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雨の魔法と太陽娘

 雫が、けふっと小さなせきをしたので、佐久也はパンツから頭を少し浮かせた。
 佐久也は床に足を伸ばしてソファにもたれている。ソファにはミニスカートを履いた雫が座っている。かなり大きく開かれた雫の股の間に、佐久也の頭がある。――つまり佐久也は、雫の股間に後頭部を押し付けていた。
 二人はテレビゲームをしていた。二メートル前方の画面で、3Dの剣術家が美少女のくのいちをザクザクと刻んでいる。二人ともじっとそれを見ている。
 リビングは暗い。光は画面から放たれるものだけ。時刻は午後六時半。親たちは仕事。
 外は雨。……六月の、家中を湿気に浸すようなうっとうしい雨。
 せきをした雫が腰を動かした。合成レザーのソファに彼女の太腿がこすれてキュキュッと鳴った。佐久也はさらにもう少し、頭を前に出す。
 わずかにうろたえながら。嫌がられたかな、と。
 しかし雫は嫌がったのではなかった。
 佐久也の両耳を、汗ばんだ熱い内股がぴったりと挟んだ。後頭部に押し付けられる柔らかいもの。かすかに尿のにおい。
 雫は身を乗り出し、画面をよく見るためにはそうしなきゃだめだというように、うつむき加減になっていた。
 股間をはっきりと佐久也の後頭部に押し付けて。
 佐久也の鼓動が速まる。確かめたいと思う。ぼんのくぼに力を入れて、洗いっぱなしでばさばさ髪の頭を、くくっと後ろに擦り付けた。
 応えは肯定だった。腰全体をひねるような雫の動き。木綿の中で潰れたぽってりしたひだの形を、佐久也ははっきりと感じた。
 そこから始まった。声に出さず、触れ合うだけのいたずらが。
 しとしとという雨の音、音量を絞ったゲームのBGMの中で、雫が言う。
「さっくん、ハメ技ずるい」
 機械的に指先を動かして、日本刀をめまぐるしく振り回しながら、佐久也が答える。
「しずがイヤならやめれば? おれ、もうちょっとやる」
「……うん、付き合う」
 二人の指と、スカートの中だけが動いている。

 霧原佐久也は十四歳で、十一歳の霧原雫と同居している。
 兄妹ではない。二人の父が兄弟である。つまりいとこだ。
 両霧原家は仲がよくて、同じ町に、一駅離れた家があった。
 先月、雫の霧原家が自宅の建て替えを始めた。工期は一ヵ月半。その間は家に住めない。
 そこで、一家三人で佐久也の家にやってきた。一ヵ月半の居候だ。
 雫がここにいるのは、そういうわけだった。
 ただ、理由はそれだけではない。
 学校から遠くなってしまって、遊び友達と会えないから。
 小さい頃から佐久也と仲がよかったから。
 そして、うっとうしい梅雨が降り続いているからだった。

 雫は五年生だ。本人は身長百三十九センチ、体重三十一キロだと言っている。それが本当かどうか佐久也は知らない。ただ、ちょうど自分のあごまでの背丈で、後ろからぐいっと抱き上げたときに軽く感じてしまうほどの重さだということは知っている。
 やんちゃというほどではないが、かなり明るくて元気な性格だ。アスレチックが好き。かけっこは速い。でもボール投げは下手。体育少女と呼ぶには今ひとつ、という感じか。
 ズボンが嫌いで、いつもスカート姿。最近、暑くなってからはミニスカート一本槍。それにタンクトップやTシャツ、肩むき出しのベアトップなど着ている。こだわりでもあるのか、色ははっきりとした原色系が多い。今日はブランドロゴ入りの真っ青なTシャツと、ポリエステルのつやつやした白のミニ。それと、レースの縁取りのついたくるぶしまでのソックスという服装。
 髪は多い。ふんわりした髪質で、そのままだとうっとうしいほど多い。だから頭の左右でしばっている。これは雫のトレードマークみたいなもので、佐久也が駅などで探すとき、すぐ見つかるのでありがたい。動くたびにそれがひょんひょん揺れるので、実際以上に大げさな動きに見える。
 そして顔はといえば、とても可愛かった。それこそ同級生が何人いても、ぱっとみわけられるほど。あ、なんだか目立つ顔立ちの子がいるなと思うと、それがたいてい雫なのだ。くっきりした眉、少し吊りあがった切れ長の目と、つやが浮いて見えるほど滑らかな肌が、涼しげで清潔な雰囲気を作り出している。
 ただ、それやこれやの細かい特徴を、佐久也は今まであまり意識していなかった。ただなんとなく、町で見かける女性たちや同じ中学の女子に比べて、余計なものがないすっきりした感じの女の子だなと思っていただけである。
 しかし、それも雫がうちに来るまでの話だった。
 いま佐久也は、ゲームに集中しているふりをしながら、頭が沸騰するほどの興奮を雫に感じていた。
 二人ともずっとコントローラーを握り続けている。キャラも動かしている。だが、雫がはっきり押し付け始めてから二十分ほどたつと、もうどちらもゲームどころではなくなっていた。
 雫は両足を佐久也の肩にかけて、肩車のように首筋をまたいでしまっている。佐久也が首の筋肉を動かす都度、ぴくっ、ぴくっ、と太腿の肌を震わせる。じっとり熱い股間の部分は、なんだかじわじわと液体が染み出ているような気もする。頬にぴたぴたと内ももが当たる。
 最初は、悪ふざけというほどでもない行為だった。寝転がってゲームをしていた佐久也が、画面見にくいなあ、と言って雫の足の間にもたれただけである。数回対戦するうちに首が疲れて、つい後ろに倒したら、ぽてんと雫の股間に当たってしまった。
 雫は何も言わなかった。だから佐久也はそのままパンツを枕にし続けた。
 それから何度か身動きがあって、今では――
 佐久也は強くなる一方の鼻息を懸命に抑え、雫は雫で、霧になりそうな湿った息をはーっ、はーっと繰り返しているのだった。
 百何十度目か、佐久也はくのいちにとどめを差した。それから盛り上がったズボンの上の腹にコントローラーを置いて、そっと顔を横に向けた。
 青い血管の透けたミルク色の肌がある。ふらふらと――もうなにも考えられない状態で、そこに唇を押し付けた。
 たとえようもない弾力があった。蜂蜜に惹かれる熊のように、佐久也は何度も、ん、ん、と唇を押し付けた。
 雫は身動きしなかった。カチャカチャとボタンを押してキャラを選択し、つま先を伸ばして佐久也のスタートボタンを押し、また対戦を始めた。
 佐久也は目を閉じて雫の内腿を吸う。雫は伏せた眼差しで画面を見つめ、動かない剣術家に手裏剣を浴びせまくる。
 それが終わると、雫もコントローラーを下げた。佐久也の頭にぽすっとそれが乗る。
 んくっと一つ唾を飲んで、雫がつぶやいた。
「さっくん、えろいよ」
「……いや?」
「別に……」
 佐久也は不思議な気分になった。この従妹とは子犬がじゃれるようなふざけ合いしかしたことがない。雫がこんなに低い声を出すなんて知らなかった。
 雫がゆっくりと体を伏せ、佐久也の髪をぎゅっとつかんだ。体がふるふると震えていた。首に当たる股間が、感じ取れるぐらいぴくぴくと痙攣していた。
 佐久也は股間が痛くて、触れようかどうしようか迷っていた。性器が変な角度でめちゃくちゃに勃起してしまって、ズボンに圧迫されているのだ。
 今すぐにでも、オナニーしたかった。
 それに、もっと雫の体に触りたかった。
 特に、いま首に触れているパンツのそこを、どうにしたかった。
 ――ただ、雫の顔だけは絶対に見たくなかった。見た途端、この奇跡が終わってしまいそうだったから。
 体ごと振り向いて、ミニスカートに頭を突っ込もうとした。あっ、と雫が恥ずかしげに甲高い声を上げた。
 その時、玄関でガチャガチャと鍵の音がした。ドアがバタンと開いて部屋の空気が動く。
「ただいまあ。ほんとにしつこいわね、この雨。佐久也、タオルーっ」
「おかえりっ!」
 雫が電光石火の勢いで佐久也を突き放し、飛んでいった。佐久也はレザーのソファに顔を突っ込んでしまい、しばらくぼんやりしていた。
 それからあわててトイレへ走った。――トランクスの中が漏れた汁でべとべとだった。

