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第2話
第4話
  

TOMONA! 第3話


「今日は重うー大な報告があります」
 昼休み。クラスメイトの西脇洋子と差し向かいで昼食を食べていた友菜は、ぱちくり瞬きした。
「どうしたの?」
「うん」
 弁当箱のロールキャベツを箸でひねくりながら、洋子は言った。
「しちゃった」
「へえ」
 友菜は手製の弁当の卵焼きを食べ、唐揚げを食べ、レタスを食べ、ご飯を食べ、やっと待ちきれなくなった。
 洋子は野球部のサブマネである。快活で活発。男子部員たちとも互角に渡り合う。言うべきことは言う。だから今も、何を「しちゃった」のかすぐ言うと思ったのだが、ずっとロールキャベツをひねくり回しているだけで、全然言わない。
 仕方なく友菜は聞いた。 
「何をしちゃったの?」
「斎藤先輩と」
「ああ、洋子ちゃんの彼だよね。先輩と?」
「二人で」
「うん、二人で」
「先輩んちで」
「先輩んちで」
 うなずきながら聞いていた友菜は、ようやく理解した。頬を赤らめる。
「……もしかして?」
「うん。え、H……」
 蚊の鳴くような声で言った洋子は、とても可愛らしく見えた。友菜は手を伸ばして、洋子の手にかぶせた。
「おめでと、洋子ちゃん」
「……ありがと」
 はにかむように答えると、洋子は急にいつものような明るい顔に戻った。
「あー、なんかさっぱりしたあ。男子じゃないけど、誰かに言いたかったんだ。でもコトがコトだから口の軽い子には言いたくなかった」
「だよね。そういうこと」
 友菜はお茶を飲みながらうなずく。
「わかる?」
「うん」
「友菜はわたしのこと、信用してる?」
「してるよ?」
「じゃ、友菜のことも教えてよ」
 いきなり切り込まれて、友菜はお茶のコップを取り落としそうになった。
「わ、わたしのこと?」
「うん。国城部長とどうなってるか」
「そ、そんなこと……」
「いいって隠さなくっても」
 洋子は軽く笑って顔を近づけた。
「見てればわかるもの。友菜と部長の距離、まだしてないカップルの距離じゃないよ。歩いてる時とか」
「わかるの?」
「あ、図星った」
 友菜は真っ赤になった。面白そうに洋子が続ける。
「大丈夫、お互いだから誰にも言わないって。そっち方面の先輩として、教えてよ」
「ええと……」
 コップをのぞきこんでいた友菜は、小さく小さくうなずいた。
「うん、した」
「ああやっぱり」
 そうだよねえしてるよね、友菜と部長ってラブラブだもん、そうかあの部長と友菜が――
 と言ったあたりで、また急に洋子はうつむいて、ちらちらと手元と友菜の顔を見比べたりし始めた。
「……どうしたの」
「ん、ううん……」
 洋子はまぶしそうに友菜の顔を見ながら、ひとりごとのように言った。
「ちょっと想像しちゃってさ。……お姫様の友菜が部長とからんでるとこって、ギャップありすぎ……」
「からっ、言わないでよそんなこと!」
「ごめんごめん」
 ぺしぺし自分のほっぺたを叩いて、洋子は冗談にまぎらわすように笑った。
「あーなんか、すごい妄想だった。思わず見たいとか思っちゃったよ。あたしレズかも。はははは」
 そういうと洋子はもう一度手を差し出して、友菜の手を握った。
「なに?」
「同盟!」
「え?」
「オトナの女同盟! お互いおめでとう、ありがとう! 十七歳で任務完了! やったね!」
「……ほんとに男子みたい」
 要するに洋子は浮かれているのだった。そんな彼女を見ながら、ふと友菜は思い出す。
 確かにわたし、先輩にはしてもらったけど……前(前!)のほうは、バージンだよね。
 それともチェリーって言うのかな?
 浮かれる洋子を前にして、友菜はややこしい自分の体質に付いて、しばらく考えこんでしまった。

「あ、すっげえ本読んでる」
 後ろからのぞきこまれた明日子は、椅子から飛びあがった。
「な、何よいきなり!」
 振り返ると、妹の光絵がにやにや笑っていた。明日子が顔をくっつけるようにして読んでいた雑誌を指差す。
「どうしたの、クソ真面目のおねえがそんなの読むなんて」
「こっ、これは参考文献!」
 わざわざ隣町の本屋まで行って、決死の覚悟で買ってきた男性向け週刊誌を、明日子は思いきり机に伏せた。
 国城家の夜である。陽一の妹たちだ。明日子は長女の中学二年生、光絵は次女で小学五年生。末っ子で小学二年生の美輝は、ベッドで携帯ゲームをやっている。
 顔を赤くしている明日子に、光絵が聞く。
「参考文献って、なんのよ」
「関係ないでしょ」
「言わないとばらすよ。陽にいのワイルドターキー飲んじゃったことと、煙草吸ったこと」
「ばらせば」
「あとCDも持ち出したよね。しかも踏んだし。しかも埋めたし」
「……」
「さらに陽にいがタンスの奥に隠してたエロ本見つけて、火ぃつけて葬ったよね」
 光絵は姉の肩に手を当ててぐいっと顔を寄せた。
「ほらほら、吐きな。あそこまでした明ねえが、どうしてそんなの読んでんの」
「……今度本番なのよ!」
 ひそひそ声で明日子は言った。
「神津くんが、うちに来いって言うから」
「本番って、明ねえエッチすんの?」
 叫んだ光絵の口を塞いで、明日子は美輝のほうをうかがった。ゲームに熱中しているようだった。
「あの子に聞かれるでしょ!」
