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第1話
第3話


TOMONA! 第2話


 あの日から、友菜と陽一の、あまり健康的とは言いかねるが、それ以上に睦まじい交際が始まった。
 部員からは、やっかみ、羨望のまじった声がそこここで聞こえたが、おおかたは、あの部長なら、と言うことで納得した。 
 女子のほうはそれよりだいぶ荒れたようだったが、(なにしろ陽一は引退した先代キャプテンに次ぐ、人気商品だった)友菜の人当たりのよい性格と可憐な容姿はだれもが認めていたので、じきに落ち着いた。
 控えめだが、それなりに暖かいデートが、週に二回ほど。そして、そのどちらかは、たいてい、体の交わりがあった。時間は放課後で、場所は部室であることが多かったが、一度忘れ物を取りに来た一年に、キスの現場を目撃されてからは、そこを使うのもはばかられ、以後は、校舎の裏の使われていない倉庫の古い体育マットが、二人のささやかな愛の巣になった。そこは校内のほかのカップルたちも使っているらしく、たまに先客があることもあったが、そういうときは、セックスは次回にお預けにすることにした。逆の場合もあって、二人が高めあっているときに外に人の気配がすることもあったが、向こうも同じように配慮してくれるらしく、じきに気配は消えることがほとんどだった。やがて陽一は、そこがそういうふうに使われる公認の場所であること、先客がある場合には使用をあきらめるというのが、暗黙のルールであることを、なんとはなしに悟った。
 学校で、しかもノーマルではない相手とのセックス、と言う二重の破戒が、二人の欲情を燃え立たせた。陽一にとっては当然そうだったが、友菜にとっても、それは抗しがたい、底知れない魅力をもったものだった。

 教室で、ふとしたこと――例えば、男子が猥談をしているのが聞こえたとか――で、友菜は欲情してしまうことがあった。陽一の力強い包容、暖かい胸、男の汗の匂い、なにより自分を突き貫き、かきまぜ、めちゃくちゃにしてしまう肉棒などが強烈に思い起こされ、体のうずきが止まらなくなってしまう。そんなとき、友菜は友達にちょっとトイレとほほ笑み、すました顔で席をたち、手洗いの個室に入って、一気に欲情を発散させるようなった。
スカートをまくり上げてパンティを下ろし、便器に腰掛ける。そこまでは、友達の女子たちと同じだ。しかし、友菜の股間には、体と同じように華奢だが紛れも無く勃起したペニスが、友菜の興奮をはっきりと表して、最大限に怒張した先端を天井に向けて現れる。
「せんぱい……」
 小さく小さく、口の中だけでそっとつぶやいて、友菜はそれをしごき始める。声を殺すために、ハンカチを口にくわえる。左手で――友菜は右利きだったが、マスターベーションにはなぜか左手を使うのが常だった――茎を締め付けて上下に動かし、右手を尻の下に回して、肛門をつつく。
「せんぱい、せんぱい、抱いて……刺して。入れて。思いっきり抱いて。壊れるぐらい……ううん、壊して、壊しちゃって! 私を無茶苦茶にしてっ……!」
口の中に乾いた布の味が広がり、妄想の中のささやきを受け止める。左手の中の勃起が充血度を増し、快感のボルテージが徐々に上昇していく。離れていた両膝がやがてくっつき、そこにぎゅうっと力が集まるようになり、体が左手の動きとは別に、カタカタと震え出すようになる。
 左手の動きが急速に速くなる。しゅっ、しゅっ、しゅっ、だったスピードがしゅにしゅにしゅにと速くなり、先触れの液が出るころになるとしゅしゅしゅしゅ、ぐらいのスピードになる。
