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 Powered Girls! Part1-1 Steampunk Splash!


 棺によく似た箱の中には、ポニーテールの裸の女の子が収まっていた。
 形のいい乳房の上に、文字の書かれた細長いプレートが置いてあった。
「水濡れ注意!」
 十六歳の天才科学者である御機本工一は、眼鏡の下の目を細めてつぶやいた。
「……爺ちゃん、ダッチワイフぐらい防水にしてよ……」

 御機本工一は東京都下のミキモト御殿に住む少年である。
 ミキモト御殿がミキモト御殿と呼ばれているのは、その家が御殿と呼ぶにふさわしい千五百坪の豪邸であるからだが、呼び名の前半分は彼の祖父の事業に由来する。工一の祖父、御機本工吉はやはり天才科学者であり、日本の高度成長期にミキモト重工という大企業を経営して巨万の富を築いた。
 が、二代目の御機本工平は不運だった。忘れもしない一九九〇年、合衆国最大の電気機械メーカー、デルフォイ・エレクトリックと資本提携を結んだばかりだったミキモト重工は、バブル崩壊の直撃を食らって倒産した。ミキモトはDEに吸収されて経営陣が入れ替わり、社長の工平は妻ともども心労で亡くなった。生命保険金と特許使用料が、屋敷の抵当権とちょうど釣り合って、住むところだけは工一に残された。
 それが、工一が二歳のときの出来事である。二歳だったが工一はよく覚えている。何しろ天才だから。
 十二歳までは屋敷に住み込みの年老いた召使いが育ててくれた。十三歳の誕生日に彼女も亡くなったが、工一は悲しんだだけで困りはしなかった。もう十分、自分で自分の面倒を見られる歳だったからだ。
 それから四年。工一はだだっ広い屋敷に一人で住み、気ままな研究生活を送っていた。天才だから学校には行かない。友達もいない。文字通りの一人きりだが、どうということはなかった。工一が好きなのは研究だけだから。十四の頃から自力で特許をいくつか取り、金の心配もなくなった。
 しかしそんな工一にも、最近悩みができた。
 一ヵ月前、工一は初めて夢精した。
 十六だからかなり遅い。遅いが、正常な生理機能には違いなかった。その朝目覚めた工一は、濡れたブリーフをベッドに置いて、この新たな問題への対処方法を、天才らしくつらつらと考えた。
 思いついたのは、祖父の遺産のことだった。
 ミキモト御殿には倉庫がある。中身は祖父が残したガラクタである。重工が倒産したときに乗り込んできた債権者団体の鑑定人が、財産的価値なしとして放り出していったものだ。しかし工一は知っていた。一般人にはガラクタとしか思えないその品々に、天才・御機本工吉の精華が含まれていることを。
 そして祖父は、奇跡的な出会いで祖母と結ばれるまで、はなはだ女にもてなかった。天才だから当然である。古来、若年の天才は女に嫌われるものなのだ。しかし天才の祖父がその問題をそのままにしておいたわけがない。必ずや、なんらかの解決法を見出そうとしたはずだ。
 その予想に基づき、工一は倉庫の発掘作業を開始した。
 そして一ヵ月目に、念願かなってそれらしき品を掘り当てたのである。

 工一はその女の子を、フォークリフトで箱ごと自分の工房に持ち込んだ。手をつける前に窓のシャッターを下ろしてドアに鍵をかける。天才だから俗人のような羞恥心などないのだが、恥ずかしいからやっているわけではない。最近、御殿の周りを不審な者たちが徘徊するようになった。どうやら工一の財産を狙っているらしい。それを気にして目隠しをしたのだ。
 戸締りが済むと工一は女の子を工作台に移そうとした。が、小柄なくせにやけに重くて持ち上げられない。身長百四十八センチに対して、体重六十キロ以上もあるだろうか。百六十二センチ、五十二キロの工一にはちょっとつらい。仕方なくロープをかけて、チェーンブロックで持ち上げた。
 工作台に移してからは、調査である。この重さ、ただのゴム製ダッチワイフなどではないのは確かだ。間違いなく機械部分を内蔵している。スイッチ、アクセスパネル、プラグポートなどはないものか。
