「太陽のくに」
    エヴァ・アスムセン=作 枇谷玲子=訳
                  2010.12、 金の星社  
                   


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 一読後「太陽のくに」とは何だったのかの疑問。(あの悲惨な境遇の国を「太陽のくに」と呼べるのか。)主人公―「ジャップ(p、279)=日本人?」―がさまざまな試練を乗り越え、人と出会い、別れて得たものは何か。「ふかふかのベッド」に象徴されるデンマーク=白人社会こそ「太陽のくに」ではなかったのか。有色人種の主人公は白色人種のデンマーク人に育てられて幸福なのか。
 12歳の子どもにとって、白人に性を売り物にするのが「太陽のくに」だったのか?そこに住む人びとにとって性を売ることによってしか生きられない「くに」になる。そんな「くに」のあることを知らせるレポート?。―「著者紹介のことば」にある「精神的にも物質、安全面においても恵まれている環境を、当然のことのように受け止めているデンマークの子どもたちに警鐘を鳴らしたい」意図にそった作品―
 主人公が体験する悲惨な境遇の描写が作品全体の流れに対応していない感がある。
シャロッテのおかあさんがいうセリフに「あんたなんか、おろせばよかった」p、150やカイの「わたしは君と同じで、ノーマルなんだ。女の子のほうが好きなんだよ」p、256 のセリフは子ども読者にどう伝わるのだろうか。
 スリリングな場面はおもしろいが、それぞれの挿話が全体のストーリーに絡んでいない感がある。
 帯にある「想像を超えた過酷な環境のなかで、出会った人たちはみな輝いていた。力強く生きていた。どんな人にもどんな時にも、太陽は平等にふりそそぐ「このくに」で。」はちょっと違うなあと言うのが率直な感想

 
2011・1・22  大藤 幹夫

どちらが太陽のくに?   

 
主人公の少年ラスムスはアジアの発展途上国から養子にもらわれてデンマークで暮らしている。肌の色のことで友だちにからかわれて嫌な思いをすることもある。
 最初は人種差別がテーマかと思ったがそうではなかった。
 はじめてラスムスが見た自分が生まれた国、太陽のくにはどんなものだったのか。
 銃を持った警官や警備員が守るホテル。路上にあふれるストリートチルドレン。不潔なスラム街。手当たり次第人のものを盗む人たち。
 そのような中で地震が起こり、ホテルから出たラスムスはヨーロッパから来た旅行者という特権を失い、現地人の中に紛れその中で生きなければならなくなる。
 ラスムスはその状況の中でどうしてまず親を捜さなかったのか説得力がなかった。
 次に、やたら自然の中でのサバイバル、冒険が続く。作者は何が書きたいのかこのあたりで疑問が湧いてきた。
 そして、厳しい自然の中での半原始的な暮らしをする集落。そこで親切にされるわけだが、一番弱いものに食べ物を与えずに先に死なせるという風習など現実にあるにせよ、なぜここで書く必要があったのか理解できない。
 ふたたび町へ来ることができたラスムスは粗末な小屋に住む少女とその弟の世話になる。少女は売春をして弟の面倒を見ていた。
 やがてラスムスはいっしょにこの国へ旅行に来た男と出会ってデンマークへ帰ることができる。
 ここで疑問に思ったのは、「太陽のくに」とは一体何だったのか。ラスムスが生まれた国だがこの本の帯によると、「ふかふかのベッドも、冷えたコーラもないけれど、今日も太陽がふりそそぐ。ここは太陽のくに」とある。
 貧困と飢え、あふれるストリートチルドレン、銃を持って観光客を守り、自国の子どもと見ると足蹴にし、話も聞こうとしない大人たち。
 ラスムスが誇れる太陽のくにとはとても思えない。
 しかし、この本を読み終わって巻末の作者のプロフィルを読んではじめてその意図を知ることができた。
 作者は「精神的にも、物質、安全面に置いても恵まれた環境を当然のように受け止めているデンマークの子どもたちに警鐘を鳴らしたいとの思いから描かれた」そうだ。
 太陽のくにはデンマークでラスムスの生まれたアジアのくには地獄だと言うことだったのだ。
 それなら、生まれた太陽のくにから帰ってきたラスムスはどう折り合いをつければいいのだろう。予想通り最後に彼は太陽のくにで出会ったよい人たちを誇りに思うことで終わっている。生まれた国の現状をどうにかしたいという発想には絶対にならなかったのだ。なぜなら、そこはデンマークの子どもたちが今の状況をありがたいと思い、維持し、感謝し続けるための反面教師として存在する必要があるからだ。
(信原和夫)

『太陽のくに』

 
太陽の国(アフリカ?)からデンマーク人に買われてやってきたラスムス少年の話。茶色の肌、つり目、黒い髪をしたラスムスはいじめられて母国に行きたいと願っていた。その夢がかないデンマークの父たちとともに旅たつ。とことが地震にあい、父たちとはぐれ、ストリートチルドレンになったりして、現地人に救われたり、 手助けをしたりする。数ヶ月後に一家をガイドしてくれた男に出合い、やっとデンマークの家と連絡がとれる。  ラスムスが出会う苦労話は退屈だが、食べ物を奪い合う暮らし、人身売買、人種差別など社会問題を多く盛り込んでいて、読んでいてカルチャーショックを受けた。(向川幹雄)