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ベッドサポート・カンパニー

 file1 通勤快楽トレインコース

 十本の指がふっくらとした二つのふくらみに食いこんで、じわじわと動いている。
 歩は、鼻先三十センチで突然始まった愛撫に、呆然としていた。
 ち……痴漢だ。
 それも手加減なしだ。女の子の意思も人目もお構いなしの、超ド級の痴漢だ。
 通勤電車のシートに座っている歩の前に、高校生ぐらいのセーラー服姿の女の子が背を向けて立っていた。ちょうどお尻のふくらみが歩の目の前にあって、太ももにかかるかかからないかというぐらい短いスカートが、それを覆っていた。いつもの歩なら、こんな短いスカート履くなんてどういう神経してるんだろ、ぐらいは思うのだが、夜勤明けで疲れていて、なにも考えずにうとうとしていたのだ。
 なにかの気配に気づいて目を開けると、この有様だった。
 スカートがめくり上げられて、つるりとしたお尻がむきだしになっている。パンティーはコットンで白。そこに左右からごつい男の指が伸びて、パン生地でもこね回すように、無造作に肉を揉みしだいているのだ。
 歩はおそるおそる顔を上げた。女の子の肩越しに、痴漢の顔が見えた。スーツを着て、髪を丁寧になでつけた四十代の男で、どこにでもいそうなサラリーマンに見える。指先に神経を集中しているのか、うっとりと目を閉じていた。
 ちょっとぐらいは周りに気を使ってもよさそうなものなのに、全然警戒していないようだ。それが変といえば変だったが、観察を続けると目があってしまいそうだったので、歩はすぐに視線を下ろした。
 な……なんとかしなきゃ!
 そうは思ったものの、歩は気の強いほうではない。じかに痴漢を怒鳴りつけることなんかとてもできない。やったとしても、歩は年齢以上に童顔で、声も小さく高いので、笑い飛ばされそうな気がした。
 だれか……だれかに助けてもらえば……
 しかし、隣を見た歩は絶望的な気分になった。歩の席は運転席の後ろなので左にしか人がいない。そして、その左隣に座った二十歳過ぎぐらいの男は、にやにや笑いながら痴漢行為を見つめているのだ。止めもせず!
 歩ははっと気づいた。 
 そうか、この人たち――仲間なんだ! 男たち二人で女の子を取り囲んで、他人の視線をさえぎっているんだ。なんて卑怯な人たち!
 歩はなめられているんだろう。確かに、驚きのあまり声も出ない。運が悪かった、いくら混んでいるからって、そんな人たちに囲まれた席に座ってしまうとは……
 唇をかんで、歩はうつむく。

 始発のこの電車はいつもはがらがらなのに、今日は妙に混んでいる。そのせいで、サラリーマンが女の子に密着していても不自然ではない。
 目をそらそうにも、行為は目の前で行われている。でも、目をつぶったらアルバイトの疲れで眠ってしまいそうだった。こんなところで眠ったら……ぞっとして、歩は目を開けているしかない。
 いやでも、指の動きが目に入る。
 ねっとりとした動きだった。つるんと張った柔らかい尻の肉を、指の股からしぼりだすようにして揉みほぐしている。てらてらと湿り始めているようだ。男の手の汗? ――いや、女の子の肌がうす紅に染まってきた。二人の汗が混ざっている。
 そのうちに指はパンティーのふちをつまんで、背中のほうにきゅっと引っ張った。パンティーは縦に細長く変形して、またの部分が吊り上げられる。すると、今まで布地でふさがっていたももの付け根の逆三角形の隙間が開いて、一番大事なところの造りがはっきりと布地の上に浮き上がった。
 歩は、ごくりとつばを飲んでそこを見つめる。
