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春休みの大発見

 割れた窓ガラスに押し当てた板が、ガタンガタン、と音を立てている。
 外はすごい吹雪だ。生まれたときから十一年間この町に住んでいるけど、こんなすごい雪は初めて。きっとニュースでは、かんそくしじょう最大の大雪、とか言ってるんだろう。
 ハードルやサッカーボールや大玉転がしの玉がごちゃごちゃにしまわれている倉庫の中は、砂っぽくて汗臭い。そして、きいんと頭が鳴るほど寒い。
 でも、ぼくの体の右側だけは、ぽかぽかあったかい。
 佐村一美が、不機嫌そうな顔でくっついているから。
 佐村とぼく、砂戸啓太は、別に友達でもなんでもない。同じクラスで同じ班ではあるけど。
 それが、どうしてこんな風に、人っ子ひとりいない学校の体育倉庫の中で、ぴったり身を寄せ合って座っているかというと――

「逃げちゃうよ砂戸! そっち閉めて!」
 ぼくはあわてて飼育小屋のはしへ走って、金網の扉を押さえつけた。ぴょこたんぴょこたんと飛んできたイエウサギが、ちっ、と舌打ちするような感じで、向きを変えた。
「閉めといてって言ったじゃん! なんで開いてるの!」
 ほうきで丸っこい糞を集めていた佐村が、憎ったらしい顔で叫んだ。ぼくは負けずに言い返した。
「佐村が糞を捨てに行くと思ったからじゃんか! 両手ふさがってたら、掛け金外せないだろ?」
「だったらその時開けてくれればいいでしょ!」
「後で開けるぐらいなら前でもいいと思ったんだよ」
「絶対開けっぱなしにするなって先生言ってたじゃん、逃げたら砂戸、責任とれるの?」
「おまえほんとにうるさいな、いつも責任責任って!」
「無責任な砂戸にそんなこと言われたくないよ。大体、今日だってあたしが電話するまで忘れてたくせにさ!」
 それを言われると返事ができない。仕方なく、ぼくは黙りこんだ。
 佐村はクラスでも一番か二番ぐらいに声の大きい女子だ。成績もいいし、足だってぼくより速い。ケンカをしても、男子で一番大きい杉本茂を二メートル吹っ飛ばしたぐらい強い。首が見えるほどのショートカットで、スカートなんか絶対はかず、いつもジーンズにスタジャンを引っ掛けていて、ちっとも女子っていう感じがしない。
 でも、わりと人気はある。ぼくも、そんなに嫌いじゃない。
 嫌いじゃないけど、たった二人きりで係の仕事をしなきゃいけないとなったら、ちょっと気後れする。
 それに、佐村の言うとおり、ぼくは今朝、寝坊してしまった。ウサギのエサ当番があったのに、春休みだから忘れていたんだ。考えたら、休み中だってウサギは生きてる。エサがいるのは当たり前だ。――ぼくが佐村に勝てるのは理科の成績ぐらいなのに、そんなことも忘れていたのは情けなかった。
「ほら、エサとって!」
 こんにゃろうと思いながら、ぼくはしぶしぶ大豆の葉っぱを入れたバケツを差し出した。手が滑って、落っことす。
「何やってんのよ!」
「うっさいな、寒いから手がかじかむんだよ」
 ぶつぶつ言いながら、ぼくは小屋の外を見た。すると、いつのまにか白いものがひらひら舞い始めていた。もう三月なのに、今ごろ雪か。どうりで寒いわけだ。
「あっ、こら!」
 よそ見していると、佐村が大声を上げてほうきを振りまわした。振りかえると、一番大きいオスの「ランボー」が、小さなメスの「オードリー」の上に乗っかって、首筋に噛みついていた。
「いじめはダメって言ってるでしょう! 離れろ、この乱暴!」
 佐村はほうきをぶち当ててランボーを追っ払う。あわててぼくは止めに入った。
「だめだよ、それきっと、交尾しようとしてるんだ」
「なんだか知らないけど、あたしは弱いものいじめって嫌いなの!」
「怒ってないで、さっさとエサあげて帰ろうぜ。雪、ひどくなりそうだから」
 佐村の気を逸らしてやりながら、ぼくはランボーにそっと目をやった。こいつはたしかに乱暴者だけど、メスをいじめるほど根性曲がりじゃない。ひょっとしたら恋人同士なのかもしれないのに、佐村に追っ払われちゃうなんて運が悪い。
 そんなこんなで、佐村と文句の言い合いをしていたら、ずいぶん時間がかかってしまった。
「こんなにかかったの、砂戸がいちいち余計なこと言うからだよ、わかってる?」
「余計じゃないってば。佐村が世話したいのはわかるけど、生き物のすることに手を出しすぎるから」
「だってかわいそうでしょう! ああ、もう十時だ!」
 携帯電話の時計を見ながら佐村は怒ってる。やなやつだ、学校には持ってきちゃいけないことになってるのに。
 わざと無視して、ぼくは小屋を出た。すると、外はとんでもないことになっていた。
 うなりを上げる猛吹雪。ほんの一時間ぐらいの間に、グランドが真っ白になっていた。小屋は校舎の陰になっていて風が当たらないから、気づかなかったんだ。少し歩いて校舎の角から出ると、途端に体をもっていかれそうな横殴りの風が吹き付けた。無理して風上を見たけど、十メートル先も見えない。たちまち顔に冷たいものが積もった。
 あわてて校舎の陰に戻ると、佐村がぼくと同じようにびっくりした顔で立っていた。
「佐村、傘持ってきた?」
「持ってるわけないじゃん、家出るときは晴れてたんだから。なんとか帰るよ」
「やめとけよ、凍死しちゃうぞ」
 ぼくたちの学校は、小高い山の上にある。国道までは林の中の道を五百メートルぐらい歩かないといけない。この雪じゃ体温を奪われるし、道に迷うかもしれない。
「そうだ、お母さん呼んでみる」
