●二十一代の勅撰和歌集に大伴家持の作として採られた歌をすべて掲載した。
●歌の本文は『新編国歌大観』(角川書店発行)に拠る。歌の末尾に新編国歌大観番号を付した。
●勅撰集撰入の際、典拠にしたと思われる歌を【出典】として示した。「万」は万葉集、「家」は家持集の略である。なお万葉集の歌の番号は巻数と旧国歌大観番号を示し、家持集の歌の番号は『波流能由伎』に収録した家持集に付した番号を示している。
●万葉集の原歌と思われる歌を【原歌】として示した。引用した万葉集の歌は『萬葉集 本文篇』(塙書房)に拠った。
●【他出】として主な他出文献名を記載した。
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うぐひすをよみ侍りける 大伴家持
うちきらし雪はふりつつしかすがにわが家のそのに鴬ぞなく(11)
【出典】万8-1441(末句の定訓は「うぐひすなくも」。)
【他出】後撰集33(読人不知)・古今六帖・夫木抄・秀歌大躰・定家八代抄
題しらず 大伴家持
春ののにあさるきぎすのつまごひにおのがありかを人にしれつつ(21)
【原歌】万8-1446(第四句、原文は「己我當乎」。「おのがあたりを」と訓むのが普通。)
【他出】古今六帖・金玉集・深窓秘抄・三十人撰・三十六人撰・赤人集・定家八代抄
【補記】出典は万葉集と限定できない。
紀郎女におくり侍りける 中納言家持
久方のあめのふるひをただひとり山べにをればむもれたりけり(1252)
【原歌】万4-769(末句、原文は「欝有來」。「いぶせくありけり」などと訓むのが普通。)
【他出】拾遺抄
【補記】出典は拾遺抄(藤原公任撰)か。
題しらず 中納言家持
まきもくのひばらのいまだくもらねば小松が原にあは雪ぞふる(20)
【出典】家224
【原歌】万10-2314「巻向之 桧原毛未 雲居者 子松之末由 沫雪流」まきむくの ひばらもいまだ くもゐねば こまつがうれゆ あわゆきながる(柿本朝臣人麻呂歌集出也)
【他出】古今六帖・夫木抄・俊成三十六人歌合・時代不同歌合・雲玉集・歌枕名寄
題しらず 中納言家持
ゆかむ人こむひとしのべ春がすみたつ田の山のはつ桜花(85)
【出典】家56 【他出】定家八代抄・歌枕名寄
曲水宴をよめる 中納言家持
から人のふねをうかべてあそぶてふけふぞ我がせこ花かづらせよ(151)
【原歌】万19-4153「漢人毛 筏浮而 遊云 今日曾和我勢故 花縵世奈」からひとも いかだうかべて あそぶといふ けふぞわがせこ はなかづらせな(「三日守大伴宿祢家持之舘宴歌三首」)
【参考】古今六帖「家持宅宴三月三日 やかもち から人の舟をうかべてあそびけるけふぞわがせこ花かづらせよ」
【他出】新撰朗詠集・夫木抄・定家十体・六華集・題林愚抄・三百六十首和歌・別本和漢兼作集
【補記】出典は万葉集・古今六帖のいずれか不明。
題しらず 中納言家持
郭公一声なきていぬる夜はいかでか人のいをやすくぬる(195)
【出典】家83 【他出】躬恒集・別本和漢兼作集
【補記】この歌、正しくは凡河内躬恒の作であろう。何らかの理由で家持集に混入し、新古今集には家持作として採られた。
題しらず 中納言家持
神なびのみむろの山のくずかづらうらふきかへす秋はきにけり(285)
【出典】家98 【他出】俊成三十六人歌合・時代不同歌合・秀歌大躰・歌枕名寄
題しらず 中納言家持
さをしかのあさたつ野べの秋はぎに玉とみるまでおけるしらつゆ(334)
【出典】万8-1598 【他出】麗花集・三十人撰・三十六人撰・秀歌大躰・定家八代抄・別本和漢兼作集
だいしらず 中納言家持
いまよりは秋風さむくなりぬべしいかでかひとりながきよをねん(457)
【出典】家147 【原歌】万3-462 【他出】古今六帖・夫木抄
だいしらず 中納言家持
我がやどのをばなが末にしらつゆのおきし日よりぞ秋風もふく(462)
【出典】家176 【他出】定家八代抄
だいしらず 中納言家持
かささぎのわたせる橋におくしものしろきをみれば夜ぞふけにける(620)
