(2016年3月14日、作品をノクターンノベルスからこちらへ移動しました) グラドシラル戦記、のエピローグ  〜新たなる絆を求めて〜 [あらすじ] 「グラドシラル戦記」という話は存在しません。どこにもない話の、エピローグだけを長々と抜き出すという趣向で書いてみました。ファミコン時代のドラクエ、スレイヤーズ、ロードス島戦記などを思い浮かべてください。それらの勇者とヒロインが本編の外でエッチしたんじゃないか。したはずだ。したに決まってる。そう考えたことのある人ならきっとストライクするでしょう。  本作では勇者と巫女が駆け落ちしてエッチします。勇者はいい男ですが童貞です。巫女は処女でしかもナチュラルにふたなりです。そして最初はほとんどセックスを知りません。二人でこっそり宿に入って、翌朝出てきます。悲劇や鬱展開はなし。ラブラブだだ甘ックスですのでご了承ください。 [まえがき] 18禁小説サイトForbiddenDOORの扉行広です。こちらでは初めまして。本作は男*ふたなりのエロ小説で、ちんちんが2本出てきます。昨今の女装少年もの、男の娘に慣れた方なら問題なかろうと判断して男性向けに投稿させていただきます。仰々しい戦歴や用語がいろいろと飛び出してきますが、全部雰囲気だしの小道具なので適当に読み流してください。よろしくお願いします。 ---------------- グラドシラル戦記、のエピローグ  〜新たなる絆を求めて〜    ……グラドシラル神に寿がれた勇者とそれを陰陽に支えた巫女、    そして諸国の多くの仲間たちの合力によって、人々を苦しめて    きた邪悪強大な劫転魔フフヴォンは、見事ふたたび邪蓋石の下    に封じられた。数知れない犠牲を出した激しい戦いは終わりを    つげ、都に戻った神制軍は盛大な祝祭を開いたのだった。     勝利を見届けた勇者は新たな悪を求めて放浪の旅に出た。ま    た、巫女は末永く諸国の平穏と繁栄のために尽くした。いずれ    にせよ悪は滅び、長く続く平和の時代が幕を開けた――。  と、伝説は語る。  これは事実だが、事実の半分でしかない。  残りの半分はこうだ。  神に課された重い務めを果たし抜いた勇者・ユグロンと、軍団の癒しに一身を捧げてきた慈悲深き半神の巫女・ルルーメルは、ともに逃げた。  駆け落ちしたのだ。祝祭からこっそり抜け出して。  そのようなことがあったと知れ渡るとさまざまな人が困るので、おおやけにはされなかった。だが事実なのだから仕方ない。神制軍の中心だった二人は、すべての重荷を振り捨てて自分たちだけの暮らしを送ることにしたのだ。  そのあたりの話を、長く続いたここまでの物語の末尾に、少しだけ付け加えることとしよう。 「あ……そういえば」 「ん?」  ルルーメルのつぶやきを聞いて、ユグロンは振り向いた。  抜けるように晴れた青い空のもと、二人は馬を並べて草原の道を進んでいる。  ユグロンは鋭い目をした、だが整った静かな顔立ちの青年だ。歴戦を示す戦衣をまとい、無二の剛剣を腰に帯びる。その馬は黒く大きな悍馬のザングラム。共に戦った頼もしい戦友でもある。  もう一人のルルーメルはひだの多いゆったりとした白い聖衣をまとう、まだあどけない美しい娘。その馬はスチーレト。白く優美な双角馬で、ザングラムよりは小柄だ。  珍しい双角馬にまたがった巫女は、少しだけ気がかりそうに言った。 「私、約束があったのです」 「約束?」 「はい、このスチーレトと」愛馬の首筋に手を当てて、巫女は言う。「戦いが終わるまでは、私の手足となってくれるように、と頼んだのです。戦いが終わったからには、約束を果たさなければなりません」 「どうしてやりたいんだ」 「この子を自由にしてやります」  言うが早いかルルーメルは片足を跳ね上げて、ひらりと鞍から地に降りようとした。翻った清らかな聖衣の裾から、巫女の汚れなき白い脚がちらりと輝く。 「おっと」  ユグロンは馬を寄せて、彼女の手を握る。はっと動きを止めたルルーメルが頬を赤らめ、それを見たユグロンも少しだけ息を呑んだ。  長い戦いをともにしていながら、いまだに数えるほどしか手を握ったこともない二人だった。  動揺を押し隠すように、手を離してユグロンは言う。 「待てよ、ルルーメル。こんなところで降りてどうするんだ。次の町はまだ遠い」 「でも、約束ですから……。先延ばしはよくありません」 「しょうがないな。じゃあこっちに乗れよ。俺は歩く」 「いえ、待って。その……」  ルルーメルが口ごもる。ユグロンは言葉を待つ。  巫女はうつむきながら、勇者の鞍の後ろをちょいと指さした。 「一緒に……乗せてはもらえませんか?」 「え、俺と一緒に?」ユグロンは信じられない思いで、聞き返す。「神殿の掟は?」  そう、掟があった。神制軍の癒し手であるルルーメルは、その聖なる力をふるうために、清らかでなければいけなかった。彼女の属していた神殿も、生涯汚れなき存在であることを彼女に求めていた。  いや、何よりも、彼女自身がそう決めていたはずだ。自分はそういう存在であるし、ずっとそうなのだと。戦いの中でユグロンと初めて出会ったとき、グラドシラル神のもたらす背光を帯びて、人の手のふれ得ざる者のように凛然と彼女は言った。  だが今のルルーメルは、あの時とは別人のように頬を染めて訴えた。 「もう、いいのです。――そういうのは」 「ルルーメル?」 「私たち、もうやめたんです。そうでしょう? やめていいのでしょう?」  ユグロンは戸惑いに息を詰まらせる。彼女のそんな姿を見るのは初めてだ。  だがルルーメルはさらに言う。 「巫女も勇者も全部やめて、私たち普通の、ふ、夫――」銀鈴のさざ鳴りに似た愛らしい声が、かすれる。「夫婦、になるのでしょう……?」  まともに目を合わせられずにうつむいてしまう。  ユグロンは息を整えて、うなずいた。 「ああ。――夫婦になるんだ」 「夫婦」  もう一度、今度は嬉しさをにじませてつぶやくと、ルルーメルは紅玉の瞳を向けた。 「では」  返事の代わりに、今度はユグロンは彼女の二の腕を握った。察してルルーメルが腰を浮かせる。 「ヤッ――」  肘に力を込めるまでもなく、軽々と少女の身体は舞った。青年の背中のうしろに、すとんと滑り落ちる。 「ありがとう」  答えたものの、その声は緊張している。無理もない。グラドシラルの巫女は一度も指先以外で男に触れたことがない。手を握り合うことですら、大胆な行いだった。  これまでは。  ユグロンの、もう鎧をつけていない背中に、戦衣越しにスッと小さなものが当たった。  手のひら。それが確かめるように撫でまわす。やがて感極まったように、声と柔らかなものが押し当てられた。 「ああ――ユグロン」 「メル」  短く愛称を呼ぶと、青年は腰に回された二本の腕に、自分の固い拳を重ねた。  草原を風が吹き渡り、幾度も血にまみれた悍馬のたてがみと、二人の心を優しく揺らした。かつて国土を覆っていた忌まわしい腐臭は、もはや嗅ぎ取れない。ゆるやかに歩む馬上からは、青草の新たに茂った瑞々しい沃野と、野に出始めた農夫たちの姿が遠く望める。  従軍歌人に水晶の糸と謳われた豊かな髪を押さえながら、ルルーメルがつぶやく。  