 サラリーマンはさらに大胆な行為を始めた。尻を回りこんだ両手を、パンティーに沿って股の間に滑りこませたのだ。両の太ももを抱えこむようにして、内股からあそこまで執拗に触れる。汗を塗りこめていくような容赦のない触れかただった。
 歩の鼻を生ぬるい匂いがくすぐった。初めてかぐ匂いだったが、直感的にわかった。この女の子のあそこの匂いだ。歩は頬に血を上らせた。息が苦しい。心臓がどきどき言っている。
 この子……感じさせられてる。かわいそうに。こんな状態じゃ、声も出せないに違いない。
 いつしか、歩も自分の性器に熱を感じていた。興奮するなというほうが無理な光景だった。そっと足を組み替えて、キュロットの中の自分のあそこに、グーにした拳を押し付けた。
 かすかな音が聞こえ始めた。くしゅくしゅ、くちゃりという湿った音。男の指に光るもの。それがすっと引きぬかれると、はっきりわかった。女の子のあそこを包んでいる布地に、薄い黄色のしみが浮き出ていた。隠しようのない証しだった。
 突然、サラリーマンが女の子の肩をつかみ、こちらを向かせた。
 歩ははっと息を飲んだ。女の子に盗み見を気づかれた、と思ったのだ。
 しかし、歩は女の子の表情を見て、愕然とした。
 笑っていた。明るい笑いや微笑みではない。快感にとろけた薄目の表情だったが、確かに笑いだった。この子は……嫌がっていない。
「な……なんで?」
 思わず声が出た。すると女の子は、初めから歩に気づいていたように、ウインクした。
「あなたも始めたら?」
「は……始めたらって……」
「相手はたくさんいるわよ。だから――くうん!」
 甲高い嬌声を女の子は上げた。視線を下ろした歩は体を堅くした。
 スカートの下まで白いパンティが下げられている。まくりあげられたスカートの下の陰りの中に、赤黒いグロテスクなものが見えた。サラリーマンの……おちんちん、それが、女の子の、あそこに、入って、
「ああっ!」
 じゅぷっ、といやに大きな音と共に、バックから突き込まれた女の子のあそこから粘液があふれ、歩のむきだしの膝にしたたった。

「あ……そんな……」
 嫌がらないなんて……誘ってくるなんて……いやそれより、こんなところでエッチを始めちゃうなんて……。
 パニックになっている歩の前で、二人は生々しい交わりを続けている。線の細い、京人形のような上品な顔立ちをした女の子が、口のはしにあられもなくよだれを浮かべて、自分から尻を男に打ち付けている。がくがく体をゆする二人に圧倒されていると、不意に隣から声がかかった。
「ノリノリだな、なずな」
 歩の右に座っていた若い男だった。やや雑なロン毛とあごの周りの不精ひげが粗野な感じだったが、声は意外に澄んでいて、目も鋭い。
 なずなと呼ばれたセーラー服の女の子が、うっすらと目を見開いて答えた。
「どうせなら楽しまなくっちゃ……その方が喜んでもらえるしね。あん……」
 サラリーマンがなずなのセーラー服をたくし上げ、ブラジャーごと乳房を握り締めた。腰のあたりは折れそうに細いのに、豊かに張った胸だった。それが、ブラの上からぽろんとこぼれ出る。桜の花びらのようなピンクの乳首が、歩の額の前でふるふると揺れた。サラリーマンの指先が、くるくるとそれを追いまわす。
「そう、乳首いいの。……攻造もどう? あなたうしろ好きでしょ?」
「役得だって? おまえとヤりたくはねえなあ。おれはどっちかって言うと、こういうウブそうな子のほうが……」
 ぐいっと肩を抱かれて、歩は振り向いた。とたんに、唇がふさがれた。
「――んんーっ?」
