研究会の概要
これまでの研究会活動
現在の「摩耗研究会」は,いまから40年以上遡った1968年,曽田範宗先生を部会長とする「摩耗研究部会」として設置されたのが始まりである.同部会発足の翌年には,大阪において「第1回摩耗シンポジウム」が開催され,以後,1978年までの10年間に毎年シンポジウムが開かれている.その記事をみると,パネルディスカッション(司会:佐田登志夫)では,摩耗研究の本丸ともいえる摩耗機構について熱の入った討論の様子が手に取るように読みとれる.その間の1976年に「摩耗研究会」となり現在に至っている.
摩耗研究会はこうして40年を越える研究会活動を続けているにもかかわらず,依然として摩耗の問題の種は尽きない.ときには,摩耗の機構,研究者間の抱える問題点の討論と解決法の議論,さらに摩耗データの収集と解析など,多岐にわたるテーマを議題として活動が展開されてきた.
トライボロジーにとって,20世紀がめざましい発展を遂げた100年であったことは言うまでもない.Lord Reyleigh, W.B.Hardyらによる固体の界面化学的性質の解明.R. Holmによる固体接触の概念の確立.凝着摩擦の本質的解明はF.P. BowdenやD. Taborらと続き,摩耗においてはA.Archard, J.K.Lancaster, E.Rabinowiczら,わが国では大越,佐田,笹田らによって,最も厄介な摩耗機構の解明が続いた.この間に「摩耗研究会」の果たした役割も多大であった.
21世紀の研究会活動はこの20世紀の遺産を引き継いで行われることになるが,摩耗を取り巻く条件の多様化はさらに加速することになろう.
そのひとつは,摩耗をみるレベルがより小さくなることである.20世紀の摩耗研究の多くが機械と密接に結びつくミクロン以上の領域をその中心に据えていた.摩耗の機構的解明においても,アブレシブ摩耗,凝着摩耗にそれぞれの機構が提案され,現象の基本的な面は比較的マクロなレベルでの解明が行われている.その意味では,21世紀の摩耗の研究は,従来のマクロな領域からミクロな領域,そしてそれらを結ぶ領域での現象的,理論的解明がなされる方向にあるとみられる.20世紀の摩耗の概念を象徴する用語に,「マイルド摩耗」と「シビア摩耗」がある.21世紀では,新領域の摩耗概念を代表する新しい用語がこれらに変わって登場し,闊歩するのではなかろうか.
もう一つの特徴として,摩耗をとりまく環境がきわめて多岐にわたることがある.通常の機械の乾燥および潤滑下の摩耗は言うに及ばず,たとえば,特殊な物質雰囲気中の摩耗.極限に近い条件下の摩耗.あるいは,人間や生物の体内での摩耗,等々.そして,それに対応して出現する新たな摩擦材料の摩耗が,それぞれの特殊性を含んだ問題として提起されることが予測される.これらの解決にあと何年の歳月が必要であろうか.
現在,40名を越える委員の皆様とともに摩耗研究会は活動を続け,トライボロジーの発展にお役に立てることを期待して止まない.