 そこから快感のラインが急カーブを描いて上昇し、限界点まで後一歩、というところで、右手の人差し指を肛門に突き刺す。前立腺を突き破るような真っ白な刺激が突っ走り、腰の奥からペニスの先端まで、一直線に弾丸が発射されようとする。
「んむーっ……」
 まさに射精しようとする瞬間、友菜は左手の指で作った輪で、ペニスの付け根を思いっきり締め付ける。射出の出口をふさがれた精液が暴れ、陰嚢の奥で無理な扱いをされた精嚢がびくんびくんと脈動するのが痛いほど感じられる。このまま指を離して一気に精液を打ちだせたら、というすさまじく甘美な誘惑に、友菜は気力を振り絞って耐える。ペニスは紫色になり、達したいのに達せられない苦しみを精一杯訴える。それを押さえ付ける、倒錯そのものの快感に、友菜は涙を流す。ハンカチをくわえた歯が食いしばられる。
 足の甲をそりかえらせ、無言で友菜は硬直する。ハンカチがなかったら絶叫しているに違いない、嵐のような数秒間。噴き出ようとする精液を内蔵したペニスが、その無限にも思える数秒の後に、ふっと力を抜く。友菜はどっと疲労し、全身に吹き出す汗を感じながら、弛緩して便座に体を預ける。口元が緩み、唾液でぐっしょり濡れた、歯型のついたハンカチがポトリと胸元に落ちる。
 勃起したペニスは、まだぴくん、ぴくんと震えている。それをパンティにおしこみ、スカートの乱れを直す。
 格好を整えて、友菜は便所を出た。何事もなかったかのように。
 そして放課後、陽一と会い、倉庫に入ると、待ち兼ねたように抱擁を受け、おびただしい量の精液を、床に、最近では陽一の手の中に、大きすぎる喜びとともに、噴きこぼすのだった。


 その優しげで可憐な姿からは想像もできないほど、友菜の性欲は、熱く激しかった。しかし、今までは、男と女の中間に位置する自分が、どのような形で満たされるべきなのか、自分がどんなセックスを望んでいるのか分からず、夜の自室でのオナニーのときでも、射精こそできても、いつも、ひとつまみの空しさが付きまとうのが常だった。
 しかし、陽一に抱かれて以来、友菜は自分が求めているものを知った。どういうセックスが心地よいかを知ったのだ。それが、陽一に抱かれるセックスだったのだ。
 今も、友菜は、体育倉庫の中で、陽一に抱かれていた。
「友菜……固いぞ。気持ちいいか?」
「はい……っふ、あん、せんぱい、熱い……いいです。気持ちいいです。もっとしごいて……」
 友菜は今日は、体育の体操服姿だった。木綿の柔らかいシャツと、ややサイズの小さめなブルマ。そのブルマは、パンティごと太ももの半ばまで下げられ、充血し勃起したペニスを、陽一の手に握られていた。
「手がべとべとだ……おまえ、本当にたくさん出るな」
「だって……気持ちいいから……」後ろから自分を抱き締める陽一に、肩越しに友菜は聞く。
「いやですか?」
「本当に好きなんだな。たまってるんだろ」
「せんぱいの手に……んふっ、出したくて……」
 友菜のいじらしい囁きが耳から入り、陽一の背をぞくぞくする快感となって下っていく。ジャージ姿の陽一は、ズボンをずり降ろして、固くなったペニスを、ひざの上に抱えた友菜に挿入し、動いている真っ最中だった。
 ぬるぬると蠕動する生暖かい腸壁が亀頭をくるむ快感が、こたえられない。右手で友菜のペニスをしごいてやると、友菜が「んっ」と体をびくつかせて、肛門を収縮させる。射精をこらえているのだ。左手で友菜の体を一周して彼女の柔らかな右腕をつかみ、唇を重ね合わせて唾液をすすり飲む。右手で友菜のペニスを絞り立ててやるのは、自分のペニスの延長をしごいているようで、オナニーをしているような、セックスをしているような、不思議な心地よさだった。
