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ベッドサポート・カンパニー

 file2 新入社員調教コース

「あたま痛いですか?」
「うっ、ううん」
「おなか痛いですか?」
「うっ、うっ」
「脈は……激しいですね」
「うううっ」
「それじゃあ……イキたいですかあ?」
「いくっ、いくよっ! 看護婦さんッ!」
「どうぞお♪」
 騎乗位で激しく体を動かしていた白衣のなずなが、ぐいっと腰をひねった。
 途端に、歩の目の前で、愛液まみれの赤黒い怒張がびくんびくんと震えた。それをなずなのひだが根元までぬっぷりと飲みこむ。溶け合ったように密着していた二人の性器の接点から、やがて蜜のような青白い粘液がにじみ出してくる。
「うーわー……」
「出てる? 出てるよね歩ちゃん! 看護婦さんの中に僕の精子出てるよね!」
「はっはい、出てます! 確かに出ました!」
「うおー……最高……」
 客の患者は感極まったように震えている。
 ほ、と息を吐いて歩は体のほてりを逃がした。

「ただいまー、ああ疲れた」
 駅から五分の雑居ビルの一室を占める「ベッドサポート・カンパニー」に帰ってくると、なずなは来客用のソファにぐったりと寝そべった。
 事務デスクに両足をどかんと乗せて競馬新聞をにらんでいた攻造が、横目で見る。
「珍しいな、自称現代の楊貴妃のおまえが、精力使い果たすなんて」
「今日のは、看護婦役だったのよ。……なんだっけ、歩ちゃん」
 イルカ柄のノースリーブのワンピースを着た歩が、なずなの隣で答えた。
「『白衣の天使献身コース』です」
「相手、本物のケガ人だから、動いてもらうわけにはいかなくってさ。ずっと私が動きっぱなしだったの。……両足骨折してもセックスしたいなんて、業ねほんとに」
「でも、入院するとストレスたまるそうですから」
「その周りを、おさわり禁止の優しいおねえさんたちがうろついてくれるわけだからな。拷問だ。……で、なにか、歩も一緒に?」
「ボク、見てるだけでした」
 申しわけなさそうに歩はうつむく。
「一応白衣着たんだけど、なんか『バリューセットA、美少女の実況中継付き』とかで」
「あっそう。んじゃ、女役で押し通したわけか」
「いいんでしょうか、ボク、ほとんどなんにもしてないのにお給料もらって」
「いいよいいよ」
 手を振っておざなりに攻造がうなずく。
「客がいいって言ってんだし。なずなはチンポ独占できて満足だろうし」
「下品なのよあなたは!」
 かみつくようになずなが怒鳴る。攻造は柳に風と受け流す。
「口が悪いのと素行が悪いのと、どっちが下品なんでしょうかね……おっと来た! まくれまくれ!」
 ラジオのイヤホンを耳に詰めなおして、攻造は赤ペン片手に競馬新聞にかがみこむ。
 ふんと鼻を鳴らして、なずなはソファに仰向けになった。
 歩はソファの後ろに立ったまま、そんななずなを見つめている。彼女はすでにいつものセーラー服に着替えていた。カチューシャをかけたつややかな頭の下で腕を組み、リボンを押し上げる形のいい胸を誇らかに反らし、ルーズソックスのほっそりした両足を組み替えてソファのひじ掛けに乗せている。
 歩の位置からでは、青い血管が透けるほど白い太ももが根元近くまで見える。かなり大胆な格好なのだが、不思議に品を失わない。それがなずなの妙な才能だった。出は京都らしい。
 品がいいと言っても、刺激的なことに変わりはない。歩がほんの一歩横に動けば下着が見えるし、年頃の男の子だからもちろん見たいのだが、歩はぐっとこらえた。目を逸らし気味に声をかける。
「あの……なずなさん」
「なに?」
「ボク、ここに来てからほんとになんにもしてなくて、申しわけないです」
 ベッドサポート・カンパニー、あらゆる性欲に応える会社。妙ないきさつで歩がここに入社してから、一週間がたった。その間、意外にも歩は、一度も犯されなかった。
 普通の会社なら当然だろうが、ここは普通の会社ではない。現にこの一週間、歩はなずなが男に(女にも)抱かれるのを、十回以上見てしまった。そばにいた歩に客の指名がかかることもあったが、なずなと社長の倫子は、それを断った。ショーウインドーの非売品のように扱われているのである。楽は楽だが、ちょっと心苦しい。
 それに――なずなが楽しんでいるのを見せつけられると、覚えたばかりの遊びをしたくなるのである。
「なずなさんも攻造さんも頑張ってるのに……」 
「ああ、いいのよ気にしなくて」
 なずなはぱたぱた手を振った。
「別に手加減してあげてるんじゃないの。まだあなたの料金が決まってないだけだから」
「……あ、そうなんですか」
「それに、裏方だって大事な仕事よ。大体うちは出張ヘルスじゃないんだから。抱かれるのは本業のない時のシノギってやつで、本当はいろんなコースを立てて男女両方をあてはめるのが仕事なの」
「どんなコースがあるんですか?」
「そうね」
 なずなは指折り数え出した。
「まずサラリーマン向けに『忘年会無礼講コース』とか、『新人秘書調教コース』とか、『美人上司おしおきコース』とか、こないだの通勤快楽コースとかがあるわね。それに学校の先生向けには『放課後居残り生徒逆誘惑コース』とか、『体育更衣室ドア故障コース』とか、『家庭訪問親不在コース』とか、『保健室常連つまみ食いコース』とか。先生ってたまってるのよね。すごいのは『学校祭打ち上げ前後不覚コース』ってのが一回だけあったわね。酔っぱらいの男女四十人を密室に閉じ込めて」
