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第三章
 第4章
――皆と、渚で。

 1.
「いいペースね」
 明かりを消したねぐらの部屋。マンションの窓辺で、あるともない夜風に身をさらしながら、私はつぶやいた。
「男が十二人、女が十人……まあ半分は攻略が済んだわ」
 手元の羊皮紙には、これまで手管の限りを尽くして籠絡した私のクラスの男女の名が記してある。筆頭の優水から始まって、武藤雄介、鍵田恭一、佐々木瞳、佐倉千鶴、吉岡良次、右原梨花など、計二十名。
 今日、成果は全体の三分の二を越えた。
「音山朋子」
 鉛の筆で、私は一番下に書き加えた。青年期の若鹿を思わせるすらりとした肉体の娘で、足の速さを武器に競技会に出ることをを目指して鍛練に励んでいた。優れた人間の常で精神力が強く、快楽に目覚めさせるのにはやや手こずったが、新しい試みのために落とす必要があったのだ。
 それは、これまでの逆とやり方。男の精に手を加えてから女に注がせるのではなく、私の体内に溜めた精を、印を書き込んでから、疑似的な男根で私みずから女に注ぐ方法だ。取り込んだ精を女に注ぐときまで保存しておかなければいけないので、鮮度の点で少々成功を危ぶんだが、やってみると存外うまくいった。この方が、私一人で娘をはらませることができるので、都合がいい。
「……半分とおっしゃいましたが……」
 いつものようにそばに控えた忠実なしもべが、隙間風のようなうそ寒い声で言った。
「……ほとんど終わったようなものではありませんか。雄も雌も、いかにうわべを取り繕っていようと、蓋を開ければみな獣欲をたぎらせた者ばかり」
「優水ですらそうだったわね」
 そう言えば最近、優水を抱いていない。落としたばかりの頃は毎夜のように交わって、私の考えの一端を教えてすらやったというのに。一の側女にしようと思っていたのだが、何かあったのだろうか。
「……秋を待たずに全員手に収めることも可能でしょう。九分九厘済んだと言えますまいか」
「澄田がいるでしょう。どうやっても落とせないあいつが」
 私はひじをついて言った。
「私がじかに出ることも考えたけど……それでも多分無理ね」
「……確かに、ただ者ではないようですな」
「奴、天の血を引いているわ」
「……なんですと?」
 息をしていれば呼吸を忘れただろう。ブンチェルガッハは絶句した。天の者がその気になれば、悪魔であるしもべとも互角に渡り合うことができる。
 私は首を振った。
「顕現していない。大丈夫、自分の素性には気づいていないわよ。あれなら、まだ手の打ちようがある」
「……それは重畳……」
「差し当たっては、残りの羊たちを平らげてしまうことにしましょう。都合のいい催しもあることだし」
 私は、手元に散らばらせた紙片の一つを手に取った。
 父兄各位、とある。夏季フレッシュマンキャンプのお知らせ。来る八月五日より四日間、夏休みを利用して、青少年の健全な育成と学年の親睦を図るために、八重波海岸にて学年合同の夏合宿を行います。ご理解を賜りますよう……。
「……いかになさいます」
「宴を張るわ」
 私は、言った。

「さあそれでは指名タイムです!」
 砂浜に立てられた特設演壇の上で、司会者の一組のクラス委員の子が声を張り上げた。
「男子の皆さんはフリートーク中に狙いをつけた女子の名前を、最寄りの委員に教えてください。女子の皆さんは、委員に名前を呼ばれたら演壇の前まで! 誰があなたを思っているのか、それは発表のときまで分かりません!」
 一年生一八三人がひしめいている砂浜が、にわかに騒がしくなった。
 合宿の最後の夜を締めくくる、余興のねるとんパーティー。みんなこの三日間、昼間の特別講習と夜の討論会で疲れ切ったはずなのに、別人のようにいきいきしてる。それも当然、みんなこれが目的で来たようなものだから。じゃなかったら学校行事なんか参加しないよ、と女子のみんなは言ってた。
 あたしは、ひとりの男子を探して、人波をかきわけていた。歩きながら、あちこちからちらちらと視線が刺さってくるのを感じる。ううっ、気のせいじゃないんだろうなあ。最近はあたしもわかってきた。ディナも言ってたけど、好意を持ってくれてる男の子たちは多いみたい。
 でも、悪いけどそういう人たちに応えてあげることはできない。あたしは――ひとりだけのものだから。
 交通整理をしているお巡りさんみたいに、人の中で突っ立っている彼を見つけた。光一郎だ。彼もクラス副委員だから実行メンバーとして働いてる。あたしは近づいた。
「優水?」
 気づいた光一郎が名前を呼んでくれる。それから、あわてて言い直した。
「白沢さん?」
 あたしは、申請にくる男の子たちをさばいている彼のそばに立った。あんまり長話できるときでもない。小声で少しだけ。
「ね、あとで抜けようよ」
「後って……これの後?」
「うん。だって、このねるとんも、光一郎は委員だから参加できないでしょ? せっかく海に来たのに、まだ二人きりにもなれてないじゃない」
「……いいよ」
 少し考えてから、光一郎はうなずいてくれた。堅い光一郎があたしのためにこっそり抜けて来てくれる。ちょっとうれしくて、にやにやしちゃった。
「優水こそ、お願いしますなんて言わないでよ」
「え?」
「絶対呼ばれるだろ、前に。たぶん五人は来るよ。押し切られるなよ?」
「大丈夫。安心してて」