 汗ばんだ鼻の頭が、お互いに触れる。キスしながら薄目を開けると、ピンクに染まった友菜の顔が、至近距離で陽一を求めている。その肌は限りなく滑らかで、染みひとつない。同性のはずなのになぜここまで違うんだろう、そういえば体臭も、と友菜の体の甘い香りを嗅ぎながら、陽一は思う。
「くんん……せんぱいっ、いきそうですっ」
 切羽詰まった声で友菜は叫び、尻の下の陽一の太ももにギュッと指を立てた。陽一がこすり上げるのに合わせて、肛門を引き締め、少しでも射精を延ばして快感を高めようとするが、ペニスを貫いて吹き出そうとする精液の圧力は、秒刻みで高まっていく。
「出る……出ちゃうっ!」
「まだっ……まだだ、友菜」
 射精を我慢する友菜の頑張りが、ペニスをくるむ括約筋の動きで痛いほど分かる。もう何秒ももたない、それを承知で、陽一は友菜のペニスをギュッと握り締め、射精を妨げた。とたんに陽一のペニスの裏筋にあたっているこりこりした前立腺がぴくんと震えて、最初の一筋を放とうとしたのが分かった。
「まだだっ!」
「ダメッ、ダメーッ、出ちゃううンッ、出させてえッ!」
 昼に一度、オナニーの最後で精液を押し戻したせいで、ずっと前立腺が膨らんでいる感じだった。そこへ陽一の挿入を受けたせいで、突き上げのほとんど一回一回で、射精してしまうのを耐えなければならなかった。限界も近くなっていたその状態で、もう一度、破裂しそうな精嚢に精液を押し戻されるのは、ほとんど拷問に等しかった。泣き叫ぶようにして体を動かし、ペニスを縛る陽一の指を振りほどこうとする。その頂点で、とうとう友菜の快感の線がぷつりと切れた。おさえつける陽一の手の中で、びくんと友菜の体が硬直し、肛門がきゅーっと締まる。精液が出せないまま、絶頂に突入したのだ。
 大きく口を開け放って、無言の叫びを上げる。
「まだ出すな!」
 びくびくと脈動してちょっとでもゆるめれば暴発するペニスをつかんだまましごき、硬直仕切った友菜の体を力いっぱい抱き締めて、陽一は自分のペニスを繰り返し突き上げた。友菜が射精を我慢しようとして肛門にくわえる猛烈な圧力を感じながら、それに負けない固さのペニスを硬直した直腸の中で無理やり動かす。その動きは、直接前立腺を刺激し、友菜を、生まれて初めての異常な状態に陥らせた。――いつもなら一瞬で終わる絶頂が、長く長く引き伸ばされた状態。
 陽一に突き上げられて達した苦しいホワイトノイズが、もう十秒以上、友菜の中で続いていた。意識が真っ白に中断している。その中で、肛門を上下する陽一のペニスの感覚だけは、針のように鋭く友菜の意識を犯し続けていた。全身を固く引き絞ったままの友菜の口から、だらっと唾液が糸を引いて、肩に落ちた。
「ううっ、行く、行くぞっ、友菜ッ!」
 ふっと圧力がゆるめられると同時に、猛烈な動きがペニスを襲った。同時に、腹の内部で、陽一のペニスがどくんどくんと脈動しながら精液を噴きこぼしたのが分かった。
「はああんッッ!」
 呪縛が解けた。それまでの絶頂を突き破って、友菜ははじけた。高めに高められた股間の圧力が、陽一の猛烈な手の動きと肛門の突き上げにあって、一気にほとばしった。もう妨げるものはなかった。陽一の手の暖かみを感じながら、友菜は思い切り、放尿のような勢いで精液を打ち出した。
 びゅるっ、びゅるるるるっ!
