評価   ☆☆☆☆
感動   ☆☆☆☆
面白さ  ☆☆☆☆
暗闇で生まれた友情?

あらしのよるに
       木村裕一     1994年 第一巻初版  講談社

お話


第1巻  あらしのよるに
 あらしのよる、洞窟に難を逃れたヤギとオオカミが、相手を沿うとは知らず友情をいだき、再会
を約して別れる。
第2巻 あるはれたひに
 再会したヤギのメエ、オオカミのカブは驚くが友達になる。カブは楽しく過ごしながらも、メエを食
べたい誘惑と戦う。
第3巻 くものきれめに
 ともだちとして会ったメエとカブはお互いをその仲間から隠すために苦労する。
第4巻 きりのなかで
 メエとカブが親しいことが他の仲間たちにも知られて、お互いの様子を探るスパイの役を押し付
けられる。
第5巻 どしゃぶりのひに
 メエとカブはお互いに裏切り者の汚名を着せられていっしょに逃げる。追いつめられた2匹は滝
つぼに飛び込む
第6巻 ふぶきのあした
 助かった2匹は新しい緑の森を目指す。しかし、オオカミの追っ手が迫り、カブはそれを止めよ
うとしていっしょに雪崩に巻き込まれて死ぬ。あらしがあけると、メエはかなたに緑の森がある
のを見つける。

評価・感想

あらしのよる、雷鳴、稲妻が苦手なおおかみのカブと、やぎのメエが同じ洞窟に難を避け、お互いに相手がだれだかわからないまま会話を交わし、わからないままに再会を約して別れるというのが物語の発端………というより第一巻のあらましである。

当初、物語は続編を書く予定がなかったのでこれで終わりのはずであった。再会を約した両者がどうなったかは読者の想像に任されたわけである。
しかし、同書は第26回講談社出版文化賞、第42回産経児童出版文化賞JR賞などを受賞し、読者の強い要望等があって2年後続編が書かれることになった。結局、続編と合わせて現在6巻が刊行されている。したがって、作品のテーマは第一巻とそれ以後に刊行されたものとでは大きく変化している。

第一巻では暗闇の中で恐怖と、孤独感を共有する連帯感を感じあいながら、カブとメエ(このときはまだ両者とも名前は与えられていない)は相手を知り、理解したつもりで全く違うイメージをお互いの中で作り上げていく。折角、稲妻が相手の姿を照らしてもそれを見ようとしない。その状況を読者ははらハラハラドキドキしながら読み進めていく。

それぞれの誤解の上に立った連帯感と親近感(友情と呼ぶべきだろうか)を感じながら、2匹は再会を約して別れる。ここでは作者は読者に甘い解決を予測させていないし、よりシビアな結末を示唆しているというべきだろう。

第2巻以後の続編は(続編の宿命とも言えるだろうが)一転して、2匹がこの洞窟で生み出した友情をさまざまな障害を乗り越えて、あらゆる犠牲を払い守り続けていくというものになっている。その中で、友情とは、仲間とは、弱肉強食の掟(食物連鎖による生態系)とは、真実とはと作者は語りかけていく。波乱万丈の物語の展開の中で、確かにこの物語は幼い読者に強烈な印象を与えるであろう。読み聞かせ、演劇化が盛んなこともうなづけることである。しかし、彼ら2匹が守り続ける友情の本質を最初の洞窟に帰って見直してみたときに、これが破綻する以外に道はないことは直感せざるを得ない。

作者はカブがメエを食べるのではなく、メエを守るためにメエを追ってきた仲間のおおかみたちと雪崩に巻き込まれて死ぬという結末を選んだ。(もっとも、次の続編を可能にするためにその死を曖昧にしたのかどうかは知らないが)その、突き放したような乾いた文体と、文章のイメージを見事に表現した挿絵ともども、幼年文学としては高く評価したい作品ではあった。

評価としては無関係だが、箱入りで、全6巻6000円の定価は個人としてはちょっと買いづらい価格であるのは残念な気がする。