「もう、ここに私たちは要らない」 「ああ」  それこそが二人の望んだことだった。  だが、後ろから聞こえるかぽかぽという蹄の音を聞いて、ユグロンはちらと振り返る。 「あいつには、そうでもないみたいだが」 「まあ」  解き放たれたはずの白馬が、むしろ誇らしげに双角を振り立てて、後をついてくる。 「いいわ。おいで、スティーレト」  伴乗りの一騎と、空鞍の一頭が、丘を越えていく。  日暮れ近くにたどり着いた宿場町では、だが二人は思うように休むことができなかった。 「部屋はあるか」 「あるかよ空き部屋なんか。神制軍の大勝利で、旅商人という旅商人がここぞと動き始めてんだ――あ、あんたは?」  町の広場に面した大宿の主人は、最初はぞんざいな態度で断ろうとしたが、ユグロンの刺繍入りの戦衣をよく見なおしたとたんに、目を丸くした。 「神制軍! いや、そ、その剣は。ユグロン、あんた勇者ユグロンか?」  一時代にひとかけらしか産しないと言われる特大の抗魔晶が、愛剣の柄頭で鋭い輝きを放っている。ユグロンはさりげなく手で隠そうとしたが、もう遅い。主人の叫びは店中に響き渡っていた。ユグロンの背後の食堂で飲み食いしていた連中が、いっせいにざわめく。さらに誰かが、恐れに満ちた声を上げた。 「おい、そっちの子、神殿の――」「巫女様?」「ルルーメル様か!?」  椅子と机を蹴倒して群衆がどっと駆け寄り、二人を取り囲んで歓声を上げた。 「巫女様だ!」「ほ、本物か」「馬鹿野郎、他にこんなお姿の方がいるか」「巫女様ばんざい!」「勇者もばんざい!」 「ゆ、勇者様と巫女さまでございますか、もももちろん部屋はありますとも、空けますとも」 「いや、無理にあける必要は――」 「やいこらドッド、今すぐ上いって広場側の大部屋を二つ空けてこい! シリンメルの富豪と城代が入ってる? 構わねえから追っ払え!」 「そこまでしなくても――」 「何をおっしゃるんでさあ、あんたは英雄だ! お二人とも最上等のお部屋にご案内しますぜ。ドッド、部屋が空いたら肉屋と酒屋だ、あるだけ持ってこさせろ、一番上等なところをな!」  主人は感激してわめき立てながら、後ろの下男を怒鳴り散らす。酌婦が群がって盃を押し付ける。男どもが我先にと酒を注ごうとする。騒ぎを聞きつけて店の表からも人が押し寄せる。物乞いとごろつきと犬と鶏がまぎれこむ。楽人が即興で調子っぱずれの武勲譚をがなり始める。 「勇者様!」「巫女様!」「見てよあの素敵な頬傷」「ああ、なんてお綺麗な」「てめえの濁った眼でじろじろ見るなよ」  巻き起こった騒ぎの中で、ユグロンだけが、耳元のささやきを聞く。 「あの、部屋……」 「え?」 「このままだと、別々に」  振り向いたユグロンは、ルルーメルの心配そうな顔を見て察した。  グラドシラルの巫女は神聖不可侵。汚してはならぬと国中の犬猫にまでも知れ渡っている。現に周りの男女もひざまずいてルルーメルを拝みつつも、その衣の端にさえ触れようとはしない。腕や肩を親しげに叩かれるまくるユグロンとは対照的に、彼女の周りにだけ半径一歩の崇敬の空間がぽっかりと空いている。  そんな巫女が、たとえ相手が勇者だといっても、男と同じ部屋に泊まるなどと言ったら、この場のすべての人間が腰を抜かすだろう。主人はごく当たり前のこととして部屋を分けようとしている。  どうやら、この宿に落ち着くことはできないようだ。  ユグロンは仕方なく、隠しから貨幣を掴み出して勘定台に積み上げた。 「騒がせてすまない、他を当たる」 「えっ? ああ、ちょっと、お待ちを! ええい、静かにしろ! てめえらがぎゃあすか騒ぎやがるから」  主人の喚き声を背に、二人は身を低くしてその場を抜け出した。  悍馬ザングラムの威風と馬脚をもってすれば、群衆を振り切るのは難しくなかった。ちょうど日が暮れたことも幸いした。ひと気のない町外れの川べりで馬を下りると、二人は予備の大袋を細く切って、覆面風に体に巻き付けた。 「これでなんとかなるでしょうか」 「多分な。おまえは匂いで感づかれるかもしれないが――」 「え。私……そんなに?」  気がかりそうに自分の腕や胸元をくんくんと嗅ぐルルーメルに、ユグロンは笑った。 「違うよ。おまえは花みたいないい香りがするんだ。いつでも」 「そうですか……?」つぶやいたルルーメルが、ユグロンの腕に、まだ丸みの残る鼻を寄せる。「私は、あなたのほうがよい匂いだと思いますけど」 「やめてくれ、汗臭いから」  手を振る青年に、娘は微笑む。 「ザングラム、スティーレト。今夜はここでおとなしくしていて。ね?」  川べりの草をはむ馬たちに言い聞かせて、二人は町へ戻った。  都から一日行程のこの町も、今夜は都と同じような祝祭の最中にあった。そちこちの通りや辻で、人々が酔い騒いでいる。劫転魔の恐怖から解き放たれた民人が喜んでいるのを見るのは、二人にとっても嬉しいことだった。だが今は大義と博愛よりも重要なことが二人の頭を占めていた。 「こっちへ――ゆっくり歩いて」  裏通りから裏通りへと渡り歩いて、ユグロンは宿を探した。しかし、大宿の主人が言った通り、どこもすでに満員だった。  やっと見つけたのは先ほどの宿より数等劣る、うらぶれた木賃宿だった。店番の老女は盲目でコウモリみたいに耳が大きく、ユグロンが言い値の三倍の金を渡すと、むしろそれゆえにか下卑たしわがれ声で笑った。 「お連れさん、羽根みたいに軽いね。そして兄さんはよく鍛えた用心棒か、剣客さんか。ヒヒヒヒ、壊しちまわないようにね」  老女は二人の足音を聞きわけたようだ。大っぴらに買えない幼すぎる娘を連れ込んだとでも思ったのか。  勝手に誤解してくれたのはむしろ都合がいいが、埃の積もって建物自体が傾いているような宿の様子には、今さらながらユグロンも躊躇した。 「いいところじゃないな。いっそ戻って野宿するか……」 「ううん、ユグロン」ルルーメルが小声で、しかしきっぱりと言った。「ここで結構です。神殿の粗末な房よりましなぐらいです。あなたはお嫌ですか?」 「俺はもともとただの馬曳きだ。こういうのは慣れてる。が……」 「それに私」ほとんど消え入りそうな声で、少女は付け加える。「もう、待てません。早くあなたと……夫婦になりたい」 「――また野次馬に見つかっても、面倒だしな」  同じ思いでいながら、そんなふうに答えずにはいられないユグロンだった。  薄暗い食堂で、火だけは通っているとしか言えないような食事を、ろくに味もわからずに済ませた。それから手をつなぐでもなく、ぎこちなく前後に並んで、ギシギシと階段を軋ませて上がっていった。  幸いにもあてがわれた部屋は、廊下や階段ほどほころびてはいなかった。そこそこの広さの床と、そこそこの大きさの寝台。ユグロンは、下から持ってきた燭台をすり減った木の椅子に置くと、しかつめらしく寝台に近づいて、敷物をつまんだりしてみる。古びて摺り切れてはいるが、乾いた陽の香りがふわりと立ち昇った。清浄になった大気の恵みを受けようと、あの老女が日中干してくれたものか。 「わあ、いい眺め」  ルルーメルは木窓を開いてそんなことを言う。こんな安宿に眺めも何もあるものかとユグロンは思ったが、ちょうど建物の間から表通りが見渡せる造りだった。昼間なら雑然として薄汚れて見えるはずの下町に、今は喜びはしゃぐ人々が灯したたくさんのともしびが揺れて輝いていた。  