 亀頭に当てられた陽一の左手はあっというまにあふれ、しごく右手にもかかってぐちゃぐちゃになった。精液は止まらず、十数回連続で陽一の手の中に飛び出て、手を汚し、友菜の股間を汚して、その下のマットにぼたぼたとしたたった。後から後から吹き出す精液を、友菜は無限の解放感と喜びの中で、放出し続けていた。

 国城家、つまり陽一の家に、友菜はお邪魔していた。
「へええ……」
 座布団に正座して、部屋の中を眺め回す。壁には、ひざを擦りそうなほど深い角度でバンク中のプロライダーのポスター、一つきりの本棚には、漫画と雑誌とみやげものらしい細々した民芸品が無造作に並べられ、ベッドと机には洗濯した服や教科書や本がごちゃまぜに置かれていて、境界がよく分からない。散らかってるけど、という陽一の言葉は、あながちウソでもなかった。
 テレビの台の下に飴色の瓶を見つけて、友菜はひざだちで近寄った。手にとって、見てみる。スコッチだった。ほとんど残っていない。
 戻そうとすると、その奥に、タバコと灰皿があるのも見つけた。
 男の子の部屋だなあ、と友菜は思う。自分の部屋と全然違う。
 でも、共通点もないことはない。それは――ちらっと、友菜はベッドのそばに置かれているゴミ箱に目をやった。顔を寄せるまでもない。部屋全体に漂う、男臭い匂いの元が、そこにあるはずだった。――想像するうち我慢できなくなって、友菜は周りをきょろきょろ見回してから、そのゴミ箱をのぞき込んだ。
 あった。変色したくしゃくしゃのティッシュ。ツンと鼻をつく匂いは、まぎれもなく、もうおなじみになった陽一の精液の匂いだった。
 胸が激しくどきどき鳴っている。自分の変態的な行為に興奮して顔を赤らめながら、友菜はそれをゴミ箱からつまみ出そうとした。
 その時、突然後ろから声をかけられた。
「こんにちわー」
 どきーん、と心臓が口から飛び出すほど驚いてから、友菜はあわてて手を引っ込めて、後ろを振り返った。部屋の入り口から、中学生ぐらいのおさげ髪のかわいらしい女の子が、のぞき込んでいた。
「こ、こんにちわ」
「うわ、美人」小さくつぶやいてから、その女の子はこう言った。
「わたし、よう兄の妹の、あきひこって言います。明るい日の子って書いて、明日子」
 ぺこっとおじきをしてから、
「友菜さん、よう兄から聞いてます。よろしく」
「あ、こちらこそ……」
 友菜が思わずお辞儀を返すと、明日子の後ろから、さらに二つばかり、ぴょこぴょこっと頭がのぞいた。
「ねえ、あたしにもみせてよう」「ばか、あんたは引っ込んでなさい!」「えーっ? お姉ばっかりずるい!」
「あ、あの……」
「こんちわーっ! あたし光絵っていいます。光の絵って書くんだよ。かっこいいでしょ?」
「あたしあたし、美輝っていいます、びじんのびに、かがやくです」
「はあ……」
 もつれ合うようにして部屋の中に倒れて来た、明日子、光絵、美輝の三人姉妹を見て、友菜はくすっと笑った。
「三池友菜です。よろしく」
「あーっ、なにしてんだおまえら!」
「うわ、やば」「あきねえ、逃げなきゃ」
「あーっ、おにいだ!」
 一番下の、まだ小学2年生ぐらいに見える美輝が、一人あわてることもなく、階段を上って来た陽一に叫んだ。
「ねえ、あのひと、おにいのかのじょなの?」
「かんけーねーだろ、とっとと下に行け下に!」
「えーっ?」
 三人そろって姉妹がぶんむくれたとき、美輝の頭を、友菜がやさしくなでた。
「美輝ちゃんっていうの? わたし、お兄ちゃんの彼女に見える?」
 友菜の顔をじっと見上げて、美輝はこくんとうなずいた。
「みえる」
「先輩?」
 にっこり笑って友菜は陽一の顔を見上げた。陽一は、ぼりぼり頭をかいてから、あさってのほうを向いて言った。
「あー……そうだよ! 彼女だよ!」
「わーっ!」