 佐村が携帯電話をかけた。しばらく話してから、悔しそうに切る。
「家の前もすごいことになってるんだって。車で来てくれるって言ってたけど、チェーンがないから、ホームセンター寄るってさ。三十分ぐらいかかりそう」
「もっとかかるよ。国道は渋滞だろうし、学校下の坂、もう危ないだろうし」
「それまでここで待ってたら、やばくない?」
 佐村がほんの少し不安そうにぼくを見つめる。身長は同じぐらいだ。でも、今初めて気づいた。
「校舎の中、入ろうよ」
「鍵がかかってるよ」
「じゃあ、だれか大人の人呼んで……」
「いるわけないだろ、この周り、家なんか一軒もないんだから」
「……警察とか」
「同じだよ。警察だって空飛べるわけじゃないもん」
「……ねえ、それじゃあたしたち、ここに置き去りってわけ? ちょっと、やばいよ!」
 驚いてぼくは佐村の顔を見た。目尻が下がって、泣きそうになっている。そんな佐村は初めて見た。
「あたし、スタジャンの下二枚しか着てないのよ。こんなに寒くなるなんて思わなかったから! ほんと、マジやばいよ!」
「落ち着けよ」
 わめき出した佐村のパニックが移りそうだったけど、ぼくはぐっとこらえた。佐村はどうしていいかわからなくなってる。だったら、ぼくがなんとかしないといけない。
 ぼくは佐村ほど成績はよくないけど、生き物のことはよく知ってる。動物たちはいろんな方法で寒さを乗りきっている。極地の生き物は分厚い毛皮を身につけているし、脂肪をためこんでいるものもいる。虫は落ち葉の中で、寄り集まって熱を保つ。
 共通しているのは、素肌に風を受けないようにしているということだ。
「どこか、風の当たらないところに隠れよう」
「どこかって……」
 途端にびゅううっ! と雪交じりの突風が襲ってきた。風向きが変わりやすくなってる。校舎の陰にいるぐらいじゃだめだ。学校の建物を思い浮かべる。
「体育倉庫、窓がひとつ割れてたよな。あそこ入ろう」
「う、うん」
 佐村は、ぎこちなくうなずいた。

 そういうわけで、ぼくたちは雪が積もったグランドを突っ走って倉庫に入り、別に仲がいいわけでもないのにくっつきあって座っている。
 佐村はずっと黙ったままだ。パニックはどうやら収まったみたいだけれど、不機嫌までは収まっていない。いや、みっともないところをぼくに見られたせいで、もっと機嫌が悪くなっている。
「なんであんなにあわてたんだよ」
「うるさいな。……昨日、テレビでやってたでしょ」
「テレビ……もしかして、八甲田山死の行軍ってやつ?」
「砂戸も見たんじゃん。雪に閉じ込められると、人間は低体温症っていうのにかかって、幻覚を見て、紫色になって死ぬんだよ」
 ぼくは笑い出しそうになった。いくら雪が降ったからって、建物の中で凍死するほどここらの気温が下がるわけがない。下がったって、ほんの数時間で助けが来る。
 でも、さんざん悪口を言われたうらみがあったから、少しおどかすことにした。
「知ってる? 子供のほうが、より早く死ぬんだよ」
「ど、どうして」
「体が小さいからさ。お鍋のシチューと皿のシチューじゃ、皿のほうが速く冷めるだろ。子供はすぐに体が冷えちゃうんだ」
「怖いこと言わないでよ!」
 いきなり佐村は立ちあがった。出ていくのかと思ったら、棚に押し込んであるゼッケンの箱を持ってきて、どさっと開けた。それから、ロールにしてある体操用のマットをけっとばして、床に伸ばした。
「こっち、乗ってよ。コンクリートだとお尻が冷えるでしょ」
 言われたとおりにマットの上に座ると、佐村は隣に腰を下ろして、ゼッケンをかき集めて下半身にかけた。それから、しばらくもぞもぞしていたけど、いきなりこっちを向いてにらんだ。
「砂戸、寒い?」
「そりゃ寒いけど」
「じゃあ、暖かくしてやるから」
 そう言って、ぎゅっと体を押し付けてきた。――なんのことはない、自分が寒いんだけど、そう言うのがいやなんだ。スタジャン越しに佐村の腕の柔らかさを感じながら、ぼくはにやにや笑ってしまった。
 佐村のおばさんがくれば、携帯で呼んでくれるだろう。別に見に行く必要もない。やることもなくて、ぼくと佐村は、吹雪のごうごういう音に耳を傾けるみたいに、じっと黙っていた。
 そのうちにおかしな事に気づいた。佐村の足が、やけに冷たい。手を伸ばしてまさぐったぼくは、ぎょっとした。
「佐村……ズボン、濡れてるじゃん!」
「しょうがないでしょ、グランド走ったんだから」
「窓から入るときよくはたかなかったの?」
「一秒でも早く入りたかったんだって!」
 まずい、とぼくは思った。濡れたままの服を着ているのは、何も着ていないよりも体温が下がる。
「佐村、ズボン脱げよ」
「えっ?」
「そのままだと風邪引くぞ。いや、ほんとに凍傷ぐらいにはかかっちゃうぞ」
「そ、そんな! なにエロいこと言ってんのよ!」
「エロいとか言ってる場合じゃないって! ゼッケンがあるからどうせ見えないよ! 早く!」
 佐村はしばらくぼくを見つめていた。その唇が、小さく震えている。
「ほら、震えてるだろ! 脱がないとぼくが脱がすよ?」
「やだよ、そんなの」
 佐村は目を逸らすと、ゼッケンの山の中に手を突っ込んで、ごそごそと身動きした。じきに、脱いだジーンズを引っ張り出してそばに置く。
 佐村の足がぼくに触れる。その途端、佐村は言った。
「砂戸、あんたも濡れてるじゃん」
「ちょっとだけだから大丈夫だよ」
「あんたがよくても、あたしが冷たいの! あんたも脱いでよ!」
「ちょ、ちょっと待てよ」
「脱げないの?」
 不意に佐村はずるがしこい笑いを浮かべた。