「でもすごいじゃん。ついに明ねえもしちゃうんだ。うーんすごい……あれ?」
 光絵は首をかしげた。
「明ねえは陽にいが好きじゃなかったの?」
「好きだけど!」
 思わず叫んでから、明日子は声を低めた。
「好きだけど、兄妹じゃない。陽にいと神津くんは別なの。だからしてもいいの」
「その神津って人、好きなんだ」
「うん、いい人だよ」
「そうかあ……」
 光絵は週刊誌を見た。
「それで勉強してるわけね。明ねえ勉強好きだもんな」
「でもこれ、あんまり参考にならないわ」
 明日子は週刊誌を百科事典の間に押しこんだ。
「やっぱり本じゃわかんない」
「誰かに聞けば?」
「誰がいるのよ。クラスの友達なんかには絶対言いたくないし。お母さんなんか冗談じゃないし」
「陽にいには」
「女の子の心構えが知りたいの!」
 明日子は椅子の背もたれにもたれた。
「あーあ、初体験ってどうすればいいんだろ」
 その時、ゲームに没頭しているように見えた美輝がぽろりと言った。
「じゃ、ともなおねえちゃんに聞いたら?」
「あんた、聞いてたの? 子供の聞くことじゃないわよ!」
 明日子は振り返って、思いきり叱りつけた。美輝はちっとも驚かずに続ける。
「ねえ、あの人に聞いたら」
「あの人って……なんで友菜さんに聞かなきゃいけないのよ」
「やさしそうだし」
「そんな理由?」
「待ってよおねえ、いい考えじゃない?」
 いぶかる明日子に、光絵が言った。
「あの人、陽にいとしてるわけでしょ。経験者じゃん。美輝の言うとおり優しそうだし」
「だからって……」
「それに、ひょっとしたら、陽にいがどんな風にしてるかも聞けるかも」
 ほのかな憧れを抱いている兄がどんな風にするのか――考えた明日子はいっぺんに赤くなった。
 その間に光絵は美輝と謀略を進める。
「どうやって連絡取るかな。電話番号知らないし」
「まちぶせすればいいじゃん。陽にいの学校で」
「あの人、帰りは陽にいと一緒でしょ? 見つかったら叱られない? 中学生のくせにって」
「べつべつの時をねらえば。陽にい三年生だからほこうとかあるでしょ」
「そっか、友菜さんは二年生だもんな」
「たしか、月曜日と木曜日は陽にいほこうだよ」
「……あんた、詳しいね」
「別に?」
 美輝はゲームを続けながらそっけなく答える。
「ほら、おねえ」
 肩を叩かれて、明日子ははっと我に返った。
「月曜日と木曜日だってさ。レッツトライ!」
「う、うん……」
 押しきられて、明日子はうなずいてしまった。

「とっ、友菜さん!」
 校門を出たところで、声をかけられた。
 友菜がゆっくりそちらを見ると、セーラー服姿の女の子がひとり、立っていた。セーラーといっても友菜の高校のものとは違う。それ以前に、高校生ではないようだった。
「はい?」
 妙な中年男やオタク学生などではなかったので、友菜は警戒を解いた。その手の連中には本当によく言い寄られるので、声をかけられるとつい身構えてしまうのだ。
 近づいてみる。一五九センチの友菜より、こぶし一つ分小さい。服は少しあまり気味。後ろに二本のお下げ。やはり、中学生のようだった。
「なあに?」
「あの、ちょっとお話があるんですけど……」
「ううん……あなた、誰だったかな?」
「え、あっはい!」
 少女はぴょこんと頭を下げた。
「国城明日子です! 陽にいがいつもお世話になってます!」
「あきひこ……ああ、明日子ちゃん!」
 友菜はうなずいた。そういえば、一度だけだが陽一の家で会ったことがあった。
「ごめんね、制服だからわからなくって」
「いえ、いいです」
 顔を上げた明日子は、周囲を見まわしながら言った。
「いいですか?」
「うん、いいわよ」
 陽一の妹なら拒むいわれはない。友菜は微笑んだ。
 二人は少し先の公園に向かった。ベンチに並んで腰を下ろす。
「それで、話ってなに?」
「はい……」
 明日子がうつむいて、何度か口を開こうとした。
「ちょっと難しい話で……ていうか恥ずかしくて……あの、友菜さんなら同じ女の人だし……それに、年上だから……」
 もじもじするだけで切り出さない。なんか最近似たことが、と思った友菜は、ピンと来た。洋子と同じかもしれない。
「明日子ちゃん、それって、女の子の……体の話?」
「はっ、はいそうです!」
 救われたような顔で明日子が見上げた。
「周りに相談できる人いなくて、友菜さんしか思いつかなくて。あのすみません! こんなことで呼びとめて!」
「ううん、いいから」
 笑い返しながら、友菜は考える。中学生だと、やっぱり初潮のこととか? 自分自身の体験はないが、いつも女友達と話しているから、相談ぐらいなら受けられそうだった。
「話してみて」
「はい」
 うなずいて、明日子はぽつりぽつりと話し始めた。
「わたし、初めてなんです」
「誰でもそうよ」
「本とか読んでも、よくわからなくて」
「人によって違うものね」
「なにか付けるんですよね? 薬局で売ってるんですか?」
「うん、売ってるわ。わたしが買ってあげてもいいよ」
「怖いし、痛いかもしれないし、かっこ悪いとこ見られたくないし」
「見……られたりはしないけど」
「相手の人に、いやな思いさせたくないし」
「相、手?」
 なにかおかしいと思い始めるより先に、明日子がすっぱり言った。
「だから、友菜さんの初体験聞きたいと思って!」
「はつ……」
