top page   stories   illusts   BBS


二人を、隔てるもの

「たっだいまーっと……わーっ!」
 ミサトは、マンションに入ってくるなり、コケた。
 どんがらがっしゃーん! 
 山積みになっていたゴミやら空き缶やら洗濯物やらが四方に飛び散る。
「……ててて」
 外で加持と飲んで来ていて、すでにほろ酔い状態――というより泥酔に近い状態だったミサトは、頭を振りながら立ち上がって、ふらふらと寝室に入った。
 そのまま、ばたんと倒れる。
 間髪いれず、盛大ないびきを立て始めた。

「ただいまー」
 マンションに入って来たアスカとシンジは、部屋の中を一目見るなり、ぼうぜんとして立ちすくんだ。
「なんだこれ……」「なによこれー!」
 もともと片付いているとは言いがたいミサトのマンションだったが、今夜は特にひどかった。キッチンの隅の、辛うじてバランスを保っていたゴミの山が崩れて、大規模な雪崩を起こしている。ゴミの怒濤は他の部屋にまで及んでいて、バスルームの脱衣所や、アスカの寝室にまで達していた。
 自室を覗いたシンジは、被害がたいしたことはないのを確かめて、ほっと胸をなでおろした。ところが、
「あーっ!」
 と、アスカが大声を上げた。
「ちょっとシンジ、見てよ!」
 アスカの部屋をのぞくと――ふだんならそれだけで、のぞかないでよ! と怒鳴られるのだが――アスカがワナワナと震えていた。
「あちゃー……」
「信じらんない、これどういうこと?」
侵入したゴミなだれの一部に飲み残しの缶ビールがあったらしく、布団や着替えに異臭のする液体が飛び散っていた。部屋全体がビール臭い。
「ひどいね」
「ひどいじゃすまないわよ、今夜寝られないじゃない! どうしてくれるのよ!」
「僕のせいじゃないよ、多分……」
 アスカの部屋を出て、ミサトの部屋をのぞく。案の定、ドアを開けたとたん酒臭い匂いが流れ出て来た。――薄暗い室内のベッドの上で、外出着のままのミサトがだらしない格好でいびきをかいていた。
「……やっぱり」
「あーんもう、ミサトの酔っ払い! これだから大人ってイヤなのよ!」
「今日はもう遅いし、どうしようもないね」
 わめくアスカと対照的に、シンジがあきらめたように言った。
「アスカの服と布団はあしたクリーニングに出すといいよ。どっちみち、そろそろ洗濯しなきゃいけなかっただろ」
「う、うん」シンジのことばに、アスカが戸惑いがちにうなずいた。「そうするけど……」「今日は僕の部屋で寝ればいいから」
「僕のっ、て、バカ言わないで……」「僕はキッチンで寝るから」
 アスカは叫びかけたが、シンジのさりげない一言に、声のトーンを下げた。
「そ、それならいいけど……」
「うん。じゃ、先、風呂はいったら?」
「ええ」
 布団でも移動させるのか、自室に入って行ったシンジを見送って、アスカは浴室に入った。

「ふう……」
 湯船の中で、アスカは一息ついて天井を見上げた。
 あの第七使徒との戦闘以来、どうもシンジとの会話がやりにくい。六日間必死になってお互いの呼吸を合わせたあの特訓のせいか、戦闘が終わってからも、気が付くとシンジと一緒にいることが多くなってしまった。シンジの方も同じらしく、なにかと話しかけてくる。その会話のタイミングも、とろいながら徐々に的確になって来ている。会話だけでなく、日常の付き合い全般に、シンジとの呼吸の一致が、しばしば感じられるような気がする。
 最近では、考えを読まれているんじゃないか、と思えることもある。
「反則よ、あんなの……」
 怒鳴ろうとした瞬間に静かに言い返されたり、日本語をたまに忘れたときなどうまく横からフォローしてくれたり、そう言ったことが増えた。
「でも……腹、立たないのよね」
 そう言ったシンジの行動の端々に、優しさを感じてしまうときがある。以前のような卑屈なだけの彼とは、どこか違って来ている。それが、妙に快い。
「あたし……なんであんな奴相手に、和んでんだろ」
 つぶやきつつも、不快ではない。