【出典】家257 【他出】俊成三十六人歌合・時代不同歌合・定家八代抄・秀歌大躰・百人秀歌・百人一首・別本和漢兼作集・題林愚抄
題しらず 中納言家持
秋はぎのえだもとををにおく露のけさきえぬとも色にいでめや(1025)
【原歌】万8-1595「秋芽子乃 枝毛十尾二 降露乃 消者雖消 色出目八方」あきはぎの えだもとををに おくつゆの けなばけぬとも いろにいでめやも(「大伴宿祢像見歌一首」)
【参考】家103「秋はぎの下葉たわわに置く露のけなばけぬとも色に出でめや」
【他出】定家八代抄
題しらず 中納言家持
あしびきの山のかげ草むすびおきてこひやわたらむあふよしをなみ(1213)
【出典】家282 【他出】定家八代抄
題しらず 中納言家持
故郷に花はちりつつみよしのの山の桜はまださかずけり(1979)
【出典】家57
【補記】この歌はいわゆる除棄歌。一時期新古今集に載せられていたが、承元四年九月、除棄された。
題しらず 中納言家持
秋はぎのうつろふをしとなくしかのこゑきく山はもみぢしにけり(302)
【出典】家128
越中守に侍りける時、くにのつかさ布勢のみづうみにあそび侍りける時よめる 中納言家持
ふせのうみのおきつしらなみありがよひいやとしのはに見つつしのばむ(495)
【出典】万17-3992 【他出】五代集歌枕・歌枕名寄
新嘗会をよみ侍りける 中納言家持
あしびきの山した日かげかづらなるうへにやさらにむめをしのばむ(1110)
【出典】万19-4278(第三句、原文は「可豆良家流」かづらける。)
【他出】古今六帖・題林愚抄
題しらず 中納言家持
ちどりなくさほのかはとのきよきせをこまうちわたしいつかかよはむ(1274)
【出典】万4-715(第四句「馬打和多思」うまうちわたし) 【他出】歌枕名寄
題しらず 中納言家持
あをやぎの糸よりかけてはる風のみだれぬさきに見む人もがな(46)
【出典】家28 【原歌】万10-1851(作者不明記) 【他出】秋風集
題しらず 中納言家持
秋ぎりにつままどはせるかりがねのくもがくれゆくこゑのきこゆる(311)
【出典】家195
題しらず 中納言家持
いまさらにまつ人こめやあまのはらふりさけ見れば夜もふけにけり(807)
【出典】家246 【他出】万代集・別本和漢兼作集
秋立つ日よみ侍りける 中納言家持
ときはいまはあきぞとおもへばころもでにふきくるかぜのしるくもあるかな(284)
【出典】家145 【他出】秋風集・別本和漢兼作集
題不知 中納言家持
うばたまの夜はふけぬらしたまくしげふたかみやまにつきかたぶきぬ(429)
【出典】万17-3955(土師宿祢道良作) 【他出】雲葉集・歌枕名寄
題不知 中納言家持
ふくかぜにちるだにをしきさほ山のもみぢこきたれしぐれさへふる(553)
【出典】家254 【他出】万代集・別本和漢兼作集・歌枕名寄
旅のこころを 中納言家持
ふなでするおきつしほさゐしろたへのかしひのわたりなみたかくみゆ(928)
【出典】不明 【他出】雲葉集・夫木抄・歌枕名寄
【補記】出典は建長五年(1253)成立と推測される雲葉集(藤原基家撰)か。しかし原歌は不明。夫木抄も雲葉集を典拠としている。
恋歌中に 中納言家持
わがかどののべのあきはぎちらざらばきみがかたみと見つつしのばん(1264)
【出典】家148(初句「たかまどの」)
【原歌】万2-233「高圓之 野邊乃秋芽子 勿散祢 君之形見尓 見管思奴播武」たかまとの のへのあきはぎ なちりそね きみがかたみに みつつしぬはむ(「志貴親王薨時作歌一首 并短歌」或本歌曰)
女につかはしける 中納言家持
おもひたえわびにしものをなかなかになにかくるしくあひみそめけん(1307)
【出典】万4-750 【他出】古今六帖
越中守にてくだりて侍りける時よみ侍りける 中納言家持
みなとかぜさむくふくらしなごのえにつまよびかはしたづさはになく(1635)
【出典】万17-4018 【他出】古今六帖・夫木抄・秋風集・別本和漢兼作集・五代集歌枕・歌枕名寄