 やっぱり友菜は鈍かった。そう言われても、その意味と明日子が結びつかなかった。およそ十秒。
 すがるように見つめる明日子に、ようやく友菜は聞き返した。
「あのそれ、まさか明日子ちゃん、男の子と?」
「はい。今度先輩の家で、多分」
「そ、そうなの……」
 軽いめまいを覚えた。最近の中学生って。
 必死に立て直して、言った。
「でも、どうしてわたしに」
「友菜さん、陽にいと……したでしょ?」
「え」
「したですよね。ごめんなさい、わたし見てました! 友菜さんがうちに来た時!」
「み、見たの?」
「ほんとにごめんなさい! あの、あんまり友菜さんが素敵で女らしくて、陽にいと仲良かったら、なんか妬けちゃって!」
 見られた見られたと頭の中で回しつつ、かろうじて落ちつく。この反応だと多分、自分の体のことまでは気付かれていない。なら、なんとかさばける。
「そ、そう。見られちゃったなら仕方ないけど……うん、したよ」
 それでも十分恥ずかしい。顔を火照らせながら友菜はうなずく。
「教えてください。初めての時、どうすればいいか」
「うん……わたしに分かることなら」
「じゃ、うちに来てもらえませんか?」
「ここじゃだめなの?」
「だって、こんな人通りのあるところで……」
 昼下がりの公園だ。すぐそこの砂場で子供たちが騒ぐ。近所の奥さんたちが談笑している。
 確かに、そんなことを話せる場所ではない。
「そ、そうね」
 友菜もうなずいた。
「それじゃ、明日子ちゃんのうちで」
「はい、来てください」
 二人は、立ちあがった。

 明日子が家に付くと、ちょうど母親と美輝が玄関から出てくるところだった。
「買い物?」
「あら明日子。一緒に行く?」
 行こう行こうと美輝がはねたが、明日子の後ろの友菜に気付くと、誘うのをやめて振り向いた。
「おかあさん、おねえちゃんはおきゃくさん」
「そちらは?」
「友菜さん。ええと……陽にいのお友達。ちょっと最近仲良くて」
「そうなの」
「初めまして。三池友菜です」
 友菜が礼儀正しく頭を下げると、構えないけどゆっくりしてってね、と母親は微笑んだ。
 美輝とすれ違う時に、明日子は聞いた。
「光絵は?」
「まだぶかつ。うまく聞きなよ」
 こまっしゃくれたことを言って、美輝は母親についていった。やれやれ、と明日子はため息をつく。うるさい姉妹二人がいなくてほっとしたのだ。それを狙った日取りでもあった。
「それじゃ上がってください」
「え、ええ」
 友菜はちょっと緊張しているようだった。なんだかこれが初体験のようで、明日子は少しおかしくなった。
 友菜を姉妹の部屋に上げて、お茶を持っていく。さて差し向かいになると、茶菓子をすすめながら、改めて明日子は自分の事情を話した。
「それで――友菜さん」
 明日子がいくぶん緊張した顔で言った。
「友菜さん、陽にいとしたんですよね」
「うん、まあ……」
「それどうだったか、教えてもらえないですか?」
「うん。ええとね……」
 少し口ごもりながらも、友菜ははっきりと説明し始めた。
「まずキスするでしょ。それから、だ――抱きしめてもらって、手で触って……」
「触ってってどこに」
「い、いろんなところよ。それから……上の方とか、下の方とか……」
「し、下って前ですか、後ろですか」
「前も後ろも……」
「ふっ服は? もう脱いじゃうんですか?」
「脱がないことのほうが」
「脱がないでどう触るんですか? 手を……入れたり? どうやって?」
「どうって、入れられるところから入れて」
「いきなり手を入れられるんですか? し、下にも?」
「下はもうちょっと先……でも、入れられずに触られることも」
 友菜は一生懸命説明しようとし、明日子もなんとかつかもうとするのだが、うまく伝わらない。二人とも真面目な性格だ。重要なところに差し掛かると、どうしても言葉が出なくなってしまうのだ。
 明日子はもどかしくなった。聞けば聞くほどわからなくなる。かえって混乱しそうだった。必死の思いが、ためらいに打ち勝った。
「ちょっとやってみてください」
「え?」
 明日子が小机をどけ、絨毯の上を膝立ちで近づいた。友菜の前にぺたんと座る。
「友菜さんのされたことをわたしに」
「触っちゃうわよ?」
「触らないとわかんないじゃないですか。ちょっと試しに。いいです、女同士だし」
「でも」
「あ……わたしだと、いやですか」
 遠慮するように言った明日子の目を見ていると、友菜も拒めなくなった。傷つけてしまいそうだったから。
「じゃ、やってみるわよ」
「はい」
 ぐーにした手を膝の上でそろえて、明日子が正座した。友菜はその肩をつかむと、顔を寄せた。
「まずこうやって、キス……」
「はい」
「あ、ふりだけだからね、キスは」
「はい」
 友菜は目を閉じて唇を近づける。息がかかるぐらいのところで止めて、目を開けた。
 明日子はくるっとした目を大きく見開いて見つめていた。ほんの少し友菜は笑った。
「キスのときは、目をつぶるの」
「は、はいっ」
 目を閉じながら、明日子は内心上がっている。
 ――キスみたいな基礎でいきなり注意されちゃった。わたしったら情けない。
 みとれてしまったのだ。間近で見る友菜の顔は、本当に美しかった。長いまつげと透明な肌。もうすぐ大人になる女の人の顔。
 あのままキスされても逃げなかったかも、と考えて明日子はちょっと驚く。なんだろわたし、変じゃない?
