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託された血


 昼過ぎからの苛立ちが限界に来ていた俺は、その夕方、マイネに言いつけた。
「今夜は抱くぞ」
 五歩ほど先の川べりで水を汲んでいたマイネが、びくっと肩を震わせた。岸辺の柳に背を預けて座った俺は、そっけなく続けた。
「ねぐらは少し先に造る。水は多めに汲んでおけ」
「……急いでブランツ市に向かうのではなかったの?」
「朝はいつもどおり起きる。いや……」
 俺はうんざりして言った。
「抵抗もたいがいにしたらどうだ。今さら失うものもないだろうに。おまえの体は俺がこの目この舌でさんざん覗いて味わっちまったし、それを悲しむ一族の連中もとうに草葉の陰だ」
 一族、という言葉を出すと、マイネはさっと振り返って燃えるような目で俺をにらんだ。俺は立ち上がり、マイネに近づくと、彼女の頭をすっぽり覆ったフードをゆっくり背中に引き下ろした。
 ぴん、と笹の葉のように尖った耳朶が跳ね上がる。髪の色は黄金よりもつややかな白金色。
 マイネは上古種だった。俺たち人間よりもはるかに古い歴史と優れた文化を持つ、高貴で美しい種族だ。
 だがその髪はよく見ると無残にほつれ、からまり、左肩の後ろでは茶色に焦げてすらいるのだった。足首まで隠すマントを身に着けているのも、種族を隠すためだけではない。薄汚れて目立つからだ。それに匂う。
 人にはいまだ織ることのできない、蒼玉をなめしたようなつややかな布地のチュニックとスカート。胸元には銀の護符を下げてさえいる。上古種の誇りと称してその衣装を頑なに着続けるマイネを、俺は嘲笑した。
「何を怒ってる。そのボロきれとオモチャがまだ残ってるとでも言いたいのか? 野犬みたいに薄汚れちまったくせに」
「……私の心が残ってるわ」
「どの心がだ。俺に抱かれて悦ぶ売女のような心のことか」
 マイネは透き通った耳を朱に染めた。怒りか、恥じらいか。いや、両方だろう。
 俺は背を向けた。
「こんなところで口論しても始まらん。見ろ、あの尾根に岩場がある。夜露をしのげる岩棚ぐらいあるだろう。さっさとそこまで行こう」
 そう言ってから、いつもの一言を付け加えた。
「無論、おまえにその気があればだ。嫌なら消えろ。だが来れば抱く」
 湿ったシダの葉を踏んで、俺は森の中を進んだ。
 三十歩ほど行くと、荷物を担ぎなおしたマイネがついてくる気配がした。ロナ・ディクスを出て以来、大体その程度引き離すと、彼女はいつもあきらめるのだった。

 尾根にはおあつらえ向きの岩の狭間があり、俺はその入り口に足を投げ出して座り、闇夜に沈んでいく森を見つめた。深さ五ヤードほどの狭間の奥では、マイネが集めた芝に手鍋をかけて、乾餅を煮込んでいた。
 見張りの合間に、俺はちらちらと彼女を見る。マイネは光が漏れぬよう背嚢を盾にして、火にかがみこんでいる。俺なら適当に温めてから味など無視してかき込むのだが、彼女は溶けていく乾餅に塩胡椒を振り、ときどき枝ですくって味見をしている。渡りをする獣同然のこんな野蛮な道行きにあってさえ、彼女はそうやって己に身についた上品な習慣を維持している。
 ロナ・ディクスは都でこそなかったが、上古種の最も古い都市の一つだった。