「じゃあ、みんなに言いふらしてやる。あたし、砂戸に体育倉庫でズボン脱がされたって」
「……ひきょうじゃないか!」
「ひきょうとかエロいとか言ってる場合じゃないんでしょ。早くしなよ」
 またしてもやり込められた。やっぱりこいつは頭がいい。
 しぶしぶぼくはズボンを脱いだ。裸のひざとひざがゼッケンの下で触れる。すると、佐村はさっと足を離してしまった。――威勢のいいことを言ってたのに、やっぱり恥ずかしいんだ。
 むかっ腹が立って、ぼくは手で無理やり佐村のひざを引き寄せた。
「ちょっと、スケベ!」
「離してちゃ意味ないだろ?」
 佐村はうんこに触るみたいに嫌そうな顔をして、ものすごくゆっくりひざを寄せた。すると、だいたい太ももがぴったりくっついて、ひざから下が離れるぐらいになった。
 しばらくたってから、佐村がぼそっと言った。
「……足、あったかくなってきた」
「だろ」
「うん……」
 うなずいたけれど、あまり佐村は元気そうじゃない。震えが止まっていない。そういえば、二枚しか着ていないって言ってた。ぼくはダウンの下に三枚着ている。こいつのほうが寒いんだ。
「佐村あのさ、まだ寒いだろ」
「寒いよ」
「もっとくっつけばあったかくなるよ」
「もっとって……」
 佐村はますますいやそうな顔をしたけど、寒さには勝てなかったみたいだ。ぼくが言うより早く、意味をのみこんだ。
「抱き合うってこと?」
「きんきゅうひなんってやつだぞ。エロい気持ちとか、そんなの全然ないからな」
「わかったよ……」
 体をひねって、ぼくと佐村は正面からお互いの体を抱きしめた。佐村のあごが、ぼくの肩の上に乗った。――佐村の髪のシャンプーの匂いが、ふわりと鼻に入った。それからずっと、ぼくはその匂いをかぎつづけることになった。
 上半身だけひねっているのはつらい。それは佐村も同じらしかった。二人で何度か、ごそごそ身動きして安定しようとした。でも、足を投げ出したままで抱き合っていると、どうやっても苦しい体勢にしかならないということがわかった。
 口にすればまた文句を言われる。ぼくは思いきって、黙ったまま佐村の体を引っ張った。「きゃっ?」と女の子みたいな声を上げて、佐村の体がどさっと上に乗ってくる。
「ちょっと!」
「見てないって!」
 言い返しながら、ぼくは片手で散らばったゼッケンを集めなおした。いやがって離れるかと思ったけど、佐村はそのままだった。
 佐村の、はだかの柔らかい太ももとふくらはぎが、すっかりぼくの足とからみあってしまった。すごくすべすべしていて、あったかい。
 ――なんだか胸がざわざわして、変な気持ちになってきた。佐村の体の重さが、布団に包まっているみたいに優しく感じられる。佐村の匂い――シャンプーだけじゃなくて、かすかに甘ったるい女の子の汗が混じっているそれのせいで、よけい変な気が強まった。それに、佐村がこんなこと言うから。
「砂戸……細そうなのに、筋肉あるじゃん」
「うちで、畑いじってるから……」
「ふうん……このダウン、干した?」
「いちおう、毎日。先月下ろしたばっかりだし」
「じゃ、汚くないんだ」
 なぜか佐村は、ことりと顔をぼくの肩にうずめて、すうすう深呼吸を始めた。直感的に何をしているかわかった。ぼくと同じだ。匂いが気に入ったんだ。
 ――絶対そうならないようにしようと思ってたことが起こって、ぼくは困った。あれが……ちんちんが、大きくなってきた。まずい。佐村の太ももが、すぐ下にくっついてる。少し動かれたらばれてしまう。
 でも佐村は動かない。少し腰を浮かせ気味にじっとしている。やっぱりそんなとこに触るのがいやなのかな――と思ったとき、だしぬけに気がついた。
 佐村自身のあそこが、ぼくに触れないようにしているんだ。
 つまりそれは、佐村も……
 ほっぺたをたたかれたような衝撃だった。それまで、エロいことを考えるのは男子だけだと思ってた。クラスで男子たちがそういうことを言って騒いでると、女子はたいてい、へんたいばーか、スケベちかん! と叫んで顔をしかめるのが普通だった。だから、女子はそういうことに全然興味がないんだと思ってた。
 でも、いま佐村は、まるで触られるとぼくになにかがばれてしまうとでも言うように注意深く体を離しているし、ぼくのちょっと長めの髪にほっぺたを寄せて、汗臭いのがぜんぜん気にならないように息をしている。それは、やっぱり……
 ぼくはおずおずと、佐村の首筋に顔を近づけた。それから、かいでいることがわかるように、くんくん音を立てて鼻息を吸ってみた。
 すると――佐村は、答えるようにくんくんとぼくの首もとで鼻を鳴らした!
 頭にかあっと血が上った。女の子の体にさわりたいと思ったことはあったけど、それはもっと大人になってからすることだと思っていた。第一、相手がいない。でもいまは佐村がいて、佐村は全然いやがらず、もっとしよう、というようにぼくにほおずりしている。
 止まらなかった。ぼくは佐村のほっそりした首筋に鼻を押し付け、胸いっぱいに女の子の匂いを吸いこんだ。うなじのつんつん短い毛にほおをあてて、逆なでして楽しんだ。佐村も同じようにぼくの髪に鼻を滑らせ、すうっ、すうっと呼吸の音を立てた。
 佐村が意外なことを言った。
「砂戸って……なにかつけてる?」
「……別に、なんにも……」
「そう? じゃこれ汗? へんなの……男子なのに臭くないなんて、へん……」
 そう言った時にちらりと見えた佐村の顔は、まるで熱があるみたいに真っ赤になっていた。耳の奥がぐーんと鳴った。佐村も興奮してる!
