| top page | stories | catalog | illustrations | BBS |
− 参 湖藍の章へ −


紺天宮秘事集 −こんのあめのみやひめごとあつめ−

 肆 開花の章

 妻戸をすっかり閉じられた庇は、薄暗い物置のようだ。
 一歩、また一歩と近づく湖藍に押されて、葡萄は壁まで後ずさる。できるものなら浮舟倉まで逃げて隠れてしまいたいが、もう逃げ場はない。下がれなくなると、すっと湖藍が顔を寄せた。
 どんな折檻を受けるのか、と葡萄は目をきつく閉じる。
 耳にささやかれたのは意外なひとことだった。
「なぜ、傷ついていないの」
「……え?」
「なぜあなたと杏は、傷つけあっていないの」
 葡萄は目を開けた。湖藍媛の端正な顔が間近にある。翠色の瞳がじっと見ている。
 その瞳に、思っていたような嗜虐の気配がなかったので、葡萄は戸惑った。
 この人は、私を傷つけたいんじゃない。私からなにかを奪おうとしているんだ。
 これは焦燥だ。
「好き合っているんでしょう!?」
 叩きつけるような湖藍の声に、びくっと身をすくめる。認めるのは禁忌だ。けれどごまかせない激しさだった。こくり、と葡萄はうなずく。
「ならば!」
 湖藍が片手を挙げ、ぱん! と音高く葡萄の頬を叩いた。
「思うはず、侵したいと! 相手に自分を強くぶつけて、貫いて、汚して、壊したいと思うはず! そうやって相手を自分の内に引きずりこみたいと思うはず! なのに……」
 よろめいた葡萄の首に手をかけて、きう、と湖藍は締め上げた。
「なぜ、あなたたちは壊さずに寄り添っていられるの」
「知らない……んですね」
「え?」
「湖藍さまは……その気持ちの正体を、ご存じないんですね」
 締め付けがゆるんだ。葡萄は壁に背を預けて咳きこむ。
 手を下ろした湖藍が、いぶかしげに尋ねた。
「あなたはそれがなんだか知っているの」
「はい。その散らし方も……」
「では言いなさい。このうずきを鎮める方法はいかに?」
 葡萄は意を決し、湖藍を見上げた。杏との付き合いを認めてもらうためだ、仕方がない。
 唐衣を両肩から下ろし、白い小袖の胸を開いた。象牙のように滑らかな肌を湖藍の体に押し当てる。
「な、何を――」
「し、お待ちください。落ち着いて、私を見て」
 戸惑う湖藍に、葡萄は自らの体をそっとこすりつけ始めた。湖藍のほうが頭一つ分も背丈が高い。その胸が葡萄の顔に、腰が腹にあたる。すらりとした湖藍の体を、葡萄はそっと抱きしめた。
「湖藍さま……?」
 葡萄に見上げられて、湖藍は反射的に離れようとした。葡萄は気が弱くて苛立たせられる娘だが、容姿は美しい。そんな娘を見ているだけで高ぶってしまうことが、湖藍はしばしばあった。そうなることを知られたくなかった。
 だが、退こうとした腰を葡萄にしっかり抱えられた。
「下がらないでくださいませ」
「……」
「取り繕わないで。力を抜いて。存じ上げております、こうすると昂ぶられること」
「差し出がましい!」
 湖藍が右手を振り上げ、再び葡萄を打とうとした。
 その手が、宙で止まる。
「誰にも、漏らしませんから……」
 股間の根が葡萄のやわらかな下腹にこすられ、目覚め始めていた。
「く……」
 湖藍は唇を噛み、葡萄をにらみつける。眼に込めた怒りだけで娘を追い払おうとする。手を下ろせない。下ろせば葡萄を突き放してしまうから。甘美なしびれを失ってしまうから。
 とくん、とくん、と鼓動とともに根が持ち上がり、やがて隠しようもなく袴を突き上げてしまった。それを人に見せたことなどない湖藍は、白皙の頬を羞恥に染める。けれども、それを人に触れられたことがないゆえに、生まれて初めての心地よさに抗し切れなかった。
「やめなさい……やめるのです……」