「シンジーっ、お風呂あいたわよ」
「分かったよ」
 部屋を出て、シンジはバスルームに向かった。廊下で、パジャマに着替えたアスカに出会う。と、アスカが片手を挙げた。
「?」
「ほら、チェンジ」
 気づいて、パンと手を打ち合わせる。すれ違う瞬間、湿ったフローラルの香りがふわっと広がった。
 バスルームの扉を開けると、より強い芳香が鼻孔を突いた。
 多分本人は気づいていないのだろう。セッケンやシャンプーの香りに交じって、若い娘の汗の匂いが狭い室内一杯に残っている。服を脱ぎながら、シンジはその匂いを胸一杯に吸い込んだ。ほんの五分前に、そこでアスカが裸になっていたんだ、と思うと、胸がドキドキし、股間が勃起してしまう。
 わけもなく恥ずかしくなって、シンジは湯船に飛び込んだ。
 ふと気づくと、浴槽の端に栗色の長い髪の毛が一本、引っ掛かっていた。香りよりももっとリアルな残留物に、シンジの妄想が膨らむ。
「アスカ、か……」
 最初であったときには、生意気な女の子だ、としか思わなかった。それがどうしたわけか、最近ではかわいいな、と思ってしまう時がある。
 勝ち気で押しが強いのは、性格が悪いからじゃないんだ。傷つきやすくて、臆病で、涙もろくて……そんな自分を隠すために、わざと強い言葉で、強い態度で、人に接してしまうんだ。
 それが、あの戦いを通じて分かった。分かってくると、そんな彼女がいとおしくなった。 突っ掛かられたり、怒鳴られたりしても、吊り上げた眉の裏の、悲しそうな素顔が、見えてしまう。それが見えれば、憎らしくはない。むしろ痛々しくて、ついいたわってしまう。
 それでも、正面から同情やいたわりを見せれば余計に反発する。そんなことまで最近では分かって来てしまった。
 だから、彼女の相手をうまくできるようになった。
 憎しみが消えれば、好意も生まれる。アスカはもう、シンジにとって同い年の魅力的なかわいい女の子だった。

 シンジが風呂から上がると、キッチンに引いたはずの自分の布団が、なくなっていた。「……?」
「なにボサッとつったってんのよ」
 自室から、聞き慣れたアスカの声がした。部屋をのぞくと、アスカが自分の布団に横になってマンガを読んでいた。こちらのことは、足音で気づいたらしい。
 驚いたのは、その隣に自分の布団が移動されていることだった。ただ、二つの布団の境界に丸めた毛布がおかれているのが、いかにもアスカらしい。これが、今回の「ジェリコの壁」なのだろう。
「そっちで寝ていいの?」
「いいからこっちに敷いたのよ。見てわかんない?」
「だって、いつもアスカ怒るじゃないか」
「あんたバカぁ?」おなじみの台詞を吐いて、アスカがシンジの顔をにらみ上げた。「キッチンの堅い床なんかで寝てみなさいよ。いくらここが暑いって言ったって、風邪引くに決まってんじゃない。体調管理もエヴァのパイロットとしての義務でしょ!」
「ふうん……」
 今日は、クラスの連中と外で食事はして来たので、後は寝るだけだ。シンジは、おとなしく自分の布団に横になった。それを見て、アスカがあかりのヒモに手を伸ばす。
「アスカ」
「何よ!」
「アスカ、ほんとは優しいんだね」
「なっ……なに言ってんのよ! 大体、ほんとはってどういう……」
「心がってことだよ」
 アスカが絶句した。枕に顔をうずめながら、アスカは今、真っ赤な顔してるんだろうな、とシンジは考えた。そして、くすくす笑った。
「……もう寝るわよ!」
 パチン、と音がして暗くなった。