 最初に帰ってきた佐久也の母親に続いて、父親と、雫の両親も帰ってきた。夕飯は計六人のにぎやかなものだった。
 雫は天ぷらを初めて揚げて、得意げに出した。おじさんどーお? パパもママも食べてねっ! と嬉しそうに笑い、佐久也にも明るい瞳を向けた。つい一時間ほど前の、薄暗いような様子はどこにもなかった。
 佐久也も合わせた。キスの天ぷらを食べて、うーん八十点、もうちょっとカリカリにな、と言った。うるさい初めてなんだからおまけしてよ! と雫は佐久也の背を叩いた。
 それを見ていた雫の父が、楽しそうに言った。
「仲いいな、雫。佐久也くんのことは好きか?」
「好きだよ?」
 何を今さら、という感じで平然と雫は言う。
「あたし、年上好みだもん。さっくんは優しいし、だい好きー♪」
「佐久也くんは? こんなうるさい子が転がり込んできて、迷惑じゃない?」
「迷惑じゃないですよ」
 はしゃぐ雫にちらりと目をやってから、佐久也はうなずいた。
「しずのことは好きだから。ずっといたら?」
「んー、考えとく」
 ませた調子でおとがいに指を当てて、雫が首をひねる。テーブルに笑いが起こった。
 その笑いが収まらないうちに、雫の母が言った。
「しず、それなら佐久也くんのお嫁さんになったら?」
 うぶ、と音がしたのは雫がのどにジャガイモを詰まらせたからである。どんどん胸を叩いてウーロン茶を飲んでから、いとこじゃん! と大声を上げる。
 母親は隣の父親と目配せして、優しい笑顔でうなずいた。
「いとこだからいいんじゃない。気が合うわよ」
「うん、お互いよく知ってるからな。ママはパパのベストパートナーだよ」
 雫はきょとんとした顔で両親を見た。佐久也も似たような顔で見た。
「あれ……そうだっけ?」
「そうよ。私たちいとこ同士よ?」
「パパたちだけじゃないよ。なあ、兄さん?」
「うむ」
 一番寡黙な佐久也の父が、白飯をさらさらかき込みながらうなずいた。
「どこからも文句の出ん、いい組み合わせだ。……うちの馬鹿息子が雫ちゃんに釣りあうなら、だが」
 佐久也は身を硬くして味噌汁を覗いていた。隣を見られなかった。雫の視線を痛いほど感じたから。
 一気に味噌汁を飲み干して言う。
「ふざけたこと言うの、やめてよ。まだ全然早いだろ」
「許婚って手もあるわよ?」
 佐久也の母がからかうように言った。

 その晩、自室に入った佐久也は、同じ部屋で寝るはずの雫が風呂から戻ってくる前に、引き出しの底から出したグラビア雑誌を開いて、しゃにむにオナニーしようとした。
 射精するどころか、勃起さえしなかった。
 一冊ページをめくり終わってしまってから、ため息をついて本を隠した。胸の中でもやもやと渦巻く思いをどうしたらいいかと考えたとき、ベッドの横の布団にきちんと畳んであった雫のTシャツが目に入った。
 恐る恐る手にとって、顔に当てた。――ふわりと甘い香りがした。雫はあまり着替えを持ってきていなくて、服を回し着していた。Tシャツも一昨日脱いだものだ。
 すうっと頭が白くなって、跳ね上がるように性器が硬くなった。
 Tシャツをかいだままベッドに倒れこみ、ティッシュを当てるのももどかしく右手を猛烈に動かした。ものの数十秒で耐えられなくなり、びくんびくんと両足を引きつらせて佐久也は射精した。
 指がどっぷり濡れるほど出た。
 落ち着くと、いささかあわてて指を拭き、Tシャツを丁寧に戻した。それから毛布をかぶって電気を消した。ほっとしていた。――あんな気持ちのところに雫が戻ってきたら、何をするかわからなかったから。
 しばらくして雫が戻ってきた。
「さっくん……もう寝ちゃった?」
 部屋に入り、毛布をかぶる気配がした。寝付く寸前、雫の声が聞こえてどきりとした。
「なんだろ……なんか、いい匂いがする」
 動けなかった。ちょっとでも動けばばれてしまいそうな気がした。

