top page   stories   illusts   BBS
  

女王陛下の草刈りたち Her Majesty's Scouts - Rage & Mizuho (パイロット版)


 手洗いに行っておけという命令は、遠方へ出かける準備として普通のことだったので、ミズホ・ハヤセは特に期待を抱かなかった。
 手洗いで用を済ませて、旅行用のトランクに七つ道具などを収めている間、私立探偵のレイジ・タカラザカは、オフィスのデスクでどこかへ電話をかけていた。
 ミズホは旅支度をしながら、ちらちらと主人に目をやる。レイジは二十六歳、寡黙で精悍な青年だ。ミズホ一人を助手にして探偵をやっていることからわかる通り、仕事は出来、頭も切れる。
 今日もいつも通りの黒いスーツ姿。真鍮の飾りボタン付きの、軍服に似たいかめしい服装だ。手には白い皮手袋をはめ、電話のかたわらトントンとデスクをつついている。出かけるときはその上に短い黒のマントを羽織る。知らない人からは警察官や軍の監察官だと思われることもある。
 目は切れ長だが、見開かれることはあまりない。細く、常に人を貫くような光を放っている。顔立ちは秀麗――ただし優しさはかけらもない。機能的な武器の美しさだ。髪は服よりも黒い闇の色で、長さは腰に届く。その手入れはミズホの仕事の一つだ。
 気をつけていないと、ミズホは彼に見とれてしまう。
 ミズホも男だ。年は十四。だがその通りに見られることはあまりない。一つか二つ上の娘と間違えられることがしばしばだ。肩で切り揃えた小麦色の髪が、その一番大きな原因である。顔立ちもだ。いかつさのない柔らかい丸顔で、愛嬌のある大きな目をしている。
 それに服装にも男臭さがない。レイジとお揃いの黒のマントをよくつけるが、その下は白いシャツと黒いスパッツであることが多い。手足が日焼けしていないのでおとなしく見える。加えて、そのものずばり女装をさせられることもある。
 今はまだマントをつけていない。――細々と動いてレイジの旅支度をするミズホの姿は、助手というよりは召使いの少女に見える。
 トランクの準備が出来た頃、レイジが電話を切った。立ち上がってデスクの前に来る。
「ミッドハイム行き、十九時の夜行が取れた。二等車だが」
「まだ時間がありますね。タール・ピットでお夕飯でも済ませていきます?」
「食事は列車の中でも摂れる」
 そう言ったきり、レイジはじっと窓の外を見つめていた。二階の窓から、夕暮れのメダルアベニューが見下ろせる。馬車や新聞配達の少年が通り、向かいの家では太った女がフライパン片手に子供たちを叱っている。
 何を見ているんだろう、とミズホは思った。
 レイジがデスクに手を伸ばして、窓の変色ボタンを押したのでやっと気づいた。
 外を見ていたのではない――外から見られるかどうかを気にしていたのだ。
 ピッと音がして、液晶窓が灰色に曇った。レイジが振り向く前に、ミズホはするべきことを理解していた。
 レイジが深みのある声で、ただし事務的に言った。
「雑念を処理しておく。下を脱げ」
「……ジェル、使ってもいいですか?」
「かまわん」
 ミズホは胸の高鳴りを感じながら、ロックしたばかりのトランクを開け、サニタリー品の中から小瓶を取り出した。それから静々と、肌にぴっちり張り付いたスパッツとショーツを脱いだ。――白く細い下肢が現れる。薄い下腹の性器はまだおとなしく縮んでいる。
 デスクに上半身を伏せて、尻を突き出した。小瓶を開け、とろりとした透明な液を片手にすくい、尻に持っていって谷間にたっぷりと塗りつけた。頬を赤らめつつ、ミズホは思っている。
 ……ちゃんと大きい方も済ませておいてよかった。
 小指を肛門に差し込むほど念入りに塗ってから、ミズホは両腕を胸の下に組み、準備を終えた。深呼吸しながら告げる。
「準備できました。どうぞ……」
 遮光された灰色の室内に、抜けるように白い花が咲いた。――すんなりと伸びたふくらはぎと腿が茎だ。つるりと輝く尻が小ぶりな花。中央の谷にぽつりと咲く薄桃色のすぼまりが花芯で、ミズホの呼吸に合わせてかすかに息づいている。そこを濡らす蜜が袋の裏を伝って膝の裏まで垂れている……。
