中央教育審議会への意見書

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平成16年1月29日

中央教育審議会初等中等教育分科会 御中

 

新しい教育制度を考える市民の会

 

初等中等教育の制度の在り方に関する意見書

− 独自教育のための学校づくりをめざして −
 

 この度、私たち「新しい教育制度を考える市民の会」は、初等中等教育レベルにおいて「独自の教育」を十分に実現するために、その制度の在り方について意見を述べさせていただきます。

 今日、社会・時代の変化に伴い、教育に対する国民の考え方やニーズは著しく多様化しています。これに対して、教育を提供する側においても、数多くの新しい取組や運動が全国各地で展開されています。これには主に、既存制度の枠内でよりよい教育を求めるものと既存制度の枠を超えて「独自の教育」を求めるものがあります。今回、私たちは、後者の置かれている厳しい現状を踏まえ、特に後者について述べることにしました。

 独自の教育を行うには、そのための学校づくりが欠かせません。しかし、こうした学校は、その期待される教育効果とこれまでの実績にも関わらず、現在、日本では制度上の規制や不備によって実現に至っていません。

 私たちは、多数者のための標準的な教育(主に公立学校)を尊重しています。そして独自の教育も、標準的な教育とはその最終目的において同じであり、「公益性」を十分有していると考えます。そこで、「独自の教育を行う学校」が、法的にも正当性を持ち、両者が社会の中で共存し、相互に補完しながら発展していくことをめざしています。

 中央教育審議会及び文部科学省におかれましては、当意見書の趣旨をご理解いただき、それに基づいた教育制度改革を検討していただけますようお願い申し上げます。  

 

 

 

第1部      基本的な考え方

 

1 「独自の教育を行う学校」とは

 当意見書では「公立学校などの『標準的な教育を行う学校』とは別の制度的枠組で、独自の教育内容・方法によって独自の学校運営を行う学校」とし、小・中学校及び高校に相当する年限の教育を対象とする。日本で既に実践されている例として、不登校の児童等を対象とした各種のフリースクール、シュタイナー教育やフレネ教育の学校などが挙げられるが、これらに限定せず、広い意味で「独自性」を持つ学校も含むこととする。
 ちなみに、ある調査によると、学校設置が容易な先進諸国では「標準的な教育」を行う学校(主に公立学校)に対して、「独自の教育」(主に私立学校)を行う学校は1割前後にとどまっている。少数派ではあるが、この1割が教育システム全体の柔軟性を保つ役割が期待される。

 

2 「独自の教育を行う学校」の意義

 (1)多様なニーズへの速やかな対応

既存の学校が対応できない特別なニーズにより迅速かつ柔軟に対応できる。

(2)教育方法の革新

革新的な教育方法を開発・実践し、成果を広めることが容易である。

(3)社会の活性化

独自の教育を受けた人間が、社会に適度な多様性と革新性をもたらし、社会の活性化に寄与する。

(4)受験競争の緩和(教育の価値観の多元化)

 独自の教育法は、人格教育の面に重点があることが多く、教育の価値観を多元化し、受験競争の緩和につながることが期待できる。

 

3 現行制度の主な問題点

(1)厳しい設置基準

 現行の私立学校(学校法人)を設置するには、施設要件が厳しく、財政負担も大きい。意欲と能力をもつ個人・団体が、その経済力に関係なく、私学を通じて独自の教育を行うことが非常に困難である。

(2)正当性を持てない草の根の私学

 独自の教育を行う私的な学校は各地に草の根的に発生しているが、法規制によって(あるいは法規制を避けるために)「正規の学校」となっていない。そのため、運営が不安定なうえ、運営者及び在学者が十分な社会的信用を得られない。

(3)不十分な私学の独自性

 現行の私立学校は、教育内容等多くの点で公立校と共通の基準を課されており、私学の存在意義である「教育の独自性(自由)」が制度上十分に保障されていない。また独自性を発揮している学校も、法令逸脱との指摘を怖れてその成果を広めにくい。

4 制度改革の基本方針 

 
 (1)  「独自の学校を行う学校」を法律上の「学校」(学校教育法1条に挙げられる学校と同等の学校)として正式に認める。

(2) 
正規の学校としての認定には、法律上一定の要件を満たす必要があるが、「容易な設置」、「運営の自律性」、「自己責任」に重きを置くことを原則とする。

(3)  教育内容と運営の独自性を重視する観点から、現行の「私立学校(=学校法人)」とは別体系で法的措置を講じる。

(4)  教育の公共性、安定性・継続性を確保するために、「評価・点検」及び「セーフティ・ネット」の面で十分な配慮を行う

 