「はあ……」
「いるのよけっこうやってくれる女の子が」
「……それだけですか?」
「若い人向けに『混浴露天風呂湯けむりコース』、お年寄りに『入浴介護コースさばの味噌煮付き』、マダムに『組織に追われた美貌の殺し屋との一夜コース』、警官には『万引き人妻留置場コース』、医者には『意識不明患者身元不祥コース』、マニアな人には『隣のお姉さん盗聴コース』、オタクな人には『六畳一間に妖精コース』、もちろんデブ専フケ専レズホモSMにも対応できるけど、ロリとショタコンだけはちょっとねえ。十歳以下の志願者って、さすがにほとんどいないみたい」
 果てしなく続く説明を聞いていた歩は、眉をひそめた。
「……そのいろんなコース、誰が考えたんですか」
「ほとんどあの馬鹿」
 即答してなずなは攻造を指差す。攻造はくそおと叫んでペンを放り投げている。
「……でも、その馬鹿なコースにけっこう客がつくのよねえ。あいつ、自分の欲望が深いだけに、ひと様の願望のツボがわかるらしいわ」
「…………はあ…………」
「わけわかんないって顔してるわね」
 なずなは体を起こすと、ふわりと歩の華奢な体を抱き寄せた。セーラーの下のブラジャーの縫い目をシャツ越しに感じて、歩は簡単に赤くなる。
「でも歩ちゃんだって、もう変態の仲間なのよ」
 間近に顔を寄せて、なずなはいたずらっぽく笑う。薄桃色の唇の間から甘い息が吹きかけられる。ほんの一時間前にこの娘の体の奥を見てしまったことを思い出して、歩は息を呑む。
「だって、攻造におっきいの入れられて、溶けちゃったんでしょ」
 そうだった。歩は攻造に、深く貫かれていっぱいに満たされる喜びを刷り込まれてしまった。今一番されたいのは、それだ。
 でも二番目は――歩はなずなの澄んだ美貌から目が離せない。なずなに精液を注ぎこんで絶頂に達していた今日の客が目に浮かぶ。子猫のように見上げるなずなの体は、どこもかしこも柔らかくてはじけそうだ。
 きっと、触ったりしたらすごく気持ちいいんだ。歩は妄想する。味だって甘いんだ。おちんちん入れたりしたら……想像もできない。
「……あ、歩ちゃん」
「はい?」
「エッチなこと考えたでしょ」
「そ、そんなこと!」
 頭のてっぺんから声を出して首を振った歩に、なずなは目を細めて微笑んだ。
「とぼけたってダメ。のど動いてたもの。ね、歩ちゃんももう変態なのよ」
「……知りませんっ!」
 歩は勢いよく顔を背ける。恥ずかしさで妄想もぶち壊しになった。
 大体、今まではそんなにいやらしいことを考えたことはなかったのだ。BSCに入ってから、そればっかり考えるようになってしまった。誰が悪いんだ! 答えは決まっている。
 攻造さんが悪い!
 攻造さんが、あんなことするから!
 つかつか攻造のそばに歩み寄ると、無言で歩は攻造をにらんだ。なんだなんだ、とわけがわからず攻造は身を引く。
 そんな二人をなずなが面白そうに見ていると、奥の仮眠室のドアが開いてスーツ姿の女が出てきた。社長の高見蔵倫子である。なずなを見て、あら帰ったの、と言う。
「ええ、延長もなかったから。社長こそ、いたの?」
「シエスタよ。あなたたち、今日はもう入ってないわ。帰っていいけど……あら?」
 歩の視線に押されている攻造を見て、倫子は片眉をはねあげた。
「攻造! あんた営業は!」
「うわっ! 起きた!」
 倫子は当年とって三十二歳、ワイドショーのネタになるような怪物とはわけが違う、真の意味での熟した美女だが、ただの美人に社長は勤まらない。いったん怒れば別人である。代紋背負ったヤクザの顔役がショバ代を巻き上げに乗り込んできたときは、一ダースのドスとヤッパに囲まれたまま一歩もひかずにもろ肌脱ぎ、あんたたちを産んだおかあさんと同じ体が刺せるかい! とタンカを切ったこともある。
 その気迫で叫んだのだから、攻造が飛びあがったのも無理はない。
「なにやってるのよ! とっとと行って来なさい!」
「はっ、はいっ!」
 背中を蹴飛ばされたような勢いで攻造は事務所を出ていく。なずながあきれたように言った。
「あれだけ落ち着いてたから、電話番してるんだと思ってた」
「電話ぐらい、寝ててもあたしが出るわよ」
 ほんとにあの怠け者は、とため息をついてから、倫子はふと周りを見まわした。
「……あら、歩ちゃんは?」 

 攻造は、胸板で女の乳房の頂点をくすぐりながら、キャミソールのすそに人差し指をひっかけた。
「やだ……だめだって、こんなとこで……」
「大丈夫、見えないよ」
「でもォ……誰か来たら……」
「来てもわからない。オレが保証するよ」
「でも……リサって声出ちゃうし」
「そうか?」
 言うが早いか、攻造は女の唇を奪った。得意の舌技で口内をくすぐってやると、たちまち女は体の力を抜いた。
 盛り場に繰り出してものの三十分。攻造は見事に獲物を仕留めた。髪にゆるくソバージュをかけてサンダルを履き、まんま下着のようなピンクのキャミソを着たギャル系の娘。三人組の中の一人だったが、明らかにその子だけが格上だった。取り巻きを連れたお姉気取りだと見当をつけて、ベタ誉めモードで口説くこと二十語。あっさり娘は承諾し、仲間とわかれて攻造にくっついてきたのだ。
