第32回ほのぼの童話館佳作入賞作品

      不思議なパンフレット

「はい、落ち込んでいるきみ」
 商店街のはずれで友だちと別れたぼくは、派手なかっこうのピエロにパンフレットを押しつけられた。
 見ると、カラフルな表紙に 『世界の秘境・スリル満点の旅スペシャル』と真っ赤な大きい文字が印刷してある。
「旅行でもして気分を直してね」
 ピエロは真っ赤な唇をぱくぱくさせていうとぼくに背を見せていってしまった。
 ぼくのパパは勤めていた会社が倒産して、毎日求職活動をしていて、いまはとても旅行なんかできる状況ではない。
(まあ、写真だけでも見て、楽しもうか)
 家へ帰るとパパはビールの大ビンを開けて一人で飲んでいた。ママがぶすっとした顔で食器を並べている。
 ぼくがテーブルの上でパンフレットのページを開くと、パパとママもぼくの手元をのぞき込んだ。さいしょのページには『ケニアのサファリを行く』とタイトルがあり、気球からサファリの動物たちを見下ろした大きい写真が載っていた。
「あっ、これ見て!」
 ぼくは思わず声を上げた。写真のキリンたちが走り始めた。そのとたん、部屋が、いや、気球がぐらっと揺れ、顔に乾いた風が吹き付けた。
 ぼくたちは本当に気球に乗ってサファリを見下ろしていた。
「いったいどうなっているの!」
 ママが悲鳴を上げた。
 パパもびっくりして目を飛び出さんばかりにしている。そのとき、どうしたのか、気球が急にどんどん下に降りはじめた。あっという間に地面が近づいてくる。
 とうとう気球は草原のまんなかに不時着してしまった。
 ぼくたちに興味を持ったのか、何頭かのライオンがやってきて、ゴンドラに足をかけたりしている。
「パパ、何とかして!」
 ママが震えながらいった。
 ぼくはそのとき、手に持っていたパンフレットに気がついた。
(そうだ。このパンフレットのせいなんだ) ぼくはでたらめにパンフレットのちがうページを開いてみた。
 すると、次の瞬間、ぼくたちは大きい川の岸に立っていた。後ろを向くと緑の海、うっそうとしたジャングルが広がっている。
キキキ、グワッ グワッ グワッ
 知らない鳥や動物の鳴き声が聞こえてくる。
「なんだ。こんどはどこに来てしまったんだ」
 パパはきょろきょろ辺りを見回した。
 突然、「はい、落ち込んでいるきみ」
 商店街のはずれで友だちと別れたぼくは、派手なかっこうのピエロにパンフレットを押しつけられた。
 見ると、カラフルな表紙に 『世界の秘境・スリル満点の旅スペシャル』と真っ赤な大きい文字が印刷してある。
「旅行でもして気分を直してね」
 ピエロは真っ赤な唇をぱくぱくさせていうとぼくに背を見せていってしまった。
 ぼくのパパは勤めていた会社が倒産して、毎日求職活動をしていて、いまはとても旅行なんかできる状況ではない。
(まあ、写真だけでも見て、楽しもうか)
 家へ帰るとパパはビールの大ビンを開けて一人で飲んでいた。ママがぶすっとした顔で食器を並べている。
 ぼくがテーブルの上でパンフレットのページを開くと、パパとママもぼくの手元をのぞき込んだ。さいしょのページには『ケニアのサファリを行く』とタイトルがあり、気球からサファリの動物たちを見下ろした大きい写真が載っていた。
「あっ、これ見て!」
 ぼくは思わず声を上げた。写真のキリンたちが走り始めた。そのとたん、部屋が、いや、気球がぐらっと揺れ、顔に乾いた風が吹き付けた。
 ぼくたちは本当に気球に乗ってサファリを見下ろしていた。
「いったいどうなっているの!」
 ママが悲鳴を上げた。
 パパもびっくりして目を飛び出さんばかりにしている。そのとき、どうしたのか、気球が急にどんどん下に降りはじめた。あっという間に地面が近づいてくる。
 とうとう気球は草原のまんなかに不時着してしまった。
 ぼくたちに興味を持ったのか、何頭かのライオンがやってきて、ゴンドラに足をかけたりしている。
「パパ、何とかして!」
 ママが震えながらいった。
 ぼくはそのとき、手に持っていたパンフレットに気がついた。
(そうだ。このパンフレットのせいなんだ) ぼくはでたらめにパンフレットのちがうページを開いてみた。
 すると、次の瞬間、ぼくたちは大きい川の岸に立っていた。後ろを向くと緑の海、うっそうとしたジャングルが広がっている。
キキキ、グワッ グワッ グワッ
 知らない鳥や動物の鳴き声が聞こえてくる。
「なんだ。こんどはどこに来てしまったんだ」
 パパはきょろきょろ辺りを見回した。
 突然、
「ギャーッ」
 ママがものすごい悲鳴を上げた。
(もう、大げさなんだから)
 