 びっくりして呼吸も忘れた。攻造と呼ばれた男が、歩の唇を奪っていた。力強い舌が入ってきて、歩の舌をもてあそぶ。恐ろしく巧みだった。なずなの行為を見てもやもやしていた歩は、自分でもどうしようもなく感じさせられてしまった。
 上あごの内側をとろりとくすぐられる。「んっ!」と鼻を鳴らして、歩は体を堅くした。怖いほど甘いしびれが脳を直撃したのだ。
 たっぷり一分もキスを続けてから、攻造は顔を離した。歩の頬を両手で挟み込んで、じっと見つめる。
「ショートボブで垂れ目で気弱そーなこーゆー子、タイプなんだよなあ」
「攻造の……ロリコン」
「なんとでも言え。……しかしこの子、若すぎるな。いいのか、こんなことしてて」
 いいのかって! とろんと溶けたような頭で、歩は精一杯怒った。我慢できない。人を呼ぼうとして、憤然と立ちあがる。
 そして見たものに、唖然となった。
 気の強そうなOLがいた。白髪の紳士がいた。主婦のような女もいた。チンピラのような男もいた。なずなとサラリーマンのような女子高生とサラリーマンの組み合わせも多かった。
 その全員が、舌をからめ、首筋にキスし、尻をさらし、太ももを抱え上げられて、まさに性行為の真っ最中だった。
 数十人の男女の動きと熱い息で、車両中にむせかえるようないやらしい雰囲気が満ちていた。
 歩はぽかんと口を開けた。その時、立ったせいでガードがおろそかになったキュロットのお尻に、さわりと攻造の手が触れた。
「いやっ?」
 身を離そうとしたものの、反対の手でがっちりと抱きこまれた。尻の谷間に、攻造の指が入りこんできた。お尻の穴のあたりがくすくすといじりまわされる。身動きできずに愛撫を甘受しているうち、急速に抵抗の意思がなえていった。
 ……なにこれ……死にそうに気持ちいい……動きたくない……
 理性と快感に板ばさみになって、歩は目を閉じた。モラルも常識もかき消されてしまうほど、攻造の愛撫はうまい。背筋を断続的に白いものが駆けあがって、そのたびに歩の肛門がひくひく震えた。
 いつしか歩は、その愛撫に体を任せきっていた。ふと気づくと、もう押さえこまれてはおらず、歩は中腰の姿勢で、みずから攻造にむかって小さな尻を突き出しているのだった。
「いやっ……」
 真っ赤になる。その途端もう一度谷間をなでられて、かくんとひざの力が抜けた。シートに座り込んだ歩の上に、攻造が覆いかぶさってにやりと笑った。
「うまいだろ、オレ」
「……」
「どうせヤるなら、オレとしようぜ。みんな始めてるんだ、遠慮はいらねえ」
 返事をする間もなく、もう一度キスされた。

 歩だってもがいたのだ。見も知らない男にいいようになぶられるなんて、歩の自制心が許さない。
 しかし、攻造は巧妙だった。腕を触られて振り払えば首筋にキスされ、顔をおし戻せば膝の内側を触られる。払っても払ってもきりがない。そして、攻造の指に触れられたところには、必ず熱い快感の点が残った。
 それがどんどん体を覆っていく。歩のあそこはどうしようもなくひくついていたが、悔しいことに攻造はそこだけは触ろうとしない。じらしているのだ。それがますます、歩を切なくさせた。
 耳に舌を差しこまれると、ぶるるっと全身が震えてしまった。まるでそこにスイッチがあるみたいに。そんなこと歩は知らなかった。歩はまだ、異性の手を握ったこともないのだ。
「ここ、うまいんだよな」
 そう言って、攻造は歩の二の腕の内側、柔らかい筋肉を甘がみする。震える歩の耳に、驚いたような声が入る。
「しょっぱ……おまえ、風呂入ってねえの?」
「ち、違う……今までバイトしてたから……」
「なんだ、じゃ帰りのついでか。大体年いくつよ」
「じゅうろく……」
「そんなとこだろうな。でも十四ぐらいに見えるぜ。名前は」
「白砂川……」
