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ペンタックス ソフト85mmをE-1で試す

E-1で使えるソフトレンズの中で、一番の候補

 E-1でソフトレンズを使おうと思い、E-1に付けられるレンズの中から、ペンタックスの85mmのソフトレンズを選びました。レンズ設計が古いF2.2は良くないとの評価だったので、より新しいF2.8に注目。最新のFAタイプよりも、1つ前のFタイプの方が中古市場で安かったので、Fタイプを購入しました。レンズの正式名称は、「smc PENTAX-F Soft 85mm F2.8」のようです。

 本当はミノルタのソフトレンズを使いたかったのですが、残念ながらE-1には付けられません。付けられる中で、安くて一番良さそうなのが、このレンズだったのです。

 ソフトレンズには、ソフト効果が独立した設定になっているタイプと、絞り値と連動してソフト効果の大きさが決まるタイプがあります。このレンズは後者です。絞り開放でソフト効果が一番大きく、絞るに従ってソフト効果が小さくなり、F8まで絞ると普通のレンズと同じになります。ソフト効果を小さくするには絞る必要があるので、暗いところでは使いにくいレンズですが、絞りと連動するタイプの方が、ソフト効果が綺麗だとの説もあります。それも期待して購入しました。

 今回の内容は、E-1で使ったときの様子というより、このソフトレンズ自体の特徴を中心に調べています。銀塩一眼レフも含むペンタックスのボディで普通に使っている人にも、参考になると内容だと思います。

ソフトレンズの使用では、表現の腕の低下に要注意

 レビュー内容へ移る前に、ソフトレンズを購入した理由を少しだけ。ソフト効果の写真を得るためには、ソフトレンズを使うほかに、ソフト効果のフィルタを使う方法もあります。こちらの方が安上がりですが、1枚のフィルタでは1種類のソフト効果しか作れません。効果の異なるフィルタを複数購入することを考えたら、ソフトレンズの方が安いし、交換の手間も生じないと思って、ソフトレンズの方を選びました。

 ソフト効果を使いたいと思った理由も少しだけ。設計の古いレンズを開放で使うと、ほんわかした写真が撮れます。それをもっと進めると、ソフト効果の写真にたどり着きます。それならソフト効果を本格的に使ってみようかと思ったわけです。実は、ソフト効果のレンズもフィルタも含め、使うのは初めてなのです。

 ただし、こうした効果に頼りすぎると、きちんとしたフレーミングがおろそかになり、“写真表現の腕が鈍る”可能性が高まります。そうならないように気を付けながら、使うことが大前提です。ソフト効果を使う際には「それを必要とする表現意図が基本にあり、表現意図を達成するための使い方で利用する」ことが非常に大切といえます。その辺のところを自分なりに見付けることも、ソフト効果のレンズを使おうと思った理由です。

マニュアルフォーカスで絞り込み測光

 ペンタックスのFレンズはKマウント(正確には、Kマウントと上位互換のKAFマウント。より新しいFAレンズはKAF2マウント)なので、近代インターナショナルのKマウント用のアダプタを用いれば、E-1に付けられます。近代インターナショナルが説明しているように、45度だけ回転した位置でレンズが付きます。ほんの少し使いにくい感じですが、慣れれば問題ないでしょう。

 E-1へ装着してみると、レンズだけでは可愛い感じですが、付属の専用フードを付けると、かなり格好いい感じです。少し大きめのフードで、携帯時には邪魔になりやすいですが、ぜひとも付けて使いたくなりました。

 マウントアダプタを介して付けるので、フォーカスはマニュアル、露出は絞り込み測光となります。露出制御は、絞り優先自動露出とマニュアルが使えます。普段でもこの2つしか使わないため、まったく問題ありません。

 E-1に付けた85mmは、35mm版換算で170mm相当になります。かなりの望遠なので、少し使いづらいです。同じ焦点距離のレンズとして、以前にプラナー85mm F1.4を付けて使ったことがありますが、やはり大きく写りすぎて、普段の撮影には望遠過ぎました。本音を言うなら50mmだと良かったのですが、ソフト効果は別なレンズに変えられないので、切り取り方を工夫するなどして、何とか使いこなすしかないでしょう。

ソフトレンズのピント合わせは難しい

 このレンズはAF用なので、フォーカスリングは軽いです。ファインダのマット面を見ながらピントを合わせるわけですが、絞り開放だとソフト効果が一番大きいため、ピントが合っているかの確認が非常に難しく感じます。

 フォーカスリングを回すと、ピント位置が変わるため、それぞれの箇所のソフト効果も変わります。点光源で調べてみると、ピントの合った箇所で、ソフト効果が一番大きいわけではありませんでした。