 じっとしていると、腕が肩にかかった。
「それから……こうやって抱きしめるのね」
 ふわりと甘く香る体が押しつけられた。優しく抱かれ、肩に友菜の顔が乗る。ごく自然に、明日子も腕を回して友菜の背を抱いた。
「あ、あったかい……」
「でしょ。好きな人とすると、ほんとに気持ちいいよ」
 おずおずと明日子が力をこめると、友菜も抱きしめ返してくれた。ぽっと胸が熱くなった。
「でね、こうやって……」
 友菜がさわさわと背中を撫でる。ただの接触なのに、ほのかなしびれが広がった。心地いい。無意識に明日子も友菜の背をまさぐる。
「うん、そう」
「こ、こうですか?」
「そうよ。そんな風でいいの。したいようにすればいいの」
「へえ……」
 明日子は友菜の背を、腕を、さすり続けた。体がほっそりとして長い。髪が指にからむ。絹のようなつやとぬめり。
 ――いいなあ高校生って。手足もすらっとしてるし、頭身高いし。それに比べたらわたしってお子様……
 くやしいけれどうらやましい。明日子はついつい、友菜の体をもっと撫で回してしまう。
「ちょっと、あんまりされると……」
「気持ち悪いですか?」
「そんなことないけど……」
「じゃ、もう少ししましょうよ、これっていい気持ちです」
「ううん……」
 友菜の声が曇っている。その理由に、明日子は気づかない。
 友菜は困っていた。
 明日子の手が、素直すぎる。彼女はまだ技巧もなにも知らない。だからその手の動きは、ストレートに感情をたたえている。触りたいから触っている。自分を信じきっている。
 それが手だけならばまだいい。でも体まで。明日子がぴったり胸を押しつける。自分のブラのパット越しに、明日子のふくらみかけの乳房がわかる。中学生の女の子の柔らかい体が、腕の中に。
 友菜は自分を女だと思っている。でもそれとこれとは別だった。嫌いではない相手と体を押しつけあっていれば、頭が抑えても体が応える。まして友菜の体は、頭と別の作りなのだ。
 今しているのが、ある意味で陽一との経験とは別のことなのだと、友菜はようやく気付き始めていた。なにも起こらないと信じていたが、それがぐらついていた。
 手が強く明日子の背中をまさぐってしまう。それを止められない。可愛らしいお下げをもてあそんでしまう。それをかがずにはいられない。
 そして、下腹部が熱くなってしまう。
「と、友菜さん……」
 明日子の声が歪み始めている。お互いの顔は見えない、でも状態はわかる。わかると頭も熱くなった。そんな自分をおかしいと思う。思うけど止まらない。止めるものがない。取り澄ました顔をしている自分の中の、異常な部分が目覚め始める。
 それでも、まだ心のどこかに冷静な部分はあった。だから明日子に言われたとき、あわてた。
「友菜さん、胸パットなんですね」
「え?」
 見破られてしまう。あわてて体を引き離そうとすると、ぎゅっと引きとめられた。肩の上で明日子がささやく。
「えへ、ごめんなさい。ちょっと反撃してみました。友菜さん、他のところは完璧だから……」
「そ、そう?」
「だからもうちょっと」
 そう言うと、明日子が力を加えた。予想していなかった友菜は、あらがえずに絨毯に引き倒された。
「ちょっと、明日子ちゃん!」
「したいようにしていいんですよね」
 向き合って横になる。明日子がほんのり上気した顔で楽しそうに言う。
「してみるから。採点してくださいね」
 そう言うと、明日子は肩から腰まで、ぴったりと押しつけてきた。
「わあ……やっぱり、座ってるするよりいい……」
 ――神津先輩にも、こうすればいのかな?
 明日子は想像しながら、友菜の足に自分の足をからめてみる。きゅっと胸を抱いて、背中を愛撫する。
 なんとなく違和感があった。少し続けて、気付いた。
 別に先輩のことを想像しなくてもよかったのだ。友菜の体は、それ自体が触れていたくなるようなものだった。
 ――レズ……っぽいよなあ。
 そう思いつつ、明日子は続けた。なんといっても相手は経験者だ。導いてくれるだろうし、間違えば止めてくれるだろう。優しいから怒られもしないだろうし。
 そんな安心しきった明日子のすり寄りが、友菜をますます危険にしていく。もう友菜は明日子の想像ほど冷静ではない。採点どころではなく、ただ明日子の愛撫を味わい、心のままに自分も触れている。
 背中や腕だけとはいえ、額を押し付けあってまさぐりあう愛撫をしている以上、次にそれが起こったのは当然だった。
「友菜さん」
 茶目っ気を出して明日子が腰をすりよせた。そして、不思議そうに眉をひそめた。
「これ……なに?」
 はっと友菜は腰を引いた。
 だが遅かった。明日子の視線が二人の体の間に固定していた。二着のプリーツスカートの間にある、友菜のふくらみを。
「ポケット、なに入れてるんですか?」
 ありえないことなので、想像できなかったのかもしれない。明日子はごく無造作に手を伸ばして、それを軽くつまんだ。
「あんっ!」
 友菜は思わず声を上げていた。明日子がぎょっとしたように手を引っ込める。
「と、友菜さん?」
 友菜の顔とふくらみを見比べた明日子が、確かめるように友菜の胸に触れた。おそるおそる、そして強くブラジャーをつかむ。
「うそ……」
 純粋に驚きだけを浮かべた目で、明日子は友菜を見つめた。
「男の子……なの?」
 友菜は否定も肯定もせず、困ったような顔で目を逸らしていた。今までの興奮が残っている。スカートを膨らませるほどの勃起が表すように、欲情でものが考えられない状態だった。冷静ならば隠し通しただろうが、見られたい、という情欲で隠したくなくなっていた。
 友菜は聞く。
「ええ……わたし、今は男の子よ」
「うそ……だって、陽にいと……」
「お兄ちゃんも知ってるわよ。知ってて、先輩は愛してくれたの」
「ほんとに?」
「うん……」
 この事実をどう受け止めていいか、明日子はまだわからなかった。ずっとわからないかもしれなかった。ただ確かなのは、それが全然不愉快ではないと言うことだった。
 ――女の子みたいにきれいで、女の子みたいに陽にいと付き合ってて、女の子のことをよく知ってて、でも女の子じゃないからレズにもならない。