 雫にとっても、その日からの成り行きはちょっと戸惑うようなものだった。
 梅雨。外で遊んだり町に出るには不向きな天気。学校が終わると電車に乗り、少し離れた仮の家に戻るしかない。
 四時過ぎに着き、しばらくすると佐久也も帰ってくる。佐久也は中学二年生だが、クラブ活動をしていない。六時間目のある火曜と金曜以外はまっすぐ帰ってくる。
 玄関のドアが開いて、キシキシと廊下が鳴る。親たちより軽くてしっかりした佐久也の足音は、もう家のどこにいてもわかる。
 テレビを見ていた雫が振り向くと、リビングの外の廊下で、夏服の佐久也がいったん立ち止まる。
「おかえりー」
「ただーま」
 面倒くさそうに片手を挙げて、二階の自室へ去っていく。雫は胸に温かいものが生まれたように感じる。佐久也の仕草が好きだ。その気になればとてもきびきび動けるのに、普段はのっそりしているところ。友達の家で見た、しつけのいい猟犬を連想する。ゴールデンレトリバー、とかいったかな。
 雫は急いでゲームの準備をする。佐久也が来てくれることはわかっている。
 しばらくすると、だぼだぼのTシャツと洗いざらしのコットンのカーゴパンツに着替えた佐久也が階段を下りてきて、ダイニングに入る。冷蔵庫をあさってウーロン茶のペットボトルを取り出し、リビングへ来る。そしてソファの雫の隣か、ソファの前のどちらかに、どっかりと腰を下ろす。
 今日は雫の隣だった。引き締まった腕が雫の二の腕に触れた。
 ちらりと顔を見る。――佐久也は今風に髪をつんつん逆立てるつもりで少し伸ばしているが、変に固めたりせずにほったらかしている今の髪型がいいと雫は思う。顔立ちは、目が細くて優しい。かっこいい。しかしこれは雫のひいき目で、特徴がなくておとなしい佐久也の顔が、彼女には整って見えるだけである。
「しず」
「んっ?」
 佐久也がこちらを見る。反射的に雫は、ぱっと笑顔を作ってしまう。
「今日も対戦?」
「うん。やろうよ」
「しゃーねーなー」
 コントローラーを持つ。キャラ選択。ファイッ! 剣術家とくのいちが動き始める。
 肌に触れた佐久也の腕がぐいぐいと動く。ソファから押し出そうとしているような動き。押し返してるんだもん、と自分に言いわけしながら、雫も負けずに腕を押し付ける。
 昨日のことは、正直に言うと焦った。人に言えないことをしてる、という怖さがあった。
 でも、どきどきした。気持ちよかった。もしできるなら、もう一度したいとも思った。
 心配なのは佐久也の気持ちだった。雫はまだエッチなことをよくしらない。キスしたり裸になることは、恥ずかしすぎて無理だと思う。
 合わせてくれるといいんだけど。
 七、八回対戦すると、佐久也のほうから始めてくれた。
 雫が五連敗したのを見て、ちぇっ、よえーなと言い、突然ソファに立ち上がって、するりと雫の後ろに滑り込んできたのだ。
 佐久也の大きな――雫よりは――胸が、腕が、足が、すっぽりと雫を包む。ひゅ、と雫は息を呑む。少しだけ怖かった。同時に、とても楽しみになった。
 何が起こるんだろう?
「貸してみ。こうすんの」
 佐久也は雫の指ごとコントローラーを包み込み、1Pプレイを選択した。指の上で、カチャカチャと強い指が躍った。
「タイミングなんだよ。コマンドゆっくりでいいから」
「うん」
「ほら、ここ……ここ! うりゃ!」
「お、入った」
「わかる? んで、こう!」
「おーおー、すごぉい!」
 雫は驚きつつ、耳にかかる息と、体を挟み込む腕を感じている。
 ふと気がつくと、雫はすっかり佐久也に抱かれていた。
 広い胸が背中にぴったりくっつき、お尻が太腿に挟みこまれている。前にのめってしまいそうなほど、佐久也のあごが肩に乗っている。しかも少しずつ力が加わる。後ろからひしひしと体温が伝わってくる。
 したがってる、と雫は感じる。さっくんもえろいこと、したがってる。
 ぞくっとおかしな寒気が背筋を走った。
 不意に指が離れた。やってみ、とコントローラーを預けられる。
「うん」
 雫はうなずき、ゲームを再開する。――佐久也の手が、腹に落ちる。
 温かい手のひらがシャツの上からさわさわとおなかを撫で回し、きゅっと抱きしめるのを感じて、雫は息苦しくなった。
 たまらず、つぶやいた。
「さ、さっくん……」
「ん?」
 しゅっと音がしそうな素早さで佐久也が両腕を引っ込めた。あ、と雫は気づく。
 さっくんも遠慮してる……やっぱり、言ったらだめだ。
「ううん、なんでもないよ」
「そう?」
「うん。ほんとに、なんともないから」
 そう言って、証明するように背中を押し付けた。すると再び、何事もなかったように佐久也の両腕がわきの下に入ってきた。
 ぽふ……と胸に触られた。
「あ……」
「なに?」
「ううん」
「なんでもない?」
「うん。なんでもない。なんでもない」
 首を振ると、左右のお下げがぱしぱしと佐久也の顔に当たった。まずいかな、と振り返りかけると、鼻でくいっと頭を押し戻された。――そのまま佐久也が髪の匂いをかいでいる。あっ昨日頭洗ってない、と雫は恥ずかしくなる。
 佐久也の手は胸の柔らかさを確かめるようにふわふわと揉んでいた。乳房なんてまだ雫にはない。おなかより少し盛り上がってるかな、という程度。
 むずがゆい気持ちよさがちりちりと広がる。かゆみに似ている。もっと触ってほしいところが。知らないうちに身をよじっていた。息が漏れる。
「くぅ……ん」
 はっ、と雫は震えた。シャツの上から、佐久也がきゅっと乳首をつまんだのだ。痛い――! と叫びかけて、すんでのところで抑える。……痛くない?
 佐久也は優しかった。米粒よりも小さなぽっちが潰れないよう、ちょんちょん、と軽く叩いた。今度こそ雫はぐっとのけぞる。触ってほしいところを触ってもらえた嬉しさ。さあっ、さあっ、と体に広がる電気。
 キャラがCPUにぼこぼこにされていた。佐久也が叱る。
「しず、やられてるって」
「あ……うん」
「続けて」
 雫は指先に力をこめて、なんとか動かす。でも、必殺技はとても出せない。気が散っていることが一発でわかる、まばらなパンチとキック。
 その間に佐久也の手はおなかを滑り落ち、ミニスカートの中央に近づいていた。自然な動きで裾をたくし上げてしまう。
 テレビの下にビデオとDVDデッキの入ったローボードがある。扉のガラスにこちらの姿が映っている。雫は頬を赤らめる。開き気味の足の間からパンツを丸出しにした自分の姿に。
 さっくんに見えてませんように、と祈る。さっくんのほうが頭が高いから見えない角度のはずっ!
 何が恥ずかしいといって、パンツそのものよりも、その中央の小さな湿りを見られるのが恥ずかしかった。気持ちいいときは湿ってくる、と昨日気づいていた。
 突然気がついた。見えてなくても触られればばれる。さっくんは触るつもりだし。
 太腿に触れないように指が股に入ってきて、佐久也が尋ねた。
「……いい?」
 ほんの少し、雫はためらった。少しだけ。
「うん」
 胸のむずがゆさと、触られたときの心地よさが身に染みていた。昨日のことも思い出した。佐久也の頭にこすり付けるのはとてもよかった。これが指だったら……
 つ、と小さく触れられただけで、雫は知った。
「んんくっ!」
 びくん、と腰が震えた。ちょうど一番敏感なところだった。そこがそんなにも気持ちいいことにびっくりした。
 その身動きで、お尻の後ろのものにも気づいた。
 佐久也の股間がとても硬くなっていた。今動いたとき、佐久也も震えたようだった。間違いなく佐久也も興奮している。それに多分、そこが気持ちいいんだ……
 佐久也の指に自信がこもった。そうっと、しっかりと、パンツの真ん中に食い込んでくる。柔らかな指の腹が雫の芽を押しつぶす。甘い快感が、そこからしぼり出されたように、きゅうっと腰の奥へ広がる。
 雫は膝頭を強く合わせて、ぶるるっと細かく震える。
「さ、さっくぅん……」
 ぐりっ、とお尻に佐久也のものが食い込んだ。
 その時、鍵の音がした。ドアが開く。母親の声。
「ただいまあ」
 今度は佐久也のほうが素早かった。そそくさと雫のスカートを引き下げ、体を離してソファの反対の端に腰を下ろした。
 つまらなさそうな顔でコントローラーを手に取り、はっと気づいたようにささやいた。
「しず、母さん帰ってきた」
「……うん、わかってる」
 雫は何度も深呼吸して、落ち着こうとした。だめだった。股間のうずきが収まらず、入ってきた母親には佐久也が応対した。
 頭を占めていたのは、育つ一方の好奇心。
 お尻に当たっていた、硬いもののこと。

 その晩、佐久也が風呂に入って鼻歌など歌っていると、外とダイニングで声がした。
「……いいー? ママ」
「いいけど、あんたもう五年生でしょ?」
「だからあ?」
「パパとはもう入らないくせに」
「さっくんならいいもーん」
 佐久也はぎょっとした。ガラス戸の外で小さな体がわさわさと動いている。
 すぐにドアが開いて、雫が入ってきた。目を細めてにかっと笑い、両手でタワシを突き出して叫ぶ。
「お背中いっちょう、洗いますっ!」
「しっ、しずっ」
「ん?」
「タワシかよ!」
「じょーだんじょーだん」
 タワシを投げ捨ててしゃがみ、雫は洗面器でかけ湯を使った。佐久也は目を逸らして壁のタイルを数える。雫は大げさなお下げをタオルで巻いただけで、当然全裸だった。
 一通り湯を浴びると、ためらいなく湯船に入ってきた。ただし位置が微妙だ。両足を広げた佐久也の足元、目の前だが触れてはいない場所。
 そこにちんまりとしゃがんで、雫はちらりと湯の中を見た。
「……おっきくなったね」
「何が」
「二年前に比べて。一緒に入ったよね」
「あの時はお互い、なんとも思わなかったよなー」
「今は?」
 答えず佐久也はざばっと湯船を出た。雫に背を向けて座り、スポンジを泡立てる。
 後ろから伸びてきた手が、ひょいとスポンジをつまんだ。
「こら!」
「背中流してあげるんだもん」
 声とともに、小さな手が一生懸命背中をこすりだした。
 佐久也はしばらく耐えた。すぐに耐えられなくなった。妄想を振り払おうにも、近すぎだし刺激的すぎた。
 むくむくと育っていく性器を、情けない目で佐久也は見下ろした。すると雫がくるりと前に現れた。
 佐久也は焦ったが、雫は何も見ていないような顔で、スポンジを佐久也の胸に当てた。ぎゅうぎゅうとこすりつける。
「前もね」
「あのさ、しず」
「ん?」
 雫は膝立ちだ。少しだけふっくらした胸と、つるりと綺麗な下腹の切れ込みが、濡れてまぶしく光っている。佐久也の股間はもう手の付けようがない。
 上ずった声で佐久也は言う。
「しず、やばいって」
「うん、わかる……こんなんなってるし」
 ちらっと一瞬だけ佐久也のものに目をやって、雫はスポンジを使い続ける。
「それ見たくて来た。すごいね。これって、さっくんがえろえろ状態ってことでしょ」
「そう。激えろ状態」
「んとね、あたし……それ、別にいやじゃないよ」
 手を止めて、てへっと雫は笑った。
「でもさあ……そういうのって、いいのかな?」
「んー、あんまりよくはないんじゃないの」
「やっぱり? 見つかったら怒られるよねえ……」
 雫はごしごしを再開する。佐久也の股間を避けて、足をこすっていく。
「ていうかね、あたし、よくわかんないんだ」
「何が?」
「えっちぃこと。……習ってないし。エロ本とか見ないし」
「でも興味あるんだろ」
「……うん」
「よく見る?」
 佐久也の言葉に再び手を止め、雫はちらりと脱衣場を振り向いた。
「誰も来ないよね」
「見る?」
「……うん」
 雫はスポンジを置き、初めて正面からまじまじと佐久也の勃起を見た。形のいい眉がきゅっと吊り上がる。
「……変なのぉ」
「あーっと、ええと、しず」
「なに?」
「恥ずい」
 佐久也は足を合わせて横を向いた。ああさっくんも恥ずかしいんだ、と納得したように雫がうなずいた。
 それから、佐久也に言われて、かあっとほっぺたを赤くした。
「おれも見ていい?」
「え……」
 雫は自分の体を見回し、小さな声で、やだ、と言った。
 佐久也は少しほっとした。いいと言われたら、自分が何をするかわからなかったから。
 急に恥ずかしくなったように、両手で胸や股間を隠しながら、ちょっとお湯入って、と雫が指差した。佐久也はおとなしく従い、体を流して湯船に入った。
 雫が横を向いて、ちらちらと佐久也の視線を気にしながら、体を洗い始めた。ただ、むこう向いて、とは言わない。それをいいことに、佐久也は雫のほっそりした裸身を見つめ続けた。
 とてもきれいだった。石鹸の泡と同じぐらい白い手足が、すっと細長く伸びていた。腕やすねにはかすかなうぶ毛が生えていて、白熱灯の明かりで金色に光っていた。乳首はしばらく探さなければわからないほど小さなピンクの点だった。
 見られ続けた雫が、じきにぱたりと手を落とした。壁を見つめてつぶやく。
「なんか……あたしもえろくなってきちゃった」
「触ってやろっか?」
「どうしよ……触ってほしいけど、裸だと恥ずかしい……」
 雫が振り向き、二人は見つめあった。低い塀越しに会っているような、微妙な抵抗感を挟んだ見つめあいだった。
 二人とも、すべてを忘れるにはまだ早すぎた。
 入るぞ、と声がして脱衣場に大きな影が現れた。やがて佐久也の父が入ってきた。雫があわてて湯をかぶり、佐久也の隣に入り込んできた。
 父は二人を見下ろして笑った。
「熱いのか」
「ちょうどいいです」
「そうか? 二人とも真っ赤だぞ」
 二人は互いに反対方向を見てうつむいた。