 ピントの合った箇所では、ソフトにぼけながらも芯が残っています。ピントを合わせるときは、この芯の部分を見ながら、一番ハッキリ見える位置を探します。形がハッキリしている箇所だと合わせやすいのですが、そうでないと合わせられません。ここら辺かなと感じたところに合わせ、撮影するしかなさそうです。

 ただし、ソフト効果が大きい場合、ピントが合っていることの重要性は低下します。このような意見を嫌う人はいるでしょうが、写真を描写テストではなく作品として見る場合、明らかに重要度が下がります。表現しようとしている中身を見るわけですから、全体がソフトになるほど、ピントが合っているかが問題にならなくなります(もちろん、大きく外れていれば大問題ですが、今回の場合はそうなりません)。その意味で、“少しぐらい”ピントが合ってなくても、写真全体の印象が確保できていれば、良しとして構わないでしょう。それが嫌いなら、ピント合わせを繰り返して同じカットを何枚も撮影し、ピントの合ったショットを作るしか方法はありません。

ソフト効果は開放で最大、絞るほど減る

 最初の方でも書きましたが、ソフト効果は開放が最大で、絞るごとに減っていきます。F8まで絞るとソフト効果が消え、普通のレンズと同じに写ります。このような仕組みなので、ソフト効果を大きくするほど被写界深度は減ります。逆に、ソフト効果を小さくすると、絞り込む必要があり、暗いところでの撮影が大変になります。

 こうした制限で困る場合もあります。とくに、ソフト効果を小さくしながら被写界深度を浅くしたいとき、実現する方法はありません。もう1つの暗くなる問題は、三脚を使うことで解消できます。

 ソフト効果の写りは、ピントの芯が残りながら柔らかくぼける形です。効果が大きいほど、ぼけが大きく広くなっていて、ほんわかした柔らかい雰囲気に写ります。開放から少しずつ絞るごとに、ソフト効果が小さくなっていきます。

 実際のソフト効果は、写した写真を見て判断するしかありません。開放F2.8から1段ずつ絞り、ソフト効果がなくなるF8まで撮影してみました。以下のサンプル写真は、上から順番にF2.8、F4、F5.6、F8です。

← F2.8:クリックで拡大
← F4:クリックで拡大
← F5.6:クリックで拡大
← F8:クリックで拡大
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 これらの写真を見ると、絞りごとのソフト効果の大きさに加え、ソフトが加わったときの雰囲気が分かります。もちろん実際の撮影では、ファインダを覗きながら絞りを変化させ、適度と思われるソフト効果の絞り位置で撮影します。しかし、効果を事前に理解しておくと、ファインダを覗く前に効果が予想できて、適した被写体を見付けやすくなります。

点光源では、絞りの形のぼけが現れる

 ソフト効果を利用する対象として、都会の夜といった照明灯を何個も含む風景が考えられます。小さい照明は点光源と似た特徴を持ち、それがソフト効果でどのように写るのか気になります。

 絞り開放から少し絞った範囲で、実際に写してみました。被写体が点光源だと、開放では円形のぼけが現れます。少しでも絞ると、絞り形状の九角形のぼけに変わります。もっと円形に近い絞りだったら、もう少し良い感じに仕上がるでしょうから、少し残念です。

 実際の光源は、点光源ではありませんし、様々な角度から写されます。複数の光源が、隣り合っていたりもします。こうした違いによって、ソフト効果のぼけが予想外の形状になったりします。たとえば、2つの光源が隣り合ってると、2つの九角形が少しずれて重なったぼけが生じて、ソフト効果とは逆の醜い仕上りです。ピクセル等倍で見ると、次のようになります。

 ソフトレンズによる夜景の撮影は、光源の形がソフト効果に適してないと、期待したようには仕上がりません。ファインダを実際に覗いてみて、良く仕上がりそうだったら写すという撮影スタイルになるでしょう。また、少しでも絞ると九角形のぼけになるので、それが嫌いなら開放で写すしかありません。この点でも、使い方が制限されます。ピッタリの被写体なら美しい仕上りを期待できますが、そうした被写体を見付けるのが大変そうだと感じました。

ソフト効果は、ピント位置の前側で小さい

 このレンズを細かく調べてみると、面白い特徴が見付かりました。ソフト効果の大きさが、ピント位置との距離で変わるのです。特徴を整理すると、言葉では次のように表せます。

ピント位置とソフト効果の関係
・ピント位置の前側:普通のレンズのようにぼける
・ピント位置の中心:芯が残り、ソフト効果付きで軽くぼける
・ピント位置の後側:芯が消え、ソフト効果付きで大きくぼける