 子犬がじゃれあうみたいに、ぼくたちはずいぶん長い間お互いの匂いをかぎあっていた。もう暖まるためなんて目的は忘れて、ぎゅっと力いっぱい体を抱きしめていた。スタジャン越しに、佐村の胸がわかる。佐村はもうおっぱいがふくらんでいる。(おっぱい!)ちんちんがむずむずして仕方ない。我慢しようとして力を入れたら、足が佐村の太ももの肉にますますくっついてしまって、よけい我慢できなくなった。
「は……ん」
 熱いため息を残して、佐村の口が耳のほうに滑ってきた。ぼくは思わず、そちらに顔を向ける。こめかみのあたりはどちらか一人しかかぐことができない。そこが一番匂いが強くてうれしいのに。ほっぺたで押しくらまんじゅうをしているみたいに、ぼくたちは相手のそこを取り合った。
 するっと顔が離れて、至近距離でぼくたちは見つめあった。佐村がぱっちり目を開いてぼくを見ている。唇が、五センチ向こうにあった。キス、という言葉が浮かんだ。
 いきなりものすごく恥ずかしくなった。キスなんて、とてもできない。そんなの、映画でしか見たことがない。
 固まった瞬間に、魔法が解けた。
「あ……砂戸……」
 佐村もわれに返った。落ち着きなく目を泳がせて、ぷいと横をむく。ぼくは、ほっとしたような、もったいないような、複雑な気分だった。
「あーあ、最悪」
 佐村は、ごまかすみたいに大声で言った。
「なんでこんなとこで、砂戸なんかにくっついてなきゃいけないんだよ。服まで脱がされてさ。まるっきり美女と野獣じゃん。さっきのランボーとオードリーみたいになっちゃったな」
「だから、あれはケンカじゃないって」
「ケンカじゃんか、どう見ても。ああ、そういえばこうびってなに?」
 いとも簡単に聞かれて、ぼくは返事に詰まった。すると、鼻のいい犬が肉の匂いをかぎつけたみたいに、佐村はぼくの顔をのぞきこんできた。
「なんなの、こうびって。……どうせ、言葉しか知らないんでしょ。砂戸って難しいことばっかり言うけど、知ったかぶりなんだから」
「知ってるよ、意味ぐらい」
「じゃ、説明してよ。ああ、長くなるからやめるっていいわけはなしね。時間なんか腐るほどあるんだから」
 先回りされて、ぼくは舌打ちした。まったくこいつは……学校の成績はいいくせに、授業でやらないことはぜんぜん知らないんだ。雰囲気を変えるつもりで、そんなこと聞いて来るんだから。知ってたら、こんな時にそんなこと、聞けるわけがない。うんざりしながらぼくは言った。
「ああやって乗っかって、首を噛んだり押さえたりするのが交尾なんだよ」
「へえ、首を噛んだらこうびなの? だったらランボーのいつものケンカもこうび?」
「違うって。ウサギのオスは一週間に一度発情期っていうのが来るんだ。その時メスがいると、交尾するんだよ」
「だから、それってどうやるの」
「それは……」
「知らないんだ」
「知ってるってば……あのさあ、そんなこと平気な顔で言うなよな!」
「なにが?」
「交尾って、この交尾だぞ?」
 僕は手のひらに指で字を書いた。まじわる、お。
 そこまでやっても無駄だった。佐村は全然気づかずにきょとんとしている。もうしょうがない。どうでもいいや、と思ってぼくは早口に言った。
「オスがペニスを出してメスに入れるんだよ。それで精子を出すんだ。するとメスは排卵して、卵が子宮の中で精子とくっついて、それで妊娠するんだ」
「ぺ……」
 佐村は一瞬絶句してから、すぐそばに誰かがいるみたいに声をひそめて、小声で言った。
「それってセックスじゃんか! そうならそうと言ってよ!」
「……佐村もセックスなんて言葉知ってるんだ」
 はっと佐村は口を押さえた。ぼくもびっくりしていた。性教育の授業があったから知っててもおかしくないんだけど、女子がセックスなんて言葉を言うの、初めて聞いた。教室でそんなことを言うと、たちまちまわり中が大騒ぎになる。男子はセックスセックスって叫ぶし、女子は静かにしましょうってわめくし。
 そうなると思ったのか、佐村はとっさに言い返した。
「す、砂戸だっていま言った! 絶対言った!」
「先に言ったの佐村だろ! 佐村がさーき、先がわるい!」
「さ、先って……」
「佐村はスケベ! 佐村はチカン! 女のチカン! 変態バーカ!」
「うるさい、うるさーい!」
 叫んでいたぼくは、佐村の顔を見てちょっと口を閉じた。佐村は泣きそうになっていた。顔が真っ赤だった。
 そうだ、佐村は優等生だった。こんな風に失敗することなんか、めったにない。あんなことを自分で言っちゃったのは、すごいショックだろう。なんだか、ひどく悪いことをしたような気になった。
 だから、ぼくは言った。
「佐村……いい?」
「……え?」
「せ……セックス」
 そのいけないひとことをはっきり言うのは、やっぱりかなり大変だった。でもぼくはもう一度言った。
「セックス」
「……え、えっ?」
「ほら、ぼく三回も言った。……だから、ぼくのほうがチカン」
「なに……それ」
 佐村は目をぱちぱちさせていたけど、やがてぷっと吹き出した。
「それ……謝ってんの?」
「知らないよ。でも、たいしたことじゃないって。せ……セックスって言ったぐらい」
「声、震えてる。……もう一回いってみそ」
「うるさいなあ、そんなに何回も言えるかよ」
「そう? たいしたことじゃないんでしょ?」
 そう言うと、佐村はひょいとぼくの耳に口を寄せた。それから、ぽつりと言った。
「せっ・く・す」
 歯と舌が動く、くちっという音が混じっていた。ものすごくいやらしいひとことに聞こえて、ぼくはタコみたいに真っ赤になった。おそるおそる佐村の顔を見てみる。――目のまわりをほんのり赤くして、少しだけ唇を震わせていた。
「佐村……よく言えるね」
「言えるよ。あのね、今だけだからね。あたしたち二人とも言った。だから、絶対秘密だよ」
「わかってるよ」
 見つめ合ってると、どきどきした。今にも誰かに怒られそうな、だけどわくわくするどきどきだ。ただの言葉なのに。なんでだろう?