 手足を持ち上げたり、体をひっくり返したりするうちに、工一は興奮してきた。女の子の肌は本物の人間のように滑らかで柔らかく、つかんだ感触も、もっちりしてとても魅惑的だったからだ。油っぽさもなく、いやな匂いもしない。普通のゴムやシリコンなどではないようだった。
 ただ、温度は室温と同じでひんやりしていた。
 それに体の輪郭自体も美しい。腕や首元や腰は細くくびれているのに、胸は豊かな半球形に盛り上がり、尻から太腿への線もたっぷりとした肉感を備えている。ふと思い立って、工一はメジャーを取った。
「……バスト八十九、ウエスト五十三、ヒップ八十四か」
 カップはD、と工一はクリップボードに書き込んだ。
 がばっと太腿を広げてみると、女性器もあった。恥毛はなかったが、指で広げると陰唇、クリトリス、尿道口と膣口も造形してあった。肛門もある。周辺部の白い肌から見事なグラデーションで桃色に色彩が変化し、深部では美しい血の色になっている。勃起してしまったので、工一はズボンをつまんで位置を直した。
 これで一つのことははっきりした。この女の子はダッチワイフである。少なくともダッチワイフとして機能する。でなければこんなにリアルに女性器が造りこまれているわけがない。工一は実物を見たことがなかったが、医学書と照らし合わせた限りでは、リアルであると断言できた。
 両手を合わせて拝む。
「爺ちゃん、ありがとう。僕は性欲に振り回されて道を誤らずに済みそうです」
 ダッチワイフだけを相手に一生を終えることは、天才にとって誤った道ではないというのが、工一の信念だった。
 それはそれとしても、使用する前に機能を確定したい。今までのところ、この女の子に機械っぽい部分は一つしか見つからなかった。腰の左右、突き出した腰骨のやや後ろにあるパネルようなものである。縦横は十五センチと五センチ、回転式の金属板で塞がれている。鉄道の客席にある灰皿を一回り大きくしたような形だ。が、開ける方法は見つからなかった。
 説明書の類はない。どうすればこの女の子を「作動」させられるのか。工一はしばし考え込んだ。
 その時、胸に置かれていたプレートのことを思い出した。 
「水濡れ注意、か……」
 あれは故障を防ぐただし書きではないのではないか。誰かに見せるものであれば、使用方法を書いておくのが妥当というものだ。工一は女の子に目をやった。肌は恐らく防水性がある。故意に濡らしてやるとすれば、中だ。
 そうか、と工一はうなずいた。人間には体液というものがある。唾液だの愛液だのがあれば快適にセックスができるだろうが、ダッチワイフでは摩擦係数が高すぎるだろう。これに水を与えてやれば、人体の分泌を模した機能を発揮してくれるのかもしれない。
「爺ちゃん、凝ってたんだなあ」
 納得して、工一は水の用意をした。最初は局部に注ぎ込もうかと思ったが、女の子の口を調べて考えを変えた。歯があり、舌があり、喉に続いている。ダッチワイフに意味もなく喉など作ったら、オーラルセックスの際に精液の後始末が大変だろう。ということは別のものを注ぐための管だ。
 工一は女の子の口に自動車のオイル交換用の漏斗をがぽっと突っ込み、バケツの水を注いだ。それから漏斗を外して待った。
 最初の変化は、音だった。ぷつぷつと小さな泡がはじけるような音。出所は女の子の胸だ。工一は乳房に耳を押し付けた。
 ぷつぷつぷつ、と音が聞こえる。じきにそれが、しゅんしゅんしゅんという激しいものに変わった。天才でなくともわかる音だ。液体の沸騰音である。
 乳房がほんのりと温かくなってきたので、工一はぎょっとして離れた。この子は熱源を内蔵している! 早まった、バッテリーか、それともナトリウムなどの可燃性金属か?
 しかしそんな驚きは、次に起こったことに吹き飛ばされた。
 女の子が目を開けた。黒い大きな瞳がめまぐるしく動き、工一を捉えた。さらに女の子は作業台にひじを突く。ゆっくりと上体を起こす。両足を右に曲げてしとやかに座る。
 カチリと小さな音がした。腰のパネルが開いていた。
 そして女の子は、盛大に水蒸気を吐き出した。
 ぷしゅうううう!