 

第2部 具体的な要請(必要な法的措置等)

                

1 「独自教育を担う学校」の在り方

 独自の教育を担う学校としては、すでに非公式に運営されてきた、もしくは、実現に向けた運動が盛んである学校(形態)が有力である。これらは、構造改革特区でも数多く提案され、その一部は認定済みである。具体的には以下の2つのタイプがある。

(1) 私学タイプ

NPO法人立学校、特区学校法人、株式会社立学校

(2) 自治体との協力タイプ

公設民営型学校(チャーター・スクール型)

   「株式会社立学校」については、すでに実現の具体的な方向性が打ち出されている。したがって、今回は、NPO法人立学校、特区学校法人、公設民営型学校(地方自治体が設置し、自治体以外の主体が運営を担う学校)を対象に、これらの学校の「さらなる充実」または「実現」を要請する。具体的な実現方法として、「独自教育型私立学校(仮称)」「公設民営型学校」の創設とそのために必要な法的措置等について以下に述べる。

 

2 「独自教育型私立学校(仮称)」の創設

 特区制度での「NPO法人立学校」や「特区法人学校」の自由度をより高めた学校(形態)として「独自教育型私立学校(仮称)」の創設を認める。これは、既存の私立学校(学校法人)に対して、「容易な設置」「運営の自律性」「自己責任」をより重視した私立の学校である。当面は構造改革特区等において、将来は独自の法体系整備によって、その実現を求める。なお、新しい私立学校法の体系の中に統一されることも可能である。

<必要な法的措置等>

(1)設置主体

    「NPO法人」または「特区学校法人」とする。

(2)設置条件

 施設・設備、所有資産などの設置条件を緩和する。特に、学校施設および運動場の面積基準の緩和が必要である。

(3)認可方法

 当該学校のある市区町村自治体が、地域住民の意思を踏まえた諮問機関として「地域教育審議会(仮称)」を設置し、その答申に基づいて認可する。

認可の審査基準は、当該学校の「教育内容の独自性」を尊重し、1)衛生・安全面で設備・体制が整備されているか、2)生徒の人権を保護する体制があるか 3)一般の法律に反しない運営が期待できるか等、最低限の教育条件にとどめる。

(4)教育内容

 独自の教育を一般の法律違反とならない限りで認める。教育内容は、外部に対し情報公開を行い、活動の透明性・公益性を確保する。

(5)校内運営

 校内の組織・運営の形態は、各学校に任せる。入学対象者については、「不登校生徒等」に限定せず、一般からの入学希望者に門戸を開く。

(6)教員採用

 教員免許所持者のみに限らず、各学校が必要とする教員を採用できるようにする。

 (7)財政措置

      現行の私学助成に準じた助成金を受けられるようにする。また、現行の学校法人と同様の税制上の措置を受けることとする。

(8)評価・点検

 学校利用者による自己評価・点検を原則とするが、認可審査を行った前述の審議会も定期的な点検を行う。審議会の評価基準は、利用者の満足度、当校が提出した計画の実行度など、多面的なものとする。

(9)セーフティ・ネット

 独自教育型私立学校から一般の公立学校へ生徒が移ることは可能である。学校閉鎖時においても、全国に張り巡らされた公立学校網が最低限のセーフティ・ネットの役割を果たす。転校生あるいは帰国子女と同様の処遇で対処できる。

同種の教育を行う学校が多数存在するようになれば、より被教育者側の利益に沿ったセーフティ・ネット構築が可能である。

 

3 「公設民営型学校」の創設

 すでに特区制度等で提案されている「公設民営型学校」の創設を認める。これは、既存の学校は全く異なるタイプの学校なので、現行制度の単なる規制緩和では対応できない。そのため、当面は、構造改革特区等での実現を目指し、現在の法令に特例を求めるものであるが、将来的には、独自の法体系の整備によって実現する必要がある。

<必要な法的措置等>

(1)設置と管理(運営)

 現行の「設置者管理主義」を離れることを(特例として)認める。自治体以外の主体が学校を運営することを可能とする。※設置者と管理者の権限・責任のあり方については、下記の「(5)校内運営」を参照