 半月前、サングリオン帝国とジルンバラ共和国の軍隊が戦闘をした。それは両国が長く戦っている戦争のほんの一幕に過ぎなかったが、上古種にとってはそうではなかった。戦闘はロナ・ディクスをど真ん中に挟んで行われたのだ。
 両軍はロナ・ディクスになだれ込み、傍若無人もいいところの市街戦をやらかした。尖塔伽藍の立ち並ぶ壮麗なロナ・ディクスは二日もたたないうちに瓦礫と灰の山に変わった。先に都市に入ったのはサングリオン軍で、勝ったのは俺が属していたジルンバラ軍だったが、それこそ上古種にとってはどちらでも変わらなかった。ジルンバラ軍は戦闘が終わると、ついでとばかりにロナ・ディクスに残っていたあらゆるものを略奪しつくしたからだ。金銀貨幣、牛馬兵具、美術品に工芸品、それに女。
 上古種は不死とも言われるほど寿命の長い種族で、しかもそのほとんどの時期で若い頃のままの姿を保っていた。つまりロナ・ディクスには侵略軍の兵士がよだれを流して喜ぶような美女が選り取りみどりで揃っていたわけだ。
 目を閉じるとあの晩の光景が蘇る。まだ燃え続ける家々に照らされて赤々と輝く夜空の下、街中から聞こえる数千、数万の悲鳴。すべて女のものだった。男は悲鳴を上げるひまもなく片っ端から殺された。
 いや……女も同じ運命だったろう。行軍中の軍隊が女を連れて歩くわけにはいかない。その場限りの道具として使われ、夜が明ければひとまとめに……。
 目を開けた。北方樹海の静かな夜が広がっている。どこかでホオ、ホオ、とふくろうの声。ここに軍隊はいない。
 俺は、マイネをつれて逃げた。
「できたわ」
 乾いた声で、俺は振り向いた。マイネがさじを差し出していた。
 俺はもう一度森に目をやってから、奥へ入った。
 飯はうまかった。火を挟んで座ったマイネに、俺は素直に言った。
「うまい」
「……」
 マイネは俺を無視して、静かに乾餅をすすっている。炎に照らされた額に、まとめきれない金髪が幾筋か垂れている。頬には川の水で落としきれない脂の汚れ。
 だが、美しい。汚れても汚れきれない、哀れなほどの清らかさをたたえている。
 俺はぼそぼそと聞いた。
「マイネ、おまえ、年はいくつなんだ」
「……」
「十五や十六じゃないのはわかってる。しかし生娘だったろう」
 不愉快そうに顔をしかめて、マイネは横を向いた。
「……百四十二歳よ」
「百四十二……婆さんだな」
「時の川に流されるしかない下俗種と一緒にしないで! 私の種族は千年を生きるのよ!」
「するとまだ子供か。どっちにしろ良くないな」
 マイネは冷たい目でにらんだが、俺の言葉に瞬きした。
「合いの子だとどうなる」
「……合いの子?」
「人間とおまえたちの間に生まれた子だ。そういうのは何歳まで生きるんだ」
「……混ざり子のことね。あなたの想像通りよ。私たちと下俗種の中間。四、五百歳までは生きるようよ」
 どこまでも他種族を見下した態度を変えない女だった。俺の中に意地の悪い衝動が湧いた。
 砂をかけて火を消す。狭間は闇に沈んだ。が、目が慣れると青白い色彩で再びものが見えてきた。真上から月光が差し込んでいた。
 俺は立ち上がり、マイネの隣に横柄に腰を下ろした。マント越しに、マイネが体を硬くしたのが分かった。まずは手を出さずに、儀式のようないつものやり取りに入る。
「さて、抱くぞ」
「……なぜ言うの」
「おまえのつもりを聞いているのさ」
「聞いてどうするの。私に選択の余地などないのに」