 それからは、なるようになった、としか言いようがないことになった。
 風呂から上がって寝室に戻り、電気を消して五分後に、こっち来いよ、と佐久也が言った。雫は黙ったまま床の布団を出て、ベッドにあがってきた。
 並んで横たわると、どちらからともなく抱きあった。我を忘れたように激しく体をまさぐりあった。佐久也は雫の胸を、股間を、いやらしさ全開の手つきでごそごそと触り、雫は憑かれたように熱心に、どんどん硬くなる佐久也の股間を、すごい、すごい、とこすり上げた。
 じきに佐久也が射精した。釣られた魚のように跳ね上がる佐久也の体を、雫は守るようにぎゅっと抱きしめ、彼がおとなしくなると顔をのぞきこんで、どうしたの? と聞いた。
 佐久也は枕もとのティッシュを何枚も抜いてズボンに突っ込みながら、精子出た、と言った。ゲームの超必殺技でも見たように、へえええ、と雫が驚きの声を上げた。
 佐久也の股間を触りなおして、すっかり柔らかくなっていることを確かめ、それでもなおも触ろうとする雫に、もういいから、と佐久也は言い聞かせた。直線的に高まって、絶頂を経てストンと落ち込むという男の快感のパターンが、雫はまだよくわからない様子だったが、満足したから、と佐久也が重ねて言うと、あたしも満足したい、と訴えるように言った。
 で、佐久也は触ってやった。最初はパジャマの上から。じきにパジャマに手を突っ込んでパンツの上から。さらにパンツに手を突っ込んでじかに。
 しまいには、パジャマもパンツも脱がせて、毛布の中で大きく足を開かせて、じっくりと責め立てた。
 雫は佐久也の腕にしがみついた。飛んじゃう、どっかいっちゃう、と泣くようにささやいた。声がどんどん大きくなったので、佐久也は胸に雫の顔を抱きしめて、声を押し消してやった。佐久也の腕の中で、雫は安心したように遠慮なく震え、膝で毛布をはね飛ばしてしまうほどがくがくと下半身をもぞつかせ、佐久也が唖然とするほどたっぷりと液を漏らした。
 まさぐり続ける佐久也はわりと早いうちに膣口を見つけていたが、さすがに怖くて指は入れられなかった。それでも終わり近くには、小指を軽く入れるぐらいの勝手はつかんでいた。
 最後にそれをすると、雫がとても強く締め付けて、ぶるぶるるっ、と全身を震わせた。胸の肌をパジャマごと噛まれて、佐久也は悲鳴を上げそうになった。我慢して口を閉じていると、じきに風船がしぼむように雫の体から力が抜けていき、はあーっ、はあーっ、と熱い息だけが佐久也の胸に残った。
 拭くと怒った。ティッシュざらざらして痛い、と。仕方なく佐久也はサイドボードのライトを最小光量でつけて、机のウェットティッシュに手を伸ばした。すぐに雫がライトを消した。ぜったい見たらダメ、と真剣な声が言った。
 その後は、拭いて履かせてやるまで、雫はおとなしくしていた。病気で弱ってしまったように、細い体がくたくたになっていた。それがとても可愛らしくて、佐久也はぎゅっと抱きしめた。
 毛布の中は雨がしみこんだように湿り、甘酸っぱい匂いであふれていた。
 やがて雫が顔を上げ、酸素を求めるように毛布の外ですーはーと深呼吸した。それからくんくん鼻を鳴らして、ああこれせーしの匂いなんだ、と嬉しそうに言った。
 ベッドの上に放り出した、先ほどのティッシュを嗅がれたのだった。雫は、何か吹っ切れてしまったような口調で、ていうことは昨日もさっくんせーし出したの? と聞いてきた。
 佐久也は暗闇の中で真っ赤になりつつ、うなずいた。
 雫はいよいよ興味が湧いたという風に顔を寄せてささやいた。
「なんで出たの? それって勝手に出るの?」
 昨夜の自分の行為が、今したことよりもよっぽど恥ずかしくて、佐久也はそっぽを向いて寝たふりをしてしまった。

 味を占めるとはこのことだった。――何しろ雫と佐久也は同居していて、気心の知れた従兄妹同士で、親の目もたいしてはばかる必要がなく、その上毎日が雨だったのだから。
 朝だけはしなかった。前夜の疲れで寝こけていて、いつも遅刻寸前だったから。
 しかし帰ってきてからはやりたい放題だった。
 約束事のように、それは毎日、四時過ぎの対戦ゲームから始まった。ゲームは親が帰ってきたときのための言いわけであり、親ではなく自分たちに対する言いわけでもあり、また秘め事の味付けでもあった。
 あの二日目のように、雫を佐久也が抱いてプレイした。二人ともコントローラを持って、対戦勝負だった。ただし佐久也は雫の首筋にキスを繰り返し、雫はお尻を動かして佐久也の股間を刺激した。
 別に口にはしなくても、負けたほうが先にする、と決まりができていた。この日は佐久也が股間の快感に耐え切れなくなって、手裏剣嵐を食らった。 
 雫は画面から目を離さずに、笑みを含んだ声でささやく。
「はい、あたしの勝ちー」
「ちぃっ、腕を上げたな」
「いいから早くぅ」
 佐久也の両手がスカートの中に入り、ぐいっと両足を広げる。ぴんと張った白いパンツに、手術する医者のような手つきで左右から指を近づける。布に触れ、弱くさすり、指先を突きたて、くりくりとひねり、何度も谷間をなぞり上げる。――濡れてくる。
 テレビの下のローボードに、あられもなく嬲られる自分の姿を見ながら、雫はうっとりと身を任せる。えろい、やらしい。あたし、さっくんにあそこあげちゃってる。ばかみたいにだらしない顔してる。こんなのぜったいよそで見せられない。
 飾り気のない木綿を持ち上げて、指は内側に入り込んだ。パンツの中の小さなひだが左右にぱっくりと開かれる。糸を引いていることを雫は感じる。どきどきしながら指を待つ。
 それが敏感なひだの間に這いこんでくる。湿った粘膜がざらつく指になぞられる。声を出さずに、びくっ、びくっ、と雫は断続的に震える。佐久也が何度も指を舐めて湿らせながら、ひだの隅々まで、飽きずに繰り返して、丁寧に撫で回す。
 目安は雫がコントローラーを落とす頃だ。ゴトッとそれが床に落ちると、佐久也は右手の小指をぬぷりと中心に押し込み、残りの指で小さな粒を挟むように揉みこんでやる。
「あっ、あっ、あっ、さっくん、さっくん、さっくぅんんっ!」
 それで雫はいく。幼いくせにきちんと愛液を噴きこぼして。
 抱きしめて十分浸らせてやった後は、攻守交替となる。こちらは一週間すぎまでトランクスの上からだったが、じきに雫も素手を認めた。前後を入れ替わって、後ろから両手を回してこするのだ。ただ佐久也にとっては痛しかゆしだった。雫は下手だ。下手でも気持ちよくはあるのだが、自分でするほうがもっといい。
 そういう場合はオナニーになった。雫がソファに横たわり、じっと目を閉じる。床に座って覆いかぶさった佐久也が、彼女のあちこちに顔を押し当てつつ、股間のものを自分でしごく。
 シャツをめくって胸にキスすることも、雫は許した。それをすると雫はけっこう喜んだ。ミルク色のきれいなふくらみがだんだん赤くなっていき、小さな乳首がはっきり硬くなるさまは、見ている佐久也も興奮して、大胆に舌を出して味わった。べたべたするぅ、と雫は嫌がりながら笑う。
 けれども下は見せなかった。ふっくらしたおなかに口付けしたり、太腿や膝に頬ずりすることはOKで、スカートをめくってパンツにキスすることも、目を閉じるという条件付きで許可されたが、その下を見ることはNGだった。
「それってちょっと、やらしすぎるし」
 雫の湿った股間に鼻先を突っ込んでいる佐久也に、困ったような雫の声が届く。
 横たわって片膝を持ち上げ、ねじれたパンツにくっきり中の造りを浮かび上がらせた淫らな姿でも、雫は生真面目に言うのだ。
「あそこなめるのって、やっぱり汚いよ。……さっくんそんなのがいいの?」
「もうわかんねーって。えろえろだから。とにかくなめまくりたいから」
「へんたい。ちかん。ストーカー」
「最後の違う」
 雫はきれい好きだが、パンツまでお菓子の香り、とはいかない。そこはやっぱりおしっこの匂いがして、しゃぶるとしょっぱい。なのになぜか佐久也は止まらない。自分でも、こんなのがいいって変態だよなと思う。
 カーゴパンツとトランクスは下げてある。ティッシュをかぶせてしごきまくっている。雫が不思議そうに言う。
「おとなってみんなえっちぃことしてるんだよねえ。てことは日本中で、オトコがオンナをぺろぺろしながら、おちんちんごしごししてるのかなあ」
「知らねえって」
「……やば、考えたらすごい笑える」
 もちろん佐久也は笑うどころではなく、雫のすらりとした太腿の肉に思いきり顔をうずめながら、勢いよく射精する。