 あたしが答えると、光一郎はにっこり笑った。ドキッとしちゃうようなすてきな笑顔だ。逆ねるとんじゃなくてほんとによかった。女子が殺到しちゃう。
「三組山科さん、六組保田さん、二組白沢さん、前においで下さい」
 名前が呼ばれた。
「ほら、行ってらっしゃい」
 そう言った光一郎に片手を振って、あたしは演壇の前に出た。
 男の子たちに指名された女の子が、次々と前に出て来る。やっぱりというかなんて言うか、みんな可愛い子ばっかり。こんな子たちにまじってあたしが呼ばれてるなんて、ちょっと気後れしちゃう。
 やっぱりグラディナの姿もあった。暑さも気にかけずにいつもの真っ黒な冬服を着て、腕組みして立っている。ほかの子たちとは格が違うって感じ。目が合いかけたけど、思わずそらしちゃった。ちょっと今は、真っすぐに見れない。
 やがて女の子の指名が終わると、男の子たちが前に出てきた。男子の全員っていうわけじゃない。呼ばれなかった女子、呼ばなかった男子もいる。そういう子たちも、この後のフォークダンスではみんなで輪になって踊ることになってる。
 全部で六十人ぐらいの男子と女子が、向かい合って並んだ。
「はい、それではいよいよ、告白ターイム! 男子の皆さん、お目当ての女の子に向かって、花束をどうぞ!」
 人数が多いけどどうするんだろうと思ってたら、女の子一人ずつじゃなくていっぺんにやっちゃうのか。うん、その方が目立たなくっていいかな――とひとごとみたいに納得してたら、あたしのまえにずらっと、男の子が並んでいた。
「……え?」
「しっ、白沢さん!」「白沢!」「優水ちゃん!」
「お願いします!」
 にーしーろーはーと、全部で十一人……。
 頭が真っ白になっちゃったあたしの耳に、司会者の大声が飛び込んで来る。
「おーっとこれはすごい、二組の白沢さんに集中攻撃だ! 五人、いや十人以上のナイトが競って愛を捧げております!」
 実況リポーターみたいに走ってきた司会者が、あたしの前の男の子たちにマイクを突き付けた。
「この異常な人気の原因は一体なんでしょうか! 直撃してみましょう、四組縄手君、あなたは彼女のどこにひかれました?」
「え、そりゃやっぱり清純で可愛らしいとこかな」
「次々いってみましょう、あなたは?」
「真面目でやさしそうだから……」
「こっ、小柄な子ってタイプなんです」
「決まってるだろ、守ってやりたいんだよ!」
「ずっと見てました、お願いします!」
 背が高い子低い子、髪の長い子短い子普通の子、いろんな男の子たちに見られてると、頭がくらくらした。そのとき、あたしはあれ、と思った。
 二組の男の子がいない……。
「ゆーみちゃん」
 いきなり後ろから抱き着かれた。
「ディ、ディナ?」
「大人気じゃない? よかったわね」
 振り返ると、グラディナの後ろにも男の子たちの集団。司会者の子もちょっと唖然。
「これはちょっととんでもないことになりました、グラディナさんに思いを告げる男子の数は、十五人以上! なんと、二組のこの二人だけで三割以上の高得点をたたき出しています!」
「二組はわたしたちだけじゃないわよ」
 グラディナに言われて残りの女子を見た司会者は、もうびっくり。だって、二人以上の男の子を集めてるのは千鶴ちゃんに音山さんに今枝さんにチカちゃん、ほとんど二組の子ばっかりだったから。
「なんで?」
「やっぱり目覚めた子は引き寄せるのね」
「え?」
「どうするの? 優水ちゃん。この人たち」
 言われて、あたしは男の子たちを見た。みんな真剣な目でこっちを見てる。でも……あたしにはどうしようもない。
「ごめんなさいっ!」
 ぴょこっと頭を下げたら、いっせいにため息が聞こえた。そしたら、グラディナがとんでもないことを言った。
「なんだったらわたしじゃだめ? みんないっぺんに付き合ってあげるわよ」
「おーっとこれは、ものすごい大胆発言です! グラディナさんがなんとまとめて面倒見る宣言! まさにお姉様、二組の女王の面目躍如! 今年のビーチクイーンは彼女で決まりだーっ!」
 いつから美人コンテストになったんだろ。
 それはともかく、グラディナが角が立たないようにしてくれたお陰で助かった。あたしはほっとして胸をなでおろした。

「あれはすごかったね。他の組の女の子たちが怖い顔してたよ」
「笑い事じゃないよ、もう」
 星明かりに照らされた波打ち際を歩きながら、優水は軽く光一郎の腕をたたいた。
 時刻は十一時過ぎ。旅館の消灯時間はとっくに過ぎている。二人は教師の目をかいくぐって抜け出して来たのだ。
「でも、優水もすごい。十一人全部断っちゃったんだから」
「のんきなこと言うけど、あたしが誰かと付き合っててもよかったの?」
「そんな気なかったんだろ?」
「ちょっと揺らいだもん」
「……ほんとに?」
 足を止めて顔を覗き込んだ光一郎に、優水はぺろっと舌を出して見せた。
「うっそ。やいてくれた?」
「あっ、こいつ」
 軽くぶつ真似をした光一郎の腕をすりぬけて、優水が走りだす。光一郎が追いかける。他愛ない追いかけっこは、すぐに終わった。捕まった優水が、なおも逃げようと光一郎の腕の中でもがく。
「やだあ、放して。こんなとこで転んだら砂だらけになっちゃう」
「いいよ、転ばなきゃ」
「待って、脱ぐから」
「え?」
 光一郎を振りほどいた優水が、くすりと笑ってスカートに手をかけた。一瞬、光一郎の動きが止まる。
「見てて……」
「ちょ、ちょっと待って」
 止めようとした光一郎の目の前で、優水はももの外からスカートを持ち上げた。