 ただ、隠されたおしべはまだ育ちきっていない。やっと起き始め、脈動しながら角度を上げているところだ。――ミズホの体も心も、犯される用意ができていなかった。
 しかしそれは問題ではない。レイジが犯したいと思ったならば、それはミズホが犯されるときなのだ。ミズホはそれを完全に認めている。自分がどういう状態にあろうとレイジを満足させたいと願っている。
 それはレイジもまた承知していることだった。
「よし」
 ファスナーの音すらしなかった。だがミズホは腰をつかまれ、硬いものを当てられた。レイジはミズホの身体を前にして焦ることがまったくない。自分のものなのだから焦る必要も遠慮する必要もないと思っている。
 ミズホは目の前の電話だけを見つめて、慎重に尻の力を抜き、呼吸を整えた。
「はぁ……はぁ……は、ぁぁくっ!」
 みりみりと肉をこじ開けられた。そこを開かれると勝手に口も開いてしまう。開けた口から呼気が逃げる。頭でわかっていても、体はなかなか受け入れようとしない。何十回抱かれても。
「ミズホ、狭い」
 言われてミズホはさらに努力する。レイジの太いものが入ってこられるよう、腰から下全体の力を抜く。
 白い二つの丘をつかむレイジの指に、ぎりっと力が入った。さらに腰が前進し、赤黒い先端が小さな穴を限界まで押し広げた。――引き伸ばされた入り口が、ついに先端の大きさを越えた。
 ごりゅっ、と音がした。血管を浮かせたこわばりが、一息に肉の中に潜り込んでいった。
 それをミズホは、腹の中を広げる強烈な圧迫として感じる。
「くふぅんっ!」
 その瞬間はいつも鳴く。許してはいけないところを許す羞恥に。
 主人を迎え入れることができた喜びに。
 ミズホの腹の中心あたりまで至ったそれは、一度動きを止めて感触を確かめている風だった。どくん、どくん、というレイジの拍動が体内から感じられる。
 やがてそれは小刻みに動き出した。入り口と内部の粘膜をくちくちと引きずって。
 ミズホはデスクに伏せ、目を閉じてその感触を味わう。前立腺の甘いうずきに耐える。そこへの刺激でミズホの性器も瞬間的に勃起しているが、デスクが邪魔で自ら触れることはできない。どのみち手が届いても自慰は許されない。ミズホが達することはこの行為の目的ではないのだから。
 レイジのはけ口となることが目的だ。
 小刻みだった動きが、やがて大きくなる。ずるぅっ、ずるぅっ、と長いストロークでそれが出入りする。そのたびに、ミズホの体内が収縮し、また押し広げられる。腹の底できゅうきゅうと伸び縮みする腸の動きが、ミズホ自身にもわかる。
 ただそこは、入り口を除いて、自分の意思で動かすことはできない。女の子みたいに優しく包んで上げられたらいいのに、とミズホは少し悔しく思う。
 振り向いて、乱れる息の合間に言う。
「ごめんなさい、そこ、あんまりご奉仕できなくて……」
「かまわん」
「中、いいですか?」
「十分だ、ぬめりつく。……下手な女よりよほどいい」
 レイジがじっと目を閉じて言い、証明するように先端をひくひくと跳ねさせたので、ミズホはほっとして前に向き直った。また目をつぶり、出入りに合わせて締め付けを加減しようと、下半身に集中した。
 レイジはいっそう激しく腰を動かす。彼の腰よりこぶし二つ分も幅の狭いミズホの尻に、残酷なほど硬く大きなものを容赦なく突き立てる。それを包む肛門の粘膜は白く透けるほど薄く延び、今にも引きちぎれそうに見える。ジェルがなければ実際そうなっていただろう。
 それを巻き込んで突きいれ、包まれながら引き出す。じゅぶっ、じゅぶっ、と音高く粘液がはじける。
 ミズホの健気な勃起が、彼もまた快感を覚えていることを証明していた。幾度も犯されることで、彼もそうなることができた。ミズホにとってはレイジの心地よさの方が大事だが、それはそれで嬉しい。
