「耳をすませば」の公開も終わる頃、なんとなく古本屋で見つけた「星の瞳のシルエット」全10巻を手に取ってから、僕の柊あおい漬けな生活が始まった。いけいけどんどん。...気がつくとりぼんマスコットコミックス全作品制覇していた...。秋も深まるとある休日の午後である。
お互いの名前を呼びあい、何人たりとも侵すことのできない二人きりの世界(^^;を育んでしまうような世界。「一目会ったその日から、あなた以外はもう何も考えられないわっ」的な偶然の出会いがまさに運命の出会いとなって成就してしまう世界。まぁいわゆる『乙女心』をくすぐるのが柊あおいの世界と言えるでしょう。だがしかし。普段決してかいまみることのない世界を2*歳になってはまってしまうとは...
というのはどっかのおぢさんがなんかのパンフの冒頭で宣っていたことですが(^^;、おぢさんがどう考えていたかはさておき、少女漫画...というよりは柊あおいさんの世界は、それ自体が非常にPureな想いで成り立っているものです。ともすれば、純粋過ぎて女の子の心の中の夢物語に陥るのではないかと思われがちですが、その舞台の中心は一貫して多感な青春時代を過ごす中学校であり高校であるというのが、現実世界との絶妙なバランスを保っているような気がします。僕がここまで柊ワールドはまったのも、ひょっとしたらこの年齢の頃って、学校という小さく狭い世界がすべてなのだけど、だからこそ想いの人のために惚れた腫れたを考える毎日が冒険だった、そんなふうに感じられるからかもしれません。誰もが「そんなことあるわけないよ」と思いながら「もしもそんなふうだったらいいな」ということを否定できない。現実の前に簡単に壊れてしまそうな無垢なものだけど、誰もがそれをすべてだと思っていた時代があった。それを素直に見せられた、そんな気がします。
いわずと知れた今回大抜擢の劇場版「耳をすませば」の原作であります。いわゆるふつーの中学生、月島雫&天沢聖司が織りなす少女マンガお約束のSuccess Story。余談ですけど、ムーンは化け猫じゃないんで、あしからず。
登場キャラと設定はちょっと違うとこもあるけど、でてくる人がみんなまっすぐって言うか、なんかとってもいい人ばっかりで、読み終わったとき「さわやか〜」な気分になれるとこなんか、映画と一緒やね。
番外編は、受験を控えた中3の夏のお話。雫は聖司を失ってしまう、という夢を見る、ちょっぴり不思議な物語。これも雫の物語の1ページになるのかな?
主人公・沢渡香澄は内気な中学生。むかーしむかし「すすき野原の男の子」からもらった星のかけらを後生大事に持っている、そんな女の子。香澄と親友の真理子&沙樹、久住君に白石君。女3人男2人での恋人争奪戦、というと聞こえが悪いけど、このままどつぼにはまります。
親友同士で同じ人を好きになるってのは悲劇だね、ほんとはみんなとっても仲良くしたくって、大切に思っててさ。言いたいことも言えないなんて………。僕は「恋愛ゲーム」みたいなヤツは嫌なんです。でもこれはそんなんじゃなかったと思う。なんでやろ。ところで、3対2だから、女の子は1人あまるよね。そこで登場するのが日野君って男の子なんだけど、ちょっとおいしすぎるぞ。大穴がひとつ。ところどころにあるコラム。こいつはなかなか「グッドです」。
ENGAGEでは、いろんな出来事がみんな落ち着いて香澄も大学生になってます。「時が移り変わっても、2人の想いは変わらない」そんな感じが、いいんだなぁ。
ひょんな事から出会った琴子&海。海くんはピアノが上手くって、彼の弾く「トロイメライ」って曲と、2人を取り巻く人々の恋の物語といったところです。恋愛に障壁はつきものとはいえ、2人を待っていた運命は・・・。