 それを聞くと、きゃあきゃあ笑いながら、三姉妹は階段を駆け降りて行った。その後から、陽一が「階段で走んじゃねー!」と叫んだ。
 居間に入ると、明日子が楽しそうに叫んだ。
「美人だったねー」
「おにいにはもったいないよね」
 光絵がうなずく。
「優しそうだったしね」
「ちょっとやけちゃったな。似合うし」
「あのねのね、あの人、おんなじにおいがしたよ」
「え?」
 美輝の言葉に、上の二人は聞き返した。
「なにそれ」
「うん、お兄ちゃんとおんなじにおいが、あの人したの」
「……どゆこと、それ?」 
「わかんないけど……」美輝は、首をひねりながら言った。「あたし、あのにおいすきだもん。だから、あの人も好き」
 明日子と光絵は、顔を見合わせた。

「ったく……」
 部屋に入って扉を閉めると、陽一は友菜の向かいに座って、お茶を差し出しながらぼそっと言った。
「後でぎゃあぎゃあ言われるよ。考えただけで気が滅入るぜ」
「教えてあげればいいじゃないですか。ゆっくり」
「ってもなあ、ボロが出ても困るし……」
 陽一は、あらためて友菜の姿をまじまじと見た。――可愛い。
 猫のようだ。いくら見ても見飽きぬ、不思議な魅力がある。
「? なんですか、せんぱい」
 少し照れたように、友菜が首をかしげた。その様子に激しくそそられて襲いかかりそうになり、陽一は危うく自制した。――妹たちに聞かれたら何を言われるか分かったものではない。
 つと立って、友菜の隣に座る。当然のように軽くもたれてくる。その重さと髪の匂いを心地よく感じながら、陽一は聞いた。
「なあ、おまえんちってどんなふうだ?」
「わたしのうちですか」頭を上げて、友菜は言った。「なんにもありませんけど……こんど、来てくれます?」
「ああ」
「……待ってます」
 言ってニコッと笑った顔がまた、寒気がするほど愛らしい。押し倒したい、抱き締めたい――膨らむ欲望を、陽一は頭の中に三次方程式を浮かべて、必死に気をそらした。
 先輩、我慢してる……。
 友菜には、陽一の心理状態が、手に取るように分かる。彼の顔や、仕草にそれが如実に現れているからだが、それよりも、友菜自身がそうだったから。
 自分が陽一の欲望を激しくあおっているように、友菜の性欲も、また熱くかき立てられていた。肩に触れる陽一の体温や体臭が、いとおしくてたまらない。笑顔を浮かべてこそいるものの、体は火照り、下着の中は、細身のペニスがぴくぴくと動き、固くなり出そうとしている。 
 わたしたち、変なのかなあ……。
 これほどまでに肉欲に突き動かされやすい自分たちが、少し恥ずかしい。学校でほかのカップルを見ていても、自分たちほどするのが好きな二人は、いないようだ。
 じっと陽一の顔を見ていた友菜は、ぽそっと言った。
「せんぱい……キスしたい」
「あ?」
「キス、してもいい?」
「だめだ」
 思わぬ返事に、友菜は少し驚いた。
「どうして?」
「そんなことしたら……俺、この場でおまえをめちゃくちゃにしちまう。自分を抑える自信がねーんだよ」
 少し赤くなって言った陽一に、友菜はくすっと笑った。
「わたしもです。せんぱいに……」耳に唇を寄せて、ささやく。「今この場で、犯してほしい」
「とっ、とっ……」
 がばっと顔を押さえて、陽一が絞り出すように言った。
「……やめろバカ、少しは場所を考えろ」
「せんぱい、わたし」いっそう小さな声で、友菜は言った。「いつでも、どこでも、せんぱいになら抱かれてあげます」
「……くーっ!」
 うめいた陽一が、がばっと友菜をベッドに押し倒した。真っ赤な顔をして、目を固くとじている。
 陽一の激情が、心地よい。身を任せながら、友菜は優しく言った。
「気づいてる? せんぱい。わたしも今、ものすごく固くなっちゃってるの」
「友菜……!」
 抱きつぶすつもりのような強烈な抱擁が襲いかかってきた。唇がふさがれ、熱い呼気が送り込まれる。太ももにこすりつけられるズボンの中の固い性器の感触が、友菜の背筋にしびれるような感動を走らせた。
