国会議員への要望書
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平成16年2月吉日
御中
新しい教育制度を考える市民の会
初等中等教育の制度改革を求める要望書
− 「多様な学校づくり」をめざして −
この度、私たちは、初等中等教育レベルにおいて「多様な学校づくり」を実現するため、現行制度の改革を求める要望書をまとめました。
今日、教育に対する国民の考え方やニーズは著しく多様化しています。これに対し、教育を提供する側でも、既存制度の枠を超えて「教育の多様性」を求める動きが盛んとなっており、NPOや有志の教員などが、新しい取組や運動を全国各地で展開しています。
しかし現在、教育の多様性の大前提となる「多様な学校づくり」は非常に厳しい状況にあります。例えば、構造改革特区制度では、「不登校児等」に限らない一般児童も対象としたNPO法人立学校や、小中学校レベルでの「公設民営型学校」は、全く認められていません。こうした学校は、文科省下の中央教育審議会が昨年12月に出した中間答申でも認められず、今年3月に出される最終答申でも同様の結論が出ることが確実視されています。このままでは、日本の社会において、教育の多様性が損なわれてしまう事態は避けられません。
私たちは、これらの学校には、その期待される教育効果と民間での長年の実績から、標準的な教育(主に公立学校)と同様の「公益性」が十分にあると考えます。多くの先進諸国では、「学校設置の自由」が幅広く認められ、多様な学校が数多く運営されているのが通例です。したがって、日本においても、こうした独自性の高い学校が正式に認められ、標準的な教育と相互補完して発展することにより、教育の多様性が実現されることを切に望みます。
当要望書と同様の意見書をすでに文科省及び中央教育審議会に提出しています。国会議員の皆様におきましても、当要望書をたたき台として、多様な学校づくりを実現するために、立法化も含めた必要な措置を是非とも取っていただけますよう、よろしくお願い申し上げます。
第1部 基本的な考え方
1 「多様な学校づくり」とは
(1)その意味は?
公立学校等の「標準的な教育を行う学校」とは別枠で、教育方法や運営などで独自性の高い学校を(数多く)作ることを認め、社会に存在する学校を多様化すること。ここでは「小学校・中学校」の義務教育レベルを対象とする。
ある調査によると、学校設置が容易な先進諸国では「標準的な教育」を行う学校(主に公立学校)に対し、「独自性の高い教育」(主に私立学校)を行う学校は1割前後である。少数派ではあるが、この1割が教育システム全体の柔軟性を保つのに寄与する。
(2)日本での実践例(独自性の高い学校)
不登校児童等を対象とした各種フリースクール、シュタイナーやフレネの教育を行う学校など。ただし、これらに限定せず、教育方法の独自性の高い学校を含む。
(3)メリットは?
○多様なニーズに速やかに対応できる
既存の学校が対応できない多様なニーズに、より迅速かつ柔軟に対応できる。
○教育方法の革新が容易である
既存の枠に縛られずに革新的な教育方法を開発・実践でき、その成果を広めやすい。
○社会を活性化できる
独自な教育を受けた人間が社会に適度な多様性と革新性をもたらし、社会を活性化する。
○受験競争を緩和できる(教育の価値観の多元化)
独自教育の中には人格面を重視するのも多く、教育観を多元化し、受験競争を緩和する。
2 現行制度の問題点
(1)学校としての正当性を得られない
現在草の根で運営されている私的な学校は、法規制によって正規の学校となっていない。そのため、学校運営が不安定なうえ、十分な社会的信用も得られていない。
(2)私学の設置が容易でない
現行で私立学校を設置するには、施設要件が厳しく財政負担も大きい。そのため、意欲と能力をもつ個人や団体が、経済力に関係なく学校を作るのは非常に困難である。
(3)教育内容で独自性が出せない
現行では、公私を問わず学校の教育内容には画一的な基準(学校指導要領)を課されているので、教育の多様性の前提である学校の「独自性」を発揮するのが難しい。
3 制度改革のポイント
(1) 上記の独自性の高い学校を、学校教育法1条にある学校と同等の学校として認定する。
(2) 正規の学校としての認定には、一定の要件を満たす必要があるが、「容易な設置」、「運営の自律性」、「自己責任」に重きを置くことを原則とする。
(3) 教育の独自性を重視する観点から、現行の学校法人とは別体系で法的措置を講じる。
(4) 教育の公共性、安定性・継続性を確保するため、「評価・点検」及び「セーフティ・ネット」の面で十分な配慮を行う。