 近くの公園の茂みの中に連れこむのは、赤子の手をひねるようなものだった。あまり簡単だったので聞いてみたところ、リサって金城武風に弱いの、という返事だった。
「ふうん……もっとぉ……」
 攻造の舌使いに挑むように、娘はぬるぬると口内をうごめかせる。舌を受け止めるばかりでなく、それをくぐるようにして自分の舌もつきこんでくる。交差した舌で味わいあう濃密なキスに、唾液があふれてあごに滴る。互いの肺を吸い尽くすような吐息の交換。
 ズボンの中で息子がむくむくと固くなるのを感じながら、攻造の意識は醒めていた。
 ――ったく、なずなじゃあるまいし、慎みってものがないのか最近の女は。自分から舌入れるなんて、はしたねえ。
 そう思いつつ、指先は的確に尻の丸みをなぞっている。
 攻造が片手で、ないも同然のキャミソールのすそをまくり上げ、へその下からレースのパンティのへりをさすり出すと、娘はいきなり攻造の手をつかんだ。「いいよ……触って……」と奥に導く。
 予想通りの濡れようだった。にじみ出した愛液がレースの編み目を埋めてぬるぬるにしている。攻造がそこに爪で円を描くと、娘はあさましく股を開いた。開いた陰唇が想像できるような露骨な求めかただった。
 そのままパンティの一番細いところをずらして会陰部に指を押しこんだ攻造は、さすがにげんなりした。――陰毛が濃いタイプだったのだ。下着全体をさすってみると、へその下から肛門の周りまでびっしりと縮れ毛の密生する、攻造の一番苦手なタイプだった。
 ――この分じゃ、ぴらぴらもオンドリ状態かもなあ。
 意欲がなえかけたが、顔だけ見ていればそこそこ美人といえる。第一、仕事なのだ。割り切って手っ取り早く済ませようとしたとき、娘が不意に動きを止めた。
「……どうした?」
「ううん……別に。それよりもっとさわってぇ。リサそこ弱いの」
「なんだよ、気になるだろ」
「誰か見てただけよ。どうでもいいから……」
 初めは気にしていたくせに、もう覗きのことはどうでもよくなったらしい。娘は潤んだ目で攻造を見つめながら、芝生の上に引き倒そうとした。
 攻造は何気なく娘が見ていたほうを見た。
 薄暗い公園の木々の向こうで、イルカ柄のワンピースがあわてたように茂みに隠れた。
「今のって……あいつ!」
 攻造は娘を突き飛ばした。目を丸くして娘が叫ぶ。
「ちょっとお、なんなの?」
「悪い、待っててくれ!」
 返事も聞かずに走り出し、あっという間に茂みにたどりつく。
 あわてて逃げようとしていたイルカ柄のワンピースを、攻造は思いきり引き戻した。歩がころんと倒れこんでくる。
「何やってんだてめーは!」
「ごめんなさいすみません許して!」
 ぶたれた子犬のように体を縮めて歩が叫ぶ。そのあまりの怯えように、攻造も声のトーンを落とした。
「……なにやってたんだよ」
「攻造さん追いかけてたら……女の人と一緒に歩き出して……あんなこと始めちゃって……声、かけられなくて……」
「だからなんでそんなことするんだよ!」
 ひっと歩が腕を上げて頭をかばう。ぶるぶる震える歩を見て、攻造は首をかしげた。
「なんだよ……オレが殴ったことあったか?」
「な、ないです」
「じゃ、そんなに怖がるなよ」
「ごめんなさい、癖なんです。ボク、よくいじめられたから……」
 腕の陰から攻造を見上げて、歩は聞いた。
「今の人、攻造さんの恋人なんですか?」
「なわきゃねーだろ。そこで拾ってきただけだよ」
「拾ってって……そんな人といきなりしちゃうの?」
 歩は泣きそうな顔で言った。
「攻造さん、ボクにしたのとおんなじこと、いつもよそでやってるんですか?」
「……あのなあ」
 攻造はため息をつくと、革ジャンのポケットから手帳をひっぱり出した。
「見ろよ」
「え……」
 おずおずと歩が手帳を開く。攻造は言った。
「ただのナンパじゃねえんだよ、営業、え・い・ぎょ・う。一発ヤりながら好みを聞き出して、うちのコースに当てはまるかどうか調べるんだ。仕事だぞ」
「仕事……なんですか」
「邪魔してくれやがってこいつは……」
「す、すみません!」
 歩はぺこんと頭を下げた。
「いいです、行ってしてきてください!」
「……もういいよ。どうせ怒って帰っちまってる」
「ほんとにすみません!」
「いいって。あまり上玉じゃなかったしな。自分のことリサなんていいやがる女だったし、オレのこと金城武とか言いやがったし。むしろ竹野内豊と言え」
 やれやれ、と頭をかいてから、攻造はおもむろに歩き出そうとした。
「んじゃな。次行ってくるわ」
「あ……待って!」
「なんだよ!」
 ひしと腕をつかむ歩に、攻造は脱力気味の苦笑を向ける。歩は目をいっぱいに見開いて、ふるふると首を振る。
「やっぱりやだ……攻造さん、ボクにはしてくれないのにほかの子にはするなんて、やっぱりいやです〜」
「おまえなあ」
 困り果てた顔で、攻造は歩を見下ろした。
「男相手じゃ、おれだって立つもん立たねえんだよ」
「だからがんばって女の子の格好してます! それに、あの時はちゃんと硬いのでしてくれたじゃないですか!」