 命じる声に力はない。葡萄もそれがわかっている。うつむいて湖藍の眼差しから逃げつつ、ひっそりと腹で湖藍を撫でている。背伸びするように爪先を屈伸させて、体の目方を湖藍の腹に預けている。
 反り返り続けた湖藍の根が、とうとう下腹に張り付いた。へその下に縦一条、くっきりと土手が浮き出している。まるで袴の中にずんぐりした蟲が潜んでいるよう。葡萄が腹を揺すると、ころころと音がしてしまいそうだ。見苦しい、はしたないと思いつつ、湖藍は彼女を突き放せない。すすり上げるような声を漏らして両手で顔を覆う。
「やぁ……やめぇ……」
 根の先から広がる甘いしびれが下半身を溶かす。かくっ、かくっと膝が笑った。湖藍は甘さに耐えられない。どっと壁に背を預けながらずるずると尻を下ろしてしまった。
 それを葡萄は、機と見てとった。
「……ごめんくださいませ」
 袴をたくし上げて、湖藍の腰にまたがった。湖藍が切れ長の目を半ばまで開く。
「あなた……こんなにして!」
 葡萄もとっくに根が張っていた。いっぱいに反り返った小さな根の下に、根を支える堅い血溜まりがある。子種の袋のさらに裏、そのくるみのように膨れたところが、湖藍の根にぐいと押し当てられたのだ。
 叱ろうとした湖藍は、間近に迫った娘の顔に息を呑む。
「湖藍さま、ここに何が詰まっているか、ご存知……」
 ころころ、と当たりあう小さな玉の感触。甘美にすぎるその手ごたえに負けて、湖藍は股を浮かせんばかりに根を押しつける。
 絹より細い紺の髪が近づき、甘やかな息が湖藍の頬をくすぐった。
「子種、です」
「……え?」
「おのこがをみなに注ぐ子供の種……私たちは、娘ではないんです」
「あなた……何を……言って……?」
 心地よさに埋められていく湖藍の頭の隅で、危機感が急に高まる。葡萄にこすられる根の芯がちりちりと震えている。このままではいけない、あふれる、漏らしてしまう……。
「やめ……やめなさいっ」
「あ……そ、そうですね。湖藍さまのお召しが汚れてしまう」
 葡萄が腰を浮かせ、湖藍はほうと安堵ため息をついた。
 だが、それもつかの間――
「失礼いたします」
 葡萄が湖藍の腰に手を回し、帯を解くが早いか袴を引いた。笹ひだを境に袴の前がはらりと垂れる。そうなると湖藍の前を隠すのは小袖だけ、しかしその合わせ目は内からこんもりと盛り上がり、じくじくと露に濡れている。
 かき分けると、現れた。
 うす紅に染まってすらりと反る、湖藍の男根おのこねが。
「葡萄、あなたっ……」
 隠そうとする湖藍より早く、葡萄はそこに手を滑りこませた。合掌して根を挟む。怜悧な湖藍にふさわしく、鮎のように細く硬い根が震えていた。
 びくっ! と腰を突き上げて、湖藍が悲鳴のような声を上げる。
「おやめなさいっ、離して!」
「いいんです、湖藍さま。放って……」
「い、きぃっ……!」
 悔しさと歓喜の混ざった、甘いうめき。
 胎児のように背を丸めて膝を立て、湖藍が放った。またがって覗きこむ葡萄の顔めがけ、垂直に立てた根から子種を噴き上げる。何度も何度も、発作のようにぶるぶると震えながら。
 ――なに……これは……
 根の芯をじゅうっ、じゅうっと焼かれるような未知の快感に、湖藍は心底まで酔い痴れた。自分がどんな姿で何をしているのかもわかっていない。ただ解き放たれる喜びだけに溺れた。
 うつろな瞳で陶酔する湖藍をじっと見下ろして、葡萄は微笑んでいた。白磁の像のように冷たかった湖藍でさえ、子種を放つ喜びから逃れられなかった。この人も、やはり自分たちと同じおのこなのだ。
 やがて放出が終わると、はーっ、はーっと激しく肩で息をしていた湖藍がふと顔を上げ、目を見張った。
「ぶ……葡萄、あなたそれは?」
 葡萄はにっこりと笑って、顔に何度も浴びせられた白い蜜を指でぬぐう。
「湖藍さまの子種です。……覚えていらっしゃいません?」
「私の……ですって」