第2部 具体的な要望(必要な法的措置等)
1 内容
多様な学校づくりは、1)私学型:NPO法人立学校、特区学校法人、株式会社立学校、2)自治体協力型:公設民営型学校(チャーター・スクール型。自治体が設置し、自治体以外の主体が運営を担う学校)の二つのタイプ(学校形態)によって実現する。株式会社立学校はすでに具体化されているため、特に以下を要望する。
(1) NPO法人、特区学校法人による学校の設置・運営の自由度をより高める。
(2) 「公設民営型学校」を義務教育(小中学校)レベルで認める。
以上の要望は、当面は、構造改革特区等を活用して現行法令に特例を設けることで実現をめざすが、将来的には、各学校形態に即して独自の法体系を整備することが求められる。
2 必要な法的措置
《私学型の学校づくり》
(1)対象(設置主体)
NPO法人、特区学校法人
(2)設置条件
施設・設備(特に校舎・運動場の面積)、所有資産などの設置条件を地域の実情に合わせて緩和することを認める。なお、NPO法人立学校が公立学校の廃校施設を借用する場合、当施設に要した国補助金の返還を自治体が国から求められないこととする。
(3)認可方法
市町村自治体が「地域教育審議会(仮称)」(地域住民の意思を踏まえた自治体の諮問機関)の答申に基づいて認可する。認可基準は、教育の独自性を尊重し、1)施設の衛生・安全、2)生徒の人権保護、3)一般の法律に反しない運営、など、最低限の教育条件に限る。
(4)教育内容
一般の法律違反とならない限りで独自の教育を認める。外部への情報公開を徹底する。
(5)校内運営
原則として各学校に任せる。入学対象者は「不登校生徒等」に限定しない。
(6)教員採用
学校側の判断に任せる。対象者を教員免許状保有者に限らない。
(7)財政措置
現行の学校法人と同様の「私学助成」及び「税制上の措置」を適用する。
《自治体協力型の学校づくり(公設民営型学校)》
(1)設置と管理(運営)
現行の「設置者管理主義」を離れる。自治体以外の主体による学校運営を可能に。
※設置者と管理者の権限・責任については下記の「(5)校内運営」を参照
(2)運営主体(申請者)の資格
「個人」または「団体」。ただし、以下の方法により「自治体による事前認可」が必要
(3)認可方法
申請者は自治体に運営計画を出し、一定期間の認可を受ける。認可主体は、自治体の下に設置される「地域教育審議会(先述)」とする。
(4)教育内容
多様なニーズに応える範囲で公立学校基準を離れることを可能に。地域教育審議会が教育内容に関する評価基準を設け、定期的に(事後)評価を行う。
(5)校内運営(権限と責任)
運営は学校側に任せ、責任も学校側が負うことが原則。ただし、学校事故等の賠償責任は自治体が負う。具体的な権限(責任)範囲は、自治体との間で事前に定めておく。
(6)教職員の人事
○県費負担教職員の任命・配置
公立学校の教職員(県費負担教職員)を一定数配置できるようにする。その際、教育委員会は学校側の要望を実現するよう最大限努める。なお、服務監督権は学校が持つ。
○県費負担教職員の人事異動
*設置申請者が県費負担教職員である場合
長期在任することを原則。
*公設民営学校に配置される場合
各教職員及び学校側の希望が活かされるように「特別な配慮」を行う。
*一般公立学校にもどる場合
学校側の同意が必要。ただし、本人の希望を優先。
○学校による独自採用
学校が必要とする人数の独自採用を認める。なお、同職員は、県費負担教職員と同等の待遇を受けるが、当校との雇用関係終了後に他の公立学校が雇用する義務はない。
(7)財政基盤の確保
原則として自治体が必要な経費を負担する。実情に応じて、保護者の負担を考慮した範囲での授業料徴収を可能に。
3 評価・点検とセーフティネット
(1)評価・点検
<私学型タイプ>
学校利用者による自己評価・点検を原則。前述の審議会も定期的な点検を行う。審議会の評価基準は、利用者の満足度、運営計画の実行度など多面的なものとする。
<自治体協力タイプ(公設民営型学校)>
地域教育審議会が定期的な評価・点検および認可期間終了時の審査を行う。評価基準は、認可時の運営計画の実行度、経営上の問題や予期せぬ弊害が発生していないかを中心とする。認可期間終了時の評価と審査の結果、問題が大きい場合、認可は更新されない。
(2)セーフティ・ネット
上記の学校から一般の公立学校へ生徒が移ることは可能。学校閉鎖時も、全国に張り巡らされた公立学校網が最低限のセーフティ・ネットとなる。転校生あるいは帰国子女と同様の処遇で対処できる。なお、同種の教育を行う学校が多数存在するようになれば、より被教育者側の利益に沿ったセーフティ・ネット構築が可能となる。
以上