 悪夢を、アスカは見た。
 両親と手をつないで歩いている。自分はまだ小さく、両親の手にぶら下がれるくらいだ。どこか、楽しいところへ行くのだ、と漠然と思っていた。
 その手が、ふっと軽くなった。見上げると、左手を握っていた父親の姿がない。不安に駆られたとき、右手も軽くなった。母親の姿も消えた。
「パパ? ママ?」
 呼んだ声が、深く暗い闇に吸い込まれて行く。返事はない。いつの間にか、足元の大地もなくなっていた。落下の感覚が全身を襲う。
「パパ! ママ!」
 はるか上空を、両親が遠ざかって行く。深い孤独が襲う。同時に、冷たい風が体にまとわり付いてくる。寒い。冷たい。
「助けて……!」
 長い長い時間、アスカは落下し続けた。体が冷えきる。いつまでも、どこにも着かない。いつ地面に激突するのか、その恐怖が、アスカの小さな心を締め上げた。
「いやぁぁぁ!」
 声が喉に張り付き、出そうとした悲鳴も出ない。息を吸い込もうとして口を大きく開けて……
 アスカは、目を覚ました。
「夢……」
 見慣れない、マンションの天井がぼんやりと曇った目に映る。涙が湧いていた。アスカは、涙を拭った。心には、冷たい孤独がしつこく残留している。世界中の人間が死に絶えて独りぼっちになったような気持ち。孤独に耐えられず、隣に寝ているはずのシンジに顔を向けて、アスカはビクッと体を縮めた。
 髪が触れ合うほどの至近距離に、少年の顔があった。悲鳴を上げようとして――相手が眠っていることに、アスカは気づいた。
 狸寝入りではない。呼吸を聞けば、それは分かる。いつのまにか、境界の毛布を越えて、こちらにまで転がって来てしまったらしい。
「もう……びっくりさせて!」
 ぶん殴って起こしてやろうかと思ったが、シンジの寝顔を見ていると、そんな気も失せた。薄く開けた口の中に歯が見える。規則正しい鼻息があごの当たりにかかるが、匂いはしない。ただ、暖かい。まったくの無防備な寝顔だった。
 それを見ているうちに、孤独感は溶けてなくなった。代わりに暖かい思いが湧いてくる。「ふふ……バカシンジ」
鼻の頭をちょんちょんとつついて見る。「んん……」とうめいたが、動く様子はない。
「あたしとこんな至近距離で寝てるってのに……」
 起きてたら、エッチなこととかしたがるんだろうな、とアスカは思った。寝ている男の子って、かわいいかもしれない。
「あたしがこんなことしても……きづかないんだよね」
 シャツの下の胸を、キュッと寄せて顔の前に突き出して見る。――反応なし。
「……ふうん……」
 シンジの無防備な寝顔を見ているうちに、むらむらと好奇心が湧いて来て、アスカは片手をついて身を起こした。
 少年が少女に抱くように、少女も少年に対して好奇心を持っている。こんなことでもなければ落ち着いて見れない異性の体を、アスカはじっくりと調べたくなった。
 ドキドキしながら、顔を寄せてうなじに近づける。きれいに刈り込まれたうなじからは、セッケンの香りに交じって、かすかに男の汗の匂いがする。しばらくそれを嗅いで、うん、イヤな匂いじゃないな、と結論づけてから、アスカは視線を下に下げて行った。
 月明かりの下で、じっくりとシンジの体を観察する。肩から腕の方に視線を下げて行くと、半袖からほっそりした腕が伸びている。加持さんみたいながっしりした手じゃないけど、とアスカは思う。そんなに毛も生えてないし、まあ奇麗かもね。
 シンジを刺激しないように、慎重に体を動かしていく。胸板は薄い。腰も細い。――男の子ってずるい、とアスカは思った。何にもしなくてもウエストが引き締まるんだから。
 その下――出っ張った腰骨の下に、股間がある。パジャマのそこは、確かに膨らんでいた。この中に……あれが、あるのよね。
 とりあえずそこで止まって、ギリギリまで顔を近づける。匂いは……しない。いや、かすかに、おしっこの匂い……かな? 顔をしかめかけて、アスカは思い直した。おしっこぐらい、自分でもする。それを気持ち悪がっては、不公平だろう。
 他のところも見ようかと思ったが、アスカの視線はそこにくぎづけになっていた。
 どんな形をしてるんだろう? どれぐらいの大きさなんだろう? 本物の男の子のあれ……知識としてしか知らなかったが、目の前にあるのは、本物のおちんちんだった。
 そうっと指を伸ばして、指で触れて見る。くにゅ、という感触。柔らかい。堅くないのが、少し不満だった。
「堅くなるんじゃないのか……」
 どころが、くにゅ、くにゅ、と続けて触っていると、変化が起こった。パジャマの中のそれが、徐々に弾力を持って来たのだ。
「わ、わあ……」
 パン生地ぐらいだった弾力が、コンニャクぐらいにまで堅くなって来た。アスカは目を見開いてそれを見つめ続ける。まさか起きてるんじゃ、と思ってシンジの顔をちらっと見るが、目は開いていない。眠り続けている。
 ある程度まで刺激すると、それは脈動を始め、勝手に大きくなって、じきにズボンの下で動いて、直立の姿勢を取った。アスカは声もなくそれを見つめる。
 ほんとに大きくなっちゃった……
 ごくり、とツバを飲み込む。いつも頼りないのに、シンジもやっぱり男なんだ、と実感する。のどがからからに渇き、胸の鼓動がうるさいぐらいに大きくなった。
 指でこんなになるんなら、とアスカは思った。もっとすごいことしてやったら、どうなるんだろう?
 体を引き上げ、シンジの体にもっと近づく。ほとんど触れんばかりにしてから、アスカは片足を持ち上げた。開きぎみのシンジの両足の間に自分の片足を重ね、太ももをシンジのあそこに、そうっと当てる。
 そうしておいてアスカは目を閉じ、さも眠っているかのようなふりをして、ごくごくわずかに、太ももをシンジの股間に擦り付け始めた。