そう思ったぼくも、ママの指さす方を見て声が出なくなった。
 何匹ものワニだ。川からはい出してぼくたちの方に迫ってくる。それもなかなかのスピードだ。
「逃げろっ!」
 怒鳴ったとたん、ぼくは足がもつれて転んでしまった。あっという間に一匹のワニがぼくの目の前で大きい口を開いた。あわてて横に転がって身をかわす。しかし、ぼくは大変なことに気がついた。
 ワニの口にパンフレットが!ぼくたちは帰れなくなってしまう。
 また、ワニが大きい口を開いた。口の中にパンフレットがあるのが見える。
 すると、吹いてきた風でパンフレットの表紙がパタンと閉じた。
 気がつくと、ぼくたちは自分の家の居間に帰っていた。しかし、困ったことにワニもいっしょに居間にいるではないか。
 どうしよう。このままワニも家族の一員にするわけにはいかない。
 そのとき、パパがいきなり、ワニの開いた口にビールビンでつっかい棒をした。ぼくはそのすきに、素早くワニの口の中からパンフレットを回収。そして、ワニの方に向けてパンフレットを開いた。
 ワニは魔法のように消えてしまった。
ぼくが開いたパンフレットを斜め上からそっとのぞくと、ジャングルの間を流れる川を泳ぐワニがちらっと見えた。
「パパ、これを見て」
 ぼくはパンフレットの裏に書いてある記事を見つけてパパに見せた。パパはその記事を見てニッコリ笑った。
「うん、早速あした行ってこよう」
 記事は『社員募集!あなたの夢を実現するドリーム旅行社』だった。
 そして、その横にはウインクをしている、あのピエロの顔があった。

「ギャーッ」
 ママがものすごい悲鳴を上げた。
(もう、大げさなんだから)
 そう思ったぼくも、ママの指さす方を見て声が出なくなった。
 何匹ものワニだ。川からはい出してぼくたちの方に迫ってくる。それもなかなかのスピードだ。
「逃げろっ!」
 怒鳴ったとたん、ぼくは足がもつれて転んでしまった。あっという間に一匹のワニがぼくの目の前で大きい口を開いた。あわてて横に転がって身をかわす。しかし、ぼくは大変なことに気がついた。
 ワニの口にパンフレットが!ぼくたちは帰れなくなってしまう。
 また、ワニが大きい口を開いた。口の中にパンフレットがあるのが見える。
 すると、吹いてきた風でパンフレットの表紙がパタンと閉じた。
 気がつくと、ぼくたちは自分の家の居間に帰っていた。しかし、困ったことにワニもいっしょに居間にいるではないか。
 どうしよう。このままワニも家族の一員にするわけにはいかない。
 そのとき、パパがいきなり、ワニの開いた口にビールビンでつっかい棒をした。ぼくはそのすきに、素早くワニの口の中からパンフレットを回収。そして、ワニの方に向けてパンフレットを開いた。
 ワニは魔法のように消えてしまった。
ぼくが開いたパンフレットを斜め上からそっとのぞくと、ジャングルの間を流れる川を泳ぐワニがちらっと見えた。
「パパ、これを見て」
 ぼくはパンフレットの裏に書いてある記事を見つけてパパに見せた。パパはその記事を見てニッコリ笑った。
「うん、早速あした行ってこよう」
 記事は『社員募集!あなたの夢を実現するドリーム旅行社』だった。
 そして、その横にはウインクをしている、あのピエロの顔があった。

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