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デジカメ画素数と解像感との関係

 デジカメの画素数が多いほど、得られる写真の解像感が向上します。では、画素数の数値の差は、実際の解像感にどれぐらい現れるでしょうか。おそらく、多くの人が抱いている、画素数の数値の差から受ける印象と比べ、実際の解像感の差は小さいと思われます。その辺の理由も含め、疑似サンプル画像を用いて明らかにしてみましょう。

画素数の倍率の平方根が、解像感の差に

 まず最初に、「画素数の数値」と「解像感の数値」の関係を、論理的に解説します。これが分からないと、疑似サンプルの理解が深まりませんので。

 解像感の数値とは、直線での解像度が相当します。直線での解像度というのは、縦または横の直線がどれだけ細かいか、別な表現をするなら、縦またや横の直線にどれだけのピクセル数が含まれるかという数値です。もちろん斜めの線でも構いませんが、ピクセル数が測りづらいので、縦または横の線を用います。

 それに比べて、画素数の数値とは、面積に関する値です。そのため、画素数が2倍になっても、直線での解像度(=解像感の数値)は2倍になりません。画素数の倍率の平方根が値になります。つまり、画素数が2倍に増えても、解像感は1.4倍にしかならないのです。解像感を2倍にするためには、画素数を4倍にする必要があります。4倍というのは、大変な倍率です。500万画素が基準なら、2倍の解像感を得るためには、2000万画素が必要なのですから。

500万画素と800万画素の解像感の差は、意外に少ない?

 高級コンパクト型デジカメ(2/3インチ程度のCCDと高倍率ズームを持つ高額機種)は、500万画素から一気に800万画素へと移行しました。おそらく、画素数をこれぐらい増やさないと、解像感が増えたと感じにくいからでしょう。画素数が500万から800万に増えると、画素数の倍率は1.6倍に達します。でも、直線の解像度は、1.6の平方根である1.26倍にしかなりません。倍率の数値に置き換えてみると、意外に少ないのです。

 数値で1.26倍と言われても、実際の画像でどのような差になるのか、思い浮かべられないと思います。そこで、擬似的な比較サンプルを用意しました。1.26倍だと作りづらいので、1.25倍で作ってあります。ほとんど同じはずです。

約500万画素
約800万画素

 この2つを比べて、解像感の差が、見る前に想像していたより小さいと感じたのではないでしょうか。500万と800万という、数値の差から想像する印象に比べ、実際の解像度の差が小さいと。これこそ、解像感にしたとき比率が平方根になってしまう、画素数という値の特性なのです。

 疑似サンプルの画像を、少し詳しく解説しましょう。約500万画素の方は、画像を構成する基本画素の大きさが5×5ピクセルです。それに比べて約800万画素の方は、基本画素の大きさが4×4ピクセルになってます。そのため、約500万画素の方で基本画素が4個入るところに、約800万画素では5個入るわけです。このようにして、1.25倍の解像度の差を作りました。

 どちらの写真も既存画素のギザギザが感じられて見づらいですが、1.25倍という中途半端な解像度の差を作るためには、この方法しか思い付きませんでした。

5段階の疑似サンプルを作成

 1つのサンプルとして、500万画素と800万画素を比べましたが、画素数がもっと幅広い範囲で比べてみたくなるでしょう。実際の解像感がどれだけ違うのか、疑似サンプルでもいいから見てみたいと。

 そこで、5段階の疑似サンプルを作ってみました。一番粗い画像を500万画素に仮定して、換算した画素数を表記してあります。左から順に基本画素の大きさが1ピクセルずつ減り、左端が5×5ピクセル、右端が1×1ピクセルです。

500万
781万
1389万
3124万
1億2500万

 これを見ると「500万画素を基準としたら、3番目の1389万画素ぐらいまで達しないと、解像感が明らかに向上したとは感じられない」と思ったのではないでしょうか。おそらく、画素数が1400万ぐらいにならないと、解像感の向上が強く感じられないのでしょう。1400万画素というのは、現段階では凄い数字ですが。