 ふるるる、と肩を震わせる歩の姿に、攻造は黙りこむ。
 そうなのだ。並みの十六の少年だったら、張り倒して蹴飛ばしている。しかし歩は、こうしてワンピースなんか着ている限り、どこからどう見ても十四、五の少女にしか見えない。髪型はショートボブ、顔立ちはおっとり気弱な感じ。黒目が大きくまつげも長い。声変わりもしていないし、肌も鏡のように滑らか。そして、攻造の好きな「うしろ」の具合は……
「いかんいかん!」
 激しく首を振ると、攻造は歩を怒鳴りつける。
「おまえもおまえだ! 男のくせにオレに惚れるなんてどっか歪んじまってるんだ。そんな性格は治さにゃあ」
「いやーっ、このまんまでいいです! 攻造さんが好き! またあれしてほしいの!」
「大声でそんなこと言うな!」
 公園に来ていた男女が何事かと視線を向ける。二十代の男と十代の可憐な少女。いろんな想像をされただろう。
「だからだな、それがそもそもの間違いだったんだ。初めてがあんなのだったからそれが焼きついちまったわけで……よし来い!」
「え、どこ行くんですか?」
「ショックにはショックで対抗だ!」
 歩の腕を引っつかんで、攻造はずんずん歩き出した。

 事務所に入ってきた攻造に、倫子となずなが振り向いた。
「ノルマ終わったの?」
「それどころじゃないんだよ。お、まだいたな、なずな」
「帰ってこないでよ、今から社長とお寿司のはずだったのに」
「寿司ならオレがおごる。だからちょっと付き合え」
「え?」
 右手に歩をつかんだまま、攻造は左手でなずなを捕まえた。そのままずかずか仮眠室に向かって、ドアを蹴り開ける。
「社長」
「なに?」
「新入社員の研修だ。一時間部屋貸してくれ」
 それだけ言うと、攻造は中に入ってドアを閉めた。

 BSCの仮眠室は仮眠室とは名ばかりで、ダブルベッドとユニットバスを備えた立派な寝室である。理由は簡単で、そこを使うのが倫子だから、倫子が趣味でそうしたのだ。
 どさりとベッドに投げ出されて、なずなが抗議した。
「何するのよ! 乱暴する気?」
 言うはしから、その上に歩が押しつけられる。攻造はドレッサーから椅子を持ってきて、ベッドの足元に座る。
「なずな。――歩を食ってくれ」
「え?」「え?」
 ベッドの二人の声が重なった。攻造は深刻な面持ちで語る。
「そいつ、なんか勘違いしてんだ。男なんだから、男より女とやるほうがいいに決まってるじゃねえか。その辺をしっかりとっぷり教えこんでくれ」
「そんな!」「いいの?」
 今度は、二人の声は重ならなかった。歩がぎょっとしたようになずなを見つめる。
「なずなさん?」
「いいなら、つまんじゃうわよ」
 なずながそう言って、ゆっくり歩に振りかえった。
「歩ちゃん、すごくおいしそうだもの。あなたのものだと思ってたから手を出さなかったけど、ほんとに食べちゃうわよ?」
「いいからやれよ」
「攻造さん!」
「歩ちゃん」
 耳にふっと吐息が触れた。ひっと歩は硬直する。
「私のこと、きらい?」
「え……そんな……」
「きらい?」
「……きらいじゃないです」
「ぶさいく?」
「……ぶさいくじゃないです。かわいいです」
「かわいい? でもしたくないのよね?」
「え……」
「私より攻造がいいのよね? 私が触るのも、私に触られるのも、いやなのよね?」
「……いやじゃ……」
「いやなんでしょ」
「いやじゃ、ないです」
「触りたくないんでしょ」
「……触り、たいです」
「お義理で言ってるでしょ。攻造が好きなんだから」
「お義理なんて……ほんとに、触りたいです」
「どこに触りたいの?」
「……」
「足? 胸? お尻?」
「……」
「言えない? じゃあ」
 間断なく歩の耳にささやき続けていたなずなは、最後のひとことを口にした。
「手で教えて。口で言えないのなら……」
 歩は、催眠術にかかったように手を伸ばして、なずなの膝に触れた。それから、おずおずとそこをさすり始めた。なずなのささやきは続く。
「いいのよ、触って。もっと触って。……私、歩ちゃん好きだから」
 正座を崩した女の子座りで、足元にひざまづいている歩を見下ろしながら、なずなはちらりと攻造に視線を送った。
 ――怖え女だ。NOと言えない質問を連発して誘導を重ねたあげくに、あっさり自分から手を出すよう仕向けちまった。強制と許しを繰り返してるのも、歩が臆病なのを見抜いたからだな。
 無言で見守る攻造の前で、なずなは誘い続ける。
「ね、さらさらでしょ、女の子の肌。どんな感じ?」
「……素敵です。あったかくって、柔らかくて……」
「もっと触りたい?」
「うん」
「いいのよ、両手でも。そこにキスしても。……キスしたくない?」
「したいです」
「さあ……」
 敬虔な信徒のように歩が唇をつける。乾いた唇を、なずなの太ももの上で前後させる。なずなはさらに許す。
「それでいいの?」
「え……」
「舌、出したいでしょ。いいの、味わって。舌を出して、よだれをいっぱい押し付けて味わって。……それとも、私の足じゃ汚い?」
「汚くなんか」
「じゃあ、なめて……」
 ぺたり、と歩が舌を押し付けた。それからちゅうちゅう音を立てて吸い始める。なずなは気づかれないほどゆっくりとした動きで、太ももを広げ、スカートをつまみあげていく。歩は目を閉じて夢中になっている。徐々に太ももの上から内側に回り、愛しげに頬を押し当てた。