「こら……あ?」
「ふふ、びっくりした?」
 色白の太ももの上で腰の骨に引っ掛かっているのは、下着ではなく、桜色の光沢のある布地だった。
「水着かあ」
 どっと緊張が解けたように、光一郎が息を吐いた。優水が笑う。
「せっかく海に来たんだもん。光一郎に見せたくって」
「泳ぐのはどうかな。濡れたままじゃ旅館に帰れないだろ」
「そうか……じゃあせめて、よく見て」
 そう言うと、優水はスカートのホックに手をかけた。ふとためらう。
「どうしたの?」
「だって……セパレートだし」
 上目使いに見上げる顔からほがらかさが消えて、恥じらいの色が浮かぶ。
「よく考えたら、下着とたいして変わらないよね。あたし、すごいことしようとしてるのかも……」
 言われて意識してしまい、光一郎も硬い表情になる。その目は、一部だけあらわになった優水の腰の当たりに注がれたままだ。
 真っ白な太ももがすべて露出して、腰骨のちいさなとがりと、その後ろの尻の丸みまで見ることができる。水着なら当たり前の姿、しかしスカートをはいて夏服を来たままの中途半端な状態では、それはむしろ下着を覗かせているように見えた。
 光一郎の視線に優水が気づく。数瞬、うつむくが、しかし隠しはしない。そこで心を決めたのか、逆に優水は手早くスカートを下ろしてしまった。続いてセーラー服も頭から抜く。足元は旅館を出たときからビーチサンダル、素足だ。
「……この方が、自然だよね」
 そう言って、優水ははにかみながら笑った。
 まだ育ち切っていない幼い体のラインを、かそけき星明かりが青白く照らす。髪の毛は後ろでまとめられていて狭い肩を隠さない。いかにも非力な二の腕は光一郎もいつも見ていたが、鎖骨やみぞおちがリボンの下から現れたのは初めての光景だった。同じように縦長のへそと腰のくびれも、合わさりきらない内股の隙間も、今までスカートから解放されたことはなかった。
 レースのついた水着のトップスは、乳房の存在を隠すより強調している。幅の細いボトムの布地は色の違うパンティーでしかない。光一郎にとっては、裸と変わらなかった。腕を上げて顔をそらそうとする。
「ちょっと……刺激強すぎだよ」
「いいの、見て」
 優水がそう言って、光一郎の腕をおろさせた。手を体の前でもじもじと組み合わせながら、それでもはっきりと言う。
「見てもらいたいの……」
「でも」
「これ水着よ? 水着だから、いいの見られても。水着ってそういうものなの」
 そうだ、と光一郎はつぶやく。水着姿を見つめるのは、別に悪いことじゃない。自分で自分に催眠術をかけたような状態。操られるようにして、光一郎は自制のからを脱ぎ捨てて行く。
「よく見て……近くで、もっといろんなとこ。全部」
 光一郎は優水の肩に視線を落とし、レースの中に隠されたまろやかな乳房を読み取り、さらにすっきりした下腹の中心、一枚の布で隠されただけの暗い場所へと視線と想像を這わせて行く。
「あたし光一郎に見られたいの……」
 不思議な手順を踏みながらも、ごく自然に二人は、無邪気な遊びから禁じられた行為へと踏み出していた。光一郎はそれに気づくことができていない。
 光一郎の顔が五十センチに近づいても優水は何も言わず、三十センチに近づいても止めなかった。むしろ気持ち体を開き気味にして、腕を広げ、のどを見せて、光一郎の視線を全身で受け止めるようにした。
「どう……? あたし」
「きれいだよ……」
 息が触れるほど顔を近づけても、優水の肌には毛穴ひとつ見えない。よく磨かれた磁器のようになめらかで、それでいて磁器では及びもつかないほど柔らかで暖かいことが、触れずとも分かる。ひざ、尻、脇腹、おとがい。光一郎は吸い寄せられたように優水の体を見つめ続ける。
 さわりたい、という気持ちは自然に生まれた。今までのプロセスに優水がそれを拒みそうな気配はかけらもなかった。だから、光一郎は、手を伸ばして優水の腰に当てた。
 ぴくん、と震えただけだった。光一郎は優水の顔を見る。見開かれた子供のように大きな瞳、軽く引き結ばれた小さな唇、薄桃色に上気した頬と丸みの残るあご。愛くるしい子猫を思わせるその顔のどこにも、拒否の色はない。
 するすると光一郎の手は優水の肌を滑っていった。背中に周り、背骨のくぼみを上から下へとたどるころには、光一郎は優水の体を抱きしめていた。華奢な作りの娘の体は、彼の腕の中で震えるばかりでもがきもしない。身にまとうのは薄布ふた切れ、肌のほとんどをさらしたままこれ以上はないほど無防備だというのに。しっとりと熱い少女の体を、押し付けられた全身で感じた時、光一郎はついに自制心を失った。
「優水……!」
 強く強く抱きしめながら、片手の指を優水の柔らかい肉に食い込ませる。彼女の体でそこほどたっぷりと肉の乗った場所はない、尻のまるみに、もはや気取りも気遣いもなく。
「いいよ、光一郎、触っていいよ……」
 ほうっと甘い香りの息を吐きながら、優水がささやく。緊張を少しでもおさえて光一郎に筋肉の堅さを感じさせないようにしているのが、手のひらでとろける尻の柔らかみではっきりと伝わってくる。そこだけがすべてではない。肩の付け根、あばらの並び、二の腕の内側。抱きしめた姿勢で触れるすべての場所を、光一郎はあまさずもみしだいていった。
 柔らかさが伝わってくるのは指先からだけではない。