 くすぐったいような甘美な感覚に、シンジは意識を取り戻した。自分の股間に、なにか柔らかくて熱いものが当たり、小刻みに動いている。
 心地よいことは心地よいのだが、その正体が気になって、シンジは目を開けた。
「……!」
 アスカの顔が目の前にあった。ただ、その視線は下の方を向いている。反射的にシンジは堅く目を閉じて、眠ったふりを続けた。
 目を閉じると、たしかに股間になにかが当たっているのが分かった。夢ではない。弾力のある、暖かいもの……じきに、それがアスカの太ももだということに、シンジは気づいた。
 アスカ、何でそんなこと……
 聞きたかったが、声を出すとこの微妙な状態が壊れてしまうような気がした。股間を刺激するアスカの太ももの感触は想像できないほど甘美で、シンジはそれを止めたくなかった。眠ったふりを続けて、それを味わう。
 アスカの太ももが触れている、その事実が、シンジを興奮させた。息が荒くなるのは意志で押さえたし、赤くなった顔もこの暗さでは多分分からない。でも、股間がますます堅くいきり立つのは、隠せなかった。
 今やはっきり、シンジには、アスカが自分の勃起を刺激しているということが分かった。太ももの動きも、気のせいだったような最初に比べて、はっきりして来ている。これだけだったら、アスカもなにもいわない、と分かって、シンジはわずかに、腰をせりだした。
 股間と太ももが密着する。そのリズムがわずかに乱れた。が、再び刺激が始まった。多分、アスカは気づいた。シンジはそれを悟ったが、アスカの愛撫が止まないのを感じると、より大胆に、腰を突きだし始めた。