「そうか? 逃げればいい。おまえには紐も鎖もかけていない」
「かけているも同然よ! こんな、こんな人里離れた山道に私をつれて来て……女一人で逃げられるわけがないじゃない! 一里も行かないうちに狼の餌食になってしまうわ!」
「さもなければ野盗山賊の類に襲われるか、だな」
 マイネが顔を背け、悔しさのにじむ声で言った。
「卑怯者。あなたのことは死んでも許さない。私を連れ回して、はずかしめて。……絶対に復讐してやるから!」
「助けてもらった、とは考えられんのかな」
 俺は平然と言った。マイネは目を見張る。
「助けた? 何から?」
「軍隊から。納屋に隠れていたおまえを見つけたとき、本隊に引き渡すことも考えたんだぜ。そうなればおまえは復讐どころじゃない。その場でずたぼろに犯されて、豚みたいに殺されただろうな」
「それと今の状況と何が違うの? 恩を感じるいわれはないわ」
「少なくとも俺はおまえを殺さない」
「だから何よ。……ああ、わかったわ」
 マイネは憎しみのこもった笑みを浮かべた。
「あなた、私を一度きりで使い捨てるのが惜しくなったのね。自分のものにして、思う存分もてあそびたかったのね。だから軍隊を抜けて私を連れ出したんでしょう」
「違うとは言わんが」
「ほら! ……その先も分かるわ。私を売る気ね。ブランツ市は領主のいない自由都市と聞いてる。奴隷商人に私を引き渡して、自分だけどこかへ雲隠れするんでしょう!」
 マイネはナイフのように鋭い視線で俺をえぐった。
「卑怯者なだけじゃなくて、臆病者でもあるのね。自分だけ戦いを逃れて、好きなだけ快楽をむさぼろうなんて。……ロナ・ディクスを襲った連中のほうがまだましだわ。一夜で苦しみを終わらせてくれるということがね!」
「ならそうすればいい。――おまえにはそれを渡してある」
 俺が背嚢を指差すと、マイネは、はっと顔をこわばらせた。――昼間はマイネに背負わせているその背嚢に、短めの山刀が一振り差してあった。
「自害しろ」
 冷酷に言うと、マイネはゆっくりと視線を地面に落とし、唇をかみ締めた。俺は含み笑いする。
「できないんだな」
「そ……そんなことをするぐらいなら、それであなたを殺すわ」
「実際にやったな。二度も。しかし俺のほうが強かった。殺せないとはっきりしたわけだ。である以上、残る手は一つ。いや、それ以前に、俺はもうおまえを汚しちまったわけだが?」
 うつむくマイネに俺は顔を寄せる。
「俺を殺すとかどうとか、そんなのは二の次だろう? 生娘でなくなった自分を許しておけるのか?」
 マイネは細かく肩を振るわせ始めた。彼女の白い膝にぱたぱたとしずくが落ちた。
 俺はしばらく待った。――が、マイネは思いあまって山刀に手を伸ばしたりはしなかった。ただ、どうしようもないという風情で、固まっていた。
 俺は満足して笑った。
「それでいい。死にたくないってのは自然な感情だ。俺はおまえの、そういう命根性が汚いところが気に入ったんだ。誇り高い上古種のくせに人間くさい命乞いをするところがな。――忘れんぞ、納屋でおまえが言ったことは」
「それは言わないで!」
 キッと顔を向けたマイネが、力なく繰り返した。
「言わないで……お願い……」
 干草の山の中から見つけ出された瞬間、マイネは恐怖に顔を引きつらせて言ったのだ。――殺さないで、なんでもするから。あなたの好きにしていいから!
