評価  ☆☆☆
感動  ☆☆☆
面白さ ☆☆☆
おさるのまいにち   いとうひろし      講談社 1991.5.20初版

大人のための癒しの文学?

お話


 ぼくは南の小さい島にすむおさる。
 おひさまかせのぼるとめをさまし、おしっこをし、ごはんをたべる。それから、けづくろいをし、かえるなげをし、水あびをし、よるになるとねむる。つぎのひも、つぎのひも。
 一年に一度、うみがめのおじいさんがやってくる。
 うみがめのおじいさんの話を聞こうとみんな集まってくる。
 うみがめのおじいさんに大きな船に頭をぶっつけた話を聞いてみんなびっくり。そして、うみがめのおじいさんは海へさり、また、いつもの毎日がはじまる。

評価・感想


 ちょっと書評の書きにくい作品である。絵本ということだが、絵はよくわからないので、感想から省きたい。
 のんびりと大自然の営みの中で、自然と同じように時間が流れていく。眠ること、食べること、排泄すること、遊ぶこと。たまに非日常的な海がめのおじいさんの話を聞き、わくわくすることもあるが、海がめのおじいさんが海に帰ってしまうと、また、日常の繰り返しにもどる。
 わたし達の暮らしそのものであるようで、また、わたし達の暮らしではないようでもある。

・こういうのっていいよねえ、ということがひしひしと伝わってきます。赤木かん子

・日常の中にある物語という非日常  甲木 嘉久

という評もあるが、作者は幼い読者に何を伝えようとしたのだろうか。哲学的に考えれば、人間の営みの全てをデフォルメして示して見せたのか、あるいは文明社会にない自然の中にある本来の人間らしい生活を垣間見せてくれたのか、どちらともきめかねる。
 ただ、大人の読者としては一種の癒しを受けるというということもあるだろう。
 幼い読者としては「かえるなげ」をイメージしてやってみたいと思ったり、海がめのおじいさんの話におどろくさるたちに、おどろくといったところだろうか。
 しかし、ぼんやりと人間の営みの根源のようなものを感じ取る意味では象徴的な作品ではある。もし、読者である幼い子供たちの潜在意識の中にその記憶が残されているなれば、いつの日にか人間とは、人生とは、真実とはと、考えるときに甦って、その意味を問いかけるかもしれない。しかし、現段階では「こんなのっていいよね」ということで終わってしまうのではないだろうか。