 熱湯混じりの水蒸気が、突沸したフラスコよりも激しい勢いで女の子の背後に扇状に広がり、白い湯気となってもうもうと渦を巻いた。工一は顔をかばう。
「うわっつつ!」 
「……あ、ごめんなさい。水濡れ注意って書いてなかった?」
「し……しゃべった?」
 工一の眼鏡がずり下がった。女の子がこちらを見て苦笑していた。
 次の瞬間、工一は喚き立てていた。
「知能があるの? 感情があるの? 画像認識ができるの? 熱源は何?」
 女の子は眉をひそめた。
「最初からそれ? そのデリカシーのなさは、やっぱり工吉さんに関係ある人ね」
「僕は御機本工一、工吉は爺ちゃんだよ。うわあ、音声も言語も認識してる! 一体どういう――」
 叫ぶ工一に人差し指を突きつけて、女の子は世話焼きの姉のような口調で言った。
「あのね、初対面の女の子には、まずこう言うの。――君の名前は? って」
 工一は口を閉じ、おずおずと言った。
「……君の名前は?」
「ハズミ。ミキモト重工先端工業研究所謹製、SMH−0・『弾』よ」
 そう言ってにっこり笑うと、ハズミは両手で乳房を隠して頬を赤らめた。
「で、女の子にとって……裸って恥ずかしいものなんだけど」

 屋敷には亡くなった召使いの服がそのまま残っていた。工一はそれを持ってきて渡した。ハズミは黒いスカートとブラウスを身に付けたものの、下着は返した。サイズ合わないし他人の着た下着は嫌だし、第一ズロースって色気がないし、とのことだった。
 いわゆるメイドの姿になると、ハズミは椅子に腰掛けて工一と向き合った。その間ずっとしゅんしゅんしゅんと音を立て、ブラウスを切り欠いた両腰のスリットから水蒸気を吐いていた。工一は気になって仕方ない。身を乗り出して尋ねる。
「ねえ、君はどういう仕組みで動いてるの?」
「見ての通り、レシプロ蒸気機関よ。体内で水蒸気を作って膨張圧でシリンダーを動かしてるの。思考部分も機械稼動だし、体温も蒸気でほかほかよ」
「熱源は何?」
「秘密。――うふふ、そんな顔しないで。相手の性格を確かめるまでは明かすなって工吉さんに言われたの。危険はないとだけ言っておくわ」
「蒸気で考えて動くって言われてもなあ……」
「ほんとよ」
 ハズミは左手の袖をめくり、手首を見せた。綺麗な腱の浮いた手首がぱくりと開き、映画に出てきた殺人ロボットそっくりのロッドやアクチュエーターが、指の動きに合わせて――いや、指を動かして、ぴこぴこと伸縮していた。
 パタンと蓋を閉じて言う。
「頭も見る? 頭蓋骨の中はブラックボックスだけど」
「……爺ちゃんの時代のものとは思えないね」
「日本の工業技術力をなめないで。製品化できないぐらいものすごいお金のかかった仕組みだけどね」
 ぺろりと舌を出して、ハズミは屈託なく笑った。――そんな仕草をすると、機械だとは全然思えなくなるのだった。
「蒸気機関だから、水だけは常に補給しなきゃいけないんだけどね。水ぐらい安いものでしょ。……あ、それともまさか、この時代は水が貴重品になってるとか?」
「そんなことないけど。今は二〇〇四年。君の頃から三十年ぐらいしかたっていないんじゃないの」
「三十五年だわ。そっか、三十五年たってまたチーフに会えたか。まずはめでたいなあ」
「チーフ?」
「工吉さんの趣味。機関長ってこと。あ、工一さんのほうがいい?」
「そっちのほうがいいかな」
 工一がうなずくと、よろしく工一さん、とハズミが微笑んだ。工一は赤くなってうつむく。羞恥心はないが、同年代の女の子と会話するのはこれが初めてなのである。むむ、これは照れくさいって感情だな、と天才らしく分析する。
 そんな工一を見ていたハズミが、不意に顔を寄せてささやいた。
「それで、工一さん。こんな話ばっかりでいいの?」
「え?」
「エッチなこと、したいんでしょ?」
 顔を真っ赤にしつつ、いや動揺しちゃいけないと自分に言い聞かせて、工一はうなずいた。
「そ、そうだ。僕は君を使いたい。……じゃなくて、君とセックスしたい」
「使う、でいいわよ。道具なんだから。うふ、ストレートね」
「決定と行動がモットーだから」
 ここは動揺するのが当たり前なのだが、天才の工一としてはあくまでも理性的にいきたいのだった。必死に思考を保つ。
「どうしてわかったの? その……僕が欲情していることが」
「だって工一さん、私の正体を知らなかったでしょう。正体を知らずに裸の女の子を調べてたってことは、エッチな目的以外、考えられないじゃない」