 風呂はほとんど一緒に入るようになった。しかしこれは派手な前戯とでもいうべき時間だった。風呂は二人の父がよく入ってきて、本格的なことはできなかったから。
 やってせいぜい、互いに泡だらけになって抱き合う程度だった。それはとても興奮するもので、特に佐久也は挿入に至る本当のセックスをしたくてたまらなくなったが、その線だけは我慢して守った。してはいけない理由は、両手の指で数えるぐらい思いついた。
 その代わりというか、風呂で挑発しあった結果、電気を消した毛布の中では二人とも全開だった。雫が初めて口でしたのも、同時にシックスナインを許したのも、そこだった。
 その夜、完全えろえろ状態になっていた雫は、はあはあ息を荒げて佐久也の胸に乗り、下腹でくいくいと性器を押しつぶしながら、湿り気がしたたるような声で誘惑した。
「さっくん、あたし今日すごいから。体中うずうずだから。何か特別えっちいことして」
「そゆこと言うと超犯すぞ、こら」
「おかすってなに?」
「漫画で読んだ台詞」
 佐久也は雫と自分のパジャマをはぎ取ると、上下ひっくり返って、と命じた。雫がころんと仰向けになったので、違う足のほう向いて、と言った。
 雫が驚いて言った。
「え、顔に当たるかも」
「当たるじゃなくてなめてくれない?」
「えー、なめるの!」
 こらばかうるさい、と頭をごつんして佐久也は叱った。それから裸の雫を撫で回しながらささやいた。
「さっき二人ともきれいに洗ったろ?」
「そうだけど」
「おれもやるから。舌、指よりも気持ちいいと思わない?」
「……うわ、それもそうかも……」
 ぷるっと肩を震わせて、期待するように雫が体を回した。
 暗闇の中で硬い膝が佐久也の頭をまたぎ、手探りすると少し上に雫のお尻が来た。ちょっと遠かったので枕を折って頭を支える。雫の愛撫を待たずに顔を押し付けた。風呂上りに拭いて乾かした肌は、ひだの周りだけとろとろにぬめっていた。
 ふと気づいた。雫は毛布の奥だから気づかない。いたずら心を起こして枕もとのライトをつけた。
「うは……」
 思わずため息が漏れた。雫のそこは芸術品のように美しかった。きれいな二つの丸みの間に小さなすぼまりがあり、その下に細い谷間。指で開くまでひだはまったく見えない。開くと濡れ光る唇のようなひだがあり、中心に暗い穴がぽつりと開いていた。穴の周りを白桃色の薄い膜がまるく縁取っている。
 ミルク色の雫の下肢の中で、そこだけが可憐に色づき、複雑な造りを持っていた。佐久也はつくづく思う。
「秘密ポイント発見だなあ……うくっ?」
 性器の先端に何かぬめぬめした刺激を受けて、佐久也は小さく跳ねた。こんな風? とくぐもった声が聞こえる。
「うん、そういう風。おれもするから……」
 佐久也は尖らせた舌をそっと突き込んだ。今度は雫がいやいやをするようにお尻を振った。
「ひゃー、それすごぉ……」
「そっちよろしくなー」
 両手を雫の腰に回してしっかりとお尻を押さえ込み、佐久也は夢中でそこをなめた。思ってもいなかったが、いやらしさ以上の気持ちが湧いていた。こんなにきれいなら、いくらでも気持ちよくしてやる、という奉仕の気持ち。膜の奥に舌をねじ込んで内側をちろちろとこすり、引き出して真っ赤に光る粒をちゅぷちゅぷと吸ってやると、雫は実に敏感に肌を波打たせ、とめどもなく白っぽい汁をしぼり出した。
 佐久也と違って、雫は見えなくて幸運だった。風呂場で一度見たそれは、映画に出てきそうなものだったから。――ホラー系の。
 ただ、いったん始めてしまうと不快感はどこかへ吹っ飛んで、佐久也がしてくれるようなとろとろの愛撫を自分も返さないと、という素直なお返しの気持ちでいっぱいになった。
 ちょうど口に入る大きさだった。どうやったらいいかわからなかったので、唾をたっぷり溜めた口の中に先端を導いて、とにかくむぐむぐと口の中を動かした。手、手、根元も、と佐久也が言うので、両手でぎゅっと根元を握って揉み手をするようにこすり合わせた。違う上下にと言われたので、うるさいなあと思いながらしごくようにしてやった。
 じきに甘苦い汁が出てきた。いったん雫は困った。毛布の中で唾を吐くのは行儀が悪いと思ったからだ。仕方なく、息継ぎのたびに佐久也の腰の上に唾を垂らして吐き出した。佐久也はまばらに毛が生え始めていて、そのあたりはいろいろな液でどろどろになった。
 下腹のうずきは最高になっていたが、佐久也が思いきり責め立ててくれるので気持ちよさも最高だった。漏らしてるあたし漏らしてると頭の中でぐるぐる思いながら、雫は恥ずかしい汁をこぼし続けた。今までで一番気持ちよかった。今までで一番高くまでいけそうだった。
 先にいけたのも雫にとって幸運だった。射精を食らっていたらびっくりしていくどころではなかっただろうから。
 ちゅううっ、と音を立てて小さな粒を吸われたとき、雫は達した。真っ暗なはずの目の前に真っ白な火花が飛び散って、頭のてっぺんから何かが突き抜けていった。今ならぶん殴られても痛くない、と思えるほど我を忘れた絶頂だった。
 その瞬間、佐久也が喉の奥まで突っ込んで射精した。息を詰めて硬直していた雫はなんの抵抗もできなかった。指先まで行き渡る快感と、呼吸を塞いで流れ込んでくる粘液の苦しさに挟まれて、本当になにがなんだかわからないほどの混濁に突っ込んだ。
 ややあって意識を取り戻すと、佐久也はまだ射精していた。ひくっ、ひくっと弱々しく震えながら肉の棒が雫に精液を飲ませていた。うっわ飲んじゃったと雫はげんなりし、口を離して喉のどろどろをうえーっと押し戻した。
 ねばねばしたものが口にたまった。吐く場所がなくてまた迷った。迷っているうちに嫌でも味わうことになった。味わうと、すこんと納得が来た。
 ……別にまずくないじゃん。
 というかおいしかった。信じられなかったが、佐久也のものだと思うと平気だった。匂いはもともと嫌いではない。まー飲んじゃうか、と雫はこくんと喉を動かした。
 ごめん、と声が聞こえた。おもっきり口の中で出しちゃった、と。雫は舌で口の中を拭いながら答えた。
「それが、なんかだいじょぶだった」
「まじ?」
「うん。今飲んだところ。別におなか痛くなったりしないんでしょ?」
「しず、すげー。……なあ、もしどっかの別のおっさんだったら?」
 ちょっと想像しただけで物凄い吐き気がきて、雫は精液どころか晩御飯ごと戻しそうになった。気持ち悪いこと言わないでよ! と佐久也の太腿を叩いた。
 ごめんと笑った佐久也が、こっちおいでと言った。なんだかすごく濃いことをさっくんとしちゃった、という温かさが胸に湧いている。嬉しくなって、雫はごそごそと体を回した。
 そしてライトがついていたので、猛烈に怒ってべしべしと佐久也をぶった。

