評価  ☆☆☆☆
感動  ☆☆☆☆
面白さ ☆☆☆☆
バドの扉がひらくとき   クリストファー・ポール・カーティス 徳間書店  2003.3.31
                     前沢明枝訳

世界名作のリメイク
お話

 1930年、大恐慌のアメリカミシガク州フリント。6歳の時にままを亡くしたバドは施設から里親に預けられ
るがそこでひどい目に遭い、逃げ出すとまだ見ぬ父を捜すことにする。バドはママが大事にしていた楽団の
チラシに写っているバンドリーダーが自分の父親だと信じていたのだ。そして、浮浪者キャンプで助けられた
り、真夜中にトラックの運転手に助けられたりして、父がいると思われるグランドラピッズにやってくる。そし
て………

評価と感想


 孤児院にいた孤児の主人公がまだ見ぬ父、母、祖父母を捜して各地を彷徨いあらゆる苦難を持ち前の純
真な明るさ、機転で乗り切っていく。そして最後に上流階級の豊かな家の息子、孫であることが判明し幸せ
になる。
 これはかつての世界名作のパターンである。この作品はその現代版と言っていいだろう。悲惨な環境にあ
る明るく純真な子どもの波乱に満ちた行動は読者の共感、同情を得て、最後のハッピーエンドには感動を覚
えずにはいられない。
 作者はこれを1930年代のアメリカに描いて見せた。この恐慌時代のアメリカの裏面と楽天的なアメリカ人
気質、黒人差別の実態をかいま見てそちらの方が興味深かった。また、養護施設と里親制度の実態は現代
にも残っていそうな気がする。
 作品としてはわざわざ1930年代にする必然性もないし、テーマも使い古されたもので現代に通じるものも
ない。作者が黒人だけにミュージシャン=スター=人生の成功者=金持ちの図式が非常に明瞭である。こ
の主人公バドもその一員になるだろうという幕切れであった。
 おもしろかったのは主人公のバドが何かのおりに持ち出す人生訓のようなもの。もっともこれは大人が面
白がるだけかもしれないが。
 やはり最後に「バドの扉がひらくとき」バド自身がその扉を開いたのかどうか疑問が残った。青いビラ、数
字を書き込んだ小石を後生大事に持ち続けていたことが扉を開くキーであったことは確かだが。ストーリー
は面白く読めたがやはり単なる世界名作のリメイクに過ぎないというのがこの作品の評価である。