「しろすながわ? 名字で呼べってのか。下は?」
「……ひんっ!」
 Tシャツの下に忍び込んだ手に、乳首をはじかれた。ゾクゾクッと電撃が走る。聞かれるまま歩は答えしてまう。
「歩……」
「あゆみちゃんね。おっぱいは少々物足りないけど、感度でカバーって感じだね」
 くちゅくちゅと耳たぶの中を舌が這いまわる。おぞましいはずなのに気持ちいい。胴に回されたたくましい腕がぎゅっと体を抱きしめる。歩は徐々に気づく。無礼なほど大胆なのに、決して痛みを感じさせるようなことはしない。見かけにそぐわず、攻造は非常に丁寧なのだ。
 それが、最初の恐怖をやわらげた。じっとしてれば、怖いことはない。ちょっとの間、我慢すればいいだけ。――そんな言いわけが心に浮かんだ。自分をだましてしまいたくなるほど、攻造の指は気持ちよかったのだ。
 ずばっと攻造は歩のTシャツをめくり上げた。すらりとした腹筋から鎖骨まであらわになってしまう。
「んー、きれいなおなかだ。肌つるつるな」
 ちゅ、とへそに口付けしてから、攻造は唇をじわじわと上げてきた。乳首が口に含まれる。ちろちろとそれがいたぶられる。
「あふ……」
「ノってきたな。いいよ、そのまま感じて」
 攻造がシャツから手を離し、片手で歩の内ももをさすり始めた。ずり落ちそうになるシャツを、歩は自ら引き上げた。もうごまかせない。覚悟を決めて、歩は言った。
「そこ、気持ちいい……お願い、もっと」
「お、素直になったな。どうだい、もう入れてほしいかな?」
「入れてって……?」
「こんな風に」
 攻造が指し示したのは、なずなの下半身だった。ドアのポールにつかまって、歯を食いしばりながらサラリーマンの抽送を受け止めていたなずなが、不意に体を硬くした。
「く、来るっ!」
 歩の目の前で、なずなの太ももがびくびくと引きつった。サラリーマンが背後からいとおしそうになずなの乳房を抱きしめる。彼はなずなの下腹に強く股間を打ちつけたまま、しばらく静止した。
 ――やがて彼が体を離すと、なずなの淡い茂みの間から、とろとろと糸をひく白い粘液が垂れ落ちてきた。
 歩は顔を上げた。なずなが乱れた長い髪をかきあげて、満足そうに微笑んだ。
「中で出してもらうのって、最高……。あなたは?」
 歩はあわてて首を振った。なずなが首をかしげる。
「中出しきらい? ゴムあるけど、使う? 私は今日いらないんだ」
「ち、違う。……ボク、したことないから……」
「女の子がボクなんていうのは感心しねえなあ。なんでそういうのがはやるかな」
 どうでもいいようなことを言って、攻造は再び歩の尻に手を這わせた。歩はおずおずと尻を浮かせる。期待通り、攻造は歩の肛門を責めてきた。目を閉じて愛撫を受け付けながらも、歩は体を強張らせる。
「なんだ、まだいやなのか?」
「ううん……怖いの」
「じゃ、しっかり抱きついてな。ちっとも痛くないようにしてやるからな」
 ぎゅっと歩は攻造の片腕を抱きしめた。そうするとなぜか安心できた。攻造に体を任せきって、歩は快感のさざなみにひたされていった。

「じゃ、そろそろ……」
 攻造は、歩の姿勢を変えさせて、背中を押した。歩は上体をシートに長く伸ばす。キュロットに手をかけると、当然のようにそれを下着ごとずり下ろした。尻の丸みが半分ほどあらわになる。
 歩は恥ずかしさのあまり鉄棒にしがみついている。その時、ついにじかに肛門に触れられた。指のようだった。それがじわじわと花弁を揉みほぐしている。
 ……まさか、お尻に……
 怖くなって歩は思わずなずなを振り仰いだ。だが彼女は、もう別の相手と抱擁を交わしていて、こちらのことなどかまっていない。歩の不安を見透かしたように、攻造が言った。