 その中でも特に、兄が受け入れている、というところが重要だった。この人は変態じゃない。避けなくてもいいんだ。
 友菜は驚いた。明日子がもう一度、体を寄せてきたから。
 思わず聞いてしまった。
「い、いいの? 明日子ちゃんこそ気持ち悪くない?」
「うん、なんか平気みたいです」
 そっと体を押しつけながら、明日子はつぶやく。
「陽にいが平気なら、あたしも平気かなって……それに、考えてみればこっちのほうが自然なんじゃないですか? 男と女で」
「そ、そうかな」
「そうでしょう?」
 明日子は不意に笑った。
「なあんだ、こっちのほうがずっと詳しく教えてもらえるじゃないですか」
 そう言って、前より強く友菜を抱きしめる。
「なんだか得した気分」
 友菜は戸惑っていた。男として見られるほど居心地の悪いことはない。だが、明日子の言葉で、すっと力が抜けた。固定観念に惑わされず、感じた印象に素直に従う明日子の柔軟さに、安心したのだ。
 陽一の家族なんだな、とうなずく。
「ね、続けていいですか?」
「え、ええ」
 答えてから、友菜はいたずらっぽく笑った。
「ばれちゃったなら……いろいろできるね」
「いろいろ?」
「そう、いろいろ」
 友菜が人差し指を立てて、明日子の唇に押しつけた。
「したくない?」
 ぞくっ、と明日子の背筋が震えた。友菜の美しい顔を、今度こそ引かれるものとして意識してしまう。
 練習がいきなり本番に変わったのだ。
 それでもいい、と思ってしまった。この不思議できれいな人となら。いつのまにか脳裏からは、捧げるはずだった先輩の顔が消えていた。
「まず、キスから……」
 友菜の顔が迫り、明日子は目を閉じた。

「ふっ……はあっ……」
「あん……そう、明日子ちゃん、上手……」
「友菜さんも、すごく優しくて……なのに意地悪、あんっ」
 誰もいない家の一室で、セーラーの冬服姿の、十四歳と十七歳の二人が絨毯の上に横たわり、お互いのスカートの中に手を突っ込んで、キスをむさぼりあっている。
 ぎこちない明日子の舌を、友菜が軽やかに導き、唾液を味わい合う。友菜の手は明日子の太ももに挟まれながらショーツに浮いた筋をなぞり、明日子の手は熱さに驚きながら友菜のペニスをショーツごともみしだく。
 美しく、卑猥な光景だった。
「明日子ちゃん、気持ちいい? 感じるってこと、わかる?」
「はい……わかります」
 友菜に神経を目覚めさせられ、うっとりと目を細めて明日子はつぶやく。
「そこ、熱いです。中が湿ってきてる」
「わたしも女の子は初めてだけど」
「これでいいと思います……」
 明日子が熱い息を吐いてつぶやく。目覚めつつある少女の顔に友菜は喜びを覚える。誰も触れたことのない谷間に指を突っ込んでいることがうれしい。これからは洋子ちゃんのことも変な目で見ちゃうかも、となどと思う。
 もぞもぞと友菜の股間をまさぐる手を止めて、明日子が目を開けた。
「友菜さん、見たいです。友菜さんのこれどうなってるのか、見てみたい」
「……いいよ」
 友菜はごろりと仰向けになった。明日子が体を起こし、おそるおそるスカートをまくりあげる。
「……うわあ」
 思わず口元を押さえた。恥ずかしかったのだ。
 すらりとした優雅な太ももの上、骨盤が少し出た腰の真ん中。
 細い水色のショーツの上の端から、親指ほどのピンクの肉棒がつるりとした先端をのぞかせていた。華奢な友菜の体にふさわしく、控えめで可愛らしいものに見えたが、それでもどうしようもないほど大きくなっていた。
 ――こんなの、隠しようがないじゃない。友菜さんが感じてるの、わかりすぎる。
「友菜さん、これ、わたしで感じたから?」
「うん」
「友菜さん今、わたしに欲情してるの?」
「……うん」
 両腕で顔を隠して、友菜がつぶやく。明日子はぶるっと体を震わせる。自分よりずっときれいだと思っていた人が、自分を求めているのだ。年上の人をここまで本気にさせてしまったということが、明日子に自信をつける。 
「触ってあげるね、友菜さん」
 明日子は友菜のショーツを少し下げ、まさぐり始めた。子供のようになにも生えていないので汚いとは感じない。触り方が分からなくて戸惑うこともない。したいようにすればいいのだ。
 ピクピク動く肉の棒を、明日子は包み、こすり、いじりまわした。そのたびに友菜がかすかに身動きする。
「友菜さん、気持ちいい?」
「うん」
「これからどうすればいいの? 射精するんでしょ?」
 言いかけて、明日子は思いついた。
「一度やって見せて。わたし、見たい」
 そう、見たかった。明日子は今までなかったほど猛烈に興奮していた。経験の少なさは問題ではない。視覚の刺激はなにも知らない子供でも興奮させるのだ。
「じゃあ……見ててね」
 腕を伸ばした友菜の顔も紅潮している。見られる快感はずっと先のものだ。だが友菜はそれを陽一に開発されている。
 友菜がペニスに手を添え、天井に向かってリズミカルにこすり始めた。
「ふっ……あっ……はあっ……」
 小さくうめきながら、友菜はオナニーを明日子に見せつける。
 鈴口から透明な粘液があふれ始める。亀頭がぬるぬるになる。上下する皮がそれにまみれ、手のひらまで濡らしていく。
 清楚で美しい友菜が、賤しい快感だけを求めて激しく性器をこすりたてている。その乱れぶりが明日子の目にまざまざと焼き付く。強烈すぎて瞬きもできない。いやらしすぎて息もできない。
 信じられないというように口を押さえたまま、触れんばかりに顔を寄せて激しい動きを見つめ、明日子は片手で自分のスカートの中を揉みしだく。
「明日子ちゃ……そこだと……かかっちゃう」
「なにが、精子がですか!」
 上ずった声で明日子は聞く。
「でも見たいの! 精子って、どんな風に飛び出るのか!」
「もう。……じゃ……出す、出すよ……」
 友菜がきつく目を閉じ、いっそう激しく手を動かした。明日子は一瞬だけ自分のお尻に目をやる。そこをスカート越しに友菜の片手がまさぐっている。回路が通じたように明日子は友菜の想像を読み取る。
 ――友菜さん、わたしのお尻にかけようとしてる!