題不知 中納言家持
たまきはるいのちはしらず松がえをむすぶこころはながくとぞおもふ(1754)
【出典】万6-1043
題不知 中納言家持
たかまどの野べの秋はぎこの比のあかつき露にさきにけるかも(494)
【出典】万8-1605 【他出】夫木抄・五代集歌枕・歌枕名寄
題しらず 中納言家持
わぎもこがかたみの衣したにきてただにあふまでは我ぬがめやも(1511)
【出典】万4-747
安倍女郎につかはしける 中納言家持
あしびきの山べにおりて秋風の日ごとにふけばいもをしぞ思ふ(1637)
【出典】万8-1632「足日木乃 山邊尓居而 秋風之 日異吹者 妹乎之曾念」あしひきの やまへにをりて あきかぜの ひにけにふけば いもをしぞおもふ。万葉集の題詞によれば家持が坂上大娘に贈った歌。
【他出】秋風集
題しらず 中納言家持
秋の田のしのにおしなみおく露のきえやしなまし恋ひつつあらずは(1638)
【原歌】万10-2256「秋穂乎 之努尓押靡 置露 消鴨死益 戀乍不有者」あきのほを しのにおしなべ おくつゆの けかもしなまし こひつつあらずは(「寄露」作者不明記)
【補記】現存の家持集には見えず、なぜ家持の作としたか不明。原歌は俊成の「古来風躰抄」に採られている。
題しらず 中納言家持
むかし見しきさの小川を今みればいよいよきよく成りにけるかも(2067)
【出典】万3-316(大伴旅人作)【他出】古今六帖・五代集歌枕・歌枕名寄
【補記】万葉集の題詞に「中納言大伴卿」とあるのを家持と誤認したのであろう。歌枕名寄も誤って家持作とする。
妻におくれてのちによめる 中納言家持
うつせみの世はつねなしとしるものを秋風さむみしのびつるかも(2424)
【出典】万3-465 【他出】古今六帖・秋風集・別本和漢兼作集
題しらず 中納言家持
七夕の舟のりすらし天の川きよき月よに雲たち渡る(347)
【出典】家150 【原歌】万17-3900(第三句は「まそかがみ」)
【他出】夫木抄・三百六十首和歌
冬の歌中に 中納言家持
あすか河かはおとたかしむば玉のよかぜをさむみ雪ぞふるらし(660)
【出典】家245 【他出】雲葉集
山吹を折りて人のおこせたりければ 中納言家持
あふことをこよひこよひとたのめずはなかなか春の夢はみてまし(1318)
【他出】兼輔集・万代集・別本和漢兼作集
【補記】兼輔集に見え、藤原兼輔の作であることは明らか(万代集・別本和漢兼作集、いずれも兼輔作とする)。作者名「中納言兼輔」が「中納言家持」として誤伝したものと思われる。
題しらず 中納言家持
梅花散りにし日より敷妙の枕もわれはさだめかねつつ(51)
【出典】家47 【他出】万代集
題しらず 中納言家持
雲の上に雁ぞなくなる我が宿のあさぢもいまだもみぢあへなくに(307)
【出典】家197
【原歌?】万20-4296「安麻久母尓 可里曽奈久奈流 多加麻刀能 波疑乃之多婆波 毛美知安倍牟可聞」あまくもに かりぞなくなる たかまとの はぎのしたばは もみちあへむかも(「二三大夫等各提壷酒 登高圓野聊述所心作歌三首」中臣清麻呂)
【参考】万8-1575「雲上尓 鳴都流鴈乃 寒苗 芽子乃下葉者 黄變可毛」くものうへに なきつるかりの さむきなへ はぎのしたばは もみちぬるかも(「右大臣橘家宴歌七首」作者不明記)
題しらず 中納言家持
あら玉の年行きかへり春たたば先うぐひすはわが宿になけ(498)
【原歌】万20-4490「安良多末能 等之由伎我敝理 波流多〃婆 末豆和我夜度尓 宇具比須波奈家」あらたまの としゆきがへり はるたたば まづわがやどに うぐひすはなけ(大伴家持)
【他出】古今六帖・三十人撰・三十六人撰・夫木抄
題しらず 中納言家持
春日山あさ立つ雲のゐぬひなくみまくのほしき君にも有るかな(693)
【出典】万4-584
山吹を折りて人のおこせたりければ 中納言家持
あふことをこよひこよひとたのめずはなかなか春の夢はみてまし(1318)
※続千載集に既出。
桜を 中納言家持