 ソフト効果が、ピント位置の前後で異なるのです。ピント位置より後ろでは、ソフト効果が働き、ソフト効果を含んだ状態で大きくぼけます。ぼけの大きさは、ピント位置より離れるほど大きくなります。ピント位置より前では、ピント位置より距離が離れるほど、ソフト効果が小さくなって、普通のぼけに近くなります。

 次のサンプル写真を見ると、説明した感じがつかめると思います。3本のマッチのうち、中央のマッチがピント位置、左側のマッチがピント位置より後ろ、右側のマッチがピント位置より前です。右側のマッチを見れば、ソフト効果の小ささが読み取れるでしょう。

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 ピント位置より前になるほど、ソフト効果が小さくなる現象を、もう少し分かりやすい形で写してみました。同じ被写体で、一番奥の左側のマッチにピントを合わせたサンプル写真です。中央のマッチよりも右側のマッチで、ソフト効果が小さいことが確認できます。

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 こうした傾向はあるものの、実際に影響が及ぶ被写体は少ないでしょう。前景に何かを入れるケースは少ないし、かなり離れないとソフト効果が消えないからです。ただし、こうしたレンズの特徴を知っておくと、該当する被写体に出会ったときでも困りません。意味不明な現象として悩むことはなくなりますし、回避策も容易に思い付くでしょうから。

ソフト効果の特徴や使い方を整理すると

 以上のような試写と、いろいろな被写体を写した結果から、ソフト効果の特徴が見えてきました。簡単に整理すると、次のようになります。

・ソフト効果の特徴
  ・明るい箇所の光が、ぼけながら暗い側に及ぶ
  ・全体がソフトになっても、ピント位置では芯が残っている
・ソフト効果が美しく仕上がりやすい条件
  ・被写体の中に、明るい何かが含まれている
  ・明暗差がある程度あって、極端に大きな差はない

 明暗差についてだけ、少し補足しましょう。明暗差が大きすぎると、明部が白く飛んだり、暗部が黒くつぶれやすくなります。写真全体でのグラデーションの美しさを作りにくくなるのです。ただし、それが表現意図に合っていれば、それでも構いません。

 こうした特徴を持つソフト効果は、どのような表現に利用できるでしょうか。大きく2つに分類してみました。1つは、ソフト効果を強く組み入れ、ぼけやグラデーションを生み出すことで、映像の美しさを作り出す方法です。もう1つは、写真全体をソフトに仕上げ、柔らかくて印象的な雰囲気に変える方法です。整理すると、次のようにまとめられます。

・ソフト効果の写り方を強く組み入れる
  ・光る箇所を入れ、ソフト効果で美しく仕上げる
  ・夜の街などで光源を入れ、幻想的な映像に仕上げる
  ・ソフト効果により、グラデーションを生み出す
・写真全体をソフトに仕上げる
  ・思い出の景色など、印象的な感じを演出する
  ・普通の風景を写し、柔らかな感じに仕上げる

 どちらも、ソフト効果ならではの写真といえます。1番目の「ソフト効果の写り方を強く組み入れた方法」の方が分かりにくいと思い、1つのサンプル写真を用意しました。

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 被写体は単なるドア内側の取っ手ですが、ドアを少し開けて光を取り入れ、それにソフト効果を加えることで、光のグラデーションを生み出しています。こうした写し方を用いれば、美しい写真がいろいろと写せるはずです。

おまけ:特殊レンズを使いこなす共通のコツ

 ソフトレンズのように特殊なレンズは、その写りの特徴を正しく把握することが極めて大切です。通常のレンズにはない癖を持っているわけですから、その癖を正しく理解しないと、特徴を幅広く生かせないし、予想外の失敗を量産することになります。作品作りに使う前に、特徴を把握するための撮影が必須です。具体的には、次のような手順で進めます。

・様々な被写体を、思い付く条件で写してみる
      ↓
・写した結果を見て、特徴が変化する条件を洗い出す
      ↓
・洗い出した条件を、いろいろと組み合わせて撮影する
      ↓
・撮影結果から、条件ごとの写りの特徴を見極める
      ↓
・写りの特徴に適した、そのレンズなりの表現方法を整理する

 今回のレンズの例は、上記の手順を実際の行なう際の参考になるでしょう。こうした作業は、あくまで特殊レンズの場合だけです。普通のレンズの場合は、ここまで調べる必要はありません。

(作成:2004年6月28日)
(更新:2004年7月4日:レンズの写真を追加)
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