 驚いた湖藍が股間を見下ろし、泣きそうに眉をゆがめた。どろどろに汚れた葡萄の片手の上で、萎えた根が満足げにひくひくと震えていた。
「く……」
 唇を噛みしめて湖藍は顔を背ける。
「……とんだ粗相だわ。笑いたければお笑いなさい」 
「とんでもございません。私、うれしいです」
「うれしい?」
「ええ。湖藍さまに、これの気持ちよさをわかっていただけて。心地よかったでしょう?」
 湖藍は顔を背けたまま、不承不承うなずいた。ちらりとこちらを見た瞳に葡萄はささやきかけた。
「湖藍さま、思い人がいらっしゃいますね」
「……なぜそう思うの?」
「でなければあんなに焦っていらっしゃるはずがありませんもの」
 湖藍は、無言。葡萄はさらに顔を寄せて言う。
「認めてください、私と杏のこと。その代わり……」
 小声のささやき。
 暫時の後、湖藍が観念したようにうなずいた。

 紺天宮の湯殿は岩湯だ。
 あれから数日後。宮の片隅、岩で囲まれた露天の湯船に杏はゆったりと浸かっていた。この、湯船にゆったり浸かれるというのは、最下位の杏だけの特権だった。なぜならば他の媛たちは初湯の太白を皮切りに、次々と他の媛たちと交替しなければいけないからだ。つまり杏は残り湯だからゆっくりできるのだった(もちろんその後には湯船掃除の仕事が控えている)。
「それでものんびりできるのはいいよねえ……」
 縁の岩に橙色の頭を乗せて、杏はふわふわと水面に体を伸ばしている。立ちのぼる湯気が宮の玻璃天井へ昇っていく。辺りには前の媛たちが使った甘ったるい鹸油の香りが立ちこめている。蒸せそうだったが、そこまで贅沢は言えない。
 それに、杏のすぐ前が葡萄なのだ。葡萄の香りだと思えば不快ではなかった。
 ぼんやりと浸かっていた杏は、ごとりと重い音を聞いてあたりを見回した。湯気にさえぎられてよく見えない。
「なんだろ……?」
「杏ちゃん」
 小さな声を聞いて、杏はびくっと振り向いた。洗い場のあたりにぼんやりと黒髪の裸身が見えた。
「杏ちゃん……入っていい? 私、遅らせたの」
「葡萄ちゃん!? だめだよ、見つかっちゃうよ!」
「大丈夫、湖藍媛さまの符を表に貼ってあるから。誰も入ってこないわ」
「そ、そうなの?」
 かけ湯の音とともに細い手足が動いていた。二人で全裸になったことは一度もない。杏は恥ずかしくて背を向ける。
 ふと疑問がわいた。
 ――あれ、そうするとさっきの音は葡萄ちゃんなのかな。それにしては石の音みたいだったけど……
「入れてね」
 声とともに、すぐそばにぽちゃんと足が滑りこんだ。つやつやしたむき出しの肌がやけになまめかしくて、杏は息もできなくなった。太股、尻、腰から胸へと沈んでいく体を、盗み見するように横目で見る。
 最後に顔が同じ高さに並び、黒髪を頭の上で束ねた葡萄がくすりと微笑んだ。
「なあに、そんなにじろじろ見て」
「え、だって、きれいで……」
「杏ちゃんだって、手足長くてとっても素敵」
 そう言うと葡萄が恥ずかしげにそっと身を寄せた。湯の中で肌と肌がふれ合う。
「……触っていい?」「うん、好きなだけ……」
 傾いて待つ顔に唇を重ねつつ、杏はもどかしく葡萄を引き寄せた。ふわふわと柔らかい体が嬉しげに杏に乗ってきた。
「ふあ、杏ちゃ、あんずちゃん、ん」「葡萄ちゃぁん……好きぃ……」
 何しろ衣も帯もない。最初からじかに触れてしまい、ためらいも生まれなかった。杏は葡萄の根を、葡萄は杏の根を、互いにまさぐって探り当てた。硬く張っているのを捉えたそばから、指を丸めてしごき上げた。
「くうぅ、気持ちぃ……っ」
「あっ杏ちゃっ、私もぉっ」
 こりこりとした根の手触りが嬉しい。潰さないように加減して手首を動かす。張り詰めすぎてかわいそうに思えてくる。根を握ったまま、血の集まった根元を小指でこっそりくすぐる。早く出ておいで、飛び出したいのでしょう……。
「待って、待って」