ピアノをちょっとでもかじったことある人だったら、やつらの気持ちがわかるかも。音とか気分とか、そんなところに「人」が見えてしまうから。どうでもいいけど、登場する男性キャラがなんかみんなかっこよすぎないか?交錯するみんなの想い、こいつだけはどうにもままならないものですねぇ。でもね、想った分だけ人は強くなれる、これだけは確かみたいです。
ここまで見てきた22冊の柊ワールド。まあこれだけいろいろ読んでみますと、ある程度の決まったパターンもあるんですね。ここからは、そんなところに目を向けてみることにしましょう。
少女漫画においては、おそらくほとんどの場合で♂と♀は相思相愛なんです。運命の赤い糸、憧れの彼を窓辺で見つめる少女の瞳、「第一印象から決めてました」まで、女の子がどんなに彼とは不釣り合いだと思おうと、想われるてる男の子はずっと前から彼女のことが好きだった、何にかえても。
そんな二人の恋の障害になるのは、住む世界の違いとか超お嬢様のライバルだったりするのだけど、柊ワールドでは必ずしもそうとは限らない。こいつらの障害は「自分の心」。大切な人のために自分が犠牲になっても………という考え方が、結局彼との間に誤解を生んでしまう。「何まごまごやってんだ。とっとと好きって言っちまえよ」って人にはまどろっこしくてしょうがない。でもそれがなければ単なる告白漫画になっちゃうしね。ま、ここは暖かい目で二人を見てやって下さい。そうすればあなたも立派な柊ワールドの住人。
少女漫画ではとかく一番最後のステップであります「告白」。みつめあう二人。「私ずっと前からあなたのことが好きだったの」「僕もさ」。それがたとえどんなに悲劇的なストーリーだったとしても、それが少女漫画である限り、二人の愛は成就するんです。たぶん。そして二人は幸せな生活を送ると。
だけど、柊ワールドでは必ずしもそうとは限らない。なんて言うのかなぁ、「告白」っていう言ってみれば儀式みたいなものの中で、二人はある「覚悟」を問われてるんだよね。ただ幸せなだけじゃ終わらない、そんな気がします。
まだまだいろんなところで「これは」ってのがあります。例えばね、冬とか夜とか、なんか寒い時間帯のお話が多いと思いませんか?
どうしてこんなにも柊ワールドに惹かれたんだろう。そりゃ人それぞれ、場合によっちゃあ「香住ちゃんがかわいいから!」なんて人もいるんだろうね。僕はね、柊ワールドの住人が「決して素直じゃないにしろ、みんなまっすぐ生きてる」ってことかな。なんか「こいつとことん嫌い」って奴いないんだな、これが。「そんなのありっこない」世界、柊ワールド。そして少女漫画。いい歳こいていったいなにやってんだろう、私。お話の中の恋愛なんかにどきどきしちゃってさ。でもね、最後に一言。
恋愛ってのはなぁ、いくつか困難があるくらいがちょうどいいのさ………
僕もそうですが、映画「耳をすませば」が柊ワールドとの初コンタクトという人も多いはず。しかし正直言って映画「耳をすませば」は宮崎さんが絵コンテをきってるという時点で「原作改変は必至」(^^;というのは世の常で原作と若干違う味付けがなされています(「結婚してくれ」...はちょっとね)。
けれども映画を作る時に考えたかどうかは知りませんが、そのモチーフは他の柊作品に結構みられるんですね。うーむ、ちょっと驚きでした(^^;。
「耳をすませば」でも朝焼けの空に向かって、なんて感じですが、「星の瞳のシルエット」では満点の星の下とかすすき野原とか、なかなか圧巻。やはり女の子は誰しもお姫様。口説くには雰囲気作りが重要です。
「銀色のハーモニー」では女の子は図書委員だったかな。やっぱ文学少女でないとね。
「銀色のハーモニー」に出て来る男の子はピアノだかが出来る。最後にはウィーンに留学してしまうのだった(おお何たる類似...とか(^^;)。
「星の瞳のシルエット」で、最後にすすき野原に女の子を連れて行くのは、やはり自転車なのでありました。