「そうだね……」
 うつむく工一の手を取って、ハズミはあっけらかんとした顔で工作台を指差した。
「ここでいい? 誰か来る?」
「ううん、ここには僕しかいない。でも、いいの?」
「見たんでしょ? 私、エッチのできる体よ」
 ハズミは工作台に腰掛けて、ちらりとスカートの裾を持ち上げた。平たくつぶれたなまめかしい太腿が工一の目を直撃する。
「歓迎します。工一さんの……チーフの初使用」
「せ、積極的だねえ……」
 つぶやいて、工一はハズミの前に立った。肩に両手を置いて顔を近づける。
 ポニーテールに縛った髪の残りが、顔の両横に垂れていた。吊り目気味の瞳を軽く細めて、ハズミは嬉しげに頬を赤らめている。薄桃色の唇が小さく開く。工一はそれをおそるおそるついばんだ。
 ちゅっ……。
 ハズミが工一の頭に腕を回し、抱き寄せた。工一も抱き返し、しっかりとしたキスを始める。ほんのり湿って温かい唇が心地よく、心臓が高鳴って息苦しくなった。
 ハズミが片手を工一の股間にやる。
「……すごい、もうカチカチ。もしかして、初めて?」
「もちろん」
「うわ、それは嬉しいかも。……工吉さんは経験あったからなあ」
「そうなの? 爺ちゃんオクテだと思ってたけど」
「恋をしなくても女の子を抱く方法はあるでしょ? だからこそ、私にいろいろ教えられたわけで。……ま、それは今言うことじゃないか。工一さんも気にしないでほしいな」
「君は気にするんだ」
「気にするっていうよりは、ほんとに嬉しい」
 ハズミがさわさわと工一の胸を撫で回す。
「工一さん、好みだから。私が初めてをもらっちゃうなんて、悪いぐらい……」
「好み?」
 工一は窓に目をやる。外がシャッターで閉ざされているために、明るい室内の様子が映っている。白衣を着て眼鏡をかけた小柄な少年が自分の姿だ。あまり容姿を気にしたことはないが、男性的でないことぐらいはわかる。
 ハズミが頬ずりして言う。
「好みよ。工吉さんを十倍可愛くしたみたい」
「それは、もともと君がそういうセッティングなんじゃないの?」
「それでもいいじゃない……」
 工一のシャツのボタンを外して、ハズミが乳首にキスした。くぅん、と工一は子犬のようにうめく。
 ハズミは片手で股間をずっと愛撫している。工一のそれは、もうファスナーを押し開きそうなほど膨らんでいる。ハズミが熱っぽくささやく。
「手順を踏んでしっとりするのがいいですか。それとも、手順すっ飛ばして私を犯したい?」
「そんなことしていいの?」
「どちらでも、工一さんのお好きなように」
「……じゃあ、すっ飛ばす」
 プライドがうずいて、工一は強めに言った。すてき、と目を細めてハズミはつぶやき、両膝できゅっと工一の腰を挟んだ。
「下、履いてないから」
「いいんだね」
 工一はファスナーを下げた。
 ブリーフからつまみ出すのに苦労するほど硬くなっていた。ぷるん、と現れたそれは試験管を半分に切ったほどの大きさだ。硬さも同じ、そして一途なまっすぐさも。
 温度だけは熱湯のそれだった。スカートをかき上げて突きつけた。ハズミが尻をずらして前に出る。潤んだ瞳で見上げてささやく。
「想像より下から突き上げる感じで。初めてならそれでちょうどいいはずです」
「わかったよ」
「押し倒して……」
 工一はハズミを台に横たえながら、腰を押し付けた。ハズミの指が手伝ってくれて、先端がくにゅっとぬかるみに当たった。
「そこ。そのまま」
 ぐいっ! と思い切り工一は押した。すると、たっぷりオイルを塗ったような柔らかい感触が、ずぷんと性器を飲み込んだ。工一は思わず目を閉じてため息をつく。
「ふわぁぁ……」
「いらっしゃい、初めてのおちんちん……」
 ハズミが幸せそうに顔をのけぞらせた。ばさっ、と長いポニーテールが台を叩いた。
 工一は弾力のある乳房に胸を押し付けて、腰をくいくいと動かす。ハズミの熱い肉が、硬さを確かめるようにきゅう、きゅう、と収縮している。わざとなのか勝手になるのかわからなかったが、工一にとっては腰がしびれて溶けてしまいそうな快感だった。硬く張った根元がひくひく震えて、早くも放出の欲求がこみ上げてきた。
 呼吸を殺してささやく。
「で、出そう……」
「もう? あ、ごめんなさい」
「だって僕、これが初めて」
「ってまさか、自分でしたこともないの?」
 こくりと工一はうなずく。やだ、とハズミが片手で頬を押さえる。
「それじゃ、正真正銘の……」