「いっ、いくっ! いっちゃう!」
 明日子の目の前で、友菜がはじけた。
 ピュッ! と一条のひものように白いものが飛び出した。明日子の前髪をかすめて天井近くまで飛びあがる。続けて二度も三度も。そのたびに、見えない何かにペニスを突き刺すように、友菜の腰がはねあがる。
 手の周りが瞬く間に精液で汚れ、ぴちゃぴちゃとしぶきが飛び散って明日子の顔にかかった。ツンとする酸の匂いを感じながら、避けもせず明日子はそれを見つめ続けた。
 真上に飛んだ精液は、そのまま落ちて友菜の太ももにはね、花のように開いたスカートの布地に飛び散った。
「……はあ……」
 いつにもまして激しい射精が過ぎ去ると、ぐったりと友菜は力を抜いた。やや自嘲的に聞く。
「どう、幻滅した? こんなことするわたしって……」
「ううん……」
 明日子は顔を輝かせて首を振った。目まで潤んでいた。
 絶頂する友菜は、芸術品のように美しかった。唇をかみ額を汗で光らせ、四肢を突っ張らせつま先をそらせた姿。体中の筋肉を走りぬけた快感を、股間に集中して放出したことが手に取るようにわかった。ただ一つの目的、純粋な快感のためだけに発現する機能。自分にそんな作りがあるなら目覚めさせてみたいと思う。
「なんか……感動しました。いってるときの友菜さんって、すごくきれいで……」
「そんな」
 友菜は照れくさそうに顔を背けた。年上にもかかわらず、そんな友菜を明日子は初々しいと思った。陽一が好きになった理由がわかる。
 自分が絶頂するところはまだ想像できない。でももっと見たい。
 そんな思いが、こうささやかせた。
「わたし……わたし、もっと友菜さんを気持ちよくさせたい」
「わたしを?」
「ね、これって何回ぐらいできるの?」
 友菜は好奇心と欲情に燃える少女の顔を見上げ、その頬に手を伸ばした。
「明日子ちゃんとなら……また、すぐに」
「わたしなら?」
 誉められたことが嬉しかった。
「どうすればいいんですか?」
「……してくれる?」
「はい」
 うなずいてから、明日子は思い出した。初心者の自分には役に立たないと思っていた雑誌の知識。
「く、口でしましょうか?」
「明日子ちゃんって……」
 なんて大胆なんだろうと思いながら、友菜はうなずく。
「うん……できるなら、してほしい」
「やってみます!」
 明日子は友菜のペニスに手を伸ばした。粘液にまみれて弛緩している。それに触れた後で、そこが排尿する器官だと気付いた。なのに不潔感がない。
 ――おしっこと同じところから出る液だけど、これって汚いと思うべきなのかな?
 指にからむ精液をもてあそびつつ、妙なことを考える。今までの感覚に当てはまらないのだ。だったら、今から決めてしまえと思った。
 ――綺麗な友菜さんのだから、これはきれいなもの。
 そう念じながら唇を当てた。ぬるり、と含んでしまった。
「明日子ちゃん……すごい……」
 まだ柔らかいペニスを、明日子の舌がぬるぬると追いまわす。彼女の口元が白く汚れていく。
「平気なの?」
「女の子が男の子にするんだから、自然だと思うし……」
 無心に明日子はしゃぶり続ける。
 面白かった。さっきは見たときからすでに、硬く大きくなっていた。なのに今は柔らかい。スポンジのようにふにゃふにゃだ。先端も皮に隠れてしまっている。
 ちゅうちゅう音を立てて吸うと、精液が舌にぴりぴりした。甘苦い大人の味。
「気持ちいいよ……」
 友菜が頭を押さえつけた。されるまま明日子は深く飲みこむ。舌に手応えが始まる。鼓動に合わせて大きくなったペニスが口の裏を持ち上げる。
 明日子はかまないよう優しく、それをねぶりまわす。
「明日子ちゃん、触っていい?」
「んふ……は、はい」
 明日子が向きを変えて、腰を友菜の顔に寄せた。友菜は明日子を押し倒し、横向きの69の姿勢になる。
 スカートをめくり上げると、ふっくらした腰周りが現われた。閉じた太ももをもじもじすり合わせている。簡素なコットンのショーツの一番下が、わずかに変色していた。
 指を滑りこませるとじっとり熱かった。布越しに触れるとくちくち滑る。思いきって太ももを持ち上げ、股を開かせた。内股の腱がへこんでショーツとの間に隙間が開いたが、中央部はアーモンドの形に湿り、中のひだにくっついていた。
「うふ……明日子ちゃん、濡れてるよ」
「やふぅん……」
 熱心にしゃぶりつづけながら、明日子が鼻を鳴らした。
 友菜は明日子の尻に手を回した。まだ肉の乗りきっていない小さなお尻に手のひらを押し付けながら、ショーツの下端に指を引っかける。くいと横に引くと、股を回る部分が細いひもになって脇へどいた。うっすらと煙る恥毛が、かすかに開き始めたひだが、暗い色のつぼみが、すべて現われた。
 友菜はひだに舌を沈め、その頬を明日子の太ももが柔らかく押し挟んだ。
「んふっ……ああん……かたい……」
「明日子ちゃん、かわいい……」
 二人の少女は、二匹の雄と雌と化していた。ほてった体の中に情欲をたぎらせ、互いの性器をむさぼりあう。どちらも初めてだった。どんどん溺れていった。