 だから俺は、好きにしている。
「さて、決心はついたかな」
 俺はからかうように言ってマイネのマントを外した。汚れてなお雪のように白い二の腕と、優雅に折り曲げたつややかな脚が現れた。
 俺は念を押すように言った。
「抱くぞ」
 マイネは顔を背けたまま、無言でうなずいた。
 この半月、毎回これと似たようなやりとりをしてから、マイネは体を開いた。抱く前にしつこく言い聞かせておくのはいろいろな意味で効果的だった。
 反抗心も闘争心も摘み取られて言うがままになる、そこまでは最初から予想していた。しかし、予想外の効果もあった。
 薄く柔らかな耳を唇で挟む。ぴく、とマイネが震える。根元から鋭い先端までしごくように舐めると、ほのかに温かみを帯びてくる。意識してなのかそうでないのか、ぴくん、ぴくん、と耳がかわいらしく跳ねるようになる。
 喜んでいるのだ。
 言葉でこの女を屈服させたための、これが思いがけない成果だった。上古種といえば人の男など鼻にもかけないというの通説だ。そんな相手に弱みをさらしてしまったということが、この女の恥じらいを壊してしまったようだった。
 俺はマイネの耳から首元を丹念に舐めた。温かみと舌触りはこれ以上ないほどのものだったが、汗とほこりの塩っぽい味が溶け出し、半月洗っていない髪からは付けすぎた香水のような甘ったるい臭気が漂った。
「匂うな」
「いや!」
 マイネが激しく首を振る。その顔を捉えて強引に口づけする。唇は紙のように乾き、吐息は干草から立ち昇る蒸気のように熱っぽかった。肉を食べない上古種だから悪臭とは感じられなかったが、そよ風にたとえられる清楚な息吹からは程遠い。
 それも、この女を屈服させるための手の一つだった。――体を清めさせないことで、誇りを奪う、という。
 逆に俺のほうは、毎日しっかりと濡れ布で体を拭いていた。世の男にはわざと汚くした自分の体を女に接して、嫌がる様を楽しむ連中がいるようだが、俺にはそういう趣味はない。むしろ、「下賤のはずの人間のほうが、自分よりも清潔だ」という事実のほうが、この女に対しては逆にはずかしめになるのだった。
 チュニックの裾から手を入れて、下着ごと乳房をもみしだく。豊かではないが輪郭のくっきりした形のいい膨らみが、指の中で従順にへこみ、流れる。さらに下着の中にまで手を差し込むと、肌はぬるりと滑った。半月間一度も替えていないのだから、汗も脂も溜まろうというものだ。
 そのぬらつきが、まだ通じて間もないマイネを、情欲の沼に引きずり込む手助けになった。
「くっ……ふあっ……んぐぅ……っ」
 うめきを殺し、何度も首を振り、それでも頬の赤みを増していく。俺の手を引きはがそうと腕をつかむが、それは形ばかりで力を込めていない。並べた太腿をもじもじとすり合わせ、体の中心に湧いてくる泉を懸命に抑え込もうとする。……だがそれで収まるものでもなく、股間はじっとりと湿り始めている。見えなくとも分かる、四日前からすでにそうだった。
 だが、まだ犯してはやらない。
 俺は一度体を離し、マイネのチュニックと胸当てを脱がせた。白い肩もあらわに乳房を両腕で隠して、どうする気、とマイネがつぶやく。
「洗ってやろうと思ってな」
「洗う……?」
「自分でも分かっているだろう。今のおまえは鍋から上げたフライみたいに、全身じとじとだぞ。そんな姿じゃブランツ市にも入れん」
 マイネが屈辱に涙を浮かべて体を見回す。その腕を胸から引きはがし、俺は顔を近づけた。
「体中、丁寧にな」
「いっ、いやあっ!」
 今度は本気の力で、マイネが俺の頭を押し戻そうとした。だが俺は容赦しなかった。