 突かれ、引かれ、また突かれてぐりぐりとえぐられるつど、目を閉じたまま薄い悦楽の表情を浮かべて、はあはあと熱い息を漏らす。
「レイジ……さまっ……すてき……ですっ……」
「そうか」
 レイジは相変わらず冷静につぶやくのみ。ただ、手を打ち合わせるような乾いた音が、彼の高ぶりをあらわしている。ミズホの滑らかな尻が、レイジの腰に叩かれる音。
 半ば尻を持ち上げられるようにして、高まる期待に身を震わせていたミズホは、ふと目を開いた。
「はぁ、はぁ、あぁ……はあっ?」
 ジリリリン、と電話が鳴った。一度、二度。
 それで切れる。ミズホはまた快楽に溺れようとした。
 ところが、沈黙したばかりの電話がまた鳴り始めた。今度は止まらない。いつまでも耳障りなベルの音を上げ続ける。
 ただの電話ではなかった。一度切れて、また鳴り始めるその呼び出しは――
「レイジ、さまっ、王府ですっ、弾正本局っ!」
「出ろ」
「このまま?」
 ミズホは思わず聞き返したが、レイジの答えは無言だった。仕方なくミズホは、体内をえぐられたまま受話器を取った。
「はい、タカラザカっ、探偵事務所です。……はっ、はい、本人は……」
 電話はレイジ本人の応対を求めていた。ミズホは困惑して振り返る。その途端レイジがきつい角度でえぐりあげた。ミズホの尾骨の裏をしびれが走る。
「ひくぅぅんっ!」
 相手の戸惑った声。何事か、と詰問される。息も絶え絶えにミズホは答える。
「だ、大丈夫ですっ、別に何も――あはぁっ!」
 レイジがミズホの性器を強く握りしめていた。突然の愛撫に、ミズホはその場で射精しそうになった。大人の中指ほどもない性器をびくんと痙攣させる。
 受話器を手で塞いで、目尻に涙を浮かべながらささやく。
「待ってください、レイジさま。ボク、ボクこれじゃ……」
「仕事中だ」
「仕事って、仕事ですけどっ、今は――ひぃんっ!」
 頭のてっぺんから甘い悲鳴を上げる。袋の下のこりこりした部分を指で潰された。そこに溜まりつつあった精液が、じゅうっと音を立てて動いたことまでわかる。
 絶頂するスイッチを押しまくられているようなものだ。こらえようとするあまり、ミズホは受話器を取り落としてしまう。何事だ、報告せよとしつこく声が言う。チッと舌打ちしてレイジが受話器を取った。
 短くやり取りする。最後の言葉はミズホにも聞こえた。本局の電話をないがしろにして何をやっているか、というものだった。
 レイジの答えは平然としたものだった。
「助手の少年を犯しています。――任務ですよ、邪魔はやめてください」
 相手は沈黙した。レイジは電話を切った。
 少し前から腰は止めている。代わりに、仕切りなおしのようにミズホの白いシャツに手を差し込み始めた。腹を這い上がる手袋を感じつつ、ミズホは尋ねる。
「電話、なんだったんですか?」
「今日の派遣、甲種装備を持参しろとのことだ。……下らん、言われるまでもない」
「そうですか……」
 納得したミズホは、新たな感覚に気持ちを戻した。肋骨の下のアーチをなぞった指先が、胸に来ていた。
 両の乳首に人差し指がかかった。同時に、手のひら全体がぎゅっと胸筋をつかんだ。
 ピリッと小さなしびれ。はぁん……とミズホは声を漏らす。しかし少し悲しい。
「ごめんなさい……レイジさま」
「なんだ」
「ボク、おっぱいないから……はぁっ」
「かまわんと言っている。これでいい」
 ミズホの薄く柔らかな胸が、ぎゅい、ぎゅむっと握り回された。痛みと快感が半々だ。だがミズホは喜ぶ。これでいいと言われたから。
 そのうちに興が戻ってきたらしかった。レイジは再び腰を動かし始めた。今度はもう手加減してミズホの感触を楽しむといったような動きではない。明確な目的――絶頂へと向かっていた。
 胸の愛撫が終わり、レイジの手が尻に戻る。肉を強くつかまれる。安堵と期待を取り戻してミズホは待つ。自分の体に気を使われたくない。レイジ自身の快感だけを求めてほしい。自分はレイジの道具。