そんな、都の大路にも負けないほど華やかで楽しげな景観を見下ろしながら、ルルーメルが覆面をほどいて落とす。青く透き通った長い髪と、大きな翔虫の羽根のように薄い聖衣を、ほのかな灯火が照らし抜いて、小柄な、だが豊かと言えるほどに肉のついた体の美しい輪郭を、浮かび上がらせた。 「ルルーメル……」  そちらへ歩み寄り、細い肩に触れようとしたとたん、バタンと背後で音がしたので、ユグロンは思わず剣を抜いてしまうところだった。 「誰だ!?」 「ヒヒヒヒ悪いね、お騒がせ」  入ってきたのはもちろんさっきの老女だ。引っさげてきた木桶をドンと床に置くと、わざとらしく腰に手を当てて伸ばす。 「ああ重い。一丁前に湯を寄越せだなんて贅沢言うから、手間取っちまったよ」 「……ありがとう、はやく行ってくれ」 「お急ぎかい。ヒヒヒヒヒ」 「行け!」  寄り添う二人に向けて大きな耳をぴくぴくと動かすと、あとで薪代もらうよと言い捨てて、老婆はことさらにゆっくりと出ていった。  ユグロンは急いで扉に向かい、愛剣を鞘ごと外してつっかい棒にした。抗魔晶が心得たとばかりにちかちかと瞬く。  過日の戦いで、グンドハの灰谷を通った神制軍が待ち伏せにあい、ちょっとした城ほどもある大岩を転がし落とされた。その時に、ただ一振りで岩を受け止め支えたのがこの剣だ。  あんな老婆のごとき、一万人押し寄せてもびくともしないはずだ。しかしそんな使い方をするのは、どうも情けなかった。  カタリと音がした。ルルーメルが木窓を閉ざして指先で唾文字を書いていた。なんと、あの邪蓋石にかけたのと同じ封印だった。もうこの窓は世界の終わりまで開くまい。  それから少女は石蹴りのような足取りでぶらぶらと眼前にやってくると、両のかかとをトンと鳴らして、向かい合った。子供っぽい笑みを見せた。 「へへっ。二人っきり……ですね?」 「ああ」  背丈は頭二つ分違う。だが視線はまっすぐに交わり、二人の心を結びつかせた。  どちらからともなく腕を伸ばし、互いを抱く。馬上にあったときよりもさらに近い。柔らかくたおやかな、力強く分厚い、そして温かなひとの身体を、しっかりと抱き締める。 「メル……」「ユグロン」  目を閉じて唇を重ねた。正真正銘、二人とも生まれて初めての口づけだった。  柔らかく、熱い。かすかな息遣いと漏れ出る声が、生々しく相手を感じさせる。触れ合うことに大きな抵抗があって、最初はかするていどだった。しかしすぐに、どうしようもなくほしくなって、強く、長く、吸い付いた。 「んっ……」「く」  息が通う。吸って、小さく吹く。ぷぷっとこぼれ出し、揃ってくすりと笑う。微笑み合いながら続けて、息の交わし合いに慣れていく。人の息は熱い。好きな人の息は愛しい。むさぼるようになる。壊さないように。ユグロンは注意深く抑える。ルルーメルは頓着しない。まるで飢えているように吸い付き、唇をちろりと舐めさえした。 「ぷはぁっ! ……はっ、はぁっ」  顔を離しての息継ぎに、至近で見つめ合う。赤い瞳と黒い瞳が潤んでいる。目もとはもう真っ赤だ。お互いのそんな顔は見たこともない。  もっともっと見たい。 「たまりません、私……」  唇を何度も押しつけながら、少女はもじもじと全身をすり寄せる。ゆったりとした聖衣にずっと隠されてきた、育ち盛りの弾むような乳房が、すらりとした腹が、誰にも触れられたことのない太腿が、ユグロンの身体の前にこれでもかと押し付けられる。  男としての性が留めようもなく高まり、股間が急速に硬くこわばり立ってしまう。強い自制が働いて、ユグロンは思わず腰を引く。ルルーメルは夢中のあまり気づかないらしい。不自然な態勢になる男を追うように腰を突き出してくる。 「もっと、もっとぎゅっと抱いて、ユグロン……」 「ル、ルルーメル」  自分のそこがそんなふうに猛ってしまうのは、これまで見せたことすらなかった。あまりにも下品なことだ。  始末に困って、ユグロンは無理やりルルーメルの両肩を押し離した。 「待ってくれ、そんなに焦らないで」 「どうして? あなたは嫌なのですか? こうやって、くっつくのが」 「そうじゃないが、その……」 「私」ふるふると首を横に振って、少女は一途に訴えた。「我慢できないんです。くっつきたい。こんなこと初めてですけど――あなたに触れたいの、一つになりたいの」  はぁ、はぁ、と息をせわしなくして、ルルーメルはまっすぐに見つめた。 「ぐっ……」  ユグロンは懸命にこらえる。嫌なわけがなかった。彼女とまったく同じだった。戦いの最中に思い合ったこの美しい娘と、何者にも邪魔されない場所で、ようやく二人きりになった。このまま抱きしめて、むさぼるように無茶苦茶に――どうにかしてやりたかった。  だが、どうしたらいいかわからない。  唐突に、不自然な沈黙が二人の間に生まれた。お互いにいっぱいに欲情しあったまま、固まったように見つめ合う。  だが、青年は勇者だった。これよりもっとずっと困難なはずの場面も、切り抜けてきた。  どんなときも、頼りになったのは、この娘との率直な話し合いだった。  ひとつ息を呑みこんで、言うべきことを探り出す。 「ルルーメル――」 「はい」 「わからないんだ」 「はい。――なにが?」 「どうしたら、夫婦になれるのか」  興奮して小刻みに息を漏らしていた少女が、は、と息を止めて、つぶやいた。 「夫婦に?」 「なるやり方が」 「それは……こうして、愛し合うもの同士が心ゆくまで抱擁しあっていれば……」 「なれる、のか?」だがそうしていたら――。「でも、俺は」 「でも、なんですか」もどかしげに少女は詰め寄る。「はっきり言ってください、勇者ユグロン!」 「俺は、その……」  どんな困難な場面でも、これほど言葉に困ったことはなかった。だが、言わないわけにはいかなかった。 「許してくれ、こんなことを言うのを。俺は――おまえに、淫らなことをしたくなってしまうんだ」 「みだ、ら……?」ルルーメルは戸惑って瞬きをする。「みだらとは、どういう……」 「それは……それは」 「言えない、のですか?」ルルーメルもややためらう様子だったが、やがて声を低めて言った。「ユグロン……言ってください。私、これは勘なのですけど、そのことはきっと、必要なことなのです」 「必要……か。巫女の勘?」 「はい」  半神の巫女がその常人離れした勘で軍勢の危機を救ったことは、何度あったかわからない。ユグロンはこのときも、助けが来た、と思った。  意を決して、ルルーメルの手を取り、自分の股間へ導いた。 「触れてくれ。……もし、不快でなければ」 「は、はい」  こくりと唾を呑みこんで、重傷者の傷口に触れるように、そっと少女が華奢な白い手を青年の股間に当てた。 「くっ」と、ユグロンは息を詰める。そこに生まれた甘美な感覚に。 「あっ」と、ルルーメルも息を詰める。その場所に、あることも知らなかった熱い手ごたえを見出して。 「これ……は? 腫れ物ですか?」 「ちが……う……それは……」  さわさわと丁寧な指使いで少女が撫でまわす、その心地よさに耐えられずに、ユグロンはよろよろと後ずさり、ドンと扉にもたれた。それを追ったルルーメルが、ごく遠慮がちにだが、下穿きに盛り上がったごつごつした畝を、五指でキュッと包む。 