「ね、中のほうが柔らかいでしょ」
「はい……ふにょふにょで気持ちいいです」
 うっとりと歩はつぶやいた。すでになずなは、両足を九十度以上左右に広げて白い下着をあらわにし、後ろに手をついて体をさらしている。それに合わせて歩もなずなの股に潜りこむような姿勢になっているのだが、あまりに滑らかな誘導のせいで、自分のあさましいポーズに歩は気づかない。
 熱心になずなの内ももを味わっていた歩は、やがて下着に鼻を押し当てるところにまで到達してしまった。そこで困ったように顔を上げる。なずなが優しく聞いた。
「どうしたいの?」
「……わかんないです。でも、もっといろんなところにキスしたい……」
「言ったでしょ」
 なずなは、深い温かみを帯びた声で言った。
「触っていいって。……どんなところでもいいから。何をしてもいいから」
「どんなところでも……?」
「ええ。私は、あなたのお人形だと思って」
「……なずなさんっ!」
 我慢できなくなったように、歩が体を投げ出してきた。きゃあ、と嬉しい悲鳴を上げてなずなはそれを受け止めた。

 ――さわれるなんて、好きなようにできるなんて、なめてもいいなんて。
 くらくらする頭で、歩はなずなの言葉を反芻した。そんな風に何もかも許されたことは今までなかった。一週間ずっと見てきたなずなの美しい肢体が頭に浮かぶ。どこから触ったらいいのか見当もつかない。
 なずなさんの太もも、なずなさんのおっぱい、なずなさんの綺麗なあご、なずなさんのからだ。
 なずなの体に密着したまま、歩はあちこちやみくもに手を伸ばし、くちづけした。触りたい部分が多すぎて追いつかない。頭がいっぱいになって、歩は顔をなずなの首に埋め、体全体でぎゅうっとなずなを抱きしめた。

 ――か、かわいー!
 なずなは華奢な歩の性急な愛撫と、それに続く精一杯の抱擁を受けて、感動しきっていた。攻造が唖然としているのが見える。おとなしい歩がこんなにはじけてしまうとは思っていなかったのだろう。でも当然だ。この子は攻造に強烈な初体験をされたあと、一度も人肌に触れられずに一週間ほっておかれたんだから。
 犬のように息を荒くして、歩はがさがさと体をこすり付けている。なずなはそれがかわいくて仕方ない。
 ――したかったのね、してほしかったのね。
 ――いいわ、思いきりさせてあげる。だから……
「あわてないで」
 そうささやいて、なずなは微妙に位置を変えた。骨が当たらないように、柔らかいところで受け止められるように。歩の骨格がなずなの肉の中に沈みこんでくる。
「首にキスして。おっぱいでもいいわよ。しばらくそこで我慢して。一ヶ所にしたほうが、集中できると思うから……」
 歩は一瞬たりとも離れたくないというように、ちゅうちゅうとなずなの鎖骨を吸いつづけている。無心なその様子に押しのけるのが忍びず、なずなは手早くリボンを解いてセーラーの前を開けた。ブラがフロントホックでないのは仕方ない。ぐいと下へずらして、乳房を突き出した。歩が唾液の跡を肌に残して、そこに吸いつく。
「なずなさん、ここすごい……柔らかくて、かたくて、まあるくて……すてき、すてき」
 自制心が消滅してしまったように歩は乳房をもみしだいている。その行為は幼げな歩がしていると、むさぼっているというより甘えているように見えるのだった。なずなもこんなペッティングは初めてだった。奪われているという気がしない。与えている、という深い満足感が心を満たす。
「でも、ここはちゃんと男の子なんだから……」
 そう言ってなずなは手を伸ばした。歩のワンピースの股間を盛り上げる、小さな突起。
 歩はそこをなずなの太ももに押しつけているだけだった。触りたさが先に立って、まだそこの快感が挿入欲にまでならないようだった。この子童貞だ、となずなは今さら思い出す。
 ――童貞のこんな可愛い子に女の子を教えてあげられるなんて……一生忘れられないほど気持ちよくさせてあげなくちゃ。
 ワンピースをめくってショーツの上から、丁寧に丁寧に、なずなは手のひらで歩の小さなペニスをくるみこんだ。触れた途端、歩が乳首に歯を立てる。
「いたっ!」
「ご、ごめんなさ……」
「いいの、わかってる。気持ちよかったんでしょ? ここ触られるの、初めてなのよね」
「……はい」
「任せて。吸ってていいわよ。でも歯は気を付けてね」
 なずなは注意しながら愛撫し始める。中指の先ぐらいの亀頭、太さ二センチもなさそうな幹。ビー玉のような二つの袋。皮はむけているが、何もかもかわいらしい。ショーツの上からじかに手を差し込んだ。とくとく震える幹が手のひらに触れる。ぬるりとした感触。もう汁が出始めている。
 ――なにこれ……攻造さんの時と違う……こっちもすてき……
 初めての刺激に、歩の頭の中が白くなる。ペニスを中心に股の周りがごっそり抜け落ちてしまったようにしびれている。つつかれる先端に火花が散る。
「あっ! あっ! あっ!」
 歩は乳房から口を離して頭をなずなの胸に乗せ、痙攣するようにうめき出した。なずなは少しあわてる。このままではすぐに射精してしまいそうだ。
 ――もったいない、一番最初の一回はぜひ受け止めなくちゃ!