 内部をこする動きがとても激しいものになっていく。たまに止まって息継ぎが聞こえるが、その息は荒く、休止も短い。しっかり押さえつけたミズホの尻を使い倒そうと、上に下に、手前に奥に、ただひたすら自分の先端をこすりつける。腹の中を破られてしまうような気味の悪い恐怖がミズホを襲うが、その恐怖も不快なものではない。レイジに壊されるなら本望だ。
 レイジが強く太腿を引き締め、一段と強烈に突きこんで来たとき、ミズホはその時が来たと察した。期待に上気しきった顔で振り向いて、ささやいた。
「どうぞ……吐き出してください」
 一瞬、レイジの顔に嗜虐の笑みが見えたような気がした。
 内臓を押し上げるほど食い込んだものが、びくんと鋭く震えた。ミズホはひっと息を呑んだ。滑らかなうなじがさあっと鳥肌立った。
 体内深くに、叩きつけられる――流し込まれる――浴びせられる。どくりどくりと脈打つのがおぼろげに感じられる。溜まっていく、膨らまされる。小さな風船が生まれたように。内側からあぶられたミズホの性器が、同じような絶頂を望んで、ぶるぶると切ないほど反り返る。
 体内の感触に続いて、温度がきた。じわじわと熱気が染み込んできた。この上なく心地いい、申し訳なく思ってしまうほど。自分が射精するよりもずっと。
 眉をひそめて一心にそれを味わってから、うっすらと目を開いて、ミズホは礼を言った。
「レイジさま、ありがとう……とってもあったかくて、溶けちゃいそうです……」
 主人はじっと動きを止め、注いだものの浸透を確かめているようだった。――ふ、と小さな笑みが唇の端に浮いた。
 それから、やや拍子抜けするほどあっさりとレイジは腰を離した。ぬるぬると出て行くものを、ミズホは寂しさとともに押し出した。つながっているのは、たとえ道具としてでも幸福だった。
 ふうっと一息ついたレイジが来客用の椅子に腰を下ろした。ガラステーブルから煙草を取って火をつける。長く紫煙を吐いて言った。
「後始末を」
「はい……」
 ミズホは身を起こし、レイジの股間にひざまずいて性器を口に含んだ。彼の卑部であること、自分の排泄器官に入っていたこと、いずれも苦痛ではなかった。両手で捧げ持つようにして、隅々まで舌で舐めとった。
 それから少し期待するように尋ねた。
「一度でいいですか?」
「ああ」
 答えたレイジが視線を下げて、おやという顔をしたので、ミズホは気づいた。――自分はまだ下半身裸で、性器は真っ赤に充血したままで、後ろから床にとろとろと白い粘液を垂らしているのだった。
「いってなかったのか」
「はい。……いいえ、いいんです。ボク、満足です」
 ミズホはあわてて首を振った。主人に気を使わせるなどとんでもない。ましてや、自分の欲望のことで。
 レイジは何か言おうとしたようだったが、掛け時計をちらりと見て、首を振った。
「列車に間に合わん。服を着ろ」
「はい」
 ミズホは躊躇なくうなずいた。
 レイジのものを丁寧にズボンに収めた。少し時間もらいます、と言って自分の股を清め、スパッツを履き、床を拭いた。それから事務所の戸締りをして出かける用意を終えるまで、少しの不満も抱かなかった。
 レイジがゆったりと煙草を灰にしている姿が、嬉しかったから。彼を一度で満足させられたことが誇らしかったから。
 だから、立ち上がったレイジについて事務所を出るときに、彼が言ったことは、意外だった。
「二等だと個室がないが……手洗いはあったな」
「はい?」
「五分で済ませてもかまわんか?」
 振り返ったレイジが、清潔な手袋をした手で頬に触れた。
 するりと撫でる。――敏感なところに触れるのと同じ手つきで。
 ぞくっ! とミズホは身を震わせた。意外さがすぐに、最高の嬉しさに変わった。
「……も、もちろんです! 三分でもいいです!」
「じらす方が好きだ」
 レイジは階段に消えた。追おうとして、戸締りを思い出して、もどかしく鍵をかけてからミズホは走った。
「それじゃ五分にします! いっぱい出させてもらいます!」

―― パイロット版・終 ――



top page   stories   illusts   BBS