「待ってせんぱい……なめてあげる」
 友菜の言葉に、陽一の腕がゆるむ。身を起こし、体勢を変えると、友菜は横になった陽一の股間に顔を寄せ、性器を取り出して口にふくんだ。

「うわー、うわー、うわー」
「光絵ねえちゃん、かたくなるってなに?」
「黙って見てるの!」
 下の二人が小声で言い合っているのを聞きながら、明日子は食い入るように扉のすき間から見える室内の光景を見つめていた。オナニーの経験のある明日子には、固くなる、の意味はちゃんと分かっている。あそこのお豆がこりこりすることだ。兄とその彼女のラブシーンを見つめる明日子のあそこも、熱くなってきていた。
「明ねえ、あのひと清純そうなのにすっごいことするね」
「う、うん、そーだね」
「わー、よう兄おっきー」
 じっと見ているうちに、息が荒くなって来ていた。二年生の美輝はなにもわからず騒いでいるだけのようだが、五年生の光絵は聞きかじりでセックスを知っているようだ。頬が上気して、ひざをもじもじさせている。
「みつ、あんた……」明日子は、左手を伸ばして妹のワンピースの上から股間に触れた。
「ここ、もぞもぞしない?」
「あっ……」
 ため息のような小さな声を、光絵があげた。いつもならなにすんの、と振り払うところだが、今日は違った。
「……うん、変な感じ」
「ね、触ってほしい?」
「……うん」
 手の甲をこすりつけると、うっとりとした顔で、息を荒げている。ベッドの上で進行する大人の性戯と、妹の幼い感じ方に刺激されて、明日子の中の胸がざわざわするような感じも大きくなって行った。光絵の手を引き寄せて、自分のスカートの中に導く。
「あたしも、お願い……」
「うん。ねえ、あたしも、中さわって……」
 扉の隙間をのぞきながら、姉二人が互いの股間を愛撫し始めるのを見て、末っ子の美輝はしばらく不思議そうな顔をしていたが、じきにそれをまねし始めた。プリントのパンツのなかに指を突っ込んで、花びらをこすり始める。
「あ、これきもちー……」
「やだ、あんたも感じるの?」
 驚いて言った明日子に、とろんとした目で光絵が聞いた。
「おねえ、これ、感じるっていうやつなの?」
「そうだよ。……んっ、そこがいい」
「ん、あたしも……」
 部屋の中からは、友菜のフェラチオの音が、くちゅくちゅと漏れて来ている。やがてそれに、いくつかのよく似た音が交ざり出した。自分のあそこ、光絵のあそこが同じように湿って来たのを感じていた明日子は、うっすらと開いた目で、パンツを下ろしてあそこをさらした美輝が、幼いほおをピンクに染めてかわいらしく鼻息を漏らしているのを見た。
「ぷちゅぷちゅしてきもちー……ああん、お姉ちゃん、なんか、なんかあたし、変なふうになる……」
 紅葉のような小さな指をきゅっとあそこに食い込ませた美輝が、びくっと体を引きつらせた。それを横目に見ながら、明日子も光絵の愛撫に体を溶かされていた。
「みつ、もっと強く……」「おねえ、あたしも。あたしもーっ……」
 立てひざをしていられなくなって、明日子は妹の体にしがみついた。同じように三つ年下の妹もしがみついてくる。背中に爪が立てられ、妹の体が硬直した。
「くーんっ……」
 すでに湿っていた妹のパンツが、一気にじゅわっと暖かくなった。自分のあそこをまさぐっていた妹の指がきゅっと食い込んでくる。まばらに発毛し始めていた性器の中の、一番感じるスポットにちょうどその指先が食い込んできた。その瞬間、明日子の頭の中にも、白い火花が爆発した。
「いっ……ちゃ……」
 オナニーのときよりはるかに激しい快感が爆発して、明日子はぐっと歯をかみしめながら絶頂に達した。
 同時に、部屋の中での二人の愛戯も最高潮を迎えていた。
「友菜……っ」