 明日子の口の中でぴくぴくと友菜の茎が震える。ぬめらかな粘液がとめどもなく出てくる。そんな滴りでは足りない。破れるほど勢いよくほとばしらせてあげたい。
 その思いを本能が作り変え、十四歳の性器に初めての命令を出す。受け入れるためのぬめりを。
 友菜もそれを感じ取る。汚れのない入り口が、初めての儀式のために誘いの液を作っている。かなえてあげたい。狭い処女膜に舌をくぐらせながら、中の温かみを味わう。
「はあ……友菜さん……」
 顔を上げて指でこすりながら、明日子が苦笑しているように言う。
「なんか、すごいことになっちゃったね。友菜さん、陽にいの彼女なのに……」
「わたしも……先輩の妹の明日子ちゃんとこんなことになるなんて……」
「不倫って、こんな気持ちかな……」
「かもね」
 交わした視線が触れ合う。共犯者の視線だった。
 そう、これは二人だけの秘密。どうせ他人には言わないのだ。
 ならば、最後まで。
 どちらが先に思ったのかはわからない。口に出したのは同時だった。
「しちゃう……?」
 微笑みあった。二人は体を起こし、もう一度キスしながら、互いの性器をまさぐりあった。
「止まらないよね……」
「うん、我慢できない……」
「友菜さん、優しくしてくれる?」
「できるだけ……」
 ささやいた友菜は、ふと聞いた。
「明日子ちゃん、彼氏はいいの?」
 そういえば、と明日子はつぶやいてから、くすっと笑って友菜の頬に顔を押し付けた。「そういえば」程度の男の子なんて、どうでもよかった。多分この人のほうが、一万倍も素敵。
「いいです。わたし、友菜さんに初めてをあげる」
「わたしも、そういうことになるかな」
「友菜さんも?」
 ちょっとだけ後ろめたそうに、友菜は言った。
「わたし、お尻は先輩に上げちゃったけど……前は、したことないの」
「そうなんだ。……なんか嬉しいな」
 明日子がきゅきゅっと握り締める。
「この可愛いの、わたしが最初に食べちゃうんだ」
「あん……食べるのはわたしよ」
 そう言って、二人はもう一度強く抱きしめあった。
 友菜はベッドからクッションを取って、床に置いた。明日子をうつぶせにしてその上に寝かせる。腰の下がクッションだ。お尻が持ちあがっている。
 相手が見られないのに、自分は見られている。少し悔しいような姿勢だった。明日子は聞く。
「初めてって、正常位じゃないの?」
「でも、わたしはこうだったから……」
 そうか友菜さんと陽にいが、と考えると、かーっと頭に血が上った。変な感情だった。陽にいがこの人にこんな恥ずかしい格好させたなんて。かわいそう、でもうらやましい。
 明日子ももう、友菜の魅力に引きずりこまれてしまっていたのだ。
「明日子ちゃん、いくよ……」
 友菜は後ろに膝立ちして、腰を近づけた。明日子のスカートを腰までめくり上げる。くりっとした小ぶりのお尻の真ん中に、つぼみとひだが濡れて光っている。
「痛かったら言ってね……」
 そう言いつつ、押し当てた。
 きちっ、と硬い感触がした。指で触れて、位置があっているのを確かめる。そのまま友菜は体重をかけた。
「あ……入る……」
 明日子は歯を食いしばりながら頭をのけぞらせた。息が苦しくなるような圧迫感。これから痛くなるんだ、と覚悟する。
 すると、ぞるっ、と粘膜が開いた。熱いゴムの棒のようなものが意外とスムーズに入ってきた。押し広げるような大きさがある。でも破られた感じはない。
「んふ……」
「痛い? 明日子ちゃん」
「ううん……あ、熱いだけ。痛くないです」
「わたしが、小さいからかな」
 友菜は軽く腰を動かしてみた。明日子がくふっと息を漏らす。
「ち、小さいかもしれないけど……わたし、これぐらいがいいです。これ以上だったら無理」
「ちょうどよかったね」
 ほっとしながら、友菜は小刻みに動き始めた。
「明日子ちゃん……気持ちいいよ。わたしを包んでくれてる……」
「なんか、いいですね。ぴったり。……素敵、こういう初体験したかった……」
「わたしも……女の子になる前にできてよかった」
 大人になれば味わえなくなる快感を、友菜は心から楽しむ。ソフトでくるみこむような肉のさや。優しく温かいぬかるみ。陽一の激しい手とは違う。
 ――ううん、この子の体は先輩と同じもの。だからこんなに安心できる。
 次第に深く突き入れながら、友菜は明日子の背中に体を預けていく。
「んあ……すてき……」
 指の甲をくわえながら、明日子も友菜を味わう。弾力のある先端がつるっつるっと粘膜を押しつぶしていく。激しすぎず、柔らかすぎない。少女の未熟な器官にぴったりの男性器。
 どさっ、と友菜の顔が肩の上に現われた。愛しそうに両肩を抱きしめられる。お下げをにした髪の匂いをかがれる。耳をかじられる。
 頬をすりよせて明日子は恭順を表す。
「もっと……もっとして、友菜さん、思いきりしていいよ」
「してる、してるよ明日子ちゃん。気持ちいいもの、あったかいもの」