「すごい……ものすごく、硬い、熱い。ユグロン?」 「それは……男の、モノなんだ……」  この娘は生まれながらの巫女だから、これを知らないのだ。そこに思い至っても、男仲間で言い交わす卑語を聞かせることなどとうていできず、ユグロンはそう言うしかなかった。 「男の、もの」  つぶやいたルルーメルは、だが手を引こうとはしなかった。頬を赤らめたまま、真剣な顔でしきりにそこを撫でまわす。下と上、交互に視線を向けて、噛みしめるように言った。 「これがユグロンの、もの……」 「や、やめてくれ、ルルーメル」徐々に衝動が高まってきて、ユグロンは訴える。「そうされると、俺は……」 「痛いのですか? なら、治癒を」 「違う。おまえの指は……」言うのはなぜかひどく恥ずかしかった。「心地いい。無性に心地いいんだ。でも」 「心地いいのですね」ふわ、とルルーメルは緊張していた表情を緩める。「なら、続けてあげたい……」 「淫らだ、ルルーメル」懸命にユグロンは言い返す。「どんな男も触れてはならないのがグラドシラルの巫女じゃないか。そんなおまえに、こ、こんな下品なところを触らせるなんて」 「ですから、それはもう終わったと言ったじゃありませんか!」  突然ルルーメルが強い口調でいい、ユグロンのその部分をギュッと強く握った。「くっ!」とユグロンはのけぞる。――お仕置きのつもりだったのだろうが、それが貫くほど快美だったことまでは、少女にはわからない。 「淫らでもいい、下品でもいいんです。私たちが愛し合ったから、あなたはこうなるんでしょう? これは私たちの愛のゆく手にあるものなんでしょう?」 「そうだが……」 「なら、隠さないでください」ルルーメルはつややかな頬を、青年の胸にこすりつける。「私、あなたがどんなことをしたいと言っても、受け入れます。そうできるって、気がするんです。それが夫婦になるということだ、って」 「そうか」  小さく息をついて、ユグロンは腹をくくった。男のあんなところまで触れさせたのに、彼女が一向に嫌悪しないということに、力づけられていた。 「じゃあ――」  ユグロンはまたルルーメルの肩に手をかけたが、今度は押し離すのではなくて、寝台に導いた。二人で並んで腰かけ、手を握る。 「正直に言うぞ」 「はい」 「俺はおまえを――」耳元に口を寄せて、二人だけに聞こえるようささやきかけた。「触りたい。体じゅうに触りたい」  ひくん、とルルーメルが背筋を震わせた。おぞましいのかと思ったが、少女はうっとりと嬉しげに目尻を緩ませていた。 「――はい」 「吸い付きたい。体じゅうに口づけして、母親の乳を吸うように、吸い回したい」 「は、はい」 「こすりつけたい。俺の唇を、指を、胸を……この、男のものを、なすりつけたい」 「は、はひぃ……」  声がかすれていた。だが決して、嫌がってはいなかった。戦いの中一度だけ、疲れ切った敗走の後で瑞々しい果実を口にしたときのように、目を細めて肩をぶるぶると震わせ、無上の喜びに浸っているように見えた。 「ユグロン」少女はささやく。「そ、それ……素敵、すてき、です……」 「こんな淫らなことがか」 「告白、させてください」ルルーメルは泣くように言う。「心の底まで清らかでなければいけない巫女の私ですけれど、本当は思ったことがあったんです、そういうこと」 「……本当か」 「はい」強くうなずく。「いつか愛する人と――そのころはまだ、あなたと出会っていなかったから、誰だかわからない人とです、許して――体を重ねて、口をつけあって、ふれあいたいと」  息を切らせて、付け加える。 「は、裸で」 「裸で」 「はいっ」  こくこくと何度もうなずき、少女は真っ赤な顔を青年の肩に押し付けた。 「生まれたままの姿で。ああ、いいんですね。今はこういうこと、口にして。嬉しい。私、死ぬほどうれしい……」 「俺もだ」指のあいだを水のように流れる滑らかな髪を何度もなでて、ユグロンは丸い頭に口づけする。 「俺も、そう思っていた。同じだな」 「はい、同じ、同じです」  顔を上げて口づけを受けると、今までにも増してためらいなく、二人はお互いの身体を愛撫し始めた。  そういったやり取りが、この年頃の青年のすることとしてはおかしなほど奥手だということに、二人とも気づいてもいない。  それも無理はなかった。――ユグロン、神制軍を率いたたくましい青年は、この年まで男女のことを何も知らなかったのだ。それこそ、無垢な神殿の巫女と同じほどに。  生まれはどこだか定かでない。博労の男に拾われて、馬の世話をしながら荒々しい暮らしをして育った。年上の男たちは淫らなことも口にしていたが、そのころはまだまだ子供だった。  そして子供から青年になる、ちょうどそのころにグラドシラルの天命を受けて勇者として立った。  以来、戦い一筋。その最中に数々の戦士や賢者の教えを受け、国と民衆と戦と敵のことは、それこそ熱して打たれる剣のように叩きこまれた。  だが女のことは――女と、男のことは、なにひとつ知る機会を与えられなかった。  むしろそれこそが、勇者の素質だった。清らかな巫女と一対の戦士として、人の命運すら左右する劫転魔を打ち破るための無垢さを、彼も備えさせられていったのだ。  その成果が、あの偉大な勝利。――そして、この呆れるほどの無知だった。  だが、それももう、苦難ではなくなった。彼のつがいとなるのは、同じく無知なグラドシラルの巫女。淫らな手口で男を惑わすことはなく、聞きかじりの知識で男を笑うこともない娘。白と白。何色にも濁りようがない。  何も知らない同士で未知の道を深めゆく、他の誰にも知ることのできない喜び。それこそが、戦い抜いた二人に与えられた、たぐいまれな褒美であるのかもしれなかった。  そんなこととは知りもせず、二人は愛欲と好奇心の向くままに、互いの身体を調べ進んでいく。 「ユグロン、んっ、ユグロン」 「メル、ルルーメル」  聖衣と戦衣の上から指を這わせ、じきにその内側にまで手を這わせ。なめらかな女の肌、力強い男の肌を、次第に汗ばみながら、なで回す。 「ユグロン……これ……」胸に差し入れた手で、乳首をくりくりとこね潰して、ルルーメルは低い声で微笑む。「男にも、あるんですね。赤ん坊に乳をやる、これが……」 「乳は出ないぞ」いつしか余裕を取り戻して、快敵との剣戟を楽しんでいた時のような含み笑いで、ユグロンも言う。「おまえの乳は……どうだ?」  薄い聖衣の胸元に差し入れた手で、ぎゅっと膨らみをわしづかみにした。「痛ッ」と顔をしかめるのを見て、「わ、悪い」と手を放す。 「いえ、大丈夫。……そっと、そっと触れて」 「こうか」  手を椀のようにくぼめて、そっと包み、やわやわと揉む。「そ、おっ……」と嬉しげにルルーメルが顔を跳ね上げる。前髪が踊り、額の汗が燭台の薄明かりに輝く。 「いいい……甘い、です……そうやって……揉んで……」 「いいのか、これが……」  女の乳を揉む。そのようなことが、許される、喜ばれるだなどとは、考えたこともなかった。軍団の男たちが、こちらに聞こえていないつもりで話すその種の猥談は、捻じ曲げた作り話だと思っていた。なにしろ軍の女たちは強かった。  しかしそれはとんだ勘違いだった。