「この場にいるくらいだから、うしろヤられる覚悟ぐらいはあるんだろ? 心配すんな、やさしくヤってやるから」
 場違いに穏やかな声とともに、尻にひやりとしたものがかかった。思わず振り向くと、攻造が小瓶を傾けていた。
「ローションだよ。オレはうしろ専門だから、いつも用意してるんだ。……さ、力抜きな」
 こうなってはもう、攻造の言葉を信じるしかない。歩は運を天に任せる気持ちで、深呼吸した。
 ぬるっと肛門に指が忍び込んできた。吐息が漏れる。何度も出入りを繰り返したあと、さらに肛門が押し広げられた。ひりひりと焼けつくような痛みがある。だが、それは耐えられないものではない。
 鉄棒につかまったまま、歩は頭をのけぞらせていった。くぼんだ背中にキスをして、攻造が言った。
「指二本、オレのは大体これぐらいだ。入れていいな?」
「……は、はい……」
 ズボンの金具を外す音。歩は見なかった。
 だから、入ってきて初めて、それがどんなものかわかった。
 尻の中心にあたった熱いものが、じわじわと狭い隙間を押し広げた。歩はのどをさらしてますますのけぞる。つるりとした先端が通りぬけ、薄皮に包まれた茎が続いた。
「あ・あ・ア……」
 切れ切れのあえぎが漏れる。とうとう犯されたという屈辱感と、思っていたよりずっと弱い痛みへの安心とが、頭を支配している。それがやがて、快感を求めるいやしい本能に塗りつぶされていく。
 茎は長く長く感じられた。ゆっくりと侵入する丸い先端が、どこまでも体の奥深くへ入ってくる。やがて、弾力のある抵抗感がそれを止めた。直腸の曲がり角まで届いている。
「十七センチだぜ」
 攻造のつぶやきの倍ぐらいに感じられた。筋肉がきつく肉棒を押し包んでいるせいで、その輪郭がはっきりと感じられる。幹のどくどくいう鼓動、ぴくぴくする先端。
 刺されちゃった、と歩はもうろうと考える。おなかの奥までおちんちんを突っ込まれちゃった。もうダメ、そんなとこまで入れられたら、逃げられないし抵抗もできない。
 無力感が快感に変わる。もう、この人が満足するまで終わらないんだ。満足するときは、おなかの中にあれがいっぱい流れ込んでくる。さっき、なずなって子が受け止めていたあんな液が。
 ……なずなの法悦が、わかったような気がした。

 最初は一ミリ刻みで動かしていた攻造が、徐々にスピードを速くしはじめた。
 そのたびに、長い茎がずるずると入り口をこすり上げる。摩擦で火を起こされているようだった。その火が背中の下に点火して、じわじわと背骨を這い上がってくる。
「いいよ……歩ちゃん。きつすぎないし、柔らかい」
「……んん」
「どうだ? 歩ちゃんもいいだろ?」
「……うん、うん」
「いいか? もっと強くしていいか?」
「……うん!」
 歩の背中に攻造が覆いかぶさり、何度も強く突きこんできた。かちかち歯を鳴らしながら歩はそれを受け止める。うつろに視線を上げると、なずなが別の男に片足を抱え上げられ、正面から股間をえぐられていた。その美しい顔は真っ赤に染まって歪み、たとえようもなくいやらしい。
 自分もあんな顔してるんだろうな、と思う。
「いい……いいぜ、歩ちゃん。最高だ。オレとしたことが……も、もうイきそうだ」
 わななくような声で後ろから攻造がつぶやく。歩は無理に振り向いた。冷静だった攻造の顔が強くしかめられている。よく見れば引き締まった頼もしそうな顔だった。こんな人に我を忘れさせるぐらいの気持ちよさを与えている。歩は、嬉しくなった。
「うん、来て、いいから来て!」
「いっ、行くぞ、行くぞっ!」