「歩ちゃん、ごめん!」
 なずなは歩の上体を押しのけて、すばやく体勢を入れ替えた。尻だけ浮かせている歩の腹の下に潜りこみ、ショーツを下げざま唇にペニスを迎え入れる。
「あーっ!」
 同時だった。歩が悲鳴のような声を上げて、射精した。
 ――タマシイが全部出ちゃう!
 一瞬、脳裏をよぎったそんな考えとともに、歩はたまりにたまったもやもやを一気に吐き出した。
 ――おしっこみたい、でもおしっこの何百倍も気持ちいい。
「んっ……」
 ぴくんぴくんと震えながら、歩の器官が熱い塊をなずなの口の中に放出した。
 ――歩ちゃんの蜜だ。混じりけのない蜜。
 なずなはそれを口の中に溜めていく。ねばつきが歯に引っかかるのさえ愛しい。最後の一滴を吸い取ると、それを頬の中でかき混ぜながら、なずなは口を離した。体を回して、ぐったりとなった歩に顔を寄せる。
「歩ちゃん……ありがとう、すごくおいしい……」
「え……?」
「味わってよ。一緒に……」
 そう言うと、なずなは歩に口付けした。一瞬目を見開いた歩の口の中に、有無を言わせず溜めていた精液を流しこむ。
「ん……む……」
 ――変な味……甘い、苦い、しょっぱい、あったかい……
 ――でも、なずなさんがおいしいって言ってくれた味……
 二人の口の中で精液が唾液と混ざる。それを二本の舌がかき混ぜる。二つの喉が同時に鳴り、粘液を飲み干してもなお、とめどなく唾液を交換して、いつ終わるともなく絡み合いつづけた。

 ――でろでろだ。
 攻造は、汗と粘液にまみれて乱れ果てた二人を、必死に自制しながら見守る。
 ――歩め、ここまで乱れるようなやつだったのか……
 ――なずながここまで本気なのも初めて見るな……
 なぜか、ちくりと胸が痛む。

 並んで横たわりながら、なずなは聞く。
「歩ちゃん、オナニーしたことある? 正直に答えて」
「……ないです。でも、こないだ攻造さんにされたとき、パンツの中に出しちゃったから……」
「ひどい、精通も攻造に取られちゃったのね。……見てなさいよ攻造、これから先、歩ちゃんのザーメンは全部私のだから……」
 言いながら、なずなは歩のペニスを見つめる。
「やっぱり、十六歳ってすごい……全然なえない」
 歩のペニスはそりかえり、へその下にぴったりくっついている。大きさはともかく、硬さは鉄のようだった。なずなの心に強烈な欲望が湧いてくる。これを体内に迎え入れたい。
 なずなはそれを必死に押さえた。急いだらいけない。じらせばじらすほど絶頂の快感は大きい。それは自分の場合でも同じだ。
 なずなは体を起こし、儀式のようにつつましげにパンティを脱いだ。それから、両足を広げて、歩にさらした。
「さあ……よく見て。初めてでしょ?」
「見たことありますけど……」
「でも、今はこれが、あなたの穴なのよ」
 あなたの、と言う言葉を聞いて歩がまた息を飲む。正直な反応がなずなは嬉しい。
「触りっこしましょ……」
 なずなは横たわり、シックスナインで歩の体を受け止めた。少しも柔らかくなる兆しを見せないペニスを、暴発させないようにちろちろとくすぐっていく。
 ――なずなさんのあそこ、ボクのあそこ。
 極度の興奮とともに歩は顔を寄せる。
 そこは、なずなの体の他の部分と同じく、完璧なまでに美しかった。平らにへこんだ腹筋の下に、ふけば飛ぶようなわずかな細いにこげが群れている。その下で左右に盛りあがるぽってりとしたふくらみの間に、ぬめりを帯びて輝く真っ赤なルビーがあった。
 小豆ほどのルビーを取り囲んだやや薄い紅のひだは、そのまま真下の切れ目の中へと消えている。後は一筋の白い谷だ。わずかに透明な液がにじみだしているほかは、毛一本、ほくろ一つない。作り物のように綺麗な陰部だった。
「見てないで、触ってくれる?」
 ちゅっ、と亀頭が吸われた。ぴくんと震えてから、歩はおそるおそる指を伸ばし、谷間を広げてみた。
 とろりと液があふれ出してきた。それは止まらず、後から後から流れ出してシーツにしみを作った。それが流れ出してくるのは、小さなひだに挟まれた細長い空洞だった。なずなの肌の雪のような白が、そこではひだの奥に行くにつれ、鮮やかなグラデーションで明るい桃色に変化していた。
「きれい……」
 歩が嘆息する。
「ボクのより、ずっと……」
 それから、唇を押し付けた。にじみだす愛液を受け止める。ひだを唇で押しつぶす。膣の中にまで舌を入れる。
 ――ここに、ボクのが、
 はやる心が動きを荒くした。なずなの太ももを抱えこんで両頬に押し付け、鼻まで陰唇に埋めて歩はそこをかき回す。その刺激に駆りたてられたのか、なずなの唇にも手加減がなくなった。夢中で吸いたてるなずなの口の中に、歩は思わず本能的に、腰をつきこんでしまう。耐える間もなく臨界が来て、歩は垂直に付き下ろしたペニスから、なずなののどに精液を放った。
「あ、の、飲んでっ、なずなさん!」
「んーっ!」
 苦しさに耐えてなずながうなずく。