 ある一点で、シンジの股間が急に堅くなり出した。アスカはそれに気づいた。密かにシンジの息をうかがうと、明らかに荒くなっている。起きている。
 それに加えて、シンジが股間を前に突き出して来た。もっとしてほしい、という意思表示なのだろう。気持ちいいんだ、とアスカは悟る。アスカにはそれが理解できた。シンジのそれに触れている自分の体も、気持ちよくなって来ていたから。
 ふーっ、ふーっ、とシンジの呼気が耳に当たる。自分の息も、それにつられたように荒くなる。心臓のどきどきにあわせて、少し前から、自分のあそこもジンジンとうずくようになっていた。アスカには分かった。そこに触りたい、触ればもっと気持ちよくなる。
 でも触れない。……そんなことをしたら、シンジにばれてしまう。
アスカがとった解決策は、簡単だった。シンジの股間に押し付けた太ももを、下に下げる。そうすると、自分の股間がシンジの太ももにぴったりとくっつく。その状態だと、お互いの股間が太ももに触れるだけでなく、その上の腹や、乳房まで相手に接触してしまう。だが、やってしまうと、かえってそれは気持ち良さの増す行為だった。シンジの体に、自分の体を密着させる。――室温がいつもより寒かったので、彼の体の暖かみが心地よかった。
 シンジは、止めない。それだけは、アスカは確信していた。そして、何も言わないだろう。それが分かっていたから、アスカはその危険な遊びを続けることができた。

 アスカの体が動いたかと思うと、余計ぴったり密着して来た。両足が完全にからみ、腹や胸までくっついてしまっている。フリーなのは、頭と両腕だけだった。
 パジャマの薄い布が間にあったが、そんなものは何の意味もなかった。アスカのブラの起伏、その下の柔らかな乳房、すべすべした腹、そして、自分のそこと同じように熱くなっている、あそこ。……そういったものが、肌を通じて、はっきりと感じられた。
 アスカがどういうつもりなのか、もうそんなことはどうでもよかった。ただ、彼女から、この妖しい魅力を持つ遊びを仕掛けて来てくれたことが、嬉しかった。
 アスカの動きに合わせて、自分も太ももを動かして彼女の股間にこすりつける。アスカがそれを望んでいることは、太ももに加わる強い力でよく分かった。じきに太ももを押し付け合うだけでは足りず、ひざから下の下肢全体を、シンジはアスカに絡み付けた。柔らかいふくらはぎやピンと張ったアキレス腱に、自分の同じ場所を当てて、強く引き寄せる。そこまでしても、アスカは拒んで来なかった。寝ぼけているのでないことは、絡み合った足の指先がお互いに触れ、弄うように指同士でくすぐり合ったことで、分かった。
 シンジの胸に当たったアスカの乳房は、弾力を感じさせながらもいびつにつぶれて、二人の間で震えている。そうまで濃厚な愛撫に至ってしまいながら、二人はいまだに、寝ているふりを続けていた。お互いの暗黙の了解だけに従って、相手をまさぐり続ける。――言葉がないだけに、かえって、快感を求める二人の行為は際限なくエスカレートしていった。
 もはや露骨に、二人は腰を使い出していた。お互いの太ももに、自分の性器を強くこすりつける。息をひそめることなどとうの昔に無理になって、二人ともはあはあと荒い息を互いの喉に吹きかけていた。シンジは、アスカの太ももに挟まれた自分の太ももに、ぬめりを感じ始めていた。二人の接触面は汗でぐっしょりと濡れていたが、それとは違う、もっと淫らなぬめりが、アスカの下着とパジャマを染み出して、シンジの肌にまで達して来ていた。
 アスカの頭は、もうろうとして来ていた。生まれて初めての、熱く激しい波のような快感が、全身を支配していた。興奮したシンジから染み出す汗の匂い、男の汗の匂いが鼻をつき、脳をクラクラしびれさせる。と、シンジがたまらなくなったように顔を近づけ、髪に鼻を押し付けて深く息を吸い出した。自分も興奮した女の香りを放っている、シンジがそれを求めているということが分かって、アスカは小さく震え、自分もシンジの首筋に顔を押し付けた。
 理性が消えていた。思考も知識も何もかもが溶けて流れてしまっていて、ただ体をまさぐりたい、まさぐられたい、相手とぐちゃぐちゃに交わりたいという思いだけが体を支配していた。シンジの首筋に唇を押し付け、舌を伸ばし、汗を味わい、体温を吸収する。シンジも同じように、アスカの頭に顔を押し付け、髪一杯にこもった熱気と香りを吸い込んでいるようだった。
 人が変わったように熱烈に愛撫を求め、施してくるアスカに、シンジは驚いていた。女の子でもこんなにしたくなるんだ。やっぱり女の子でも気持ちいいんだ。オナニーをしたことはあったが、それよりも何倍も気持ちのいい、少女の体との交わり。その相手が美少女のアスカなのだから、シンジの興奮は高まる一方だった。
 激しくなる一方の愛撫を続けながらも、シンジはより激しい快感を求めて、アスカに体を押し付けていた。太ももに触れる彼女の股間が、他のどこよりも雄弁に、彼女の興奮を語ってくる。アスカと一つになりたい、アスカのあそこに僕のペニスを入れたい、その思いが、シンジを次の行為に導いた。
 空いていた左手をアスカの太ももに回す。アスカの汗でしっとり湿ったパジャマの下の豊かな太ももの肉が手のひらに触れる。気持ちいいとか心地よいとかを越えて、ほとんど食欲に近い根源的な欲望を湧き起こさせる柔らかさだ。手を尻の方に回すと、アスカがギュッと首筋に顔を押し付けて来た。恥じらいではなく、もっと、と求めているのだ。シンジにはそれが分かった。手のひらをアスカの尻の丸みに当てると、指先がその谷間の底に届いた。ビクッ、と少女の体が震え、その口から初めての声が漏れる。
「や……だ……そこ……恥ずかし……」
 アスカの声じゃない、シンジがそう思ったほど、低く震える声だった。恥じらいながらも誘ってくる、淫らな雌の声だ。背筋をぞくぞくと寒気が走る。
 尻をつかむようにキュッと手のひらを丸め、指先を最も恥ずかしい場所――肛門に食い込ませると、「んぅっ……」とアスカが悲鳴のような声を漏らした。
 谷間は汗でぐっしょりと湿っている。シンジは、アスカの声がもう一度聞きたくて、そこを人差し指でくりくりとつついた。「ふぁっ、シンっ……ジっ!」とアスカが歪んだ悲鳴を上げる。だが、制止しない。
 アスカの右手が、シンジの背中に回って来た。シンジがアスカの恥部をつつく都度、指先がこわばり、背中に爪が立てられる。
「いやぁ……そんっな……とこ……」
 薄目を開け、シンジはアスカの顔を見た。指の動きにあわせて、形のいい眉が引きつり、口が声のない悲鳴を絞り出すために、大きく開く。整った顔が歪む様に激しくそそられて、シンジは唇をアスカの唇の端に押し付けた。予期していた通り、アスカはそれに応えて来た。唇を押し付け、悲鳴交じりの吐息を送り込んでくる。
 アスカの媚態を十分楽しんでから、シンジは尻を引き寄せ、彼女の腰を自分の股間にこすりつけた。