誰よりも清らかなはずのこの少女が、じかに触れる男の手に喜んでいる。こすっただけで赤い痕が付きそうな弱い肌なのに。ちぎり取れそうなほど頼りない柔い肉なのに。 「はあぁ……ユグロン……ユグロンん……むね、むね、気持ちいぃ……」  髪を乱してあえいだルルーメルが、ユグロンの胸をかきわけて、肌に吸い付く。抱いているのか、抱かれているのか、もう区別もつかない。貪欲におのれの胸を舐め上げる娘の乳房を、覆いつぶして、搾りこねて、強く強く抱く。  混じり合う汗を手ですくい取って舐めとると、今まで味わったことのないほど甘臭くねっとりとした香味が、口と鼻に沁みた。女の――それも、まだ大人にすらなっていない処女の味だった。 「メル、メルっ」  こらえきれずに腰を起こして、股間を相手に押し付けようとすると、焦りのせいでばたつく手先を、ルルーメルのほうから下穿きの中に差しこんできた。  湿った細い指が、すでにじくじくと汁までこぼしていた怒張を、ぎゅっと握りしめる。――その途端、自慰さえしたことのなかったユグロンのこらえる限界を、跳ね上がった刺激が飛び越えた。 「ふぐうっ!」  びゅるっ、びゅるっ、と大量の粘液が飛び出していく感覚。これはなんだ、まずい、と思うことさえできない。どんな感覚よりも強烈なその爆発が、下半身を、全身を、意識を焼き尽くす。 「くうううっ、うううう……」 「ユ、ユグロン?」  戸惑いの声すら耳に入らず、ユグロンは腕の中の娘の柔肌を思い切り抱き締めたまま、とめどなく精を吐き出してしまった。  一瞬の自失、あるいはその数倍、数十倍か。快感による途絶という初めての体験が薄れて消えると、やや冷めたような、低調な意識が戻ってきた。  腕の中には、依然として愛する人の熱い身体がある。だが彼女の行いを目にしたとたんに、強い自責の念が湧き起こった。  ルルーメルは指先に絡んだ白っぽい粘液を、やや驚いた顔でにちゃにちゃとこね回していた。「メル」とユグロンは声をかける。「すまない、そんな……」 「待って」巫女はいくらか静かな口調で言う。癒し手としての気持ちが湧き出したものか。クン、と鼻先で指を嗅いで、かすかに眉をひそめる。「これは……膿、ではないみたいですけど」 「やめてくれ」  耐えられずにユグロンは顔をそむけてしまった。  寝小便をしたことはあるが、それはごくごく幼いころの話だ。まさかこの年になって漏らしてしまうとは、われながら信じられなかった。それも女の前で。  さすがに強がることも取り繕うこともできずに、情けなさでうつむいていると、ルルーメルが重ねて訊いた。 「痛みはなかったのですか」 「ああ」むしろその逆だった。小さく付け加える。「心地よかった。恐ろしいほど」 「そう、病気ではないのですね。私もこんなものは見たことも……」 「拭こう」  ユグロンはよろよろと身を起こし――足腰が立たないほど脱力していることに驚いたが、それが精通の刺激のためだとはわからない――手桶に手拭いを搾って、寝台に戻る。  すると、ルルーメルはまだ指先の粘液をぼんやりと見つめていた。あどけない顔にそれを近づけて、くんくん……と熱心に嗅ぐ。 「とても青臭い……けれど、何か……花の蜜みたい」 「メル」  その手をとって指を拭き清めると、あ……と巫女はひどく惜しそうに口を開けた。 「拭かなくてもよかったのに」 「拭かずにどうするんだ、こんなもの」 「どうって」言いかけて、ルルーメルは首をかしげる。自分でも困惑しているようだった。 「よくわかりませんけど、穢れたものではない、という気がするのです」 「そんなわけがあるか」 「あの、ユグロン」ルルーメルの息遣いはまだ速い。鎮まってしまったユグロンとは違って、興奮が続いているようだ。「実は……私も、そうなのです」 「そうって」 「下が、硬くて」  熱っぽく見つめる少女が何を言っているのか、ユグロンにはしばらくわからなかった。 「下?」 「はい」ルルーメルは小さくうなずいて、意を決したように聖衣の裾に手をかけた。 「もし、いやでなければ……触っていただけますか」  ルルーメルは精緻な細工の施された千里駆けのサンダルを履いている。くるぶしまである長い裾をするするとたくし上げると、美しい脚が徐々にあらわになった。細い足首、薄桃色の愛くるしい膝頭、そしてかぐわしい汗に湿って輝く、豊かな白い太腿――。  見てはならぬがゆえに見るものをそそって止まない巫女の足の付け根で、見事な刺繍に縁どられた下着の前が、ふっくらと盛り上がって、小さな円い湿りをにじませていた。 「ユグロン」  耳たぶまで真っ赤に染めて、少女が促す。落ち着いたはずのユグロンの心臓がふたたび暴れ出す。手を伸ばしてそっとふくらみに触れると、薄布のうちに硬さがあった。  知っている感触だった。ユグロンは驚いた。 「メル、おまえ、これは」 「もの、だと思います。あなたと同じ」  ルルーメルは消え入りそうな声で言う。が、だましていたという口調ではない。 「生まれつきこうなのです」 「女もこうなのか」  間の抜けた問いだが、ユグロンにその自覚はない。女のそこについては実物を見たことがなく、話に聞いただけなのだ。そして今夜は、聞きかじった猥談に裏切られ続けている。  ルルーメルもまた、それが普通の異性にどう見られるか、よくわかっていないようだった。 「普通の女には、ものはないと思います。同じ巫女たちにはありませんでした。ただ、神殿の巫女の長は、これのことはむしろ大事にしなければならないと……」 「長が?」 「はい。というのは」語りに合わせて、ふくらみがひくひくと震える。「私の肉体は、なかば天のものでできていますから。そして天の御方は男と女をともに具えてあられますから。であるから、私もそのようにできているのだと」 「半分は人間の女で、半分は男でも女でもある神……ということは、おまえは四分の三だけ、女だということか」 「そう、だと思います」  二人は見つめ合う。一人は、秘密を打ち明けた不安に震えて。一人は、意外な真実をどう扱うべきかを考えて。  だが、迷いは一瞬だった。勇気を試される場面で必ず正しい選択をしてきたから、青年はこう呼ばれてきたのだ。  勇者ユグロン、と。  温かい手で下着ごとルルーメルの股間を包みこんで、ユグロンはささやいた。 「これは、お前のものだ。お前は、俺のものだ」 「あ」  びくっ、と幼いおとがいを浮かせた少女を、ユグロンは片腕を回して抱き支えた。 「だったらこれは、俺のものだということだ」  さらり、さらりと。最初は撫で上げるように、じきに搾り上げるように。急速に形のはっきりしてくる筒状の肉を、ユグロンはおのれがされてよかったように、触り返してやる。  裾をぎゅうっと握りしめて、目の焦点を失っていきながら、ルルーメルが肩を震わせる。 「ユグ、ユグロン」 「いいか」 「いい、いいです。それっ、い、い」 「いいだろう。俺も、お前にされて、とてもよかった」 「ぞ、ぞわぞわ、してっ、どんどん尖ってっ」 「わかるぞ。かちかちになってる」 「違う、これ違いますっ、胸とか、唇とかと、全然、ひいっ」  膝頭を強くこすり合わせながら、ルルーメルは両脚をピンと伸ばしていく。木の床の上でサンダルがカリカリと小さな音を立てて滑る。