 日曜日は外で乱れた。どういうわけか今年の六月は、特に休日を狙ったように毎回完全な雨模様を繰り出してきたが、二人で出かけるのはそれだけで楽しかったので、全然まったくモウマンタイだった。
 満員電車がなかなかよかった。休日に都心へ向かう電車は、平日の通勤列車ほどではないにしても、買い物客でぎっしりだった。じっとりと湿気を含んだ六月の空気が、電車の中ではじっとり度を倍増させて襲ってきた。そんなじっとり二倍の乗客にサンドイッチされるのは普段なら拷問以外のなにものでもなかっただろうが、二人の間では別だった。
 芋を洗うようにぎっしり詰まった人間の間で、二人は向き合って、できるだけ肌が相手だけに触れるようにした。佐久也の腰の前にほっそりした少女の体が来て、雫の体の前は大好きな従兄の体で守られた。
 肩から下など誰も見られる状態ではないので、遠慮なく二人は抱きあった。佐久也は雫のミニを腰までずり上げてパンツをもみくちゃにしながらお尻を揉み回した。もうどこに触られても気持ちいいと思えるようになってきた雫が、おなかに当たる佐久也の勃起をおへそのくぼみでくすぐって、ささやいた。
「さっくん、もうすっかりちかんですねえ」
「しずは痴女だな」
「ちじょってなに?」
「女の痴漢」
「じゃあ違うでしょ。あたしさわってないもん。さわられてるだけで」
 隣にいたOL風の女に聞かれてしまった。何この二人と言わんばかりの気持ち悪そうな視線を向けてくる。二人はあわてて口を閉じ、顔を逸らした。――ただ、抱き合うことだけはやめなかった。
 佐久也は指をお尻の穴まで送った。雫が目に見えて真っ赤になり、必死の抵抗といった様子で柔らかい腹筋をふにふにと押し付けた。そのままでは、この場でどっちがいくかの勝負になりそうだったので、佐久也のほうから休戦した。
 それでどこへ向かったのかというと、都心の屋内温水プールである。
 二人は男子更衣室で着替えてプールに躍り出た。プーマのバミューダショーツを履いた佐久也の姿はどうでもいい。肝心の雫は白のスカート付きビキニという凶悪な水着を装備した。背丈はやや低いが腰が高くてミニスカートのよく似合う少女である。ミニ以上にミニなスカート水着を着てプールサイドを走る姿は、スピーカーで喚くよりも人目をひきつけた。
 しかも雫の胸は、ほぼぺたんこなのである。それで流れるプールに頭から飛び込んだりしたらどうなるか。
「さっくん、こっちー! 浮き輪浮き輪浮き輪!」
 水から顔を出して絶叫する雫に目をやった佐久也は、近くのラックから持ってきた大型の浮き輪を取り落としそうになった。監視員の制止の声を無視してダッシュ、雫のそばにダイヴして頭から浮き輪を押しかぶせる。
 どしたのあわててと笑う雫を、しかめっ面で叱りつける。
「おまーな、胸! おっぱい!」
 目を落とした雫は、わは、と吹き出した。飛び込んだときの衝撃でカップ部分が鎖骨までずり上がり、ささやかな二つの丘が丸見えだった。
「あちゃー、やらかしたー」
「勘弁してくれよ、あいつ! あいつも! あっちの爺さんも! みんな見てるだろ!」
「胸ってそんなに恥ずかしくないんだけど……」
「馬鹿」
 右のお下げをぎゅっと引っ張って、佐久也は顔を近づける。
「それ、おれの!」
 目を丸くした雫が、やがて嬉しそうに頬を染めてうなずいた。
「うん……あたしはさっくんの」
 泳ぎなどするわけがなかった。浮き輪に乗ったり乗られたり落っことしたり投げ飛ばしたり肩車したり抱きあったり、いちゃつきまくりである。そばをどよーんと流れていた太った男が、包丁があったら刺しそうな顔でぶつぶつと呪いの言葉を吐いていた。
 全身へろへろになるまでふざけると、更衣室に戻って個室に入り、カーテンを引いた。
 保護者が必要だからではなく、このために一緒に男子更衣室に入ったのである。
「さっくーん♪」
 待ってましたとばかりに雫が抱きつく。佐久也はしゃがみこんで受け止める。顔をぶつけるように、ちゅっとキスした。してから気づいた。
「……あ、キス初めて」
「もったいなかったな。いっぱいしておこう」
 見交わす瞳が、お互い潤んでいることを確かめる。ん、と雫が舌を伸ばした。はむ、と佐久也はそれをくわえる。食べるように唇を近づけ、気が済むまで濃密に口づけし、さらに舌を出して頬やまぶたや鼻の頭をなめあった。
 顔を離すと雫が幸せそうに息を吐く。
「はーうー、さっくん大好きぃ……ね、いいなずけってどうしたらなれるのかな?」
「さあ? 父さんたちに聞いてみるか」
「ていうか別になれなくってもいいや。いま約束しない?」
 雫が小指を突き出す。佐久也も小指をからめた。
「ゆーびきーりげんまん、うーそついたーら、はーりせんぼん、のーますっ!」
 ぶんぶん手を振って勢いよく指切りすると、雫は太陽のような笑みをにぱーっと浮かべて、だんなさまぁ、と抱きついてきた。
 キスを繰り返しながらトップスをずりあげ、胸にキスを移す。雫がばんざいで誇示したので乳房はさらに薄くなる。冷え切って塩素が匂う肌にじっくりと唾液を塗る。やがて温かみが戻ると雫も感じ始めた。
「そのままぺろぺろがいいな……」
「おれのこっちは?」
 バミューダの膨らみを佐久也は撫でる。んーと鼻の頭にしわを寄せた雫が、床にひざをついて見上げた。
「さっくん、こすこすだけでいけるでしょ……こういうのは?」
 両わきから手の平でもって、んしょ、と無理やり乳房を盛り上げた。
 ぷ、と笑いかけて我慢し、佐久也は立ち上がってバミューダを下げた。うわととっ、と雫があわてて目を閉じる。見るのはまだ苦手らしかった。少し顔をそむけ気味に胸だけ突き出した。
 佐久也は押し当て、片胸のぽっちをつぶすようにころころとこすりつけ始めた。
 腰の動きだけでは足りない。佐久也は手を添えてしごきながら乳首にもうまく刺激を与えるようにする。二人とも目を閉じる。刺激が少なめなので触感だけでは物足りない。
 どちらからともなく片手を差し出し、握り合った。指をからめて気持ちを伝える。もう片手は胸と性器を手伝い、よりいやらしい接触になるように支える。
 薄いゴムの皿のような乳房をへこませて、こわばった器官がぬるぬると往復する。雫の額に汗が浮いてくる。目を閉じた彼女は二つのことに集中している。
 ……指をくすぐるさっくんのえっちな指。おっぱいをごりごりするさっくんのえっちなおちんちん。
 乳首のしびれがじんわりと体に広がった。はあっ、と強い息を吐いて火照った顔を向ける。
「さっくん……ほんわりするぅ……」
 男に肌を汚されて甘い快感を覚えている少女――佐久也を高めきるのに十分な刺激だった。ぎゅっ、と乳首に食い込ませて佐久也は撃ち出した。
 カーテンの外に、ぴちゃっ、ぴちゃっ、ぴちゃっ、と小さな音が漏れた。前を歩く子供たちも父親も気づかない。
 それは小さな片胸がとろりと染まった音。
 それは佐久也が痙攣して鳥肌を立てた音。
 それは雫が満足してふるりと肩を震わせた音。