 太ももが押し付けられていた股間に、ぐりっ、と堅いものが食い込んだ。そのとたん、アスカはこれだ、と思った。
 シンジが、常の彼からは考えられないような力で唇を押し付け、股間をこすりつけてくる。二枚の下着とパジャマが間にあったが、それでも、はっきりと分かった。シンジの、貫くための器官が、自分の暖かい穴を求めて、猛っている。
 アスカは、唇を引き離して、シンジの顔を正面から見つめた。真っ赤に血を上らせた顔が、切なそうにアスカを求めている。その行為の意味は知らなくても、仕方は分かった。ぐしょぐしょに湿って布の外までぬらつく液をあふれさせた自分のあそこを、シンジの股間にぴったりあわせてやる。
 それで、シンジには通じた。体をぴったり密着させたまま、シンジが腰をぐいぐいと動かして、自分のあそこに押し付けてくる。あそこの中心に熱いボタンがあって、それが押されるたびに、体が引きつるような快感が背筋を突っ走った。
 そこがよかった。アスカは右手をシンジの尻に当てて、シンジの動きを助けた。同時に乳房をシンジの胸に押し当てて、乳首をこすりつける。全身に焼けた点ができて、それがシンジに触られるたびに、真っ白な炎が弾けた。
「あっあっ、アスカ、アスカ!」
 シンジが押し出すように喉の奥から彼女の名を呼び、痛いほどの力で股間を押し付けて来た。その熱い強ばりをもっと奥に、体の中に欲しくて、アスカも股間を突きだし、シンジに押し付けた。
「シンジ、もっと! もっと強く!」
「アスカ、アスカあ!」
 泣くような叫びを上げて、シンジが、ギュッと股間を押し付けた。その瞬間、シンジの性器がびくびくっと震えた。
 それを感じたとたん、アスカのあそこの奥で何かがきゅうっと縮み、熱い液体があふれるようにほとばしった。
「シンジ、もっと! もっと強く!」
 アスカの足がぎゅうっと恐ろしい力で締め付けて来た。シンジも何かを叫んだ。
 その瞬間、ペニスの奥でどくっと何かが弾けた。
「うあっ、うあっ」
 どくどくっ、どくっ、どくっ。
 ペニスを精液が突っ走って、パンツの中にあふれ出した。一度ではなく、鼓動のように何回も激しく、勢いよく液体が走った。アスカが何か叫んで、背中に爪を立てながら股間を押しつてけてくる。
 びくびく射精を続けるペニスに、暖かい液体が染み込んで来た。絶頂の快感が一際増す。――アスカの小便だった。