胸が反り、ユグロンに愛撫されていた上気した乳房が大きくはだけた。甘い乳臭さが湯気のようにほうっと立ち昇り、密室に立ちこめる溶けたロウと精液の香りに入り混じる。 「ひっ、ひっ、ひ、ユグロン……」 「メル」 「止めて、ちょっと止めてくだ、あ、だめ」 「わかってる」  ユグロン自身のものよりは二回りほど小さいが、ルルーメルのそれも、今では限界だとわかるほどぎちぎちと張りつめていた。彼女が何を心配しているのかも、それを心配しなくていいことも、ユグロンはわかっていた。 「いいぞ、メル。大丈夫」 「だめ、だめーっ、うぅ!」  びくん! と細腰が跳ねた。じわっ、とユグロンの指先が温かくなる。 「くぅ! うっ! んんっ、んひぃっ……!」   紅の瞳をきつく閉ざし、息を詰めながら、少女は鋭く絶頂を繰り返した。手の中でびくん、びくんといななきながら粘液を吐く肉茎を、ユグロンは愛しさとともに注意深くしごき続けた。 「くっ、うぅぅん……!」   脱皮でもするかのように、全身をぐいぐいと押し上げて痙攣したルルーメルが、唐突にどっと崩れ落ちた。はあっ、はあっ、はあっと湿った息を激しく吐き立てる。  ユグロンは手を離し、ぐったりとした少女を寝台に横たえた。あどけない顔に、まるで全力で走った後のような汗の玉がびっしりと浮かんでいる。  手拭いでそっと額をぬぐって、口づけした。 「どうだった」  ルルーメルは大きく胸を上下させて、うつろな目を宙を向けている。やがて、寝台に投げ出していた腕を上げて、ユグロンの手に触れた。 「なに……今の……」 「な」 「すごかった……光の矢で射抜かれたみたい……」  少女の忘我は、青年のそれよりもずっと長かった。そのあいだにユグロンは彼女の体を丁寧に拭き清めてやった。顔だけでなく、首も腋の下も乳房も汗まみれだった。それを吸い続けた手拭いのほうが、やがて果実水にでも漬けたかのように甘酸っぱい匂いを帯びてしまった。  やがてルルーメルも、「貸してください」と小さな声でつぶやいた。ユグロンは首を横に振った。 「俺も、おまえを全部拭いてやりたいな」  それはちょっとしたいたずら心だったので、ルルーメルがわずかなためらいの後にこくりとうなずくと、ユグロンのほうが驚いてしまった。 「いいのか?」 「よければ」は、は、とまだ浅く速い呼吸をしながら、少女はかすかに微笑む。「私……甘えたいんです」  ユグロンは彼女の両腰に手をかけて、男の下着とはまるで違う繊細な手芸品を引き下ろした。その際に、ルルーメルが「んっ」と尻を浮かせて協力する仕草がひどく魅惑的で、ユグロンの興奮は、また激しく強まっていった。  下着の裏には、へらで糊でも塗り付けたかのように、べったりと白濁がこびりついていた。洗わなければ穿けたものではない。ユグロンはそれを足首まで下ろして引き抜く。  目を上げると、裸になった下半身の中心を、ルルーメルが両手で恥ずかしげに隠していた。ユグロンが何か言う前に、「あなたも脱いで」と言う。  ユグロンは立ち上がって言われた通りにする。上下を脱ぎ落とすと鍛え上げられた浅黒い裸身が現れた。腕に、肩に、脇に、膝に、数え切れない傷跡が刻み付けられている。そのうち少なくとも五つは筋肉を深く貫いた大けがで、巫女の強力な癒しがなければ彼の命を奪っていたに違いないものだ。  下着を下げると、再び反り返った太いものが、びたんと音を立ててへその下に当たった。ルルーメルが小さく息を呑むのが聞こえた。  裸になって、ルルーメルの隣に上がった。彼女の両脇に手を入れて、向きを変えてやる。「あの、ちょっと」と戸惑いつつも、彼女の声は嬉しそうだった。そして巫女は自ら、まだ上半身に残っていた乱れた聖衣から、腕を抜いた。  寝台に長々と並んで横たわると、ユグロンは律儀に手拭いをとってルルーメルの下腹へやった。布越しに股間を包むようにして何度も拭き上げてやる。「くすぐったい……」とささやきながらも、少女は体を広げてされるがままにしていた。  それが済んで、生まれたままの姿で抱き合う前に、まだひと手間が残っていた。コツンとすねを蹴られてユグロンが顔をしかめ、「あ、待って」とルルーメルが身を起こしてサンダルを脱ぎにかかったのだ。 「んっ、と……やだ、この……きつく結びすぎちゃった……」  体を丸めてサンダルのひもと格闘する少女の、長い髪のかかった剥き出しの細い背中を見守るうちに、ユグロンは突然、無性に嬉しくなってきた。  なぜだかわからない。乳房や脚を覗きこんだときよりも、その無防備な背中に、やっと手に入れた平和というものを感じて、愛しい穏やかな気持ちになったのだ。  身を起こして、肩甲骨のあいだのしっとりした谷間に口づけした。ルルーメルは「あ」と驚きはしたものの、それだけだった。ユグロンが顔をすり寄せるままにして、黙ってひもをほどき続ける。  見えなくても、その顔に微笑みが浮かんでいるのがわかった。  抱き着いて両腕を前に回し、ふたつの乳房を手に収めた。うなじにかかる髪をかき分けて、こつこつと浮き出している首の骨に口づけする。ルルーメルは何も言わない。脱ぎ終えたサンダルを、行儀よくきちんとそろえて横の床に落とすと、向きを変えてユグロンの胸に抱き着いた。 「ん……」  ぐりぐりと胸板に強く頭をこすりつける少女を、ユグロンはかき抱いた。体を密着させようとし、相手も同じようにし、そしてぴったりと重なり合う。今や、とうとう恋人の体のすべてが、さえぎるものなくすっぽりと腕の中にあった。ルルーメルも同じ思いらしく、ユグロンの引き締まった長身に、細腕を回して、しなやかな脚をからませて、左右の頬をかわるがわる押し付けてきた。 「ユグロン……」「メル……」  二人の下腹では、大きさ違いの同じ器官が、コリコリとぶつかり合っている。それは理性を失わせるような快感をもたらしたが、今の二人にはいくらかの余裕があった。一部の快感に溺れることなく、全身を味わいあって、口づけを交わした。 「はだか……はだかですね、私たち」 「ああ」 「こんなことしていいんですね。ああ……」  ごろりと転がって押し潰すと、「重いぃ」と嬉しそうにルルーメルが言い、またごろりと転がって上に抱き上げると、「大きい……」と喜んで腰を揺らした。 「夫婦ですね、私たち」 「まだ誓いを交わしていないけどな」  そして巫女に婚姻を許してくれる聖職者などこの国にはいないのだが、そんなことは二人ともわかっていた。「これが誓いです」とルルーメルは言う。「巫女の私が許すのだから、私はあなたと夫婦になっていいんです」 「どんな理屈だ……」  笑いながらユグロンは言ったが、その語尾は不明瞭になっていた。ルルーメルが上になって体をこすりつけるのは、特にあの部分がとても具合のいいのがわかった。互いの脚を挟む形で、下腹で潰すようにすると、お互いがはっきりと感じ取れる。 「熱い……熱いし、硬いです、ユグロンのもの……」 「おまえのも硬いな。小さいけれど」 「小さくても、気持ちいい、気持ちいいんですっ。あなたも? あなたも?」 「すごいよ」  こすり合わせることで発火する点火棒のように、二人はぐいぐいと腰を動かして硬いものをぶつけ続ける。その先がどうなるか、もうわかっていたが、ためらう理由もなかった。 