 水辺の生き物のようにぬるぬると月光を跳ね返す青白い肌に、舌を滑らせた。たっぷりと乗せた唾液にマイネの味が溶け込んでくる。乳房をへこませ、なぞり上げて、音高く乳首をすすった。
「……濃い味付けだな」
「い、いや、いや……やめてえ!」
 涙交じりに叫んで俺の髪をひきむしる。いっこう構わず俺は舌を進めていく。乳房そのものを吸い尽くすほど味わってから、脇へ、腕へ、背中へ、細い体を力任せに動かして唾液の筋を並べていった。
「いや……もういやあ……は、恥……」
「気にするな、まずくはない。食えば食える」
「く、食うって……私を食べ物みたいに……あひっ!」
 こつこつと浮いた背骨を一直線に舐め上げると、マイネは鋭くのけぞってうめいた。背中に回ったせいもあるが、もう抵抗できていない。ただ瀕死の病人のようにごそごそと地面を這いずるばかりだ。
 実際、マイネの味はよかった。同じように汚れた人間の女が漏らす饐えた匂い、ありていに言えば食い物が腐ったような酸味や悪臭が、この女にはなかった。上古種の特徴なのか肉を食わないせいなのか知らないが、あるのはむしろ、少し熟しすぎた柑橘のようなねっとりした甘みだ。
 それが俺の鼻孔に潜り込み、脳を、脊髄を駆け抜け、股間を凝縮させる。甘美と言ってもいい。だがマイネ本人には決して教えない。大事なのはマイネが本当に汚いかどうかではなく、マイネ自身が自分を汚物だと思い込んでいることだ。
 くびれた腰まで舐め下ろすと、向きを変えて足をつかんだ。どんな人間の女よりもほっそりと長く、若鹿のような脚力を秘めたしなやかな足だ。ブーツを脱がさずひざの裏を舐めとり、時折顔ごと強く押し付けながら張り詰めた太腿の裏を這い登っていく。
「すごいな、どこもかしこも。……わかるだろう? 舐めたところのほうが涼しいだろう?」
「く……はんっ……」
 マイネは目をきつく閉じてうめいている。自分の汚れを隅々まで知られる屈辱に、誇りを蝕まれている。
 やがて俺は短いスカートに覆われたマイネの尻にたどりついた。ズボンなどという無粋なものを履かない洒落っ気が、皮肉にも彼女を無防備にしていた。そこは純白の――かつては純白だった――絹の下着を張り付かせた白桃色の丘で、マイネがかすかに身をよじらせるつど、変色した下着にぴっちり隠された股間の部分が、ふっくらした丘の底に見え隠れしていた。
 べろり、べろりと俺は尻をゆっくり舐めた。甘噛みしながら吸い上げると、きゅうっと肉が頬の中まで盛り上がった。このまま食いちぎりたいほど頼りなく柔らかい感触だった。
 荒い息を隠そうとしていたマイネが、悲しげにうめいた。
「くぁ……ああふっ!」
 俺が尻の真ん中に顔を押し付けたのだ。綿のように柔らかい二つの丘を押し潰してどこまでも顔を沈める。鼻先が閉じたすぼまりをかすった。さらにマイネの腹と腰に両腕を回して、体をくの字に折らせて引き付けた。鼻はますます進み、前側のひだの狭間に突き刺さった。そのままくぐもった声を漏らす。
「……偉いな、手布もないのによく拭けたもんだ」
「ひっく、ひっ、ひぃ――」
「ここまでねじ込んで、やっとわかる。おまえの……滓の匂いが」
「ひいいいぃっ!」
 マイネは両手で耳をふさいで発狂したように体をばたつかせた。無理もない。ほんの半月前まで生娘だったこの女にとっては、我が身をかき消したいほどの恥辱だろう。
 そして――恥ずかしさは、単なる嫌悪や苦痛と比べ物にならないほど、情欲を燃え上がらせる。
 ただでさえ潤んでいたマイネのひだから、下着を浮かせんばかりのとろみが漏れ出してきた。俺の鼻はマイネのもがきによってかえってそこにこすり付けられ、その刺激にますます反応して蜜が絞り出された。
