レーザーポインター付きプレゼンテーションタイマーの製作 (2010/11/26/〜2010/12/13)

(Last update:2011/11/13)


まずはブレッドボード上で開発 リチウムイオン電池充電試験中。
LTC4054 のおかげで回路は
いたってシンプル
だいたいの部品配置を考えてみる 基板表
基板裏(最終配線前)。
高さを抑えるためチップ部品を多用。
三端子レギュレーターまわり。
変換基板上にコンデンサを3個実装
LTC4054 まわり。
変換基板上にコンデンサと
抵抗を各1個実装
配線をハンダ付けしたスイッチ類を
まずエポキシ接着剤で仮止めして
ホットボンドで確実にスイッチ類を固定 最終配線の様子
最後に電池を入れて完成。
サイズも厚みもギリギリ ^^;
完成品。
側面にはレーザーポインターのスイッチ、
上面には時間設定用 UP/DW スイッチ
底面には電源スイッチと
充電用の USB コネクタ
上面にはスタート・ストップ (ST) スイッチと
レーザーポインターの照射孔
ST スイッチは LED が入った
照光式で、充電モニタを兼ねる
レーザーポインターと
一体となっているところがミソ
回路図 配線参考レイアウト
(レイアウトには PaaS を使用)

上記は変換基板上に周辺コンデンサを
搭載した場合のレイアウト(写真参照)
動作の様子

製作の経緯:

 管理人は職業柄プレゼンテーションの機会が多い。が、なかなか時間通りにプレゼンを収めるのは難しいもの。そこでふと思いついた。レーザーポインターが付いたプレゼンター用のタイマーがあれば便利なのではないかと・・・


仕様:

 ・赤色レーザーポインターとタイマーの合体品
 ・タイマーは 1 〜 255 分まで設定可能
 ・残り時間(分)を 3桁で表示。残り 1分を切ると秒を 2桁で表示
 ・設定時間を経過するまではカウントダウン動作
 ・設定時間経過後はカウントアップ動作かつ点滅表示
 ・カウント中断、再開可能
 ・カウント中断中に DP/DW キー同時押しでタイマー時間設定に戻る
 ・設定時間は EEPROM に保存され、次回起動時に初期値として読み出される
 ・電源は 3.7V リチウムイオン電池
 ・充電回路内蔵。 USB ケーブルで充電
 ・念のためリセット IC で電圧を監視。過放電や動作不安定を防止
 ・時間誤差をある程度ソフトウエアで補正可能
 ・手にすっぽりと入る小型ケースに実装


使用部品、設計の考慮点等:

 ほとんどの部品は秋月電子で購入可能。レーザーモジュールは 3mm 厚のもので、よくフリスク・レーザーに使われている定番品 ^^; ただしこいつは電源電圧に要注意で、3.4V 以上印加すると壊れる(実証済・・・爆)。

 となると、リチウムイオン電池は満充電時 4V 以上あるので電圧を落としてやる必要がある。電圧降下法をいろいろと検討したが(ツェナーを使うとか整流用ダイオードの Vf で下げるとか)、結局低ドロップの三端子レギュレーターで 3.3V まで電圧を落とすことにした。三端子レギュレーターには最低電圧差 0.13V と極めて低ドロップの TAR5SB33 を使用し、3.5V あれば安定した 3.3V が得られるようにした。ただそれでもリセット電圧 3.2V よりは高いが、データシートで確認してみると 1.5〜3.5V 領域は入力電圧がそのまま出力側に出てくれるようで問題は無さげ。

 リセット IC は過放電防止のために実装。3V 程度で Active Low のリセット信号を出せるものなら何でも良いが、今回は手持ちの都合上 TCM809R(2.6V リセット)にシリコンダイオードの Vf 0.6V でゲタを履かせて 3.2V 程度でリセットがかかるようにした。最悪入手できなければ MCLR ピンはオープンのままで良い(PIC 内部で Weak pull up 済)。なお、Weak Pull Up ついでに書いておくと、本来スイッチに接続するプルアップ抵抗も Weak Pull Up で省略してある。

 7セグ LED C-533SR は内部でダイナミック配線済みで超便利。今回も「完全ダイナミック点灯」(桁単位ではなくセグメント単位のダイナミック点灯)なので点灯する LED は常に1つ。電流制限抵抗と桁制御トランジスタを省略する(ここらへんの詳細についてはこちらを御参照)。ただし桁ドライブトランジスタを省略したことで LED には逆電圧が加わる。C-533SR は逆耐圧 5V なので問題はないが、他の LED を使う場合は要注意。

 充電制御用の LTC4054ES5-4.2 は千石電商で購入。リチウムイオン電池(3.7V, 390mA/h)はだいぶ以前に秋葉原で \500 購入したものだが購入先は失念(汗)。ただサイズ・スペックともほぼ同じものがヤフオクや秋葉原の若松通商で入手できる(2010/12 現在)。