 その射精が終わると、なずなはもう我慢できなくなった。ペニスをしごきたて、それに新しい力が戻ってきたのを感じると、あわただしく姿勢を入れかえる。横たわって大きく足を開いたなずなの前に、歩が膝をついた。震える手でワンピースのすそを巻き上げて、縛ろうとする。
「脱いじゃえばいいのに?」
「だめ……それまで待てないです」
 言うが早いか、歩はペニスを押し下げて、亀頭をぬかるみの中に押し付けた。手慣れたなずなが腰を上げて角度を合わせる。
「来て」
 ずぷんっ! と愛液がはじけた。加減も遠慮もない性急な一撃だった。それ一回でなずなは軽い絶頂に達し、「あうっ!」と唇をかみ締めた。だが、次の突き入れがなかなか来ない。
「……どうしたの?」
「……なずなさぁん……」
 息を止めてぶるぶる震えながら、歩がうめくように言った。
「だめぇ……これ、気持ちよすぎですぅ……ぬるぬるできゅうって締まってて……ちょっとでも動かしたら、ボク……」
「いいわよ、出しちゃっても」
 なずなはそっと手を差し伸べる。
「いいじゃない、初めてなんだから。出したいだけ出せばいいわよ。私も、はやくおなかに歩ちゃんのザーメンほしい」
「……なずなさん……」
「それでもう一回しましょ。何度でも、出なくなるまで」
「……うん」
 うなずいて、歩はそろそろと腰を引こうとした。そこで唇をかんで動きを止める。
「……だ、だめ。ゆっくりやっても出ちゃう。なずなさん、すぐ出すよ、いい?」
「いいわよ!」
 なずなが答えた途端、歩はなにかに追われるように勢いよく腰を前後に動かした。すぐさまなずなが角度を変えてなめらかなピストンを保つ。
 ほんの五秒ほどで、歩は叫んだ。
「多いよっ!」
 何度目かの光の筋が先端から出ていく。ぴゅるっ、ぴゅるっ、と自分のペニスから音が聞こえてきそうだ。出しながらも止められない。精液を膣の中でこね混ぜるように、歩は止まらずピストンを続ける。
「歩、ちゃあん! まだ……できる?」
「ごめん、なずなさん、ごめん! 止まらない、止まらないの!」
 がくがく腰を揺さぶりながら、歩は泣き喚くように謝る。
「すごくいいの! 出してるときも、動いてるときも! なずなさんの中って、守ってくれるみたい! ボク、なんだかすごく安心しちゃうの!」
「いいよ! 終わるまで出して! いくらでも出して!」
「な、なずなさんっ!」
 がくん・がくん・がくん、とひときわ強く突いて歩はのけぞる。下腹がひくひく震えている。また射精しているのだ。それが済むと、もう正気を失ってぐったりとなっているなずなにのしかかり、頬と頬を押しつけながら、歩はうつろな幸福に満ちた顔で、いつ果てるともないピストン運動を繰り返した。

 攻造には、八回に思えた。
 なずなの体内での射精が正しくカウントできているとしてだが。
「なずなを失神させちまうとはなあ……来るべくしてうちに来たって言うことか」
 見かけよりはるかに持続力のある歩だった。ベッドのそばに立って、攻造は見下ろした。赤く充血したなずなのひだに、歩は弱々しく垂れた幹を押し当てて動きを止めている。ついさっきまで中にくわえこまれていたのだが、さすがに力を失って押し出されたのだ。
 なずなの膣口からは、断続的に歩の精液が流れ出していた。ピルを飲んでいるらしいから受精はしないだろう。
 ――にしても、なんつー格好だ。
 顔の下半分を押さえて、攻造は目を逸らした。見れば見るほどそそられる。もうずっと攻造の息子は怒りっぱなしだった。
「……攻造、したいんじゃない?」
 はっと気づくと、なずなが細く目を開けて妖艶に薄笑いしていた。
「私、今日は、お尻まだバージンよ。……どう?」
「ば、ばかいえ。おまえとヤったりしたら、後々どんな見返りを要求されるかわかったもんじゃねえ」
「でも、ズボン破れそう」
 攻造はあわてて前を押さえた。
 歩が顔を動かした。ぽやんとした表情の彼に、なずなが聞いた。
「歩ちゃん、どうだった? 私と攻造、どっちがいい?」
「……なずなさん、最高だったです。でも……」
 ちらっと攻造のズボンを見て、歩は首を振った。
「どっちがいいかなんて、言えません。できれば、二人一緒にされたいです。……あの、欲張りですか?」
 なずなと攻造は額を押さえている。
「一足す一で二になっただけじゃねえか……」
「それだけ感受性が柔らかいのよ。この子、すごくキャパシティーが大きいんだわ」
「のんきに分析してる場合かい。まったく、どうすりゃいいんだ……」
「あの、やっぱり攻造さんはしてくれないんですか?」
 必死の上目遣いで見上げる歩に、攻造は吐き捨てた。
「しねーったら。男とわかっててやれるか」
「……でも、この格好だったら女の子に見えますよね?」
 ささっとワンピースのすそを直して、横座りで歩は聞いた。
「じゃあ……これで、慣れてくれませんか?」