「む、夢精なら」
「そんなの数に入らないでしょ。うわあ……こんな可愛いチーフの初発射かあ。機械冥利に尽きるわあ……」
 うっとりとつぶやくと、ハズミは両足でぎゅっと工一の尻を押さえつけた。工一は敏感な先端を硬めの肉にきゅむっとくわえ込まれ、悲鳴のような声を漏らす。
「はわぁっ、キモチよすぎ……っ!」
「最高によくしてあげる。人間なら妊娠覚悟じゃないとできないこと。当たってるのわかる?」
「うん、うん!」
「そこ、子宮よ。……子宮そっくりに作られたとこ。工一さんも男の子なら、それが一番いいはず。自分の本能、わかるでしょ?」
「うん……っ!」
 工一は暖かい体を力いっぱい抱きしめる。心よりも深いところから欲望が湧き出している。自分の子供を造りたい、女の子を孕ませたい。
 ハズミが強く抱き返して、下腹を押し付けた。
「さ、流し込んで。……私のおなか、満タンにするつもりで」
「う、うん……くふぅぅっ!」
 全身の筋肉を引き絞るような感覚で、工一は射精した。太い濁流が勢いよくペニスを貫いて噴き出した。尿道を削る粘液の感覚が、凄まじい快感となって脊髄を駆け上る。さらに、飛び出した液を受け止める粘膜の弾力まで感じられて、目もくらむほど心地いい。
 無意識に腕に力が入り、指をハズミのわきに食い込ませていた。ハズミが愛しそうに頭を抱いてつぶやく。
「一回、二回、三回、四回……まだまだ出てる、工一さん、ありったけ吐き出して……」
「はっ、はあっ、んあっ……!」
 ぐいっ! ぐいいっ! と腰全体をめりこませるような強さで、工一は最奥部での射精をなし終えた。尻に力をこめて最後の残滓を絞り出すと、すうっと闇に落ちるように欲望が収まり、穏やかな虚脱感がやって来た。
「ふはぁ……」
 へなへなと身を預ける。ハズミがやさしく頭を撫でながら言った。
「気持ちよかった?」
「うん、とても。なんていうか……真っ白に焼けちゃったみたいだった」
「わかります。八・六cc……新記録。おちんちん、ものすごく嬉しそうでした」
「そんなの計量するなよ……」
 そうは言ったものの、ふにゃふにゃのにやけ顔をどうしようもできず、工一はハズミの頬にキスした。
「セックスってほんとにいいんだねえ。どうして男たちがあんなに必死に女漁りするのか、よくわかったよ。ハズミが見つかってほんとによかった……」
「あ、工一さん」
「ん?」
「夢中になってて警報忘れてたわ。私、あと二秒で――」
 ぷしーっ! とハズミの両腰から蒸気が噴き出した。ハズミがかくんと頭を落とす。あれ? と工一は焦った。まだつながったままで、ハズミの足も外れていない。
 幸い、工作台には水道が付属していた。ホースを引き寄せて口に水を注いだ。
 しばらくするとハズミはまたしゅんしゅんと蒸気を吐き始め、頭を起こした。
「――動作圧を割っちゃうの」
「よくわかったよ」
 次はもうちょっと早めに言ってね、と工一はキスをやり直した。

 乙女の身だしなみ、と言ってシャワールームに消えたハズミを見送ると、工一はキッチンから飲料水のペットボトルをいくつか持ってきた。ハズミが戻ってくるとそれを示す。
「水がなくなったら飲んで。水道まで間に合えばいいけど」
「なにこれ。今は飲み水が売り物になってるの?」
 一口飲んで、おいしい、とハズミは顔をほころばせた。今度何トンか取り寄せようと工一は決心した。試しに尋ねる。
「消費率は大体どれぐらいなの?」
「満タン三リットルで三十分ぐらいかしら。激しく動けばもっと減るけど」
「けっこう速いね。もっと飲めない?」
「おなかパンパンになっちゃうでしょ!」
 ハズミににらまれて、そうだね、と工一は苦笑した。
 聞きたいことはまだたくさんある。それを口にしようとした時、突然部屋が真っ暗になった。
「……え?」
「停電?」
「かな」
 自家発電機はあるが、作動は自動ではない。屋敷の配電室へ行かなければならない。とりあえず手探りでアルコールランプを探して、火をつけた。妙に顔をこわばらせているハズミに笑いかける。
「大丈夫だよ、すぐつけてくるから。あ、窓を開ければいいのか」
「そうじゃなくて、工一さん――待って!」
 突然ハズミが走り出し、ドアを開けようとした工一を後ろに引きずり倒した。
 その直後、ものすごい音を立てて、ドアごと壁がこちらへ崩れてきた。ハズミがもろに下敷きになる。工一は呆然として尻もちをつく。馬鹿でかい貨物トラックが突っこんできたのだ!