 ばれた理由は簡単だった。
 その日も二人は帰宅してから、ゲームにかこつけたいけない遊びを開催中だった。ちょっと興が乗りすぎた。お互い靴下で目隠しして、全裸になってソファでからみあっていたのだ。
 鍵の音に我に返って猛変身したが、間に合わなかった。
「ただいまー……あらあらあらあらちょっとちょっと」
 下はなんとか履いた。上が手遅れだった。二人してシャツをかぶって目が見えないよ踊りをしているところで、雫の母親が来てしまったのだ。
 あわてて廊下に戻った母親が、しばらくしてまた入ってきた。二人は着付けを終えて気まずい顔で座っている。それはもう世界が終わるような覚悟をしている。
 母親は腰に手を当てて言った。
「親族会議ね」
 で、その夜は大人四人に囲まれて、佐久也と雫は半分ぐらいに身を縮めることになった。
 なったのだが、話し合いは意外な方向へ転がった。
「まあ、避妊さえすればいいんじゃないの」
 佐久也の母の意見がこれだった。呆れたことに他の三人も同意した。佐久也のほうが戸惑った。あのさ、と遠慮がちに言う。
「そんなんでいいの? おれまだ十四だし、しずは十一だけど……」
「別に無理やりじゃないんだろう?」
 雫の父がからかうように言って雫を見た。雫は表情がわからないほど赤くなってうつむいている。
「しずは喜んでるみたいだし。おじさんは異存ないよ」
「そういう問題かなあ。法律とか……」
「ああいうのは誰かに迷惑がかかるから守らなきゃいけないんであって、この場合誰も迷惑してないでしょ」
 弁護士である佐久也の母親が眼鏡の奥で微笑む。
「しずちゃんは法的判断能力がないけど、二十歳越えたってどうせ同じ結論出すでしょう」
「……ほーてきはんだんのーりょくはないけど、とにかくさっくんのお嫁さんにはなりたいよ」
「問題あるまい」
 佐久也の父が煙草に火をつけた。
「嫁のあてが早々にできて気が楽になった」
「私はまだちょっと早いと思うけど……」
 つぶやいた雫の母が、苦笑した。
「人のこと言えないわね。私たちと義兄さんたちだって十三――」
 ごほん! と他の三人がいっせいにせきをした。
 ま、ともかく、と佐久也の父は悠然と紫煙を吐いた。
「避妊と、学業に差し支えんようにな。条件はそれだけだ」
 狐につままれたような顔で、雫と佐久也は見つめ合ったのだった。

 そうこうしているうちに、明日が完成の日となった。
「完成?」
 その日も雨。薄暗い自室で学生服を身に着けていた佐久也が振り返る。
 ランドセルにいろいろ詰め込んでいた雫が真顔で言った。
「うちの」
「……ああ。そうだった」
 雫の自宅の工事が終わったのだった。ということは、同じ部屋で寝られるのも今日限りなのだ。
 ややしょんぼりした体で佐久也は言った。
「そーか。残念だなあ……」
「別に気にしなくても。会いたきゃすぐ来れるんだし。お泊まりだって好きなだけできるし」
 雫は屈託なく笑った。
「でも、せっかくだから今日はいっぱいしようね?」
「だな。急いで帰ってくるよ」
「あたしもっ」
 よいしょとランドセルを背負って、雫は出て行った。

 ところが帰ってきた雫は血相を変えて佐久也に詰め寄ったのだ。
「さっくん大変大変大変大変大変!」
「誰が変態だ」
「おやくそくう。じゃなくって、これっ!」
 ランドセルの中身をぶち撒いて雫が取り出したのは、厚い表紙の絵本だ。題は「おとこのことおんなのこ」。
「あたしたち、まだせっくすしてなかったよ!」
 どうツッコむべきか、五秒ほど佐久也も真剣に考えた。
 出た結論ははなはだ間の抜けたものだった。
「……どこが?」
 ほとんどボケ返しである。
「どこがって、ここに書いてある!」
 開いたページを雫が突きつける。第三章、赤ちゃんの生まれこきょう。赤ちゃんはお父さんの精子(せいし)とお母さんの卵子(らんし)が結びついてできます。お父さんはお母さんの膣(ちつ)にペニス(おちんちんのこと)を入れることで、精子(せいし)を送りこみます。
「入れてないよね?」
「しず、おまー……知らなかったの?」
「だってあたし、四年生の性教育の授業かぜで休んだ」
 ほっぺたをふくらませて、雫はうらめしそうにソファをぽこぽこ蹴飛ばした。
「そっかー、ひにんってそういう意味だったんだー、赤ちゃんできたら困るもんね。それでさっくんしなかったんだー、あたしらうそっこのえっちしてたんだー、悔しいなあもう」
「なーんも知らずに、してたんだ」
「キモチよかったもん」
 雫は顔を上げて、がぶり寄った。
「して」
「うんー……っと」 
 うん、と言いかけて佐久也は取り繕った。
「どっちみち本物はできないぞ。子供できるから」
「あ、だいじょぶ。あたしせーりまだ」
 雫があっけらかんと片手を振る。ぽかんとしてから、念のために佐久也は訊いた。
「生理が何かは、知ってる?」
「パンツに血が出るんでしょ? それぐらい知ってるよ、クラスの子がなったもん。今まで意味わかんなかったけど」
「ああ、そう」
 じゃ、と佐久也は頭をかいた。
「するか」
「するするするする!」
 雫が手を打ってジャンプした。