 陽一のペニスから精液が放出された。友菜は舌の先でそれを優しく受けとめながら、スカートの中で動かしていた自分の手のひらの中に、自らの精液をも噴きこぼした。

 ベッドに横たわって陽一がぐったりしていると、かさかさと音が聞こえた。顔を上げると、友菜がティッシュを取って口元に押し付けていた。何かを吐き出してから、そっとそれをスカートのポケットに入れる。
 いたずら心を起こして、陽一は聞いた。
「飲んでくれないのか?」
「え?」
 はっと友菜が顔を上げる。見られた、という狼狽があった。
「せ、せんぱい……」
「いやなら別にいいけどな」
「いやじゃないです! せんぱいのだったら、わたし……」
「無理するなよ、ほら、ゴミ箱に捨てに行け」
 陽一がそういうと、友菜はなぜか顔をうつむけて、伏目がちになった。大事なものが入っているようにポケットを押さえる。
「ポケットの中、汚れちまうぞ」
「……いいんです」
 友菜は顔を上げ、どこか異常な感じのする熱っぽいまなざしで陽一を見つめた。
「持って、帰りたいの」
「え?」
「持って帰って、また味わいたいんです。せんぱいの、匂い。……いま飲んじゃったら、今日の夜、また寂しくてたまらなくなっちゃう……」
「友菜……」
 唖然として陽一は恋人を見つめた。泣き笑いのような顔で、友菜はかたかた震えている。
「変ですよね、わたし、変なんです。せんぱいのこと、一秒でも忘れたくないの。ずっとせんぱいにそばにいてほしい。別れたくない」
 友菜は、目尻をぬぐって無理やり笑った。
「あは、これじゃストーカーですよね。偽物の女の子でストーカーなんて……せんぱい、ぞっとしますよね」
「おい」
 陽一は腕を伸ばして、友菜の体をベッドに引きずり上げた。硬くなった友菜の体を無理やり広げて、スカートの中の足の間に手を入れる。
「せ……んぱい?」
「おまえもぐしょぐしょじゃないか。ちょっと待て」
 陽一は友菜の体を腕の中に抱えこむと、ティッシュを取って、彼女の下着の中に手を入れた。一枚では足りず、何枚も使って、彼女が漏らした精液をふき取っていく。
 友菜の体から、力が抜けた。
「せんぱい……」
「あのな、別におれもこれ取っといてあとで匂い嗅ぐなんてこと、するわけじゃないからな」
 苦笑気味に言って、陽一はティッシュをゴミ箱に放りこんだ。
「ただな、おれはおまえのことストーカーなんて思わないし、性別のことも気にしてない。だから、あんまり怖がるなよ。嫌いになんかならないから」
「……はい」
 嬉しそうにうなずいて、友菜は頭を陽一の肩に預けた。

 陽一は彼女の頭をしばらくなでていたが、やがて気がかりそうに言った。
「今まで聞かなかったけど、おまえ、どうしてそんな格好してるんだ?」
「わたしですか?」
 顔を上げた友菜のあごに、陽一は手を当てる。
「おまえだって、もう二次性徴来てもおかしくない年頃だよな。なのに、ひげも生えてないし声も高いままだし……」
「ちょっと変な話なんですけど……うちの一家って、特別みたいなんです」
「特別?」
「はい」
 友菜はうなずき、唐突に妙なことを言った。
「クマノミって知ってますか?」
「……クマノミ?」
「魚です。八センチぐらいで、オレンジと黒と白のしまのある、かわいい魚。イソギンチャクと共生するって話、聞いたことないですか」
「……ああ、そう言えばテレビで見たことある」
「そのクマノミに似てるみたいなんです。わたしたち」
「……はあ?」
 首をかしげた陽一に、友菜は説明した。
「クマノミって、共生することの他に、もうひとつ特徴があって有名なんです」
「どんな」
「性転換です。――クマノミには夫婦があって、すごく仲がいいんですけど、何かの事故で雌がいなくなっちゃうと、雄が性転換して、他の雄とつがうんですよね。雄性先熟っていうらしいです。うちの血筋にも、そんな特徴があるみたい」
「へえ?」