 もうもうと上がったほこりを、外から差し込んだ陽光が照らした。その中に、三人の人影が降りてくる。いずれも大柄でたくましい、目出し帽姿の男たちだった。背の高い痩せた男が工一を見て驚いたように言った。
「ありゃ、いるじゃない。誰だよ留守だって言ったのは」
「シャッター降りてるからいないと思ったんだよ」
 背が低く小太りの男がいまいましそうに言った。次いで、一番ごつい巨体の男が低い声で言った。
「ま、どっちでもいいやな。こんなひ弱そうなガキ一人、どうにでもなる。……おい、ミキモトの御曹司。金を出せ」
 工一は事態を理解した。こいつらは、例の屋敷のまわりをうろついていた怪しいやつらだ。本当に工一の財産を狙っていたのだ。
 へたり込んだまま、精一杯の勇気を振るって工一は言った。
「出て行け! すぐ警察が来るぞ!」
「それがそうでもないんだな。ドンチャカやってもよそに聞こえない広い屋敷って条件で、てめえんちを選んだんだから」
「音が聞こえなくたって、セキュリティが……」
「それも殺した。なんで昼間っから停電したと思う?」
 小太りの男が得意げに言った。工一はほぞを噛む。いや、自分の迂闊さを呪っている場合ではない。
 立ち上がって、指を突きつけた。
「すぐにその車をどけろ! 下に人がいるんだぞ!」
「人?」
 痩せた男がぎょっとしたように足元へ目をやったが、すぐに笑い声を上げた。
「その年にしちゃあ立派なハッタリだねえ。君が一人暮らしだってことは知ってるんだよ。……どれぐらい貯め込んでるかもね」
「くっ」
 工一は身を翻し、壁際の消火器に走ろうとした。すかさず痩せた男が敏捷に走ってきて、工一の白衣の襟首をつかみ上げた。
「無駄な抵抗はおやめって。おとなしくしてればケガさせないからさ」
「……もうちょっと独創性のある脅しをかけたら?」
「ご立派。でもね、こういう場合の文句っていうのは型が決まってて、またそれで用が足りるのさ」
「おい、無駄話をするな」
 巨体の男が大またにやってきて、いきなり工一の頬を平手打ちした。パン! と乾いた音が響く。眼鏡は飛ばなかったが、代わりにレンズにひびが入った。
 ドスの利いた声で男が言う。
「金だ。現金を出せ。株だの権利書だのはいらん」
「……」
「早めに吐け。殺す気はないが、あきらめる気もないぞ」
 パン! ともう一度。工一の両頬が真っ赤になった。
 工一は唇を噛み締める。無力だった。天才だから腕力などいらないと思っていたが、この時ばかりは力がほしかった。
 何よりも、ハズミをあっさりと壊されてしまったことが無性に悔しかった。
 涙を浮かべてつぶやく。
「ハズミ……ごめん!」
 その時だった。
 がたん、と倒れた壁が動いた。上に乗っていた小太りの男が、ひょっ? と妙な声を上げて跳び下がる。すると発泡コンクリートの壁板がじわじわと持ち上がり始めた。
 突然、壁板を跳ね飛ばすようにして人影が立ち上がった。ばさっ! とポニーテールをひと振りしてほこりを払い落とし、爛々と光る目でこちらをにらんだ。
 工一が叫ぶ。
「ハズミ!」
「……機関長チィーフ・エンジニヤー、ご無事ですか?」
 喜びかけて、工一は絶句した。口調が全然違う。まるで雌のライオンが威嚇しているようなおどろおどろしい声だ。かろうじてうなずく。
「か、軽く叩かれただけ……」
「叩かれたぁ?」
 ハズミはずかずかと工作台に歩み寄り、ペットボトルを一本、ごくごくとらっぱ飲みした。あっという間に空にして投げ捨て、ぐいっと拳で口元を拭う。
「賊と判断します。撃退を許可してもらえます?」
「なんだ、おまえ……」
 小太りが後ろから近づいて、ハズミの右腕をぐいっとわしづかみにした。
「えらく頑丈な女だな。格闘技でもやってんのか」
「チーフ、許可を」
 男を見もせず、ハズミは工一に言う。工一は戸惑う。ダッチワイフにそんなことができるのだろうか?