「ねえ……もっと言いたくない?」
 ぼくが聞くと、佐村はまた唇を少し開いた。ピンクのつやつやした唇から、小さな一言が出てきた。
「お……っぱい」
「うわ……佐村も、楽しい?」
「うん……心臓が破裂しそう。ねえ、砂戸も言って」
「……ちんちん……」
「エロぉ……ペッティング」
「せ……精子……」
「オナニー……」
「しゃせい……」
「ちつ……」
 ぼくたちは、性教育で覚えた言葉を次から次へと連発していった。口の中がからからに乾いて、舌が張りついた。絶対人前で使っちゃいけない、危険な呪文。どうして使っちゃいけないのか、よくわかった。女子のリーダーの佐村が、壊れちゃったみたいにいやらしくなっている。これは、頭をとろかす呪文なんだ。
「……エロいよ。砂戸エロすぎ」
「佐村だって。意味わかってるの?」
「当たり前じゃん。女子はみんなわかってるよ」
「じゃあ、これも……わかってた?」
 ぼくは言いながら、ふっと佐村の耳に息を吹きかけた。びくっ、と目を閉じてから、佐村は小さくうなずいた。
「ペッティング……だよね」
「ぼくたち、ずっとそれしてたんだよ」
「……うん」
「いいの? 佐村、そんなことして」
「……わかんない。すごく悪いことみたいな気がする。でも、やめられない。やめたくないの。砂戸は?」
「ぼくも……」
 ぼくたちは、また顔をこすりつけ始めた。さっきと同じ、でもさっきとは全然違う。ぼくたちは知ってる。これを続けると、いいわけできないところまで行ってしまう。もう、ただの遊びのつもりだったなんて言えない。
 でも、もう戻れなかった。
「砂戸……」「佐村……」
 ぴったり同じタイミングだった。次のひとことも。
「セックス、しない?」
 二人で顔を見合わせて、ふふっ、と笑った。唇のはしがひきつってた。
「砂戸のスケベ……あたし、砂戸ってもっとマジメだと思ってたのに……」
「ぼくだってそう思ってたよ。でも、したいんだ。佐村もだろ?」
「うん、あたしもしてみたい……」
 佐村が顔を上げた。ぼくはじっと見つめる。日焼けした小麦色の肌がぽうっと赤らんでいる。くっきりとがった眉が、ちっとも強そうに見えない。大きな目がほんの少しゆるんで、泣き出しそうに濡れていた。――ああ、女の子って、したくなるとこんなかわいらしい顔になるんだ、とぼくは感動した。
「砂戸……砂戸って、けっこう顔いけてるね」
「佐村も……その、かわいい、よ……」
「いいよね、しちゃっても。保健の先生は好きな人としなさいって言ってたけど……砂戸、嫌いじゃないし」
「うん、ぼくも、佐村だったら……」
 それが、したいから出てくる言いわけだって、わかってた。大人しかしちゃいけない秘密の遊びを、こっそり二人でするためのいいわけ。先生にばれたら、お母さんにばれたら、どんなに怒られるかわからない。
 でも、かまうもんか。ぼくらはいま二人きりで、吹雪が分厚い壁を作っていて、じゃまをする大人やクラスメイトは五百メートル四方に一人もいないんだ。
 ぼくたちは、顔を近づけた。
 解けた魔法が、もういちど始まった。

 唇が触った。さらさら、さらさら、とぼくたちはこすりつづけた。思っていたよりずっと簡単なことだった。なのにすごく気持ちいい。背中がジーンと震えるほど気持ちいい。ぼくは唇をつぼめて、ちゅっと音を立てて吸ってみた。佐村はくすっと笑って、同じようにちゅっちゅっと唇を押し付けてきた。
 胸があったかくなる。ものすごく幸せな気分になる。唇だけじゃ足りなくて、ぼくは自分の唇を、佐村のほっぺたや鼻の頭やまぶたや、いろんなところに押しつけた。佐村もそれが気に入ったみたいで、同じようにすりすりといろんなところにキスをしてくれた。
「ねえ……もっとくっつこうよ」
 ぼくはそう言って、佐村のスタジャンのボタンを外した。佐村もぼくのダウンのファスナーを下ろす。開いた上着のあいだで、ぼくたちは体をぎゅっと押しつけあった。
 佐村のウールのセーターの下で、小皿ぐらいのおっぱいがつぶれている。思ったよりもかたい。でも、ゴムみたいに弾力がある。少し佐村を押し戻して、手のひらで触ってみた。ツンととがったものがあって、ちょっとびっくりした。
「佐村……これって、乳首?」
「ん……そうだよ」
「なんでこんなにこりこりしてるの?」
「エッチな気分の時、そうなるみたい。でも、こんなにかたくなったの初めて……」
「さわっていい?」
「ちょっとだけね。そこ、痛いから」
 胸のほこりを払うみたいに、そろえた指でなでてみた。つつつつん、と小さなぽっちの感触。かたくなるっていうことは、ちんちんみたいなものなのかな? だったら気持ちいいはずだ。何度か続けてみる。
「……は……」
 佐村が目を閉じて、小さく息を漏らした。それから小声で言った。
「……いいみたい。ぴりぴりする」
 何度か続けてから、ぼくはシャツの下に手を入れようとした。でも、手が冷たいからと言って佐村はいやがった。残念だったけどぼくはあきらめた。
 上半身でそんなことをしている間、下半身もちゃんと動いていた。佐村はもうすっかり両足をぼくの足の間にうずめて、ぼくはそれをぴったり挟んでいた。靴がじゃまだったから二人ともごそごそ脱いだ。あったかい太ももを相手の太ももに挟んでもらうのは、お互い本当に心地よかった。