「わたしのお母さん、昔は男だったんだって」
 ぽかんと陽一は口をあけた。友菜は困ったように笑う。
「やっぱり、信じられませんよね」
「いや……」
「わたしも最初に聞いたときは冗談だと思ったんですけど、自分が大きくなって、信じられるようになりました。――中学になっても全然体がごつくならないから、お医者さんで調べてもらったんです。そしたら、テストステロンっていう男性ホルモンが全然出てないって」
「それ……単に遅れてるだけじゃないのか?」
「違うんです。ちゃんと、せい――」
 そこで少し顔を赤らめ、
「精液はできてますから。なのにホルモンが含まれていないって。お医者さん、不思議がってました」
「それじゃ、おまえはずっとこのままってことか?」
「多分……いえ、逆です。そのうち女になっちゃうかも」
「なんで」
「せんぱいを見つけたから」
 友菜ははにかむように笑った。
「ペアになってくれる相手を見つけたから。わかるんです。せんぱいに抱かれてると、ああこの人だって、思うから……」
「……ひょっとしてそれ、プロポーズか」
 途端に友菜は真っ赤になってうつむいた。ばれちゃったばれちゃったと小声でつぶやく。
「……だめですか?」
 友菜が見上げる。白い肌が、桜の花を散らしたように美しく紅潮している。
 そんな友菜の哀願をもっと聞きたくて、陽一はわざとらしく顔を背けた。
「なんだ、単にホルモンがおかしいせいでおれにくっついてるだけか」
「ち、違います違います! そんなことに関係なく、わたしはせんぱいを好きなんです!」
「ほんとか?」
「ほんとです! 好きったら好きです!」
 わめいた友菜は、陽一が笑い出しているのに気づいた。耳たぶの先まで赤くなって陽一を叩く。
「せんぱい……からかってるんですか!」
「当たり前だろ、いちいち聞かなくってもわかってるよ。おまえにはおれしかいないんだって」
 そう言うと、陽一は友菜の耳のそばでそっけなくささやいた。
「おれにも、おまえしかいない」
「……せ、せんぱい!」
 友菜は目を見開いて驚いてから、力いっぱい陽一に抱きついた。
「ありがとうございます!」

「それじゃ」
「ああ」
 玄関で二人が別れの言葉を交わしていると、奥からだだだだーっと三人姉妹が走り出してきた。陽一が避ける間もなく、明日子が左手に、光絵が右手にしがみつき、美輝がんしょんしょと背中をよじ登って、首にぶら下がってしまった。
「な、なんだおまえら」
「だって陽にい、友菜さんとラブラブすぎるもん!」
 三人の視線が友菜に突き刺さる。はは、と笑って友菜は手を振った。
「そんな、ラブラブって……」
「あたしたちだって陽にい好きだもん!」
「なんなんだ一体……」
 妹たちの顔を見まわした陽一は、三人が妙にぽーっと上気した顔をしているのに気づいた。その理由まではわからない。
「ね、陽にい、今日お風呂いっしょにはいろ!」
「夜一緒に寝て! 寒そうだもん!」
「おいしゃさんごっこ〜」
 なんだなんだとつぶやいてから、陽一は両腕を振りまわした。高校生の腕力にはかなわない。ぽんぽんぽん、とひっぺがされた三人が廊下に重なる。
「悪いけどな、予定がある」
「予定ってなに!」
「こいつ、送ってくるから」
 言うが早いか、陽一はスニーカーを突っかけて、友菜と一緒に玄関から飛び出した。「あーっ、逃げた!」と叫ぶ妹たちの前で、ドアを閉める。
「いいんですか?」
「仕方ないだろ、あいつら今日はおかしいよ。予定外だったけど、今から行っていいか?」
 そう言ってから、陽一は付け足した。
「なんなら、泊めてもらうか」
「――はいはいはい、いいです! 何がなんでもいいです!」
 即座に友菜はわめきたてて、陽一の腕を引っ張ったのだった。



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