「こ、このまま、いいですか、ユグロン」 「ああ、んうっ、ううっ」  ユグロンは少女の小ぶりな尻を両手でつかんで、骨盤全体をぐいぐいと引きつけていった。「あ、いい、いいっ」と胸の上でルルーメルがあえぐ。ユグロンの胸骨に耳を押し付けている。垂れかかる髪の下で目を閉じて、幸福そのものと言った顔で訴えた。 「聞こえます、どっどって、あなたの心臓、すごいっ」 「お前は柔らかい……綿のよう、雲のようだ……なのにあれだけは、すごく……」 「はいっ、私またっ、また、き、来てますっ。奥からあれが、あっ、あれっ」 「俺も……もう」 「あっあ、出る、出ちゃう、だめユグロンっ、んいいっ……!」  ルルーメルが胴にぎゅっと抱きついた。その瞬間、圧迫された果実が潰れるような激しさで、こわばりがビュッと粘濁を噴きだした。  同時にユグロンも達した。ルルーメルの尻肉に痕が付くほど強く指を食いこませて、がっしりと腰を引き寄せながら剛棒をびくつかせた。 「くおっ、おおっ、おおう……!」「ひっ、ひぃん、いいっ……」  ただでさえ灼けるほど快いその瞬間に、きつく重なった相手のものが同じ痙攣を伝えてくる。ひくつきながら上下にこすれた部分が、みるみる熱いねばつきにまみれていく。  それは言葉にならないほどの一体感を二人にもたらした。混ぜ込まれて泡立っていく二筋の精液が、その瞬間の二人そのものだった。  今度の絶頂は、前のそれよりもよほど激しかった。  抱き合って硬直する時間が通り過ぎた後も、二人はしばらく動けなかった。脱力して、使い尽くした呼気を肺に補充するだけの時間が長く続いた。  やがて、閉ざしてあった本のページを開くように、ぱたりとルルーメルが隣へ仰向けになった。ちょうど頭の下に来たユグロンの腕を枕に、ゆったりと手足を伸ばして、はあはあと満足そうに息をついた。 「すてき……素敵でした、ユグロン……」 「ああ、ルルーメル」  力いっぱい絶頂に駆け登った少女の全身から発する香りで、部屋の空気はむせ返りそうに甘い。しかし彼女にとってはそうではないらしく、ユグロンの腋に横から顔を寄せて、すうぅ、と鼻息を吸った。 「もう、言ってしまいますね、ユグロン。私、あなたの匂いが本当に好きなの。だめなの。あなたが汗をかくと、すり寄りたくって、たまらなくなるんです。ずっとたまらなかったの。こんなふうにしたかった……」  腕の付け根に犬のようにすりすりと鼻を寄せて、「これ、幸せ……」と酔ったようにつぶやく。  その形のいい頭を撫でてやり、ユグロンは言う。 「俺も……お前とは、夫婦になるさだめだったのかもな」 「夫婦――に、なれたのでしょうか」 「ん?」   横を見ると、いくらか落ち着いた様子のルルーメルと目が合った。 「夫婦というものは、子どもを持つのですよね。私……いずれ、あなたの赤ちゃんを身ごもれるのでしょうか」  言ってから自分の言葉にあてられたらしく、目を閉じて「私がユグロンの赤ちゃんを……」と下腹を撫でた。  ところがそこには、今しがた二人で振りまいた粘液がべっとりと残っていたので、見下ろして「あ」とばつが悪そうにつぶやいた。  今度はルルーメルが手拭いをゆすいで二人の体を拭いた。そのあとでまた並んで横たわると、彼女は「いいですか」と断ってユグロンの股間に手をやり、何やら調べるようにさわさわと隅々まで指を潜らせた。  ユグロンとしては落ち着かず、しばらく声を抑えてこらえていたが、ルルーメルがなかなかやめないのでとうとう尋ねた。 「あの、な、メル」 「はい」 「そんなに触られると、また俺は淫らな気持ちになりそうなんだが……」 「はい」ちょっと嬉しそうに笑みを浮かべて、「なってもいいですよ。私だって、何度でも」 「そういうことなのか? 何か気になるみたいだが」 「ええ、それが、その……」  少女は少し口ごもっていたが、やがて「手を貸してもらえますか」と言った。  ユグロンが右手を差し出すと、ルルーメルはそれに自分の手を重ねて、「激しく動かさないでくださいね――なんというか、とても敏感なところですから……」言ってから、自分の下腹へ持っていった。  ユグロンはそうやって、彼女の秘密の最奥部へと連れていかれた。 「んっ……その、こ、ここ……さわって」  ルルーメルは顔を赤くしてこらえるように目を閉じている。その指が、奥をまさぐれとこちらの指をうながす。ユグロンは言われるがままに、ルルーメルの股間に指を這わせた。自分と同じ男のもの、その下に、あのどこか愛嬌のあるくるみ型の頼りない袋、そのさらに陰に――。  とろとろの潤みをたたえて、薄く割れて息づく、何やら秘密めいたひだ口があった。 「ここは……」  二人は顔を見合わせる。ルルーメルはまた耳まで真っ赤になり、羞恥に潤んだ瞳をしばたたかせている。「そこ」とささやくように言う。 「そこ、女のモノだと思うんです……」 「女のもの」 「はい……ユグロンには、ないみたいですから」  ユグロンは割れ目に沿って、そっと人差し指を滑らせた。ただのひだではなく、奥が深いようだ。かき分けて探る――ぴくぴくと小刻みにルルーメルが腰を震わせる――洞穴があった。耳や鼻の穴よりも大きい。指先がかろうじて入る。  だが、ぬめりの中へさらに指を進めようとすると、「待っ……て」とルルーメルが手を押さえた。 「その先は、痛いです……」 「そうか」  うなずいたものの、その穴に得体のしれない執着を感じてしまい、ユグロンはしばらくくちくちと指先でひだの谷間をこね続けた。 「ん……はっ……く……」  ルルーメルは抵抗しなかった。最奥をユグロンに委ねて小さくうめいている。しかし、ぬめりが増してきた気がしてユグロンが再び指先を進めようとすると、「つっ……」とルルーメルが鼻の頭にしわを寄せたので、あきらめて手を引き抜いた。  指を持ち上げて灯火にかざす。透明な液体で濡れていた。男のモノからほとばしった白濁とは違うように見える。むらむらと衝動が湧き、つぷりと口に含んでしまった。――今までの彼女のどこか乳臭い味や香りとは違う、粘ついた匂いが舌に触れた。  何かがわかりそうだった。夫婦になるということ……子を授かるということ……身ごもるということ。  そのときユグロンの脳裏を、ちらりと馬の繁殖の知識がよぎった。発情して盛った牡馬は牝馬とつがう。そして牝馬が仔馬を産む……。 「ああ――そうなのか」 「ユグロン?」  不思議そうなルルーメルを転がして、うつぶせにさせた。つるりと輝く尻の丸みが目に映る。「あのっ!」と声を上げる彼女に、言い聞かせる。 「じっとして。知りたいんだ」 「……ええ、はい。どうぞ」 「脚を開いて」  よほど恥ずかしいらしく、枕に顔を押しつけてしまいながら、ルルーメルが膝を立てて両脚を左右に開いた。そんな姿勢の娘にあからさまに触れるということに、また興奮してしまいそうになりながら、ユグロンは後ろからルルーメルの股間をまさぐった。  ――指先に、きゅっと固くすぼまった小穴が感じられた。そこから腹のほうへ少しだけなぞると、先ほどの潤んだ谷間が見つかった。 「ふっ……ぐ……ふ……」  尻がひくつく。枕越しにこらえた吐息が聞こえる。「痛いか?」と聞くと、黙ったままぶるぶると頭を横に振った。 「……そのあたり全部、ぞくぞくするんです……」  とうとうユグロンはそこをじかに覗きこんだ。  