 そして、佐村のおなかもぼくのおなかにくっついていた。ぼくの、パンツの中ですっかりかたくなったちんちんも、佐村の柔らかいおなかで押しつぶされていた。当たった瞬間ははっきり言って怖かった。クラスの女子が、立ってしまった男子をさんざんからかうのを見たことがあったから。だけど、佐村はぼくの立ってしまったちんちんをちっとも笑わず、ただぎゅっとおなかを押し付けてきた。それはすごく気持ちよかった。
 ぼくはもぞもぞ腰を動かして、もっと強く佐村のおなかにそれを押しつけようとした。佐村が少し顔をしかめて言った。
「ちょっと……あんまり動くと、ゼッケン落ちちゃうよ」
「でも……触りたい」
 言ってから、気づいた。
「佐村も、触ってほしい?」
「……うん」
 小さく小さく、佐村はうなずいて、胸をぼくの体に乗せてきた。代わりに腰を少し上げる。
 ぼくは最高にどきどきしながら、ゼッケンの中に手をもぐりこませた。女の子のあそこがどうなっているかなんて、全然知らない。ちんちんがないことしか知らない。そこを触れるなんて――それも佐村みたいなかわいい子のあそこに触れるなんて、信じられない気がした。
 念のため自分のおなかで少し手をあっためてから、佐村のおなかに手を当てた。木綿のパンツの上で指をそろそろと伸ばしていくと、太ももの合わせ目についた。そこから、さらにぐっと指を伸ばして、佐村のあそこに指を押しこむ。
「こ、ここ?」
「うん……あのね、砂戸。爪とか立てないように、指の腹でこすってくれる?」
「わかった」
 そろそろとぼくは指を動かした。最初はむっちりした太ももにはさまれて狭かったけど、佐村が少し足を開いたから、触りやすくなった。言われたとおりに、指の腹でおそるおそる触る。
 パンツの下のかたちがだんだんわかってきた。真ん中に一本、細い割れ目がある。両側の盛り上がりはぷにぷにして柔らかい。割れ目の一番上に、BB弾ぐらいの大きさの、少しこりこりするかたまりがある。
 そこは全体があったかく、じっとりと湿っていた。すごくいやらしい作りだった。ぼくはちんちんがズキズキするほど興奮して、猫のあごを撫でるような手つきで、そこを揉み回した。
 佐村は小さなかたまりが、一番気持ちいいみたいだった。そこを触るとぶるっと震えて、ぎゅうっとぼくの腕をつかむのだ。楽しくなって、ぼくはそこをくりくりはじいてみた。「砂戸、それすごい!」と短く叫んで、佐村はぼくの胸に思いきり顔を押し付けた。抱きしめたくなるほどかわいい。
 そのうち、佐村のパンツのまたのところが、ぬるぬる滑り始めた。おしっこじゃない。ぼくは指でそっと布をよけて、わずかに割れ目の外側をすくってみた。人差し指と親指の間でもんでみると、ぬちゃぬちゃした液がついていた。
 なんとなく手を抜いて、ぼくはそれの匂いをかいでみようとした。すると佐村がはっと気づいて、その手を引っ張った。
「やめて! 匂わないで!」
「なんで?」
「変だもん! やらしい気分の時って、変な汁が出るの! 絶対いい匂いじゃないから、やめて!」
 そこまで言われると、ぼくも無理にかぐ気はしなくなった。おしっこをするところの汁なんだから、あまり顔に近づけたくないような気もした。
 でも、触ることはやめられなかった。気の強い佐村がふにゃふにゃになってしまうスイッチのあるところだったから。いじるたびに佐村が声を上げて、そのうち涙まで浮かべ始めたから、ぼくはなんだか、自分がすごく強くなったような気がした。
「佐村、ぼくのも触ってよ」
「え……うん」
 佐村が手を伸ばして、ぼくのパンツを上から押さえた。
「うあ……」
 反射的にぼくも声を上げてしまった。すごい、ものすごく気持ちいい。自分の手じゃないもので触られただけでこんなに気持ちいいなんて、信じられなかった。
 ぼくはすごくいやらしい気分になっていた。佐村に聞くこともせず、パンツの上のふちから手を滑りこませて、じかに佐村のあそこに指を進ませた。途中で少し毛が生えていることに気づいたけど、女子に負けた、ということも気にならなかった。
 佐村のあそこは、ぷにぷにの肉の唇みたいだった。耳たぶみたいに柔らかいひだがあって、その中に指をうずめると、飲み込まれてしまうみたいだった。そして、全体がぐしょぐしょだった。
 パンツの上からわかっていたかたまりは、ほんの小さなすべすべのぽっちで、触ろうとするとくるくる逃げ回った。
「ひ! や、砂戸いや! あん、違うの、いいの!」 
 たちまち、ぼくの手はぬるぬるになった。パンツにしみていた液と、あそこからあふれ出した液が、ぼくの手の両側にぬらぬらとくっついた。佐村のおしっこを手にかけられたみたいな気がしたけど、心臓が頭の中で鳴っているみたいにどくどく音がして、その音のせいで、おしっこでもいい、という気になった。ほんとに変な気分だった。
「砂戸……もっと、もっと触って」
 ぼくは佐村の、女子が一番秘密にしているところを、思う存分いじりまわし、佐村は、男子にそんなことをされて、おかしくなったみたいに喜んでびくびく体を震わせた。ぼくは変態だった。佐村も変態だった。
「佐村あ、もっと触ってよ」
 佐村はそれどころじゃないらしく、ぼくのちんちんに手を当てているだけだ。それもいいんだけど、じれったくなる。もっと気持ちよくしてほしくなる。
「……もっと、先っちょのほう」
「そんなこと言われても……」