 みっちり張った太腿をわしづかみにして、大きく開かせた。月光にさらされたマイネの股間は汚れと潤みで元の色もわからないほどどろどろになっている。そこに斜めに吸い付いた。下着をかきわけ、指で肌を引き伸ばし、股間の中心線に沿って、ささやかな茂みの辺りから尾てい骨に至るまで、尖らせた舌でめちゃくちゃにかき回してやった。
「ひやんっ! ひぐっ! いああっ! くぁんんっ!」
 ぬかるみをすすり上げながら見上げると、マイネはもう目を閉じられなくなっていた。薄く開いた瞳にぼんやりした光を宿らせて、舌を半ばまで突き出し、犬のようにあえいでいた。頭の中を見てやりたい、と思う。この傲慢な女は押し寄せる快楽をどのように防いでいるんだろう。あるいは、どのように溺れているんだろう。
 俺は自分の欲望を抑えて、そこに集中した。マイネの初々しいひだを、輝く粒を、ひくつく門を、あごがしびれて動かなくなるまで延々としゃぶりあげてやったのだ。
 三十分は越えたと思う。マイネは少なくとも三度、体を硬く引きつらせた。白かった肌はサンゴのような紅色に染まり、膝といわず指先といわず、触れただけでも痙攣するようになった。
 そして幾度目かに粒を吸いたてた時、マイネはとうとう引きつるようにうめきながら、おびただしい液を俺の顔に噴きこぼした。
「かはぁ……はぁ……」
 どこか安堵したような吐息とともに、男の精にも似た勢いで熱いしぶきが噴きつけられる。それにはかすかな塩の味以外しなかったが、俺にとってはマイネが完全に体を開ききったことの、この上ない証だった。
 ようやく俺は、目的を遂げることにした。
 ゆで上がったように火照って力の抜けたマイネの体を地面に横たえると、俺は服を脱いだ。股間はとうに限界まで反り返っていた。マイネの尻を両手でつかんで、こちらに向けて引き立てる。
「さあ、頼むぞ」
「くふ……ふぁ……?」
 この期に及んでもまだ脱がせていなかった下着を、太腿の半ばまでずり下ろした。ピンと広がった下着の中心に、マイネの股間から糸が――糸というよりもひものように太い蜜の流れが、とろとろと滴った。その源で充血したひだがひくひく震えている。俺はそこに股間のものを向け、丁寧に、しっかりと、押し込んだ。
「うぁ……あー――ああ――あああ」
 気づいたマイネが悲しげな細い声を漏らした。だが逃げようとはしない。逃げようにも体が動かず、逃げたくもならないのだ。その証拠に俺が進むのにあわせて、マイネも背中を反らし、尻を押し付けてくる。
 数回押し戻しただけで、俺はマイネの底まで食い込んだ。何度も絶頂してほぐれきった管がふるふると切なげにうねっている。俺は暴発しないように心を鎮めつつ、マイネの背に覆いかぶさって、垂れた耳に口を寄せた。
「なあ、マイネ。おまえは……もう月の物があるのか?」
 ぐったりと地面に肩を押し付けていたマイネが、ひく、と目を見開いた。俺はつとめて優しく言った。
「あるなら、子供が出来てしまうな。それは大変なことだ。この先苦労する。だから今までは、外で果てるようにしていたが……」
「あ――ある」
 咳き込むようにマイネが言った。
「あったわ。それもちょうどあなたにさらわれた前の日までに。だから、今は」
「今は、はらんでしまう?」
「う……うん」
 かすかな希望をかけた瞳を、マイネは俺に向けた。
 俺は感情を殺した声で言った。
「そうか……聞いてよかった。しっかり受け止めてくれ」
「え」
 俺は心の手綱を解き放ち、溜めていた欲望を爆発させる勢いで腰を動かし始めた。粘膜をかき削るように激しく胎内をえぐり、マイネがたちまち「ひぁんんっ!」と叫んだ。