「はあっ、はあっ、はあっ……」
 互いの体を抱き締めながら、二人はしばらく、激しく呼吸を続けていた。
「はあ……」
 シンジの回復の方が早かった。息を止めて、ぐっとつばを飲み込む。喉がからからに渇いていた。アスカの顔を見つめると、まだ目を閉じたまま、荒い息をしている。
 体中汗びっしょりだった。ブリーフの中に、放出してしまった精液がベッタリと残っている。その周りは、びしょびしょに濡れていた。
 背中や腕の汗が急速に冷えて行くが、太ももと腹は熱いままだ。まだ密着しているアスカの体温が、そこから伝わって来ているのだ。
「ふうっ」
 アスカが一息ついて、うっすら目を開けた。鼻の頭に滴が浮き、額には栗色の髪の毛が張り付いている。スカイブルーの瞳と、目があった。
「アスカ……」
「シンジ……あたし……」
 決まり悪げに、アスカが目をそらした。絡み合っていた太ももを、そっと外して体を放す。
「びしょびしょだよ……」
「あたし……だって……夢中で……」
 我に返ったアスカは、激しい羞恥にさいなまれていた。股間の湿りに気づいたのだ。あたし……おしっこ漏らしちゃったんだ。よりによってシンジの目の前で……。
 肌に張り付く下着が気持ち悪い。股間だけでなく、全身がぐっしょりと濡れていた。
「風邪引くよ。もう一回シャワー浴びたら?」
 シンジの言葉に、アスカは起き上がった。小走りに駆けてバスルームに飛び込む。
 パジャマを脱ぎ捨ててシャワーから熱い湯を浴びる。
「いやだ……信じらんない」
 軽い気持ちで始めたいたずらで想像以上の事になってしまった。
 シンジとあそこをこすりあわせて……抱き合って……キスまでして……そして、そして……
 空高く吸い上げられて行くような、開放的な快感の炸裂。想像を絶する甘美な絶頂が、猛烈な恥ずかしさとともに思い出される。
「あんなに気持ちいいなんて……」
 後悔の念は湧かなかった。悔やむには、気持ちよすぎる行為だった。

「空いたわよ」
 バスタオル姿のアスカが戻って来て、低く言い捨てた。シンジは立ち上がった。
「布団、裏返しにしといたから」
「いいから早く入ったら」
 背を向けたアスカが、隣の自室に入る。出て来ないかな、と思ったが、しばらくゴソゴソやってから、すぐに戻って来た。新しいパジャマに着替えている。
「なにしてんの? 早く行きなさいよ」
 睨みつけるようにシンジを見つめてくる。その目を見つめ返していたシンジは、不意にくすっと笑った。
「アスカ」
「何よ」
「アスカさ、とっても可愛かったよ」
「……なっ、何言ってんのよアンタ!」
 真っ赤になったアスカを置いて、くすくす笑いながら、シンジはバスルームに向かった。 

――了――

top page   stories   illusts   BBS