 立っている攻造のズボンに、そっと歩は顔を寄せた。あわて気味に攻造が言う。
「なんだ……口でしようってのか? おまえ、自分が女のつもりはないんだろ? 男のチンポ口にできるか?」
「さっき自分ので、液の味は我慢できそうだってわかったから……」
 歩は攻造のファスナーを下げる。それを見下ろしながら、なぜか攻造は止められない。
 ――やれるものならやってみろ。人にされるのと自分でするのとはわけが違う。
 そんなことを考えて、攻造は別の思いを押し殺していた。
 期待。
 歩は攻造のものをつまみ出す。ぶるんと現われた太いそれが男くさい汗の匂いを放つ。思わず顔を引いた。震えながら口を開けるが、強力な力が歩を押しとどめる。一週間前までの常識。
 ――こんなの無理だ。男の人のをしゃぶるなんて、そんな汚いこと。
 歩は強く首を振ると、いきなり、ぱん! と自分の頬を叩いた。
 ――なずなさんだってボクのをしゃぶってくれたもの。女の子にできてボクにできないはずない。してあげれば、あんなに気持ちいいんだから、攻造さんだってきっと好きになってくれる。
 歩はぐっと力をこめて体の震えを押さえこみ、思いきって口の中に攻造のペニスを迎えた。
「……歩ちゃん、すごおい」
 なずなが愉快そうに感心する。歩は目を閉じて懸命に攻造のものをしゃぶりたてている。自分がなずなにされたことを思い出しながら、できる限りそれをまねてみる。吸い、揉みまわし、なぞり、はじく。
 稚拙でへたくそなフェラチオだったが、精一杯の愛情を込めていることはありありとわかった。なずなが追い詰めるような目で攻造を見上げる。
「さあ、どうするの? 普通の男の子は調教もされずにこんなことしない。歩ちゃん、二百パーセント本気よ」
 攻造は返事もできない。耐えているのだ。この一週間で、歩が本当にウブでなにも知らない子供だということがわかった。おくてでモラリストで、なずなにからかわれるたびに赤くなったり怒ったりしている。
 その歩が、自分たちに対してだけは恥も良識もかなぐり捨てて求めてくるのだ。しかも姿も変わっている。せいぜい中性的程度だった一週間前に比べて、なずなと倫子から化粧の手ほどきを受けた今は、どこへ出しても美少女で通る。
 鼻の筋もまだ通りきっていないような童顔の少女が、息が詰まるのも我慢して、懸命に自分の卑しいものをこねまわしている。これで興奮しないわけがない。
「お願い……攻造さん。いって。出して」
 酸欠で赤くなった頬に涙を垂らしながら、息継ぎの合間に歩が哀願する。
「精子出してください。それで、ボクでも感じられるって認めて……」
 背中が寒くなるほどマゾヒスティックな歩の言葉に、攻造はついに敗北した。
「う……むっ」
 ドプッと歩の口内に精液があふれ出した。反射的に歩の背筋に悪寒が走る。感情で押し殺しても消しきれない本能的な嫌悪。とっさになずなが歩の顔をひきはがして、強引にくちづけた。苦しそうな歩の口内に舌をさしこんで、精液を吸いとってやる。
 処置が終わって唇が離れると、なずなは歩の頭をなでながらささやいた。
「よく我慢したわね。頑張っても限界だったんでしょ?」
「い……いいんです」
 はあはあ浅く呼吸しながら、歩は攻造を見上げた。
「ボク、嬉しいです。攻造さんのだったら……攻造さん、ちゃんといってくれた……」
「こーうーぞーう」
 なずながじろりと攻造を見上げた。
「まだ強情張るつもり?」
「ゆ……油断したんだ!」
 ファスナーを上げながら攻造はしどろもどろに言った。
「今のは……なずな、おまえだ! おまえの裸見てたから、それでいっただけだ!」
「あきれた、歩ちゃんの口を最後まで味わっといて、なにその言いぐさ! この鬼畜! 豚! いもむし!」
「うるせえ!」
 攻造は叫びざま出ていってしまった。

 歩は悲しげにそれを見ていたが、なずなが肩を引いた。
「大丈夫だって。あれだけ動揺してるってことは、ちゃんと脈があるわ」
「……そうなんですか?」
「ええ。でもね」
 なずなは悔しげな顔になった。
「ほんとなら、あんなやつ忘れて私の彼女になってほしいんだけどな」
「……嬉しいですけど……」
「はいはい。好き好きだからね」
 いきなり、隣の部屋からどんがらがっしゃんと凄まじい音が聞こえた。何事かと振り向いた二人の前で、ドアが開いて倫子が顔を出す。
「社長……まだいたの?」
「いたのじゃないわよ。お寿司待ってたんだから。攻造がおごるって言ってたじゃない」
「今の音はなに?」
「その攻造が約束ホゴにしてずらかろうとしたから、体罰のうえ罰金」
「それじゃ軍資金はあるのね。ちょうどいいわ、今まで機会もなかったし」
 なずなは、歩の首をぐいと引き寄せて、言ったのだった。
「ゆっくり語り合いましょ。教えてあげるわ、男を落とす手管ってものをね」


――続く――

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