 小太りが苛立ったようにハズミの腕を引いた。
「ややこしくなるから黙ってろ。おら!」
 どさっとハズミを引き倒し、うつ伏せに押さえつける。八、九十キロはありそうな男の体重が、ハズミの背にかかった。
 工一は思わず叫んでいた。
「許可するよ、ハズミ!」
「アイアイ・サー。……ドレン開放、安全弁閉鎖、戦闘加圧開始します」
 音が高まった。湯の音が。しゅんしゅんしゅんと沸騰音が高まっていき、ハズミの頬がばら色に染まった。
 突然、シューッ! と猛烈な勢いでハズミの腰から熱湯が噴き出した。最初に動き出した時の比ではない。小太りの男がぎょっとしてハズミの体を見回した。
「な、なんだ?」
「缶圧三キロから四キロへ。ドレン閉鎖、レギュレーター、クォーターからハーフ。カットオフ二十から四十。……さあ、行くわよ!」
 そしてハズミは、腕立て伏せの形で男を持ち上げた。
「うおっ?」
 男が転がり落ちると、すかさず振り向いて片手をつかむ。驚いて後ろに下がろうとする男を両手で引き戻す。男が腰を落として力を込める、しかしハズミも同じように爪先を踏ん張って引き返す。一瞬、柔道の崩しあいのような姿勢になる。
 しかし、ハズミのほうがはるかに強かった。踏ん張る男をごぼう抜きに引っぱるや、遠心力をつけて背後に放り投げた。丸っこい体が軽々と宙を飛んだ。
 がっしゃーん! と盛大な音を上げて壁際の工具ラックに突っこんだ男を、工一と他の二人は、唖然として見つめた。
 ハズミがキッとこちらに視線を向ける。
「次は?」
「この野郎!」
 痩せた男が工一を放り出して走り出した。手近にあったバールを拾い、ハズミに向かって思い切り叩きつける。
 ばしっ! と短い音がした。ハズミが片腕を上げてバールを受け止めていた。にっと笑ってつぶやく。
「レギュレーター、ハーフからサードクォーター。今のうちに降参したほうがいいわよ?」
 しゅっしゅっしゅっ、と蒸気の噴出ペースが速くなった。男は目出し帽の中の目を吊り上げ、立て続けにバールの乱打を浴びせた。
 ハズミの肩に、腕に、腰に、バールが何度も当たり、乾いた音がいくつも連なった。だがハズミは一歩も下がらず、身を守ろうともせずにそれを受けている。男の声が上ずる。
「こっ、こいつ、なんなのさ一体!」
「さあてね?」
 頭に降ってきたバールを、ハズミは片手ではっしとつかんだ。手首だけでぐるりとひねると、男が体ごと一回転して床に叩きつけられた。技をかけたとか受け流したとかいったことではない。単純に腕力だけでやっているのだ。とんでもない力である。
 そこへ、最後に残った男が突進した。小柄なハズミとは別の生き物のような巨漢である。工一は声を上げた。
「ハズミ、避けて!」
 どすっと砂袋がぶつかり合うような音がした。
 巨漢の体重を乗せたパンチを、ハズミが重ねた両手のひらで受け止めていた。三十センチ以上もの身長差があり、男がのしかかるような形になる。そのまま膝を折ってしまってもおかしくない。
 だがハズミは、パンチを払いのけようとすらしなかった。拳を受けたままぐっと腰を据えて、まっすぐに押し返す。伸びきった二人の腕がぶるぶる震える。しゅっ、しゅっ、しゅっと断続的な激しい蒸気をハズミは吐き出している。
 ぐうっとうめく男へ、ハズミは楽しげに言った。
馬力ウマが足りないわよウマが!」
 ついにそのまま、ハズミは男を押し戻し始めた。足を踏みしめながらじりじりと進み、やがて小走りになる。男は踏ん張ろうにも、足が滑ってしまっている。
 加速をつけて男を壁に叩きつけた。後頭部から鈍い音が上がり、男はずるずると滑り落ちて動かなくなった。
 工一が歓声を上げて駆け寄る。
「やったね! すごいじゃないか!」
「どうってことないです、こんなチンピラ。……レギュレーター、ハーフ」
 ハズミが振り向いて笑う。蒸気がやや穏やかになる。工一は訊く。
「なんでいちいち口に出すの?」
「じゃあどうやってチーフへ状態を伝えるの? テレメーターなんかないのよ」
「ああ、報告なの……」
 工一がうなずいた時だった。