 佐村はとまどいがちに、きゅっきゅっとぼくのちんちんをもむ。おしっこをしたい時のような、それより十倍も強い感じがして、そこから何かを出したくてたまらなくなった。それが、精子を出したいってことなんだろう。
 もう我慢できなかった。
 ぼくは自分のパンツを下げ、佐村のパンツもひきずりおろした。佐村がぼんやりとぼくを見つめる。
「……セックスするの?」
「うん」
「いいよ、して。……なんかね、あたしもあそこの奥がじんじんするの。これって、砂戸のあれを入れてほしいってことだよね」
 入れてほしいなんて言われたから、もうぼくは落ち着いていられなくなった。佐村の、あのぬるぬるした柔らかいところに、ぼくのちんちんを包んでもらえるんだ。それは手よりもずっと気持ちいいに違いない。
「砂戸……」
 パンツをひざまで下ろした佐村が、ゆっくりあそこを押し付けてくる。ぼくは手でちんちんを押し下げて、皮をむきながら佐村のあそこに押し付けた。ぬちゃり、と熱い感触がして、ぼくは思わず腰を突き出した。
「いたっ!」
 佐村が顔をゆがめる。かまわず、ぼくはぐいぐいちんちんを押しつけた。佐村が腕を突っ張る。
「痛い痛い、ちょっと待って!」
「我慢してよ、ぼくもう……」
「違うの、そこって多分違う!」
 言われてみると、いくら押しつけてもちっとも入らない。穴のようなものは感じられるのに。
「ここじゃないの?」
「わかんない、その辺だと思うけど……」
「向きがおかしいのかな?」
「そうかも。でも、向きが合ってても、今みたいのだったら痛すぎるよ。あたし、ちょっとだめっぽい」
「そんなあ……」
 ぼくは未練たらしく、佐村のあそこにぐにぐにとちんちんを押し付けた。そのうちにそれがずるっと滑って、お尻のほうに抜けた。
「あっ……」
 佐村が軽く声を上げ、それから何かに気づいたように薄く笑った。
「砂戸、そのままにして」
「こう?」
 ぼくがちんちんを上に向かって立てていると、佐村がごそごそとパンツを足から抜きとって、両足をぴっちり合わせた。すると、ぼくのちんちんが佐村の太ももにぴったり挟まれた。
「うあ……いいよ、これ」
「これで我慢しなよ」
「うん。……でも、佐村はいいの?」
「ほんとは入れてほしい。なんかうずいてしょうがないから。でも、それやったら死ぬほど痛い気がする」
 佐村は、ぼくのちんちんを挟んだまま、二、三度上下に動いた。たちまちぼくの背中をぞくぞくしたものが駆けあがって、吹き出しそうになった。
 すると、佐村も目を細めてつぶやいた。
「いいよ……砂戸のあれ、熱くっていい。こうやってこすってるだけで、あたし気持ちいいよ」
「そう?」
 それならぼくも文句はない。
 腹筋で佐村を持ち上げるようにして、ぼくは動き始めた。佐村もぼくに顔を寄せながら、腰を上下させる。佐村のよく筋肉のついた太ももが、あそこの液でぬるぬるになってちんちんを締め上げる。それは十分に気持ちよかった。
「佐村……最高。佐村の、すごく気持ちいい」
「あたしも、砂戸、あたしも。もっとごりごりして。もっと強く押しつけて!」
 ちんちんの背に当たる佐村の谷間と小さなかたまりを押しつぶしながら、ぼくはぐいぐい腰を動かした。ゼッケンが落ちて、佐村のお尻とぼくのちんちんが冷たい空気にさらされるけど、もうかまっていられない。
「佐村、佐村!」
「砂戸お!」
 胸に乗っている佐村の体がいとしくって、思いきり抱きしめて頭を引き寄せる。強いキス。こすり付けて遊んでいる余裕なんかない。歯が当たり、痛かったからずらし、斜めに顔と顔を重ねて、ぼくたちはぴったり口を押しつけあった。唇を動かすと、佐村も同じように唇をもぐもぐさせてぼくの口に吸いついた。開いた隙間から佐村の熱い息が流れ込んできた。それを思いきり吸いこむと、いっしょによだれも入ってきた。でももう構わない。しっかりと佐村の頭を抱え込んで、よだれも息も一緒に飲みこむ。
 顔を離してはあっと息継ぎすると、佐村はがくがく腰を動かしながら、半分目を閉じてうっとり言った。
「ねえ、これってすごくやらしいね!」
「うん!」
「あたしね、砂戸のね、男子の汚いおちんちん押しつけられてるのに、砂戸のよだれ飲まされてるのに、ちっともいやじゃないの! もっとよごされたい気がするの! 変かなあ! 変態かなあ!」
「変態だよ、ぼくもだよ、佐村のとろとろ、死ぬほどいいよ! ちんちんからなにか出したくってしょうがないよ! 佐村に思いっきりかけたいよ!」
「いいよ変態で! 砂戸のおちんちん好きだよ! 熱くってかたくって、突っ込んでもらえないのくやしいよ! だからもっと、もっとこすってェ!」
 気が変になったみたいに叫ぶ佐村をもっと変にしたくて、ぼくはちんちんが折れてしまうほど強く押しつけた。佐村が短い叫び声を続けざまに上げた。
「す、砂戸、あっ、あっ、あたし、なんか、出ちゃう! 出ちゃう!」
「ぼくも! 佐村ぼくも出る出る出るああっ!」
 佐村の体から、ふわあっと甘い匂いがいっぱいに広がった。じゅわっとあそこがひときわ熱くなって、きゅうっと太ももがひきつった。ちんちんが押しつぶされたみたいになって、先っちょがはじけた。びゅるるっ! とすごい量の精子が出た。
 とっさにぼくは佐村のおもちみたいなお尻に両手を当てて、指に力をこめてそれをつかみながら、ちんちんを真上に向かって押し出した。
