い絞り値を見付けだします。その絞りの差が、ファインダーで覗いたときと実写との差となります。次の撮影からは、その差の分だけ絞り値を補正して写してください。

 被写体によっては、ファインダーを覗いただけで最適な絞り値を決められないこともあるでしょう。その場合は、絞りを3段階ぐらいに変えながら、ソフトフォーカス効果を変化させて写しておいた方が安全です。

 ソフトフォーカス・レンズは逆光に弱いですから、フードが非常に大事です。イメージサークルの小さなデジタル一眼レフだと、イメージサークルの中央しか使わないため、逆光にはさらに弱くなります。このレンズの場合なら、85mm用のフードではなく、換算した焦点距離用のフードを用いましょう。E-1だと換算で170mm相当になりますから、最低でも135mm用を、できれば200mm用のフードを選びます。フードは多少の余裕があるため、170mm用より狭い200mm用の利用でも問題なく使えることが多いです。もちろん、実写による事前確認はしてください。

作例1:幸せが二つ

 ソフトフォーカス効果の一般的な使い方である「写真全体をソフトに仕上げる」例の1つです。柔らかく写すことで、優しさとか幸福感が演出できます。被写体が本当に幸福かには関係なく、幸せそうに写ってしまいますけど。

←クリックで拡大
(このページへ戻るには、ブラウザのボタンで)

作例2:秋の風

 残念ですが、「ソフトフォーカス効果の写り方を強く組み入れる」例を、このレンズでは写していません。仕方がないので、前の例と同じ「写真全体をソフトに仕上げる」例を載せておきます。ソフトフォーカス効果によって、穏やかな雰囲気を演出できました。

←クリックで拡大
(このページへ戻るには、ブラウザのボタンで)

(作成:2005年7月23日)
<前 次>