 身もだえしていた葡萄が杏の手首をつかんだ。荒い息を整えて立ち上がる。水滴のしたたる体をくるりと回し、水辺の岩にかがみこんだ。
 熱気を含んだ眼差しを杏に浴びせる。
「はい、杏ちゃん……」
 杏は目は葡萄の尻に釘付けだった。濡れてつるりと光る丘。杏が真後ろに回っても葡萄は隠さない。それどころか心持ち足を開いてあられもなく見せた。
 白い丘の間に色づいたつぼみがあった。その下のぷくりと膨れたうねから男根が生えて腹へ反り、湯で伸びた種袋が可愛らしくぶら下がっていた。
 かあっと杏の頭に血が上る。引き寄せられるように右手で尻をつかんで親指をつぼみに当てると、葡萄は少しだけ抗してからぬるりと呑んだ。杏の指を、温かな洞がひく、ひく、と噛んだ。
「ぶどう……ちゃ……」
 杏の目が皿のように見開かれ、のどがごくりとつばを飲んだ。股が痛い。杏の根がへそに食いこむほど反り返っている。葡萄の洞を目の当たりにして、抑えが利かなくなった。自分でも怖いほどの衝動だった。
「杏ちゃん……?」
 自分も根を張らせてうっとりと葡萄が誘う。溶けそうに柔らかい尻がゆらゆら揺れている。杏はものも言わず手で肉をつかむ。痛む根を無理に押し下げて、葡萄の男陰に当てた。
「あー……」
 にゅぶにゅぶと根を呑みこんでいく洞の柔らかさに、杏は長々とむせび泣くような声を漏らした。煮た肉のような熱ととろみが根を包んでいて、意識が飛びそうな心地よさだった。
 じゅじゅっ、と種が漏れる。堰き止めることなど思いもよらず、杏はまだ根の先しか入れていないのに種を放っていた。びゅう、びゅうと何度か噴いて、少し減ったところでようやく押さえこむ。
「ご……め……ちょっと、出ちゃっ……た」
 歯をかちかち鳴らして必死に根を引き締める。葡萄もはふはふと蒸気のような息をこぼしてささやく。
「んん。ぴくぴくってなって、少しかかった……我慢してる?」
「してるよぉ、葡萄ちゃんの中、根が溶けちゃう……」
「私も叫びそう。おなかの臓を杏ちゃんが押してるの」
「い、痛くないの? だいじょぶなの?」
「……わかんない。壊れちゃうかも」
 葡萄が、物の怪が憑いたような目つきでとろりと微笑む。
「でもっ……いいから……もっと開いて押し込んで。私、杏ちゃんを呑みたい」
 杏の周りから音が消えた。葡萄の顔と背中と尻だけが見えていた。
 ぐっと腰を突き出すと、根がずぶりと進んで葡萄が目を閉じた。前かがみになって葡萄を抱きしめ、ぐい、ぐい、と繰り返し力を入れて揺さぶりながら入っていった。
 そのうちに杏は葡萄の中にすっかり収まった。葡萄の腹の臓の熱さとねっとりしたひだに、根をまんべんなく包まれた。ただ収まっているだけでも心地よかったが、前後に根を動かすと何倍にも気持ちよくなった。動かし、こすりつけ、ねじこみ――好きなように葡萄の内をまさぐった。
 葡萄は色が白く、杏はやや日に焼けている。とはいえどちらも花のようにたおやかで幼い媛だ。なのに交わりは激しかった。岩に伏せた葡萄と、のしかかった杏。二人は獣のようにぐいぐいと腰をぶつけ合い、時にはぴたりと張り付いてじっくりと肌を味わいあい、息がたまると再び湯が飛び散るほど動いた。
 葡萄が、指三本で自分の根をくちくちとしごきながら訊く。
「あっ杏ちゃっん、出すとき、抜かないでね……っ?」
「ん……」
「女みたいに種を吸わせてぇ……♪」
 媚にまみれた声でささやかれると、杏の昂ぶりは最高潮に達した。根の奥の心地よさが背筋を通って体中にはじけ、頭のてっぺんで跳ね返ってきゅうっと根に集まった。
 そこは種の溜まりだ。杏の小さな尻の間で、破裂しそうに膨れていたこぶが一息に縮み上がった。
「んぐっ、ぐう、くくっ……」
 細い足を湯の底にしっかりと踏ん張って、杏は力いっぱい種を噴きあげた。青白い粘りをたっぷりと放つ。誰に教わったわけでもないのに、葡萄の腹の宮を確かに満たさなければいけないと知っていた。葡萄の尻が平らにつぶれるほど、何度も腰に力をこめた。