 体の間で押し潰された優水のつつましげな乳房の感触も、胸板がしっかり受け止めている。シャツを脱ぎたい、水着を脱がせたい、肌でじかにふくらみと乳首の感触を感じたいと光一郎は痛切に思う。それに、下腹の柔らかさも、ズボンとトランクスに遮られてはっきり分からない、硬くなったペニスが当たる肌のつややかさも。
 荒々しい愛撫に負けたのか、緊張で力が抜けたのか、優水がかくんとひざを折った。光一郎はそれを追い、押し倒し、砂の上に横たわった。
「光一郎、砂ついちゃう」
「いいよ、もう……」
「じゃあ、脱いで。光一郎も……」
 震える指で引きむしるようにシャツをはぎとり、暴れるようにズボンを脱ぎ捨てると、ようやく肌が直接重なるようになった。
 口づけを交わす。もう、初めてのときのように幼いキスではない。互いの息を吸いあい、口の中で相手をからかうように舌を差し入れて、弾き、重ね、なめずりあう。言葉や指先よりもじかに意志と興奮が伝わる。
 ふとした拍子に光一郎が顔を離すと、優水がすかさず両手で彼の頬をはさみ、口をうっすらと開いた。たれ落ちた彼の唾液が優水の口内に消え、続いてこくんとのどが動いた。――あなたのものが欲しい。頭がかっと沸騰するような、恭順と誘惑のジェスチュア。
「優水……信じられない」
「何が?」
「何がって……」
 優水を押ししだき、下半身を柔らかな肢体に硬く押し付けたまま、光一郎は現実感を見失う。子供みたいに無邪気で無垢だった優水。欲情のかけらも知らなさそうだった優水。たくさんの男たちに求愛されて、優しい・清純・守ってやりたいなどと思われた優水。
 その優水が、自分がおしつける卑猥なものを拒みもせず、あさましいとさえ言える貪欲さで自分を求めている。
「なんて言ったらいいんだ……君がこんなこと……君とこんなことをするなんて」
「こんなとこでいつものまじめくんに戻っちゃうの?」
 優水は潤んだ瞳で見つめた。
「忘れてよ、今だけ。あたしも忘れる。今は特別、これは特別……」
 そう言うと、優水はぎゅっと光一郎を抱きしめた。その誘いに、光一郎も我を忘れて再び優水に覆いかぶさった。
「いいんだね?」
「したい? 光一郎、あたしとしたい?」
「したいよ。隠さないで言うよ。君を抱きたい」
「……そう?」
 そのひとことは今までと全く違った。一瞬で熱を失ったような、暗く冷めた声だった。
 光一郎がけげんに思ったとき、別の低い声が、頭の上から漂ってきた。
「……優水?」
 ぎょっとして光一郎は顔を上げた。すぐそばの松林の中に、黒い人影が立っていた。
「グ……グラディナさん?」
「優水……あなた、私をだましたのね?」
 黒衣の少女が現れた。
 
 2.
「ご、ごめんなさい!」
 呆然としている光一郎を押しのけて、優水が体を起こした。グラディナがそのそばにやってくる。
「どうして今まで話してくれなかったの?」
「だって……」
 優水はちらりと光一郎を見て、肩を落とした。その顔にあるのは、あるじとなったグラディナを裏切って男に思いを寄せた後悔か。
 そうではない。脅えはない。残念そうな笑顔だけ。軽いいたずらを見つかってしまったような顔で、光一郎が愕然とするようなことを、優水は言った。
「彼を完全に落としちゃってから、報告したかったの」
「……私のまねというわけ?」
「でも、抱かれちゃうつもりはなかったのよ?」
 口を半開きにした光一郎には目もくれず、とびきりの信頼をこめた目でグラディナを見上げる。
「そんなことしたら、あたし、ディナの子を産めないでしょ?」
「忘れてはいないようね」
「もちろん。……でも、元にするのは彼の遺伝子がいいな」
 優水がゆっくり光一郎を振り返る。たとえようもなく淫らな顔で。
「ディナの力を持った、彼の姿をした子を、あたしが産む……これ以上すてきなことってないじゃない」
 そのとき光一郎は、はっきりと悟った。自分が相手にしていたのが、優水でありながらすでに別の何かに変化してしまった生き物であることに。
 ためらいながらグラディナの顔を見上げる。玲瓏と冴え輝く冷たく美しい顔。しかし光一郎は恐れた。彼女はただの人間じゃない。強大な力を持った邪悪な存在だ。今まで気づかなかった自分が阿呆に思えるほど鋭い邪気が、グラディナの銀の瞳からびょうびょうと吹き付けてくる。
 自分には彼女に対抗できる力がある。だがそれは質だけの話で、量で言えば差は圧倒的だった。まさに格が違う。しかも、その力さえ今の自分は……
 気づくのが遅すぎたと歯がみしながら、それでも光一郎は叫んだ。
「グラディナさん……君は人間じゃないな!」
「そうよ」
「なにか得体の知れない力を持ってる。それで優水をたぶらかしたんだろう!」
「そうよ」
「だったら……僕が彼女を救ってやる!」
「無駄よ」
 グラディナは、ひえびえとした口調で言った。
「あなたは、すでに力を失った」
「……なに?」
「もし汝の右の目が汝をつまずかせるなら、右の目をえぐって捨てよ。もし汝の右の手が汝をつまずかせるなら、切り取って捨てよ。淫らな思いで女を見る者は、すでに心の中でその女を犯したのである」
 グラディナは、うっすらと笑った。
「なぜ人は彼をはりつけにしたのかしら? 正しいことを言っていたのに」
「あ――!」
 光一郎は、体中の力を失ったような脱力感を覚えて、膝をついた。
「優水、よくやったわ。あなたがいなければこの男は落とせなかった」
「ディナのためだもの。あたしは、ディナだけのもの……」
 愛した娘に裏切られた。自分がよこしまなことを考えてしまったばかりに助けることもできなくなった。力なく地をつかむ光一郎の背に、グラディナの言葉があらがいえない命令としてのしかかった。