 ディーゼルの音がした。はっと振り返ると、トラックが瓦礫を振り払ってバックし始めていた。運転席に乗っているのは、さっきハズミが叩きのめしたはずの痩せた男だ。気絶していなかったらしい。
 トラックとは思えない豪快な運転で百八十度向きを帰ると、芝を蹴散らして逃げ出した。
 ハズミが走り出した。工一が声をかける。
「ほっときなよ、間に合わないって!」
「追いついてみせます、チーフは水を!」
 飛び出しかけた工一はあわてて引き返し、ペットボトルを持ってきた。
 その短い間に、トラックはかなり進んでいた。花壇を蹴散らし庭木を轢いて一目散に正門へ走っていく。よほど怖かったのだろう。
 だが、ハズミも速かった。上体をうんと伏せて地の上を滑るような姿で、素晴らしい勢いで駆けていく。工一は目を丸くする。
「金メダルが三つぐらい取れそう……」
 正門まであと十数メートルというところで、ハズミがトラックの前に回りこんだ。急ブレーキをかけたトラックを、両手を突き出して待ち構える。
 ものすごい衝突音が上がった。トラックが静止する。工一からは前のほうが見えない。青くなって走る。
「ハズミ、大丈夫!?」
 トラックの前に回りこんだ工一は目を見張った。ハズミは見事にトラックを受け止めていた。膝のあたりまで土にめり込み、手を突いたフロントパネルはぐしゃりとへこんでいる。呆れるほどの頑丈さだった。
 運転席で痩せた男が度肝を抜かれている。だが、ハズミが無事と知ってやけになったようだった。ぐぉん! とディーゼルが吠え、後輪が敷石の上で空転して、猛烈な青い煙を噴き出した。
 ハズミの肘がじわじわと曲がっていく。顔をしかめて振り返る。
「チーフ、水!」
「う、うん!」
 工一は駆け寄り、ハズミの口にペットボトルを突っ込んだ。ハズミは頬をすぼめて、じゅっと一息に一リットル半を飲み込んだ。
 顔を真っ赤にして嬉しげにつぶやく。
「レギュレーター、フル! カットオフ八十!」
 そして、しゅん! しゅん! しゅん! と破裂したような勢いで蒸気を噴き出した。
「ウマが足りないって……言ってるでしょうっ!」
 工一の前で、少女の細い足がずぶりずぶりと地面を掘り返して進み、武骨なトラックがじりじりと下がり始めた。
 もはや、力持ちとか丈夫とかいう次元を超えた光景だった。
 焼け付いたトラックの後輪がとうとう破裂した。バン! とゴムがはじけ散るとともにホイールが敷石を叩き、トラックは一瞬で前進力を失った。その途端、ハズミがかけていた強烈な力が解放され、トラックは後ろへ数メートルも吹っ飛んだ。
 二人は運転席に駆け寄ってドアを開けた。痩せた男はむち打ちにでもなったのか、首を押さえてうめいていた。ハズミを見て苦笑いする。
「すごいじゃないの、あんた……」
「降参しなさい。もう逃げられないわよ」
「仕方ないね。あきらめるとするか、一つだけいいものも見られたし」
「……いいもの?」
「あんたのスカートの中」
 ハズミは目を落とした。こいつを工房の床に叩きつけた時、またいでしまったような気がした。
 男を引きずりおろして、今度こそ気絶するように敷石へぶち落とした。

 ロープでふん縛った三人組を警察へ引き渡すと、工房を直すよりも先に、工一はハズミを作業台に座らせて言った。
「あれだけ無茶やって、大丈夫なの?」
「さあ、どうかな。中のことはあんまりわからないから」
「困るじゃないか!」
「だから機関長が要るの。――メンテ、頼めるでしょ?」
 工一は顔を輝かせてうなずいた。
「もちろんだよ! 任せといて、僕は何しろ天才だからね!」
「頼もしいな。それじゃ工一さん、まず一つお願いしていい?」
「なんでも言って」
「じゃあ……」
 大の男を三人やっつけて、トラックを押し戻した機械少女は、しゅーっとため息のように蒸気を吐くと、はにかみながら工一に耳打ちした。
「パンツ買ってね。うんと可愛いやつ」


―― Powered Girls Part1-1  End ――



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