10段階の疑似サンプルも作成

 5段階の疑似サンプルを見て、間をもっと細かく見たいと感じた人がいると思います。でも、間を細かく作るためには、一番左のサンプルがどうしても粗くなってしまいます。

 それを承知で作ったのが、次の疑似サンプルです。5段階と同様に、一番粗い画像を500万画素に仮定して、換算した画素数を表記してあります。最初のサンプルである左上から順に、基本画素の大きさが1ピクセルずつ減り、最初の左上が10×10ピクセル、最後の右下が1×1ピクセルです(当然ながら、後ろ側の5個の画像は、前述の5段階の画像とまったく同じものとなります)。5段階のサンプルに比べて見づらいので、少し離れて見てください。

500万
614万
781万
1020万
1389万
2000万
3124万
5556万
1億2500万
5億

 見比べた感想は、いかがだったでしょうか。500万画素に比べて、614万画素や 781万画素が期待したほど差がなく、 次の1020万画素でも「差は意外に小さい」と感じたのではないでしょうか。やはり「解像感は画素数の平方根で効く」という法則からは逃れられないのです。

 この疑似サンプルは、パソコン上のピクセル等倍表示で比べるのと似ていて、必要な解像感(画素数)とは無関係ですし、冷静な判断を邪魔する効果があります。その意味で、改めて考えなければならないのは「どれぐらいの解像感が必要か」でしょう。別な表現をするなら「どれぐらいの画素数が必要か」です。この点を冷静に判断できないと、無駄に高い解像感を求め続ける症状に陥ります。

高解像度になるほど、他の技術や撮影が大変

 ここまでは、疑似サンプルの画像を作って比べました。実際の撮影画像は、疑似サンプルのようになりません。画素数が増えるほど、他の要因で画質が低下しやすく、疑似サンプルほどシャープな画像が得られないからです。結果として、疑似サンプルよりも差が小さく感じられるはずです。ただでさえ解像感の差が小さくなるのに、別な要因によって、さらに小さくなるわけです。

 主な要因を挙げてみましょう。一番大きいのは、レンズの性能です。銀塩時代に優秀だと判断されたレンズでも、デジタル一眼レフ時代には、解像度が不足すると言われています。そのため、デジタル専用設計やデジタル対応のレンズが登場しました。非常に高価な値付けがされて。そうなるのは、ある意味で当然です。製造コストが相当に高くなるからです。レンズの研磨精度、レンズ以外の部品を製造する精度、それらの組み立て精度、最後の調整精度などです。ズームなら内部がカムで動きますが、その精度が使い続けていて劣化しづらいような材料や機構の設計も必要でしょう。同様に、ボディ側での設計と組み立ての精度の高さも必須です。高価になって当然です。

 高解像度になるととも、レンズの性能も向上すると、ピント合わせの精度も高く求められます。完全なオートフォーカスなど存在しませんが、解像度が高くなるほど、フォーカスの欠点が目立つようになります。また、デジタル一眼レフでマニュアルフォーカスをするなら、スクリーンに高い解像感も求められます。銀塩のままの倍率なら、正確に合わせられないでしょう。スクリーンの映像を拡大表示するマグニファイヤーが必須となるかも知れません。

 撮影時の手ぶれも、解像度が上がるほど発生しやすくなります。直線の解像度が2倍に(画素数が4倍に)なると、手ぶれが(被写体ぶれも)2倍に拡大しますから、手持ちでのシャッター速度を1段速くしなければなりません。解像度が高いカメラほど、撮影に細かく気を使う必要があります。

 撮影した画像ファイルの扱いも、画素数が多いほど大変です。画像の処理は重くなるし、ファイル容量が増えて保存も大変です。特にRAWファイルでは。解像感には画素数の平方根でしか効かないのに、処理の重さやファイル容量は、画素数に比例するのも困りものです。