 電池の充電は、LTC4054 の発熱対策と安全をみて 150mA・3時間とした。なおデータシートによると LTC4054 のパスコン(1μF)はセラミックでは問題が生じる場合もあるようだ。解決策としては 1.5Ωの抵抗を直列に入れて ESR を保障してやればよいようだが、今回は実装スペースの問題もあり、動作テストして問題が無いことを確認した上であえて積層セラミックを使用した。

 消費電流はレーザーモジュール約 20mA、タイマー約 10mA の合計 30mA。レーザー点けっ放しでも 12 時間は動作するはず。ちょっと電池はオーバースペックだったかも ^^;


スイッチ:

 ・UP/DW スイッチは、通常のタクトスイッチを使用
 ・ST スイッチは不用意に押してしまわないよう、押し込み圧が大き目のスイッチを使用。このスイッチは LED が入った照光式で、LED は充電モニタとして使用する。秋葉原の千石電商で購入。
 ・レーザーポインター点灯用スイッチは、押し易くて耐久性のある薄型のマイクロスイッチを使用。OMRON 製だが型番不明。秋葉原のヒロセ無線で購入。
 ・電源スイッチは通常のスライドスイッチ。厚みを抑えるため超小型のものを使ったが、充電時 150mA 流れること、頻繁に使用することから耐久性のあるもっと大き目のものを推奨


実装:

 今回の作品は実装が最大のポイント。操作性を確保しながら手のひらに収まる小型のケースの中にいかに実装するかが腕の見せ所。

 スイッチの配置は実際にケースを握ってみて (1) 操作に違和感がないこと、(2) 不用意に押してしまわないこと、を最優先に決定。まず、プレゼン中最も頻繁に使用するレーザーポインターのスイッチは、一番スイッチが押し易い親指の位置で確定。逆にスタート/ストップ・スイッチは不用意に押すと困るので、人差し指で押せる位置にした。UP/DW スイッチも同様の理由で 7セグ LED と同じ面に設置した。

 今回使用したケースはタカチの TW4-2-8 (W40 x H20 x D80) 。蓋がネジ止め式なので内部空間を 100% 使えないのがこの小ささは魅力。仕方がないので基板は写真のように PCB カッターで切断。ケースに厚みがあまりないので、部品の高さや、スイッチの厚みなど、縦方向の部品配置に配慮しつつ部品・配線レイアウトを考える必要があった。

 特に三端子レギュレーター、リセット IC、LTC4054 は SOT23 パッケージを使い、周辺コンデンサと一緒に変換基板上に実装して高さを抑えた。

 また今回は基板もホットボンドで接着して固定するため、基板下側に隠れてしまうスイッチ類は最初に端子配線を済ませておき、まずエポキシ系接着剤で仮止め。その後ホットボンドで本格固定してから基板を被せて固定した。


時間誤差について:

 たかだか 4時間程度のタイマーといえどプレゼン用となればそれなりの精度は欲しい。そこで PIC 内蔵クロック、セラミック発振子、クリスタルで誤差を測ってみた。

 まずは PIC の内蔵クロック。データシート上の誤差は最小でも ±1%。3.6秒/1時間程度の誤差は十分にあり得るが、実測では多少マシで 2秒/1時間程度の誤差であった。「どうせ 1点モノ」と割り切ってしまうなら内蔵クロックのキャリブレーションデータを書き換えてしまう荒業や、下記キャリブレーション機能で対応する方法もあるが、今後の応用性を考えて今回はパス。

 次にセラミック発振子。カタログ上の誤差は 0.5% なので予測誤差は約 2秒/1時間のはずなのだが、実測値はなぜか 4秒/1時間と惨憺たる結果に(パラレルに 1MΩを入れたり、発振子を交換してみたが結果は変わらず。HS モードのままだったのが敗因か ?)。よって採用は当然見送り ^^;

 最後にクリスタル。誤差 0.005% (50ppm) なので予測誤差は 0.18秒/1時間。さすがに実測でもほとんどズレなかった。実装面積を取られてしまうのが難点だが、この精度は魅力なので配線レイアウトを工夫して対応することに。

 なお誤差補正機能として、タイマ時間設定中に UP/DW キーを同時押しすることで「キャリブレーションモード」(CAL 表示後、2桁目の DP セグメントが点灯)に入ることが出来る。この機能を使うと CCPR1L/H レジスタ値を標準値 ±2% の範囲内で約 0.12% ステップで変更できる、ソフトウエアである程度の誤差補正が可能となる。もちろん温度変化に起因する誤差なんかには対応できないので限界はあるが、クロック源を問わず誤差補正できるのがミソ。設定値は EEPROM に保存されるので一度補正しておくだけで良い。外部クリスタルを使うならほとんど必要のない機能ではあるが、今後の別作品で何か役に立つことがあるかもしれないので実装しておく ^^;