 佐久也が友達から押し付けられていたハウツー本が動員された。ソファのそばの床にローション代わりのニベアと座敷から調達した座布団が用意された。座布団は折って女の子の下に入れ、挿入しやすい態勢を作るんだそうである。
「クッションじゃいけないの?」
 雫に真顔で言われて、佐久也はソファのクッションを見た。
 座布団は座敷へ送り返された。
 さらに時計が見られ、親たちの帰宅まで二時間以上あることが確認された。電話はおやすみ留守録にした。インターホンの電池は抜いた。そんなもの押さない友達は――
 降り続く雨が、追い払ってくれる。
「さて!」
 二人はソファにかけて見つめあい、キスを始めた。
 唇をなぞってゆっくり舌を差し込む、作法通りのキス。手はお互いの体に。触れ合うことで気持ちを高めて。
 佐久也は雫の柔らかい二の腕をさすり、雫は佐久也の胸を撫で回す。……が、じきにどちらからともなく動きを止めた。ガラステーブルのハウツー本に目をやる。
「次、なんだっけ」
「ええと……服を脱いで横になる」
「ぬぐの?」
 雫がタンクトップの胸元を押さえる。
「どうしてもぬぐの?」
「この本によれば」
「う、うん……」
 雫はタンクトップの裾に手をかけ、しばらくためらっていたが、やがてこそっと言った。
「あのさ……ほんとに、どーしてもなの?」
「なんで?」
「あたし……さっくんにぺろぺろしてほしい」
 初日と同じつやつやのミニスカートに手をやって、ちょっとだけ持ち上げた。
「そのほうが、さっくん楽しそうだから……」
 佐久也は本を手にとって後ろに投げ捨てた。あれ、と戸惑う雫に笑いかける。
「だめだ、あれ不良品だ」
「……なしでいいかな?」
「いいんじゃねえの? おれたち、あの本の五巻ぐらいまでいってると思うよ。一巻飛ばしちゃったけど」
「そっか!」
 どことなく硬い表情だった雫が、いっぺんに明るくなって言った。
 それからすぐに目を細めていたずらっぽく微笑み、内腿を指先で撫でながらスカートを引き上げた。
「……じゃあね、今日は……見ても、いいから」
「まじ?」
「見たいでしょ?」
 佐久也はソファから床に滑り降り、すばやく雫の前に回って合掌した。
「いただきます……」
「ど・う・ぞっ」
 楽しそうに言って雫が足を開く。佐久也はすんなりと伸びた太腿の間に顔を近づけて、うやうやしく両手を雫の腰に回し、お尻を引き寄せた。
 小さなリボンつきのパンツが迫り、ソファの崖の端で待ちかまえる佐久也の顔に乗った。雫はスカートをぎゅっと引き伸ばしてその頭を覆う。白い薄闇の中、佐久也はたっぷりした肉と、汗の匂うやさしい肌触りの布に包まれる。
 すーっ、すーっ、と息を吸う音が上がり始めると、雫は羞恥を感じて目を閉じ、ぎゅっと太腿に力を入れた。こんなとき、何か頼るものがあったような気がして、手を泳がせる。なんだっけ……
 そうだ、コントローラー。
 それはローボードの中だ。しらんぷりができない。このえっちなことと正面から向き合わなきゃいけない。
 あたし、さっくんに、嗅がせてる。
「ふーあー、恥っずかし……」
 火照るほっぺたを両手で挟んで、雫は小さく身を丸める。
 ちろちろと形の変わるものが触れた。佐久也が舌を使い始めた。雫は押される。ころんとソファの背もたれに倒れる。太腿を大きく持ち上げて、正しい角度から佐久也が濡らしていく。
 佐久也は雫の両足をきゅっと閉じさせてみる。合わさったところでぷくりとパンツが持ち上がる。その部分が雫のあそこだ。顔を横向きにして近づけ、まるごと甘噛みした。
 くむっ、くむっ、と心地よい弾力が返る。唾をたっぷり出して濡らすと味が染み出してくる。潮の味。雫がここにしかもっていない味。パンツを洗うつもりで、じゅううっと音を立ててすすった。
 ひあああ、と身を縮めた雫がぽそっと言う。
「さっくん、えろモード全開……」
「んにゃ、超えろモード。めちゃめちゃやるから覚悟しといて」
「ん……うんっ……」
 期待してうなずいた雫が、速攻で、あっちょっとだめっ! と叫んだ。
 佐久也はパンツを引きずりおろして足首まで下げた。いや、雫の足は若木のように天井を向いているから、引きずりあげた、ということになるか。
 雫の股間が出ていた。両足で押しつぶされたあそこは、赤く染まり、唾液でてらてら光ってぷっくり。その下のお尻の穴は、恥ずかしいのかひくひくと縮んでいる。
 佐久也はそちらに攻め込んでしまった。一番後ろから一番前まで、てろーっとひと舐め。
 きゅきゅっ! とお尻全体がひくついた。消え入りそうな雫の声。
「そ……そこまでやるかぁ……」
「恥ずい?」
「げき恥ず……泣きそう」
「ごめん、それいいって思った」
 続けざまに雫の秘密の所がなめられた。なめられるだけではなく見られている。すぐ目の前で。自分じゃない人に。自分でも見たことないのに。
 ……あたし、さっくんのものだ。こんなとこまでさっくんのもの……
 燃え上がるほど上気した顔で、雫はぞくぞくと背を震わせる。
 羞恥は分泌に直結した。おなかの奥がざわついてすごくたくさんあふれた。佐久也の前の谷間にとろとろと大粒の液が垂れて来る。雫の恥じらいが手に取るようにわかる。
 佐久也は足を広げさせた。足首に引っかかったパンツから右足を抜いて、雫はゆっくりと大きく股を開いた。
 湯気が上がりそうな薄紅の谷間が、ぱっくり開いて震えていた。
 ごく、と唾を飲んで佐久也は腰を上げた。カーゴパンツをトランクスごと下げて向こうへけっとばす。おそるおそる目を開いた雫が、きゃー、とこわばった顔でつぶやく。まさに顔を指して一直線に佐久也が勃起している。
 顔を上げると目が合った。佐久也は怖い顔になっていて、やさしさが感じられない。ちょっと怖くなった。
「それ、つっこむの?」
「うん、まあ……」
「そっとね。ほんとにそっとだからね!」
「できればね」
 佐久也が近づいた。太腿を両手でつかまれた。汁で濡れた佐久也の先端があそこに隠れた。
 ぎゅうううう、とものすごい力をかけられて、雫は反射的に身の危険を感じた。
「まったまったまった、ストーップ!」
「これが……本物だって」
「本物でも、本物でも、あいいいイッ!」
 さらにそれが食い込んできた。破れちゃう、と雫は悟る。本物って、破られるってことなんだ!
「ったあ! やめ、さっくんやめーっ! 本物なし!」
「しず……あのな、無理。おれもう止まんね」
「無理でもやめて、おねがい、さっくんっ!」
 雫はこぶしを固めてぽかぽかと佐久也の肩を叩いた。自分でもひ弱だと思ったので、思い切ってビンタにした。
 ばちん! といい音がして、佐久也が目を見張った。あっやりすぎた、と雫は焦る。
 怒っちゃったら。さっくんが怒っちゃったら! 
 だが、雫の相手は本物のパートナーだった。
 目をぱちくりさせると、あきれたように言った。
「本気でストップ?」
 こくこくこく、と雫はうなずく。んーん、とまじめな顔で唸った佐久也が、じゃこうするか、と言った。
「あれだろ、お父さんとお母さんがするみたいにしたいんだろ」
「したいけど、痛いのはナシで!」
「わかったわかった、だったら、つっこまずに出すのは?」
 ほへ? と雫は目を点にした。だから、と佐久也が股間に片手をやる。
「精子が卵子に出発するんだろ」
「うん」
「じゃ別にこれ入れなくても、ここから流し込めば済むんじゃねえの」
 まじまじと佐久也を見つめた雫は、それって本物? とつぶやいた。佐久也は首を振って言った。
「本物か偽物かしらないけど、これならどっちも痛くないだろ。それとも、痛くなくなるまで本物試してみる?」
「みない! そっちにする!」
「おっけい」
 ぴたり、と雫の中心にまたあれが当たった。身をすくめる。――が、今度は圧力がかからない。代わりに、そのつるつるした熱いものは、ゆっくりと滑り出した。
 円を描くように。くにゅ、くにゅっと。ひだと粒を優しく押しつぶして。
 雫はあごを引いてそちらを見る。佐久也が手でゆっくりしごきながら、先端を動かしていた。見上げる。彼は満足げに微笑んでいる。
「おれ、これでも十分ぽい。しずに流し込めるって考えたら――」
 目を閉じてぶるっと震える。
「めちゃめちゃ嬉しくなってきた。しずは?」
 雫もまねしてみた。目を閉じてあそこに集中する。一番恥ずかしいところを、さっくんの一番えろいものが撫でてくれてる。プールと一緒、プールより一億万倍えろい。
 しかも、その中の、あのまずくなくて匂いはわりといいトロトロが、あたしのおなかの中にだっくだく……
 頭がくらくらするほどいやらしい考えだった。頭が空っぽになるぐらいうれしい考えだった。
「……流しこんでぇ♪」
 熱っぽくささやいた雫に、佐久也がキスしてきた。
 くにっ、くにゅっ、と雫はかき回された。佐久也の手の動きに合わせて、くっくっくっと規則的な刺激が与えられた。もう指のときと変わらない。指よりも興奮する。
 手の動きがだんだん速くなり、くぷっ、くぷっ、とたびたび真ん中に押し付けられるようになった。そのたびに、それは少しの間止まってひくひく震え、名残惜しそうに離れていく。小さな生き物を見守るように雫は感じ取る。
 ……入りたがってる、破りたがってるぅ!
 それを佐久也が息を荒くして抑えつけているように思えて、雫は心の底からうれしくなった。両手をまわして苦しげな佐久也をぎゅっと抱きしめた。
 佐久也がせっぱ詰った口調で言った。
「しず、いくから。出すから。準備して?」
「じゅ、準備っ、おっけー! おっけーだよっ!」
「おっ……けー?」
 不意に佐久也が左腕で雫の首を抱いた。ぎゅうっ、と力が込められるとともに、股間が鋭く押された。
「――うあ、きたっ! きた、きた、きた、さっくんのきたぁ……っ!」
 雫は確かに感じていた。破る寸前まで食い込んだそれが、激しく膨らみながら液を吐き出したのを。液が狭い自分の中にはじけて、急速に満たしていき、やがていっぱいになって外へあふれ返るのを。
 雫は知った。
「……本物だよ、これ本物だよぉ。こんなにうれしいもん……」
 佐久也は答えなかった。ただ、しばらくすると首を抱く腕が、とてもていねいに背中を撫でてくれるようになった。

 そして信じられないことに、翌日は快晴だった。
 梅雨は明けたのだ。
 家に呼んだタクシーの前で、ボストンバッグを抱えた雫が上機嫌ぶっちぎりの笑顔で片手を振る。
「お世話になりましたぁっ! おじさんも、おばさんも――」
 くるりと佐久也を向いて敬礼する。
「さっくんも! ありがとっ!」
「んー、こちらこそな」
 佐久也は笑顔のような困り顔のような半端な表情で手を振る。ありがたいのは間違いないが、それをここで演説されるのはとても困る。第一、運ちゃんがいる。
 やってくれた。
「ね、昨日のであたし、しょじょそつぎょーだよね?」
 ぴしっ、と音を立てて世界が凍りついた。
 凍りついた世界の中で軽やかに雫は動き、タクシーの後ろで待つ両親の隣に入り込んで、窓から手を振った。
「それじゃさっくん、またしよーねー! ヘイ運ちゃん、空港まで!」
 あーはいはい空港ですね、とぎくしゃく動いて、運転手が車を出した。本当に空港まで行きそうだった。
 残された佐久也は、親にも聞けない難問に頭を抱える。
「おれって、あれで童貞卒業したの……?」


―― おしまい ――



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