 本物の交わりの快感にマイネの体は手もなく屈従した。美しい尻が誘うように突き上げられ、注いでくれといわんばかりにひだがくねった。手を突いて顔を上げる力もなくマイネはがくがくと震動した。ただ、わずかに残った理性だけが彼女に言葉を吐かせていた。
「やっ、やめ、お願い、やめて、」
「駄目だ」
「そ、そんな、私、いやぁ、あか、赤ちゃん、まだぁは、」
「はらむんだ、子供を生むんだ。それが一番大事なんだ」
「いや、いやあああ、私っ、やめっ、だめ、だめええっっ――」
 ざりっ、ざりっ、と細い指先が力なく地面をかく。なけなしの力で決定的な危機から逃れようとしている。だがマイネの体はもうマイネに従っていなかった。泣き笑いのように涙をこぼしながらも、その肢体は異性に与えられる最高の至福を望んで、あでやかに、艶やかに、俺の五感を刺激している。
「まって、まってえ、それだけは、それだけはあああっ」
「俺がおまえにやるのは、命だけだ」
 最後の哀願とともに、マイネが「ひはっ」と短くうめいて息を止めた。ふるる、ふるる、と規則的な痙攣がさざなみのように走り、俺のものがきゅうっと奥深くに飲まれた。
 今だ、と俺はマイネの腰をがっしり押さえ込んだ。
「マイネ」
 抑えていたものをほとばしらせる凄まじい解放感が襲った。腰が勝手に縮み上がり、俺の精を音高くマイネの胎内に叩きつけた。同時にマイネの喜びも感じ取れた。マイネの腹の中の門が震えながら口を開いて、浴びせられたものを嬉しげに飲み干していた。
 いや、それは錯覚だったのかもしれないが――
「ひうぅうっ? 止めっ、とめてええっ!」
 ――はっきりと精を感じ取って悶える彼女を見ていると、やはり事実だという気もした。
 俺は眉根を寄せ、しっかりと腰を密着させて、絶頂に集中した。それは俺の意識を吹き飛ばすほど心地よい行為だったが、同時に、たかだか数滴の体液をこの上古種の女に注ぎ込むだけの行為なのも確かだった。
 そして、実は、俺にとっては快楽を得ることよりもそのほうが重要だったのだ。
 もう尽き果てたと思えるまでマイネに放ち続けてから、俺はそっと体を離した。マイネがどっと地面に横たわり、力のない目で俺をにらんだ。
 俺は微笑みを返して、その時が来るのを待った。
「……?」
 俺の笑みがいぶかしくなったんだろう。マイネは体を起こして手早く服を身につけ、何か問おうとした。
 そのとき、「奴ら」がやってきた。
 ざああっ、と風を切る音。頭上から降り注ぐ重いもの。絶頂の後の気だるい感覚を振り払って、俺はそれを感じ取った。
 振り下ろされたのは短刀だ。二人、いや三人の男が短刀片手に岩の狭間に飛び降りてきたのだ。
 一撃目はかわし、指の突きで目をえぐった。
 二撃目は左腕で受け、右足であばらを蹴り折った。
 三撃目は肩に食らうしかなかった。大きくよろめきながら俺は地面を蹴り、体を回して肘でそいつの喉を叩き潰した。
 ど・どうっ! と刺客は折り重なって地に倒れた。一瞬の出来事だった。
「な……何が……」
 マイネが目を見張って後ずさる。俺は傷の痛みに目をくらませながらよろよろと歩き、背嚢の山刀を取った。もがいている刺客に近寄り、一人、二人と止めを刺す。
 だが、三人目に向かう前に力が尽きた。肩の傷は肺まで断ち割る重傷だった。膝を地につき、どさりと倒れた。
 三人目が、喉をつぶしてやった黒装束の男が、まだ動いている。俺は顔だけマイネに向け、言った。
「そいつを殺せ。この刀で……」
「こ、殺すって」
「早く、死にたくないなら!」
 びくんと鞭打たれたように震えると、マイネは俺に近づいて山刀を取った。三人目の男の後ろに回りこむと、見ないように目をつぶってから、一息に突きおろした。
 ぐぁ……。
