評価 ☆☆☆☆☆
感動 ☆☆☆☆
面白さ ☆☆☆☆
ほんとうの空色 バラージュ・ベーラ 岩波書店 2001.8.17
清冽なファンタジー
登場人物に貧しいカルマール・フェルコー、金持ちで横暴ないじめっ子チェル・カリ、感性豊かでまるで別世界に住むような憧れの美少女ダン・ジョジュ。物語にもよくあるし、現実にもいくつもあるこの図式を作者は過不足なく見事に書き上げた。この中に作者はフェルコーが用務員の不思議なおじさんに教わって作り上げた「ほんとうの空色」を投げ入れ、物語は激しく動き始める。
この、塗るだけで青い色がほんとうの空になってしまうというアイデアは素晴らしい。この強烈なイメージは急転する物語の行方をも忘れさせてしまうほどの鮮やかさである。 そして、少しずつ失われていく「ほんとうの空色」はついにフェルコーの半ズボンの一滴のみとなるが、こだわっていた半ズボンを脱ぎ去ったとき、彼はジョジュの瞳の中にその空色を見つける。
フェルコーにとって「ほんとうの空色」とは何だったのだろう。
子どもたちにとっては何物にも代え難い大切なもの、それが徐々に失われ、それを自ら放棄したとき、新しい世界(青春時代)へ一歩踏み出したということだろうか。
作者は映画人であり、詩人であるという。
この作者が作り出した「ほんとうの空色」のイメージは鮮やかに視覚的で美しく、動的で自然そのものの危険をはらんでいる。児童文学史上特筆すべきファンタジーの金字塔であるといえよう。
また、この物語の最後にフェルコーがジョジュの瞳に見いだした「ほんとうの空色」をいつまで見続けることができるのか、その危うさ、もろさを予感できることが単なる不思議な物語を超える深さを示している。