 ちゅぷっちゅぷっと音を立てて友菜の腰が押しつけられる。がんばってる、と明日子は受け取る。かわいそうだ、わたしは何もしてないのにこんなに気持ちいい。
 わたしが気持ちよくしてあげなきゃ。
「ま、待って、友菜さん」
「なに?」
「体起こして」
 友菜が体を起こすのに合わせて、明日子も起きあがった。
「後ろ、寝て」
「え?」
 戸惑いながら友菜が倒れる。明日子は友菜の脚をまたぎなおし、彼女の腰の上に座りこんだ。ぱさりとスカートが落ち、秘密を世界から隠す。
「わたしが動くから。友菜さんは、味わってて」
「でも……」
「いいの、したいの!」
 そう言って、明日子はリズミカルにはね始めた。
 ――中学生の子に、されちゃうなんて……
 感じた屈辱感も、彼女の嗜好が溶かした。
 ――でも……でも、いい。やっぱりわたしは、こんな風に強くされるほうが……
 そう、いつも陽一に出させられている。ペニスをしごかれて、無理やり。強制され、従わせられること。それで友菜は今まで安心を得てきた。導くのではなく導かれることが、好きだった。
 ――結局、この兄妹に、わたしはすべてを奪われちゃうんだ……
 今までの価値観を壊さないですむ。友菜はマゾヒスティックに安らぐ。
「明日子ちゃん……受けとめてね」
「うん、うん!」
 スカートの下の暗闇から、ぐちゅぐちゅといやらしい音が響く。愛液で友菜の股間が濡らされていく。性器全体が生暖かく包まれているようだった。教えるはずの少女に包まれたほろ苦い幸福感。
「いい? 友菜さん、いい?」
「うん、素敵、気持ちいい!」
「出してあげるね、いかせてあげるね? 初めての友菜さんを、気持ちよくしてあげるね!」
 そうだ初めて同士なんだから。負けてないんだ、わたしが気持ちよくしてあげるべきなんだ。
 明日子は自分を貫いている肉棒に愛すら抱く。このかわいいおちんちんを、絞り取ってあげなきゃ!
 できる限りの激しさで明日子はそれを包みしごく。ずぷっずぷっと空気の音がする。くわえた先端が奥の何かに当たる。
 ――ここにあんな風に出されたら……すごいかも。
「友菜さん、ほら、いいよ! 出しちゃってよ!」
「あああ、ダメッ、出ちゃう、ほんとに出ちゃうよ?」
「いいから! もう出しちゃっていい! ぴゅって出して、精子教えて!」
「いやあっ」
 明日子は思いきり尻に体重をかけ、締めつけたままぐりぐりと腰をひねった。
「あ、ああはッ!」
 友菜が無意識の動きで明日子の腰をつかみ、ぎゅうっと腰を持ち上げた。明日子も悟った。友菜の太ももを思いきり抱えて、強く結びつく。
「あきひッ!」
 ぴったりと密着した粘膜の奥で、友菜が射精した。がくん、がくん、と腰が持ちあがる。瞬間、明日子もびくっと硬直していた。痛いほどの勢いで精液が子宮に飛びこんでくる。
「友菜さん最高っ!」
 食いしばった歯の間から、早口でそれだけ叫んだ。

「やっぱりお兄ちゃんのだと、ぶかぶかですね」
「でも、明日子ちゃんのじゃきついし……」
 陽一のシャツとジーンズを身につけた友菜を見て、明日子はまた悔しくなる。
「こんな格好しても、美人なんだから……」
「え?」
「なんでもないです!」
 軽くふくれて、明日子は自分のセーラー服をかき集めた。こんなにべたべただと、お母さんに出せないな、と思う。友菜さんはどうしてるんだろう?
「でも、よかったね」
 我に返って明日子は振りかえった。ふわりと友菜が抱きしめる。
「これで全部わかったでしょ? もう恥かかないよ」
「いいです、次も友菜さんとするから」
 明日子は振り向きざま、背伸びして友菜の唇を奪う。あっ、と言っただけで友菜は抵抗しない。この人、案外とろいのかも。
「いいでしょ?」
「うーん……」
「陽にいにはないしょ。……ね?」
「……そうね」
 くすっと笑うと、友菜は明日子を抱きしめた。
 この子でよかった、と友菜も思う。先輩とのつながりが一つ増えたことになるし。ここに来る楽しみが増えちゃった。
 でも、自分が女になったらどうしよう? 
 それは後で考えればいいか。
「ただいまーっ!」「うーす」
 玄関から声が聞こえた。ずいぶん大勢いる。二人は部屋を出て玄関に下りた。
 四人だった。陽一、光絵、美輝、母親。陽一があれっとつぶやく。
「友菜、なにしてんだ?」
「ええと、ちょっと先輩に会いたくなっちゃって」
「お、そうか」
「おねえ、ちゃんと聞いた?」
「ああ、それはもういいんだ」
「いいの? まあなんでもいいけど」
 ああつかれた飯だ飯だごはん食べてく? でも悪いですいいのよいいのよそうですかそれじゃ、と家族が廊下に上がる。それに混じって、美輝が明日子のそばを通り抜けざま、屈託のない顔で笑いながらぽそっと言った。
「ひにんするんだよ」
「みっ、美輝っ!」
「なんか言ったか?」
 不思議そうに振り返る家族の前で、明日子と友菜だけは同じように真っ赤になったのだった。


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