 びゅるっ! びゅるっ! と噴水のように飛び出した精子が、ゼッケンの山と、佐村のお尻と、スタジャンの背中にあたりかまわず散らばった。
「す……な……ど……」
 ぼくの胸にワシみたいに両手の爪を立てて、佐村は細かく震えながら動きを止めていた。

「この辺?」
「ううん……」
「ここ?」
「あ……そこかな」
「じゃ、こう……」
「あ痛い痛い! 多分そこ!」
「じゃ、小指でね。……どう?」
「う……ん、入ってるみたい。やっぱりそこだよ。でも、砂戸のあれは無理かなあ」
 ぼくは、佐村のあそこを探っていた指を抜いた。今はもう向かい合わせじゃなくて、飛び箱にもたれたぼくに、佐村が背中をあててもたれている。
 ぼくと佐村は、そんな姿勢で、佐村のあそこの位置を確かめていた。
「処女まくってやつはないの?」
「あるに決まってるじゃん。でも、あれは最初から穴が開いてる人もいるって、保健の先生が言ってた」
「じゃあやっぱり、角度が前過ぎたんだ」
「真下から入れるみたいじゃないと、だめだね」
 そう言うと、佐村は下げていたパンツをもう一度上げた。ぼくはとっくにはいている。
 体はぽかぽかとあったかい。さっきのセックス(まではいかなかったけど)で、汗まみれになるほど熱くなったから。あの後二人とも、体全体がしびれて五分ぐらいぐったり抱き合っていた。そのあと精子をふいたり、佐村の液をふいたりしていたら、ちょうどいいぐらいのあったかさになった。
「佐村、もう寒くなってきた?」
「ん、だいじょぶ。砂戸がだっこしてくれてるから」
 そう言って佐村はぼくにもたれる。ぼくは佐村の頭をなでてやる。
 佐村が、ちょっとだけ照れながら言う。
「あたしね、砂戸としてよかったよ」
「なんで?」
「砂戸がね、優しくっていい人だってわかったから。あの時、他の男子だったら、多分やりたい気持ちでいっぱいになって、無理やりあたしに突っ込んでたんじゃないかな。でも砂戸は我慢してくれた」
 振りかえって、にっこり笑う。
「触りかたもすてきだったし。砂戸、うまいんじゃない?」
「そうかなあ。全然初めてだったけど。佐村、そういうのわかるの?」
「勘だって。あたしも初めてだもん。でも、二人でしなかったら、そういうことわからなかったよね。セックスってふしぎ」
 ほおを押し付けて、お互いにすりすりする。ぼくも同じように考える。
 ついさっきまで、ぎゃあぎゃあ文句を言いあうばっかりだったぼくたちが、今ではこんなに仲良く抱き合って、あそこを触りあったりしている。それは、二人が一緒に秘密を作ってしまったせいもあるけど、しているうちにお互いがすてきだってわかったからだ。セックスって、なんて不思議なんだろう。
 大発見だ、とぼくは思った。
「あ、まだセックスじゃないんだ、今のは」
 佐村がそうつぶやく。ぼくはいたずら心を起こして聞く。
「じゃあ、本当のしてみる?」
「えーっ? やだよ」
「でも、いつかはすることでしょ?」
「……うーん」
 佐村は真剣に考えこんでいる。ぼくは腕を回して、佐村のおっぱいを触ってみた。
「あ……」
「また気持ちよくならない? ぼく、まだしたいし」
「……う……ん……それも、いいかも……ううん……」
 また佐村が色っぽい声を上げ始める。ぼくがむらむらとその気になってきたとき――
 ピロロロロッ、と音がした。ぽやんとしていた佐村が、あわててスタジャンから携帯電話を引っ張り出す。
「はい! あ、お母さん。着いたの? いま校門前? わかった、すぐ行く。友達も一緒だからね」
 電話を切ると、佐村はぼくを見上げた。
「来ちゃったって」
「うん」
「……そんな顔するなって!」
 笑って、佐村は立ち上がった。
「あせんなくていいじゃん。まだ機会はあるって」
「うん。そうだね。……いいの? 次も」
 ぼくがそう聞くと、佐村はどきっとしてしまうような顔で、ささやいたのだった。
「いいに決まってるでしょ。――あたし、絶対砂戸と初体験する!」

――おわり――


   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



 最近の子供たちはどうなんでしょう。
 私が小学生だった時分は、家庭・学校とも、卑語に関してものすごい社会的プレッシャーがありました。覚えたての「セックス」だとか「クリトリス」だとかをむやみと叫ぶ奴がいて、それを聞いた女子が総攻撃する。どちらも過敏でぴりぴりしていた。実践すればできる、という瀬戸際感が盛り上げていたのかも。
 今でも覚えているのは、六年生のとき、前に座っていた女の子にいきなり、
「まんこってなに?」
 と聞かれたことです。
 どきどきしたかというとそうでもない。まず第一に、その子が可愛くなかった。そして、そもそも私が意味を知らなかった。
 ちんちんだ、と答えたように覚えていますが……ずいぶんと遠くまできてしまったことだ。

 当然、次はこの子たちの本番が見たい、というリクエストが来ることを予想しています。でもこれ、突発的な妄想で一晩で書き上げたものなので、基幹設定がありません。
 似たような妄想が私を襲うことを期待してください。それまではお預けということで。

 
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