 歩の腹の中で攻造の先端が強く膨らんだ。次の瞬間、どっとばかりに熱い潮がぶちまけられた。リズムをつけたしぶきが二度、三度と流し込まれる。歩はそれを感じた瞬間、幸福の海の中に投げ込まれた。自分の性器も同じようにきゅっとほとばしらせたのが分かった。

 停止した電車の中にアナウンスが響いて、ドアが開いた。乗客たちが、何食わぬ顔で降りていく。
 攻造の腕に抱かれたまま、ぐったりと歩は人の流れを見ていた。ほんの急行一駅の間の出来事とは思えないぐらい、濃密な体験だった。
 客の流れは途切れずに続き、全員が降りてしまった。残されたのは、歩と攻造、なずなだけ。
「おまえ、ここじゃないのか?」
「え……」
 降りる駅ではなかったが、攻造と別れたくなかった。二人にくっついて、歩はホームに降り立った。
 そこに、スーツ姿の一人の女性が立っていた。にこやかな顔で乗客たちに頭を下げている。
「まいどありがとうございます。次回もBSCをよろしく」
「社長、済んだぜ」
 攻造となずなは、その女性の前に立った。女性は二人を見つめると、なずなの上気した顔に気づいたのか、厳しく言った。
「……あんたたち、また一緒になって楽しんでたわね」
「悪い?」「いいじゃねえか、減るもんじゃなし」
 二人とも悪びれる様子もない。憮然とした顔で女性はそれを見つめていたが、攻造の袖をつかんでいる歩に気づくと、困ったような顔になった。
「あら……この子、誰?」
「誰って……こんな可愛い子、覚えてないのかよ。注文取ったの社長だろ」
「知らないわよ」
「知らないって……」
 三人の視線が歩に集まった。わけがわからずに、歩は聞いた。
「あの……なんですか? お客とかBSCとかって」
「おまえ、もしかしてただの通りすがりか!」
 攻造が叫んだ。歩がこくんとうなずくと、わちゃーと天を仰ぐ。
「なんてこった、一般人を巻き込んじまうとは……」
「ダメじゃない、あなたコンダクターでしょう!」
 女性が攻造を叱り付ける。それから、歩を見た。
「ショックだったと思うけど、忘れてくれない? これはちゃんとした仕事で、うさんくさいことじゃないから」
「仕事って……あのお客さんたちは?」
「彼らの依頼なのよ。名づけて通勤快楽トレインコース。電車の中で思う存分ああいうことをしたい人たちを集めて、一車両満員にしたの。言っておきますけど、売春の斡旋じゃないわよ。女性からもお金を取ってるんだから。――自由意思で集まった人たちの仲介をしただけ」
「あなたたち、なんなんですか?」
「BSC――ベッドサポート・カンパニー。あらゆる形の性欲に応える会社よ」
 そういうと女性は、もう一度言った。
「非合法じゃないのよ。でも、お客さんたちの立場があるから……見たこと、黙っててくれない?」
「見ただけじゃないのよね」
 なずながぼそっと言った。
「しっかりヤられちゃってたわ」
「え?」
 女性は眉をひそめた。
「それじゃ……謝って済む問題じゃないわね。誰にされたか覚えてる?」
「……オレだよ」
「池之内ーッ!」
 女性は攻造を怒鳴り飛ばした。
「よりによってなんてマネするのよあんたは! 素人さんはらませちゃったらどうするつもり?」
「あ、それは心配ない。うしろだから」
「そーゆー問題じゃない! こんないたいけな子を犯すなんて鬼畜かあんたは!」
「私だって十八なんだけど」
「淫乱人形のあなたは黙ってて! ……ん?」
「あの……」
 ちょいちょい、と歩が女性の袖をひいた。
「いいんです、その……」
 うつむき、顔を赤くした歩が、小声で言った。
「攻造さん、上手だったから……」
「な」
「なじゃない!」
 女性は叫んだ。
「まったくもう、一歩間違えば告訴沙汰だわよ。やっぱりこういうコースはあんたたちがコンダクターじゃダメだわ。もう一人、聞き分けのいい使える人間がいなくちゃ……」