すると――見えた。  ハート型に盛り上がったはじけそうな若い白丘の下に、まだ肉の乗りきっていないつややかな裏腿が伸びている。その中心のほのかに色づいた暗がり、すぼまりよりさらに奥に、濃い赤みを帯びた唇のような谷間と、ぬめりをたたえた小さな深穴が息づいていた。  息が詰まるほど猛りを覚えるとともに、盛った馬の激しさを思い出す。  ここなのだ……ここに男のモノを突きこむのが、本当の夫婦の契りというものなのだ。 「ぐ……ふ」 「ユグロン?」  本能に頭を塗りつぶされてふらりと尻をつかみ、中心にこわばりを押し当てた。一気にグッと力をかけ―― 「うぐっ、ユグロン、ユグロン!」  少女の悲鳴で、我に返った。  ぴんと怒張した先端をぬめりの中にぐりぐりと押し当ててみるが、幼く狭い肉穴は侵入を許さない。「待っ、痛っ!」とルルーメルは敷物をよじ登るようにして逃げる。「む、無理、やめて……!」という切実な哀願を耳にして、さすがに体を離した。 「ユグロン……?」  恐怖というほどではないが、突然の暴行にひどく戸惑った顔で、ルルーメルが振り向いていた。仕方なく息を吐いて、ユグロンはまた彼女の横に添い寝した。 「そんなに痛かったか、済まない」 「いま、何を……?」 「多分、こうだと思うんだ」  交尾――という言葉を使うのは抵抗があって、ややぼかした言い方で、ユグロンは馬のつがい方を話した。だがそれはきちんと伝わり、ルルーメルの顔に理解の色が広がった。 「そうですか……私の腹に、ものを」 「男のモノがこれほど硬くなるのは、そのためなんだろう」 「では私は、これを」  またしても最大に育ったまま、どくどくと拍動しながら自分の下腹を狙っているかのようなユグロンのものを、ルルーメルは手で握った。 「内に、迎え入れなければならない……でも」  目を閉じていま一度自分のそこに指を潜らせたルルーメルは、やがて悲しげに首を振る。 「と、とても無理です。あなたの親指でも入りそうもないのに、こんな大きなもの」 「だろうな。きっと、相性というものがあるんだ。お前はこんなに小柄なのに、俺はこの背丈だから……」  すまん、ともう一度ユグロンは頭をさげる。 「お前の夫になるには、俺が大きすぎるのかもしれない」 「私もごめんなさい、小さくて。アーニカやレイダのように大きな人たちならよかったのに」  神制軍の仲間だった女騎士や女剽賊の名前を聞いて、ユグロンは思わず苦笑した。 「おいおい、それはなしだ。お前があんな女丈夫たちみたいにガサツででかかったら、俺はともに連れてはこなかった」 「まあ……」 「第一、鞍の後ろにも乗せてやれない。俺は、これぐらいの女のほうが」 「ほうが――なんですか?」 「いや、その……」  好きだとか愛してるなどといった言葉はほとんど――最後の戦いの前夜の、誓いの一夜を除けば――口にしたことがなかった。ユグロンが言葉を濁すと、ふっとルルーメルは笑って、ツイと口づけした。 「分かってます。私だって、あなたでなければ。このようなおかしな体の娘……あなた以外の男だったら、どう言われるかわかりません」  腰を突き出して、モノにものを押し付けたので、ユグロンもまた微笑んだ。 「俺は全然気にしない」 「ありがとう」言ってから、体ごとすり寄って、首元でまた言った。「ありがとう、勇者ユグロン」  それから二人はどちらからともなく、また相手のものに触れて、今度はゆっくりと手で愛撫を交わし始めた。これまでのように勢い任せでごりごりとこすり合わせるのではなく、指先で幹やくびれや、皮の内側まで細かく刺激し……また互いに口づけし、姿勢を変えて乳首や耳にも舌を這わせ……そしてユグロンが先に放った。ほとばしりをたっぷりと白い乳房に受けたルルーメルは目を輝かせて興奮し、膝立ちの姿で自ら男根をこすり立て、ユグロンの胸から顔にまで、新鮮な精汁をあふれるほど浴びせかけた。 「ユグロン、ユグロン……」  互いの体液にまみれた姿に十分満足したのか、ルルーメルは愛らしくささやきながら抱き着いた。   そうして、長い間抱き合っていた。  しばらくすると、ふとユグロンはつぶやいた。 「赤ん坊は……」 「え?」 「赤ん坊は、女のそこから出てくるのか?」  言ってから、それを知っていることに気づく。 「そうだ。孕み馬はそこから子を生み落す。母の腹で三百と三十日育った立派な仔馬が、胞衣に包まれてもがきながら出てくる……」 「女も、十月十日で子を産みます。――聞いただけで、見たことはありませんけど」 「だったら、そこは広がるんじゃないか?」 「ええっ?」  声を上げてルルーメルは身を起こした。「女のモノが……広がる?」と呆然とつぶやく。 「でなければ子は産めない」 「そ、それはそうですけど。私のこんなに狭いところが」 「そうだな。それはちょっと……」どう考えても、ルルーメルの慎ましやかな秘穴から、子供が生まれ出てくるところは想像できない。「どうなんだろうな」 「私は、いくらか男なのですし……」 「それもある。しかし」  何度も愛を交わしたおかげで、頭がよほど鎮まっていた。ユグロンは考えながら言った。 「女が子を産むときは産婆がつく。馬とは違う。赤ん坊を取り上げるために手を尽くす。きっといろいろと秘術があるんだろう。俺たちは知らなさすぎるんだ」 「でしたら……」 「できるかもしれない」ユグロンも身を起こして、ルルーメルの両手を取った。武骨な指の中に、華奢な手を包み込む。「俺たちはつながれるかもしれない。いつか。そのやり方を探していかないか?」 「あ……」  大きな花が開くように、巫女の顔に喜色が広がった。 「はい! あなたときっと……夫婦になります!」  夜明けの町は静かだった。みんな疲れて寝こけているのだろう。  だが、戦衣と聖衣をまとい、きちんと身だしなみを整えた二人が帳場に降りると、老女はすでに起きていた。閉じた両目以外の顔全体に、大げさなほどの笑みを浮かべて、恥のかけらもなく言い放った。 「おはようさん、あんた方! 昨夜は実にお楽しみだったねええ。三十年宿を開いているが、あんなにギシギシあんあん盛り立てた客は、五組もいなかったよ。まったくごちそうさんだ!」 「聞いていたのか」 「聞こえちまったんだよ、安普請でね。ヒヒヒヒ!」  この老婆はきっとこれが楽しみで商売しているのだろう。ルルーメルが首まで真っ赤になって身を縮める。ユグロンも殴り飛ばしたい気分だったが、そういうわけにもいかなかった。  山ほどの貨幣をつかみ出して、じゃらりと勘定台に置く。音を聞いた老婆が「ほっ?」と首を傾げた。 「なんだい、気前がいいね」 「これで新しい窓を作ってくれ」 「窓?」  不思議がる老婆を置いて、二人は表に出た。ルルーメルが赤い顔でくすくす笑った。 「すみません、ユグロン。どうしても邪魔が入ってほしくなかったの」 「俺もだよ」  窓から突然斬りこんでくるような敵は、すでに残らず討ち果たした。しかしユグロンは心からそう言った。  早開きの屋台で朝食を求めてから、街を出る。川べりでは二頭の馬が言いつけどおりに待っていた。鞍紐を締め直して跳び乗り、手を取って後ろに乗せる。清澄な朝の空気をついて走り出す。 「行こうか」「はい!」  二人は夫婦になる旅を始める。 (終わり)