「私と来なさい。私の宴があなたを迎えるわ」
「ディナ、うたげって?」
「優水には話してなかったわね。これから、クラスの皆と楽しいことをするのよ」
「あ……それで今日」
「それが理由よ、二組の男たちが出て来なかったのは。だって、これから思う存分女たちをむさぼれるのですもの」
「あたし……光一郎以外の男の子はいやだな」
 優水の視線を、光一郎はほろ苦い思いで受け止める。これは愛されていると言えるのか? 優水が僕を思うのは、僕のためでも彼女のためでもなく、グラディナのためなんだ。これ以上はないほどの屈辱に、唇をかみ切る。
 グラディナの寛大な微笑すらつらい。
「いいわ、ならばあなたを抱くのは、彼だけにしましょう」
「ありがとう!」
「行くわよ」
 敗北感に引きずられながら、光一郎は立ち上がった。

 少し向こうの岩場を越えると、そこは三方を崖に囲まれた小さな渚だった。
 いくつもの人影がそこにたたずんでいる。二十八人、転向していった田丸琢也を除くクラスの全員。男子も女子も、期待をはらんだ沈黙の中でひっそりと黙っている。
 前に立ったグラディナが、ぐるりと一同を見回した。
「待たせたわね……始めるわ」
「ねえ、何をするの?」
 眼鏡をかけたやややぼったい印象の女子、服部雪絵が、少し不安そうな顔で言った。よく見ると、ひとかたまりになっている生徒たちの間にも微妙な溝があった。幸絵を含む男女十人ほどが、落ち着きなくきょろきょろしている。
「うちのクラスだけで、打ち上げやるって聞いたけど……」
「ディナ、あの子たちは?」
「まだ何も知らない子たちよ」
 小声で聞いた優水に教えてから、グラディナは薄い笑いを浮かべて宣言した。
「男たち……それぞれ、好きな女を選びなさい。このクラスの娘たちはみな器量も気立てもいい子ばかり、文句はないはずよ」
「これって、ねるとんの続きなの?」
「違うわ」
 聞いた雪絵に、グラディナは言い放った。
「相手が重なってもかまわない。何人を選んでもかまわない。あぶれた者は佐々木瞳を選びなさい。私が許す、思いのままに犯しなさい」
「……グラディナさん!」
 雪絵は言いかけたが、その口は後ろから伸びた手にふさがれた。いつのまにか、一人の男子が彼女の背後に忍び寄っていたのだ。
「は、服部、ずっとおまえとやりたかったんだ」
「んーっ!」
 暴れはしても逃げられない。捕まえたのは根本譲だった。八十キロ近い体重の彼にのしかかられて、雪絵は人形のように無力に砂浜に押し付けられた。
「服部、服部!」
 うわごとのようにつぶやきながら、根本は雪絵の夏服を引きむしっていく。その周りでも、常軌を逸した饗宴が繰り広げられつつあった。
 根本と同じように抵抗する女子を押し倒す男子。淫らな視線を交わしあって合意のうえで砂の上に横たわる二人。ためらう男子の手を体に押し付けて誘いをかける女子。複数の男子たちに囲まれて、観念して服を脱ぎ出す女子。逆に、押し寄せた男子たちにきっちり順番を割り振って触れさせていく女子。
「サバトだ……」
 光一郎が、その狂った宴を見つめながらうめいた。グラディナが首を振る。
「私は魔女ではない。魔王よ」
「どうする気だ!」
「今宵、娘たちは子をはらむ。私は手を加えて、それらをすべて私の子にする」
 グラディナは、光一郎を振り返って恐ろしい笑いを浮かべた。
「それらの子は私の忠実なしもべとなる。とき満つれば、軍を挙げて天に挑むわ」
「……そんなバカな……」
「信じない? 信じたくない? 結構、しかしあなたの精は使わせてもらう」
 グラディナの合図で、優水が光一郎に体を押し付けた。
「貴重な天の力の交じったあなたの血、利用しない手はない。いやならば目をつぶっていなさい。優水に与えた魔の悦楽がすべてを忘れさせてくれるわ」
「こういちろ、ね?」
 光一郎は視線を移した。彼が、自分を失ってもいいと思ったほど愛した少女が、すべてを許す暖かい微笑みを浮かべて、肌を押し付けていた。
「死ぬほど気持ちよくしてあげる。ディナに教わったの。あたしの体で、あなたを狂わせてあげる……」
 欲情した優水に押し倒されながら、光一郎は自分の体が猛り立っていくのを、悲しく自覚していた。

 光一郎が、あたしの下でぐったり横になっている。
 あたしを見もしない。触ってもくれない。それがすごく悲しい。光一郎が、まだあれのよさを知らないからだ。知ってくれれば、きっと、もっと求めてくれるようになる。
 あたしは、光一郎の体にていねいにキスを始めた。
 唇。のどぼとけ。ちっちゃな乳首、服の上からじゃ分からなかったけど、思ったよりずっと筋肉が張っててすてき。おなか。ひざ。足の指にほおずり。
 手を引っ張って、背中に回してもらう。まだ抱きしめてくれないけど、それはこれから。まずあたしがいっぱい奉仕しなくちゃ。男の子は、女の子にかしずかれることを求めてるってグラディナが言ってた。その通りにしてあげるけど、やらされてるって感じはしない。あたしは、あたしがしたいから、光一郎にキスしてあげるんだ。
 口の中につばをたっぷりためて、それを塗り付けるように光一郎の胸をなめ回す。肌に浮かんだ汗の塩辛さもいとしい。あたしはこれをされるとすごく気持ちいい。だからきっと、光一郎も。胸から肩。肩って意外と感じるから、ひょっとしたらと思ったら――
「……んん……」