「あの!」
「なに?」
 振りかえった女性に、歩は勇気を振り絞って言った。
「ボクじゃだめですか?」
「……はあ? なんであなたが?」
「ボク、今日コンビニくびになっちゃったんです。あんまり子供っぽすぎて、一ヶ月に三回も強盗に入られちゃったから。他に仕事のあてもないんです。だから、ボクを雇ってください!」
 まじまじと歩を見つめてから、女性は身をかがめた。
「あなた、何歳? 学校は」
「十六です。うち、学校行けるほどお金ないんです」
 聞いた瞬間、女性は顔を歪めた。なずなが面白そうに言う。
「歩ちゃん、その線で押したら。社長、そういう泣ける系の話に弱いから」
「黙ってらっしゃい!」
「お願いです! なんでもしますから!」
「待ってよ、そんないきなり言われても、だいたい理由がよく……」
 ふと女性は、歩と攻造を見比べた。
「もしかして……一緒にいたいから?」
 耳まで真っ赤になって、歩はうなずいた。女性は凶悪な顔で攻造をにらむ。
「どうするのよ、完全になつかれてるわよ」
「初めてだって言ってたからなあ」
「初めてですって……この外道」
 女性はこめかみを押さえて首を振った。
「でもあなたみたいな可愛い子、うちに来たらやりまくられちゃうわよ。攻造だけじゃなくて、じかに他の客を取ることもあるんだから」
「でも、普通は女の子にしかしませんよね?」
 よく理解できない顔で、女性は歩を見つめた。
「どういうこと?」
「男の子がエッチなことされるのって、そんなにありませんよね?」
「そりゃ……あまり……」
「ボク、男ですから」
 BSCの三人は歩を穴があくほど見つめた。三人ともぽかんとしていた。とりわけ攻造は、街中でいきなり金ダライを食らったような顔をしていた。
「お……とこ?」
「だから、ボクってずっと」
「オレ、男とヤっちまったの?」
「……気づいてなかったんですか?」
 くわーっと怪鳥のような叫びを攻造が上げた。唖然としている女性に、なずなが耳打ちする。
「これ、面白いんじゃない? たらしの攻造があそこまで動揺するのって、初めて見た」
「……そういえばそうね」
「責任とって下さい!」
 びっくりするような大声で叫んで、歩が攻造にしがみついた。
「あんなことされちゃったら、ボクもう普通の人と付き合えません! お願い、攻造さん!」
「せせ責任っておまえそんな何を」
 攻造は振り払おうとしたが、歩の顔を見て動きを止める。少女のような肩までのさらさらの黒髪を振り乱して、うるうるの目で歩が攻造を見上げている。攻造は硬直する。女は殴れないのだ。――中身が男でも。
「ほんとだ、これは牽制に使えるわね。――それに、ショタ趣味の客にも出せるか」
 つぶやくと、女性はぴしりと命じた。
「攻造! 取りなさい、責任! あなたが面倒見るのよ!」
「マジかよ!」「いいんですか?」
 恨めしそうな攻造と顔を輝かせた歩に、女性はうなずいた。それから、歩に近づいて、名刺を差し出した。
「ベッドサポート・カンパニー社長、高見蔵倫子よ。この野獣は池之内攻造、そっちの性欲娘は九堂なずな」
「男の子だって言うなら、とりあえず味見しとかないと……」
「ね」
 なんだかとんでもない自己紹介とともに、女性――倫子は微笑んだ。
「ほんとに、うちに来る?」
 歩は倫子となずなを見た。それから、攻造を見た。
 違う世界に入ってしまうのはわかっていた。でも、攻造が一緒なら……
 歩は、うなずいたのだった。
「白砂川歩です。よろしくお願いします!」

――続く――

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