評価  ☆☆☆☆
感動  ☆☆☆☆
面白さ ☆☆☆☆
シカゴより好きな町     リチヤード・ベック     東京創元社   2003.9.10
                     斉藤倫子訳

痛快!おばあちゃん大活躍

お話


 15歳のメアリ・アリスは父が失業したことからしばらくいなかのおばあちゃんの家で過ごすこと
になる。
 このおばあちゃんがすごいおばあちゃんで、すぐにショットガンをぶっ放すということで町中の
人に一目置かれている。
 まず、天候第一日目にアリスに目をつけたいじめっ子を完膚無きまでやっつけてくれる。そし
て、おばあちゃんは悪たれ小僧をぎゃふんと言わせ、名士夫人の偽善を暴くなど敵なしの大活躍。
アリスも自分の足でしっかり立てるようになっていく。
 なんといってもこの魅力的なおばあちゃんのキャラクターが素晴らしい。

評価と感想

 不況で父が仕事を失った15歳のメアリ・アリスが一人でいなかのおばあちゃんの家に行き、
そこでの暮らしを描いた物語である。
 このおばあちゃんがすごい。すぐに銃を持ち出してぶっ放すということで町のみんなにおそれ
られている。その上生活力がたくましく、男顔負けで正義感が強く上辺だけを飾った偽善者に
は徹底して追及の手を緩めない。この書の主人公はまさしくこのおばあちゃんであるといえよう。
 独立してだれの手も借りずに生きていくたくましさは現代の女性像そのものである。
 それに反して一人称で書かれていながら都会からやってきたメアリ・アリスについてはその印
象が希薄である。学校でのいじめ、その他の危険はすべておばあちゃんが強烈な方法で解決し
てくれて受け身のままである。転校してきたハンサムなロイスに勇気をふるって話しかけたこと
が積極的な行動といえるだろうか。
 親から仕事が見つかったからシカゴへ帰ってこいと手紙を受け取ったとき、メアリは「おばあち
ゃんとここにいたい」という。タイトルは『シカゴより好きな町』だが、別にこの町や自然が好きに
なったということではなく、おばあちゃんへの愛情が強くなったということである。特に人情厚い
町でも美しい自然ともいえない。やはり人と人の愛情が問題ということか。
 この作品は1999年に発表された『シカゴよりこわい町』の続編だということだが、この現代に
書かれた物語に、いじめっ子に裸足で8キロもの田舎道を歩いて帰らせたり、「あの家はみんな
泥棒ばっかりさ」といわせたり、名士の夫人に 親たちが刑務所に行っていたと暴露したりするな
どはどうかなという気はした。
 すべて物語の1930年代の価値観で書いていいのか多少気になった。
 ストーリーは痛快で面白いはずなのに、読んでいるときはあまりそのように思えず、読み辛か
ったのは翻訳のせいか、原文の文体のせいだろうか。こどもの読者の感想も聞きたいところで
ある。
 また、結婚して、そのあと幸せに暮らしましたというのはちょっと古いタイプの終わり方のように
思えた。