 光一郎がうめいた。やっぱり! 気持ちいいと思ってくれてる。あたしは嬉しくなって光一郎の肩を軽くかんだ。硬い筋肉。食べちゃいたい、と思う。
 もちろん片手で、光一郎のあれをしっかりさすってあげてる。パンツ――男の子のはトランクスって言うんだっけ。その中の熱いあれ。これの扱いだけはまだちょっとよく分からないけど、とにかく愛を込めて触ってあげれば喜ぶはず。マイクを持つみたいに少しゆるめにつかんで、一生懸命こすってみた。でも、まだちょっと硬くならないみたい。
 グラディナがおかしそうに言った。
「もっと強くこすってあげた方がいいわ」
「そうなの?」
「締めつけるほど男は喜ぶのよ。でも、手よりもいい方法があるわね」
 グラディナが、唇に指を当てた。あたしは理解して、それをしてみることにした。
 トランクスを下げると、もじゃもじゃっとした毛の中から、ぴょこんとあれが出て来た。ちょっとびっくり。グラディナのしか知らないけど、それはもっとスマートで毛も薄かったから。でも、怖くはなかった。光一郎は体のほかのところは結構色白なのに、ここだけ赤みがかっててまるで取ってつけたみたい。おもしろくて、じっと見ちゃった。
 くるみぐらいの大きさの先っちょは、すべすべして丸い。その下にいかにも粘膜が薄そうなちょっとくびれた所。あたしのあそこもそうだから、と考えてみる。ここは痛いけど気持ちいいところなんだ。
 その下には血管が浮いたごつごつした棒の部分。周りの皮は上下に滑って、つかむとしごきやすい。そうか、この皮を動かしてしごくんだ。ちょっと納得。
 ここでおしっこするんだ、と考えたら少し変な気がしたけど、思い直した。今のあたしは光一郎に奉仕してるんだから、汚いとこでもいやなとこでも受け入れないといけない。あーん、と口を開けて、思い切って入れてみた。
 汗の味と、あそこの匂い。これは男の子でも女の子でも変わらないみたい。でもやっぱり少し違う。グラディナのみたいに甘くない。もっと刺激的で、頭がぼうっとするような匂い。下品と言えば下品な匂いだけど、それがいやじゃないのが不思議。もっと嗅ぎたくて、鼻を押し付けながら、あたしは熱い大きいものをほお張った。
 愛すること、が基本だっけ。歯が当たったら痛いだろうな、柔らかいところが嬉しいだろうな。いっぱいつばを出して、それで包むようになめまわしてみた。光一郎、体は痩せ気味なのにここはすごく大きい。突っこまれたら喉の奥まで届いちゃいそうな気がする。うん、いっそ試してみよう――そう思って、思い切り奥まで飲みこんでみた。
 吐きそうになったけど、我慢する。ゴムボールみたいな先っちょがのどの奥に詰まって栓をされたみたいな感じ。締めつけると気持ちいいんだったら、これぐらいきつくても大丈夫だよね。舌でくびれのところをちろちろしながら、唇で棒のまわりと根元を包んであげる。
 鼻の下に、ふよふよした袋がぶら下がってる。ここだって触ってあげれば気持ちいいに違いない。あたしは指でていねいにそこを揉みほぐしてあげた。自分がグラディナにかき回されて気持ちよかったことを思い出して。とにかくいっぱい触って、いっぱいこすってあげること。
 ここまでやってるのに、まだ光一郎は動いてくれない。あたしは、グラディナに言われた別のことを思い出した。男の子は、女の子をなめるのが好きなのよ。
 あたしのも、なめさせてあげた方がいいかな。
 口がお休みしないよう注意しながら、あたしは水着の下を脱いだ。体を回して、光一郎の顔の上にまたがる。うわ、これってなんだか、悪いみたい。
 口を離して、言ってみる。
「光一郎、あたしの見せるから……いやだったら言ってね?」
 自分のあそこを人に押し付けるなんて、すごく失礼な気がするけど……いやだったら言ってくれるよね。
 ゆっくり下げてみる。一番弱いところだから、やっぱり人に触れるのはちょっとこわい。かまれたらちぎれちゃう、と思ったらぞっとしたけど……光一郎だから。あたしは信じて、あそこを光一郎の顔に押し付けた。
「ん……」
 ぺちゃっ、て音がした。もう濡れちゃってる。あそこのくりくりは敏感だから、触ってるものの形がよく分かる。これは、鼻。もうちょっと前だ。動かして……ここが唇、かな。押し付けた。
 やってみたら、乾いた唇があったかくて気持ちいい。指よりずっと柔らかい。つい、腰を動かしてすりすりしちゃった。それでぬるぬるが広がって、光一郎の顔の下半分をあたしのおつゆで汚すことになっちゃった。
 考えたみたら、いまあたしのあそこもお尻の穴も、全部光一郎に見られちゃってるんだ。しかもそこがとろとろになって感じてることまで。――恥ずかしくて落ちついていられなくて、あたしは光一郎のをしゃぶることに集中することにした。
 奥まで入れ過ぎるとうまく動かせない。少し戻して、ちゅうちゅう吸ってみる。こすって、なめて、握って。そうしたら、先っちょからとろっと汁が出てきた。
 これ、もうすぐいきそうってことだ。あたしが彼のを飲んじゃうわけにはいかない。
「ディナ! もうすぐよ」
「替わって」
 あたしが顔を上げると、グラディナが光一郎の足の間にしゃがみこんで、髪をかきあげながら吸い付いてきた。やっぱりすごくうまい。先っちょに舌をくるくる回しながら、チューブを絞り上げるみたいに片手で棒をリズミカルにしごく。もう片手は袋をもみもみしていて、見えないけどその下までくすぐってるみたい。それが流れるみたいにスムーズなのと、グラディナのきれいな顔とこん棒みたいなあれの対比がいやらしくて、あたしはどきどきしてしまった。