キー操作仕様:

 電源投入後、自動的に時間設定モードに入る。以降のキー操作は以下の通り。

動作モード DPセグメント表示 UPキー DWキー STキー
時間設定 全DPセグメント点灯 設定時間↑ 設定時間↓ カウントダウン開始
同時押しでキャリブレーションモードへ
カウントダウン中 3桁目DPセグメント点滅 (無効) (無効) カウント中断
(キースキャン長め、確認音あり)
カウント中断中 1桁目DPセグメント点灯 同時押しで時間設定モードへ
(確認音あり)
カウント再開
(キースキャン長め、確認音あり)
キャリブレーション 2桁目DPセグメント点灯 補正値↑
(より遅く)
補正値↓
(より速く)
補正値決定
(確認音あり)


操作確認音について:

 操作確認音は上記表のとおり必要最小限にしてある。ここらへんの仕様が気に入らなければ各自使い易いようソースを書き換えれば良いわけで、プログラム中、CALL BEEP と書けばそこでビープ音を鳴らせる(ソース中、何箇所かコメントアウトしてあるのでご参照)。ここらへんの自由度の高さは自作品ならではの特権といえよう ^^

 ちなみに操作音を出す・出さない、というあたりはなかなか奥が深く、本タイマーを製作後にググってみるとこんな記事を発見。まったく操作音を出さないタイマーというのもニーズはあるようで、そのような用途には小型の振動モーターを仕込んでバイブレーション式にすると便利かもしれない。


使用感:

 実際にプレゼンテーションに使ってみたところ、「なんでこんな便利なものが無かったんだろう」と思えるほど便利。手にすっぽりと収まるサイズで、しかもレーザーポインタと一体になっているところがミソ。LED 表示なので会場が暗くても残り時間はすぐに読み取れる。もっとも LED 表示がとても目立つため、肝心のプレゼンテーションよりもこのプレゼンタイマーの方に聞き手の関心が集まってしまったが(予想はしてたけど・・・爆)

 ともあれ、社内外・国内外を問わずタイマー付きのレーザーポインターを使っているプレゼンターにはまだ出会ったことがない。まだまだマイナーなアイテムなのだろうか(マジで便利なのに)。


改良案など:

 調べてみたら、2002年にシャープがタイマー付きレーザーポインターを業界初で発売していたことが判明(参考記事。さすがは目の付け所がシャープですな・・・・ってか、「作る前に調べろよ」というツッコミは無し方向でどうかひとつ)。その後各社からマウス機能や Microsoft Power Point コントロール機能を持つ複合品が数千円程度で発売されているようで、改良のヒントになる機能もチラホラ。

 で、改良案としては、

 ・ブザーではなくバイブレーション機能を仕込む(市販例多数)
 ・7セグ LED を残り時間に応じた 3色表示にする(市販例無し)
 ・周囲の明るさに合わせて輝度を調整するディマー機能(市販例無し)

 あたりが便利そう。

 どのみちコストでは市販品に勝てないので、いかに便利な機能を付加するかがポイントですな ^^;


今回の失敗:

 実は最初は 16F88 で開発していたのだが、プログラムがあらかた完成してから 16F88 の動作保障が 4V 以上ということに気づいた(低電圧用は別途 16LF88 がある)。ただ実際には 4V 以下でも余裕で動いてしまう個体があり、管理人が開発に使用した個体も 2.7V でちゃんと動作していたため気付くのがだいぶ遅れてしまった(爆)

 あと開発中、レーザーモジュールにうっかり規定以上の高電圧(といっても 3.5V 程度だが)を印加したら壊れてしまった(発振が安定しなくなった)。データシートで 3.1V ±10% と規定されているから、額面通り 3.4V 程度が限界の模様。


今回学んだこと:

 ・リチウムイオン電池の充電(LTC4054 の使い方)
 ・外部クロック使用(セラミック振動子、クリスタル)
 ・補数(マイナス値⇔プラス値)の扱い方


プログラム:

 改変自由だが商用利用厳禁

プログラム ( asm & HEX ) Ver 2.4 (2011/03/02)
Presentation_Timer_v2.4.zip

謝辞:

 数値演算にはこちらのライブラリを使用させていただいております。開発者に御礼申し上げます。


2010/12/27 追記:

 その後フリスクケースに実装した姉妹品を製作。詳細はこちら


2011/04/07 追記:

 シャープが本作品とほとんど同様の構成で 2007年に特許を取得していることが判明(特許第4020715号)。もちろん本作品は個人的に製作したもので、特許発明の実施には該当しないため特許権侵害を構成するものではアリマセン。


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