 以上のように考えていくと、解像度が高くなることは、良いことだけではないのです。挙げた中で一番大きな問題は、ボディやレンズの製造が難しいので高価になることでしょう。少しでも安く買えるように、製造技術の進歩を期待したいものです。

 仮に、画素数が非常に多いデジカメに、古いレンズを付けて撮影したとしましょう。得られた写真は、相当に甘い写りとなり、デジカメの画素数を無駄に使っている結果となります。つまり、高画素数のデジカメを用いた意味がありません。高画素数のデジカメを使うときは、高性能のレンズなど、それに見合った条件を整える必要があります。

解像感の差を冷静に捉えることが大事

 今回は、500万画素と800万画素の比較を中心に、解像感の印象を取り上げてみました。私自身、疑似サンプルを作ってみて、最初に思ってたよりも差が小さいと感じて驚きました。これぐらいの差しかないのかと。

 もちろん、800万画素の方が多くの画素を持っていますから、見比べれば解像感は確実に高いですし、トリミングに強いなどの付加価値があります。また、少しであっても解像感の高いほうが、それに向いた被写体や表現意図の場合は、効果を発揮するでしょう。それでもあえて、ここで伝えたかったのは“解像度の倍率から期待されるほどの差はないので、過度の期待を持たずに、冷静に捉えよう”ということです。また、今回の疑似サンプルを細かく観察すれば、画素数がどれぐらいのデジカメを次に手に入れればよいのか、判断する目安にもなると思います。

 500万画素と800万画素を比べましたが、同様のことが300万画素と500万画素にもいえます。300万画素から見たとき、500万画素の画素数の倍率は1.67倍です。その平方根を計算すると、1.29倍にしかなりません。500万画素と800万画素の比較に近い数値です。こちらの組み合わせも、解像感の差は意外に小さいのです。

 ただし、1つだけ大事な点があります。画素数が少ない領域での倍率と、画素数が多い領域での倍率を同じに捉えることはできません。画素数が少ない領域では、仕上がった写真の解像感が低いため、同じ倍率であっても、画素数の増加による効果の印象が、より大きく感じられます。その意味で、300万画素から500万画素への増加の方が、500万画素から800万画素への増加よりも、実質的な向上効果は大きいのです。

 目的ごとに、どの程度の解像感が必要かを知ることも大事です。私の個人的な判断ですが、E-1で撮影した500万画素の写真を、写真展で何枚も見ました。解像感が不足しているとは、まったく感じませんでした。それよりも、E-1の生み出す素晴らしい色に感激しました。

 デジカメの選択は、銀塩での機材選びに照らし合わせるなら、ボディと一緒にフィルムを選ぶことに相当します。ボディの解像感がある程度に達したら、生み出す色の方が重要になるのです。もちろん、撮影後のRAW現像でかなり補正できますが、最初から良い色で写せるのがベストでしょう。

期待したほどの差でなくても、画素数増加の意味はある

 500万画素と800万画素の比較で、期待したより差が小さいとしても、こうした進歩には重要な意味があります。大きな進歩は小さな進歩の積み重ねですから、小さな進歩が達成できないと、将来の大きな進歩は実現できません。少しずつ画素数を上げることで、大きな画素数を問題なく作れる技術が蓄積します。将来は、億に近い数千万画素も難なく実現するでしょう。

 その時期はまだ先なので、現段階では、既存の解像度のデジカメで写し続ければいいのではないでしょうか。とりあえず、500万画素あれば、写真展用の写真として十分な解像感を得られますので。もちろん、もっと高い解像感で写したい被写体や表現意図もあります(たとえば、満開の桜の木を全体として写し取り、花の細かさまで伝えたいとか)。そうした目的が明確なら、1500万画素程度またはそれ以上の画素数を持つデジカメを入手することは、良い判断だと思います。

(作成:2004年12月11日)
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