「ディナ、なんかすごくやらしい……」
「あなたもこういう顔してたのよ」
「ほんとに?」
 また発作的に恥ずかしくなった。――その時、つん、とあそこのぽっちが弾かれた。
「ひゃん?」
 つん、つん。それからみぞの間をねろーって感じでゴムみたいなものが通り過ぎる。光一郎の舌だ! やっと応えてくれた。
「そう……光一郎、そこっ! そこ気持ちいい!」
 嬉しいのと気持ちいいので力が抜けて、あたしは光一郎のおなかの上で体を丸めた。体重があそこにかかっちゃう。でも、光一郎が腕でお尻を支えてくれた。強い指がお尻に食い込んでくる。そう、つかんでいいの。あたしの体なんかでよければ、もっと握りしめてほしい。あたしのおつゆなんかでよければ、もっと味わってほしい。
「ふわあ……」
 柔らかいぴらぴらの間を、おつゆをこそげ取るみたいに光一郎がなめまわしてくれる。丸まった舌がつるっと入ってきて、中の方までえぐられる。ぽっちの裏のへんをつつかれると、背骨をぴりっと電気が上ってきた。お尻の上に鳥肌が立って、じゅわっとおつゆがあふれちゃう。光一郎を溺れさせちゃいそうだけど、止まらない。おなかの奥とあそこの周りと、両方からとろとろ垂れていく汁を、光一郎がごくんと飲んでくれる。自分が光一郎のつばを飲んだときのことを思い出して、ぞくぞくした。男の子が女の子に自分の汁を飲ませたがるのがわかる。これって、相手の中まで汚すみたいで、すごくサディスティック。 
「う……ううっ!」
 じっと声を殺していた光一郎が、初めてうめいた。あたしの目の前で、グラディナが軽くまゆをしかめた。
 びくびくっ、とあれが震えたのがわかった。飛び出した汁はかなり多かったみたいで、グラディナの口の端から白いものが弾けるようにあふれた。興味があったから、あたしは顔を近づけてそれをなめてみた。
 ちょっと辛くてねばねばする。匂いは、あたしとグラディナのつばの匂いで隠れてしまってよくわからない。――でも、その中に大事な光一郎の精子が含まれてるって思うと、一滴一滴がすごく大切に思えて、思わず飲んじゃった。
 グラディナがしばらく口を動かしていたけど、すぐにほっぺたに力を込めた。「ふううっ?」と光一郎が苦しそうな声を上げる。出したものを押し戻されるってつらいんだろうな、と同情。
「光一郎……すぐ楽にしてあげるからね」 
 グラディナが顔を離して、口の周りを手でぬぐった。どきどき待っているあたしに、うなずく。
「さあ、これでいいわ。たくさん受け止めてあげなさい」
「……うん!」 
 そう。もうあたしは、さっきまでしゃぶっていた彼の硬くておっきいものを迎え入れることで、頭がいっぱいだった。
 体を回して、光一郎の顔をのぞき込んでみる。眉をしかめて、ぼんやり宙を見つめている。痛々しくて見てられない。あたしは、そっとささやいた。
「もういいよ。我慢しないでよ」
「……優水?」
 ふらふら起き上がった光一郎が、ぼんやりあたしを見つめてる。グラディナに心を壊されちゃったんだ。可哀想でしかたない。せめて、あたしにできることをしてあげる。痛いほど硬くなってるあれを、あたしの中に導いて包んであげる。
「精子、出したいんでしょ? あたしの中にいっぱい出して。出してほしいの。心配しなくていいから……」
分かりやすいように、あたしはまた向きを変えて、彼の顔の前にお尻を突き出した。恥ずかしいけど、これしかない。ほかのことを考えないように。あたしのことだけを考えてくれるように。
 両手でお尻を開いて、あそこを差し出した。
「ここだよ……わかる? ここに、光一郎のおちんちん、入れるんだよ?」
「優水……」
 不意にはっきりした動きで、光一郎があたしの上に覆いかぶさってきた。ほっぺたが乱暴に砂に押し付けられる。仕方ない。あたしは我慢して、脚の間から後ろに片手を出した。「ほら……貸して。ここ。このぬるぬるしてるとこ……」
 つまんで教えてあげると、光一郎は一気に入ってきた。
「ふあんっ!」
 頭の中まで貫かれたみたいに、ぱっと光が散らばった。硬い光一郎が突き進んでくるのに、粘膜が広がるのが間に合わない。あたし必死で力を抜いてあそこをゆるめる。押し出されたおつゆが音を立てて飛び出していった。
「そう! そうだよ、光一郎! もっと思いっきり突いて!」
「優水、優水」
 すごい速さでがくがく腰をぶつけながら、光一郎はあたしの水着をはぎとった。おっぱいがつかまれて、爪が乳首に食い込んだ。あたしはそんなに大きくないから引きつって痛かったけど、それも気にならなかった。
 気持ちよすぎたから。グラディナの優しい入れ方とは違う、めちゃくちゃに突っ込んで来る彼の犯しかたは、気持ちよさもめちゃくちゃだった。
 光一郎の硬いものがのべつまくなしに動いていて、あそこがしびれちゃってる。背骨から後ろ頭まで冷たくなるほど寒気が突っ走る。背中も肩も鳥肌で感覚がない。もう声も出ない。ただやたらと短いため息が出る。
「は、は、あ、はあ、あん、はあん!」
 あそこはぴりぴりしてもう思いどおりにならない。自分の体なのに別の生き物みたいにきゅうきゅう動いちゃってる。そのたびに絞り出すみたいにおつゆがあふれる。光一郎のあれがおつゆをかきだしてお尻の周りをべちゃべちゃにしている。それが腰がぶつかるたびにあたりにはね散る。
 押し潰されてる子宮にスイッチがあるみたいに、幾度も電気が昇ってくる。指先までぴりぴりして体中が反っちゃう。いきなり光一郎が、出した。