 それを受ける宮が葡萄にはない。――だが、杏の熱い欲を受ける心がまえがあった。杏の全身に力がこもり、埋めこまれた根が狂おしい勢いで種を放ち始めると、葡萄もはじけた。根をしごく指を思いきり速めて、いっぱいに溜めこんでいた自分の種を石床にまき散らした。
「あ、杏ちゃぁん!」
 切なげな叫びとともに、内股でひざをすり合わせて痙攣する。葡萄の震えがさらに杏を誘う。きつく、よりきつく――抱き締めあう力を極限まで強めて、二人はつかの間、境もわからないほど溶け合った。
 完全な至福の数瞬――その後に、引き潮が来る。熱と力が消えていき、杏は荒い息を吐きながら後ろにずるずると滑り落ちた。ざぶりと湯の中に座りこんで、葡萄のやわらかな尻に頬を預ける。
「葡萄ちゃん」
「杏ちゃん……」
「今のがきっと……星帝のお渡りの秘事だよね」
「星帝より前にしちゃったね……」
 葡萄の声には満たされた様子があった。もちろん杏もだ。初めてがこの人でよかった、と思っていた。
 杏がうっすらと目を開けると、弛緩した葡萄の陰部が目に入る。ゆるゆると閉じていくまるい洞と、力なくうなだれて種の糸を垂らしている根。
 杏の中の獣が消え、代わりに慈悲が戻ってきた。
「……ひゃっ? 杏ちゃん?」
 うっとりと伏せていた葡萄が顔を上げる。股にてろりと優しい感触があったのだ。振り向いて驚く。杏が尻に顔を埋めて甲斐甲斐しく舌を使っている。
「だ、だめよ! そんなことしちゃ!」
「いいの、させて。さんざん葡萄ちゃんをいじめちゃったから、お詫びするの……」
「お詫びなんていいのに……」
「それにここ、とってもいやらしくて」
 葡萄がさっと顔を赤らめたさまが、後ろの杏にもありありと想像できた。
「んふふ……」
 微笑みながら、岩にこぼれた葡萄の子種を手の平にすくった。口元にやってきれいになめとる。放たれたばかりの青白い蜜は花の香りも一段ときつく、杏はたちまち興奮を取り戻した。
 舐め終わってから、葡萄の股に顔を戻す。閉じきる前の洞からこぼれる種をちうと吸い出し、縫い目に沿って舌を滑らせ、種の袋をくぷりと含む。中の二つの実は団栗よりも小さい。ころころ、ころころ。舌で転がしながら甘噛みする。
 こりっ……
「――んきっ!」
 葡萄のおかしな悲鳴とともに、垂れていた根がびくっと跳ねた。
「杏ちゃん、そんなことしちゃだめ!」
「どうして?」
「だってまた、また根が張っちゃう!」
「張っていいよ。そうしたら、わたしが葡萄ちゃんを呑んであげる」
 ぞくぞくぞく……っ葡萄の背が震えた。彼女の興奮が手に取るようにわかる。杏は愛しくて尻に頬ずりする。もう一度、葡萄の根がひくっと起き上がり始めた。
「んぁ……ん」
 その時――
「まだ湯殿に誰かいるのですか!?」
 居丈高な叫び声が湯気を貫いた。二人は反射的に立ち上がる。
「玉兎だわ!」
「逃げなきゃ。葡萄ちゃん、着物は?」
「大丈夫、そこの桶で持ってきた! でも杏ちゃんは?」
「わたし一人ならお説教されるだけだよ。葡萄ちゃんは裏から逃げて」
「――うん、ごめんね!」
 葡萄は着物を入れた桶を抱えて駆け出した。湯気に巻かれないよう足元に気をつける。
 だしぬけに、床に倒れた白いものが目に入った。磨かれた巨大な石碑。
「金烏?」
 それは、玉兎の相方のはずの宮卒だった。なぜ彼がこんなところに?
 いやそれよりも、宮卒が倒れているところなど、葡萄はこれまで一度も見たことがなかった!
「杏さま、またあなたさまですか? 今から掃除に取り掛かったら、終わるころには一番鳥が鳴いてしまいますよ」
「一番鳥なんていないじゃありませんか」
「お黙りなさい!」
 玉兎と杏の声が聞こえてくる。今出て行くことはできない。
 胸騒ぎを覚えつつ、葡萄は生垣の隙間から逃げ出した。