春雨にあらそひかねて我がやどのさくらの花はさきそめにけり(150)
【出典】家30 【原歌】万10-1869(作者不明記) 【他出】赤人集
題しらず 中納言家持
たつた山みつつこえこしさくら花ちりかすぎなんわがかへるとき(221)
【出典】万20-4395(末句は「和我可敝流刀尓」わがかへるとに)
【他出】古来風躰抄・五代集歌枕・歌枕名寄
題しらず 中納言家持
うつつにはさらにもいはず夢にだにいもがたもとをまきぬとし見ば(1035)
【出典】万4-784
大伴郎女につかはしける 中納言家持
夢にだにみえばこそあらめかくばかり見えずてあるはこひてしねとか(1381)
【出典】万4-749
題しらず 中納言家持
ほととぎす山ぢにたかく鳴くこゑを我がひとりねに聞くがかひなさ(218)
【出典】家75
題しらず 中納言家持
白露はけなばけななん消えずとて玉にぬくべき人もあらじを(317)
【出典】家315 【他出】伊勢物語第百五段
題不知 中納言家持
天の川夜ぶかく君はわたるとも人しれずとは思はざらなん(333)
【出典】家170 【他出】貫之集・古今六帖
【補記】この歌は正しくは紀貫之作であろう。
題しらず 中納言家持
我が門に秋萩さけりこのねぬる朝かぜはやみ花ちりぬべし(358)
【出典】不明
題しらず 中納言家持
霧分けて雁はきにけり隙もなく時雨は今や野べを染むらん(488)
【出典】家190
題しらず 中納言家持
楸おふる河原の千鳥なくなべにいもがりゆけば月わたるみゆ(607)
【出典】不明 【他出】雲葉集・夫木抄・新々百人一首
【補記】新拾遺集撰者は雲葉集・夫木抄のどちらかから採録したと思えるが、万葉集にも家持集にも見えず、原歌は不明。
題しらず 中納言家持
初雪の庭にふりはへ寒き夜を手枕にして独かもねん(655)
【出典】万8-1663「沫雪乃 庭尓零敷 寒夜乎 手枕不纒 一香聞將宿」あわゆきの にはにふりしき さむきよを たまくらまかず ひとりかもねむ
【他出】古今六帖
越中守にて侍りけるが少納言に成りてのぼり侍りける時、国のつかさ餞し侍りけるによめる 中納言家持
いはせのの秋萩しのぎ駒なめて小鷹狩をもせでや別れん(743)
【出典】万19-4249 【他出】古来風躰抄・夫木抄・五代集歌枕・歌枕名寄
題しらず 中納言家持
旅人のよこほりふせる山こえて月にもいくよわかれしつらん(791)
【出典】夫木抄か(家持作とし、「古来歌」の注あり)
中納言家持につかはしける 坂上大嬢
とにかくに人はいへどもわかさ路ののちせの山の後も逢はん君(1230)
返し 中納言家持
のちせ山後もあはんと思ふにぞしぬべきものをけふまでもあれ(1231)
【出典】万4-739 【他出】五代集歌枕・歌枕名寄
【補記】坂上大嬢の歌の出典は万4-737。なお歌の本文は五代集歌枕・歌枕名寄と一致するので、新拾遺集撰者は万葉集から直接採録したのではないかもしれない。
夏の歌中に 中納言家持
我が宿の花橘にほととぎす夜ぶかくなけば恋ひまさりけり(218)
【出典】家96
【参考】万8-1481「我屋戸前乃 花橘尓 霍公鳥 今社鳴米 友尓相流時」わがやどの はなたちばなに ほととぎす いまこそなかめ ともにあへるとき(「大伴書持歌二首」)
題しらず 中納言家持
鴬のなきちらすらむ春の花いつしか君とたをりかざさん(166)
【出典】万17-3966
瞿麦を 中納言家持
我が宿のなでしこの花さきにけりたをりてひとめみせん子もがな(318)
【出典】万8-1496 【他出】題林愚抄
題しらず 中納言家持
秋風は夜ごとにふきぬ高砂の尾上の萩のちらまくをしも(409)
【出典】家179 【他出】万代集・歌枕名寄
【原歌】万10-2121「秋風者 日異吹奴 高圓之 野邊之秋芽子 散巻惜裳」あきかぜは ひにけにふきぬ たかまとの のへのあきはぎ ちらまくをしも(「詠花」作者不明記)
題しらず 中納言家持
あら玉のとしかへるまであひみねば心もしのにおもほゆるかな(1385)
【出典】万17-3979 【他出】古来風躰抄