「優水っ!」
「くうーんっ!」
 おなかの中いっぱいにあふれ返る光一郎の精液の感触が、あたしにとどめを刺した。死にそうに息が詰まって体中の筋肉が引きつった。感じたのは信じられないほどの幸せ。それでもまだ光一郎は止まらない。出しながら、あたしに注ぎ込みながら、なおもガンガン突っ込んで来る。ちっとも柔らかくならないあれが、あたしをバラバラに壊して遠くへ放り投げていく。そのまま、二回目の発射。
「こ、こういちろう、すてき、いいーっ!」
 体の中全部が精液で満たされちゃいそうな光一郎の終わらない発射を受けて、あたしは魂の底から叫んでいた。

 時を同じくして、砂浜全体から絶頂の叫びが上がる。
「出すぞ、服部!」
「ああっ、あんっ!」
「雄介、ゆうすけぇんっ!」
「おおうっ!」
「チカっ、チカいくよ!」
 上から、下から、後ろから、さまざまな姿勢でつながった三十人の男女が、いっせいに精を放ち、それを迎える。
 私は愉悦とともにそれを見下ろしている。胸のうちは高ぶり、下着の中の陽根はいきり立ってスカートを持ち上げんばかりだ。これから、一人ずつ娘たちを犯し直して、体内に放たれたばかりの精を改編していかなければいけない。
 だがまだ夜は長い。宴も終わらない。
 すべての男がすべての娘を、一度は犯すまで。




 エピローグ
――Kiss Class


「おっはや!」
 二学期の平凡な朝。明るい声であいさつしながら、今枝香織が日に焼けた顔をほころばせて教室に入ってきた。その後ろから一緒にきたのは、佐倉千鶴である。
「おはよ」
「おう、はよ」
「よっ」
 入り口近くでダベっていた根本と吉倉が、すっと近づいて二人を抱きすくめた。軽く触れ合う程度のキス。
「なあ、今日しないか?」
「わたしはいいけど」
「あなたもうできちゃってるでしょ。ね、私ならいいわよ」
 香織をさえぎって千鶴が二人に微笑みかける。いつのまに友達になったのやら、この明るさも、以前の彼女とは別人のようだ。
「じゃ、しようぜ、佐倉」
「根本君と吉倉君? 二人だけでいい?」
「あー、おれも」
 手を挙げた加藤丈史を、篠田美智が引っ張った。
「あんたはあたしと約束あるでしょーが!」
「いてて、引っ張んなよ」
「いいじゃない、せっかくだから五人で」
 千鶴が言うと、さすが委員の統率力というべきか、三人の男子と一人の女子は素直にうなずいた。
「じゃあ、今日は確か第二講義室が空いてるから」
「わかった。みっちり犯してやるからな」
「露骨に言うなよおまえは」
 香織が根本をぶん殴った。千鶴はややほおを赤らめて、私のそばを通った。
「調子はどう?」
「体調はいいけど……それで決まるものでもないんでしょう?」
 そうなのだ。人の男の精を使う方法も、完全ではなかった。あの夏の宴の夜に、私はすべての女子に精を仕込んだつもりだったが、休みが明けてみると、はらんでいたのは女子の三分の一程度だった。
 生理の周期のせいもあったかもしれない。それなら、日をずらせば成功する可能性もある。以来、私のクラスでは、日常的に交わりが行われるようになった。
「危険日は?」
「ちょうど、今日あたり。……でも、危険日っていうのも変ね」
「危険よ。何を宿すと思っているの?」
 千鶴の顔にちらっと恐れの色が浮かんだが、私が手を出さないことはわかっているらしい。「頑張ってみるわ」と自分の席へ向かった。
「おはよう!」
 優水が入ってきた。天真爛漫な笑顔は相変わらずだ。他のクラスの男どもが、この笑顔の裏の、あの恐ろしく淫らな素顔を知ったらどう思うだろう?
 いずれ知らせる日が来る。
「おはよ、ディナ」
 私の前の席に着くと、優水はにっこり笑った。私は聞いた。
「どう?」
「順調みたい。中で動いてる。いつ産まれるの?」
「来月ね。悪魔は人より育ちが早い」
「おなか大きくならなくてよかったよ。うちのお母さんに見つかったら大変なことになっちゃう」
「その日がきたら、私が取り上げてあげるわ」
「楽しみ!」
 優水は顔をほころばせた。私は教室を見回す。はらんでいる娘たちの顔には、同じように時を待つ幸福そうな表情が浮いている。あの佐々木瞳でさえ。
 幸福とはそういうものだ。つまり、自分の不幸に気づいていない状態。私によってもたらされたこの災厄をも、感じ取ることができない状態。
 すでに、このクラスは魔界と化していた。
 始業時刻が近づき、澄田光一郎と教師が入ってきた。澄田はあの日から、心を封じてしまっている。ただ優水の言葉のみにしたがう人形だ。
 あるじである優水はしかし、無慈悲にもすでに変質してしまっている。私に、こうささやく。
「この子が産まれたら、次はどの男の子のを産めばいいの?」
「他のクラスね。そして他の学年。ゆくゆくは世界中の男たちの」
「ディナ、手伝ってよ? あたしまだ、男の子怖いんだから……」
「わかってるわ。それより、人に知られないようにね。ほら、先生が来てるわよ」
「あ、ほんとだ。澄田君!」
 副委員の澄田が機械的に声をかける。
「起立!」
 三十人の男女が立ち上がる。私のかわいいしもべたち。大切な苗床たち。
 机にかけたかばんがつぶやく。
「……グラディナ陛下に栄えあれ。もろもろのしもべよ、我が王にぬかづくべし……」
「礼!」
 私は頭を下げない。私が、彼らの王だ。


――了――

第三章
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