 小さな断末魔とともに、そいつは息耐えた。俺はほっとして力を抜いた。
 急速に視界が暗くなる。視界の外から、マイネの足音が近づいてきた。
 背後で立ち止まる。
 俺はかすかに笑った。
「やめておけ……そいつで俺を殺すと、おまえは足がつくぞ」
「あ……足?」
 さっと離れる気配。思ったとおりだ。マイネはこの機に乗じて俺まで殺そうとしていた。
 だが、それはいけない。
 マイネが俺を殺してはいけない。俺が死ぬのは仕方ないにしても。
 俺は声を振り絞った。
「この傷だ、俺はもうじき死ぬ。おまえが手を下すまでもない。おまえはすぐにここを離れて、ブランツに逃げろ……」
「い……いやよ。あなたにとどめを刺すわ。一族の仇、そして私の恨みを」
「わからんやつだな。俺は最初からおまえを自由にしてやるつもりだった」
「ど、どういうこと?」
 疑うような声。俺は穏やかに話す。もう思い残すことはない。
「俺はもともと部隊を抜けたいと思っていた。殺すのに飽きたんだ。非道な殺しの総決算みたいなロナ・ディクス攻略でその決心が固まった。おまえを連れてきたのは、その罪滅ぼしだよ」
「罪滅ぼしですって……私を奴隷商人に売るのが?」
「売りやしない。売れないんだ。なぜなら、遅かれ早かれ俺はこいつらに消されることがわかっていたから。……こいつらは俺の仲間、ジルンバラ軍の隠行部隊だよ。抜けた俺を追ってきたんだ。いずれ来るとは思っていたが、今日の昼あたりから気配がしていた」
「あなた……知ってて」
「ああ」
 驚いたようなマイネの声に小さな優越感を覚える。
「覚悟していた。倒せば済むことじゃないから。倒せばすぐに次の刺客が来る。部隊が追跡を打ち切るのは、俺が死んだ時だ。つまり、俺が死ななければ、おまえを逃がせない。この状況なら、俺とこの三人が相討ちになったように見える――おまえは逃げられる」
「じゃあ、じゃあ本当に、私を逃がすつもりで?」
「ふふ、最初からそう言ってるだろう――」咳き込んだ。熱いものが口からあふれた。「――おまえを生き延びさせることが、俺の罪滅ぼしになるんだ。おまえに、俺の子を託して……」
「子……子供! そうよ、よくも私にあんなことを! こんな、こんな子供なんか!」
「堕ろすか? ……ロナ・ディクスの血を引く、ただ一人の子供を。おまえの命の恩人の子を」
 がらん、と音がした。マイネが山刀を取り落としたらしかった。
 俺はまた笑った。マイネは迷っている。それだけで十分だった。迷うぐらいなら、この女は産む。命根性の汚いこの女が、死の危険もある堕胎をするはずがない。
 だが……俺はもう、どちらでもよくなっていた。
「好きにしろ……俺のことをおまえを汚した極悪人と思うか、それとも俺の言うとおり恩人だと受け止めるか、それはおまえの自由だ。……いや、自由ではないな。そう迷うことがおまえの義務だ」
「義務……」
「ああ。俺の故国は、かつてロナ・ディクスに滅ぼされた。疫病が起こり、それを食い止めるために、上古種の連中に焼き払われてな……」
 再び息を呑む音。
 もう息が吸えなかった。俺は最後の言葉を吐き出した。
「行け、マイネ。生き延びろ」
「あなた……あなたの名前は! 名前ぐらい教えてよ、でなければ恨みも感謝も!」
 俺は目を閉じた。いや、目が利かなくなったのか。真っ暗になった。
 ただ、足音が聞こえた。重い背嚢を担ぎ、華奢な足でしっかりと地を蹴って、決然と去る足音が。
 それでよかった。
 生き延びろ――俺はそう祈って、闇に身を委ねた。


終わり



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