(2)運営主体(申請者)の資格

 「個人」または「団体」とする。ただし、以下の方法により自治体の事前認可を必要とする。

(3)認可方法

 申請者は、学校を設置する自治体に運営計画を出し、一定期間の認可を受ける。認可の審査主体は、自治体の下に設置される「地域教育審議会(先述)」とする。

(4)教育内容

多様なニーズに応える限りで、教育内容の公立学校基準を離れることを可能とする。地域教育審議会が、教育内容に関する審査・評価基準を設け、定期的に(事後)評価を行うこととする。

(5)校内運営(権限と責任)

 校内の組織や運営については学校側に任せ、責任は学校側が負うことを原則とする。ただし、学校事故等による賠償責任は設置者である自治体が負う。具体的な権限(責任)範囲については、自治体との間で事前に定めておくこととする。

(6)教職員の人事

○県費負担教職員の任命・配置

一般の公立学校の教職員(「県費負担教職員」)を公設民営型学校に配置できるようにする。その際、教育委員会は学校側の要望を実現するように最大限努めることとする。なお、服務監督権は学校側が持つ。これらの権限の根拠は、公設民営型学校は、その設置者が自治体であって法的には「公立学校」であることによる。

○県費負担教職員の人事異動

*県費負担教職員が設置申請者である場合

     設立・運営者として長期在任することを原則とする。

*上記以外の県費負担教職員が公設民営学校に配置される場合

       各教職員の希望と学校側の希望が十分活かされるよう「特別な配慮」を行う。

*公設民営学校から一般公立学校に異動する場合

     学校側の同意を必要とする。ただし、本人の希望が優先される。

   ○学校による独自採用

学校が独自に教職員を雇用できるようにする。独自採用教職員の比率は各学校で決める。なお、独自採用教職員は県費負担教職員と同等の待遇を受けるが、当該学校との雇用関係が終了すれば、他の公立学校が雇用する義務はないものとする。

(7)財政基盤の確保

 公立学校と同様に、自治体が費用を全額負担することを原則とする。なお、実情に応じて、保護者の負担を考慮した範囲での授業料徴収を可能とする。

 (8)評価・点検

     地域教育審議会が定期的な評価・点検および認可期間終了時の審査を行う。評価の基準は、認可時の運営計画が実行されているか、経営上の問題や予期せぬ弊害が発生していないかを中心とする。認可期間終了時の評価と審査の結果、問題が大きい場合、認可は更新されない。

 (9)セーフティ・ネット

 公設民営型学校から一般の公立学校へ生徒が移ることは可能である。学校閉鎖時においても、全国に張り巡らされた公立学校網が最低限のセーフティ・ネットの役割を果たす。転校生あるいは帰国子女と同様の処遇で対処できる。

なお、同種の教育を行う学校が多数存在するようになれば、より被教育者側の利益に沿ったセーフティ・ネット構築が可能となる。

 

                                      以上


  署名

<発起人>  (「新しい教育制度を考える市民の会」メンバー)
加藤 幸次     全国チャータースクール研究会・代表
竹内 延彦     NPO法人教育改革ネット・事務局長
十時 崇      NPO法人日本型チャータースクール推進センター・副代表
古山 明男     教育の多様性の会
室田 真一     構想日本・政策スタッフ

<賛同人>
生重 幸恵    NPO法人スクールアドバイスネットワーク・理事長
泉田 由紀子 
一色 真司      NPO法人21世紀教育研究所・常務理事
伊藤 美里      NPO法人IWC/IAC国際市民の会・専務理事
浦上 祐子     NPO法人東京シュタイナーシューレ・理事
大沼 安史     青葉学園短期大学教授
大野 理恵     主婦
奥地 圭子     NPO法人東京シューレ・理事長
小貫 大輔 教育の多様性の会
柿谷 正期     立正大学心理学部教授
亀貝 一義       NPO法人フリースクール札幌自由が丘学園・代表
木村 衣月子
小林 竜太郎 NPO法人日本型チャータースクール推進センター
近藤 茂人 NPO法人日本型チャータースクール推進センター
佐藤 嘉高     エデュライズ・代表
定者 吉人     弁護士
白崎 一裕 日本障害者協議会(JD)・政策委員
鈴木 早苗      小学校講師
関口 知子     大学非常勤講師
武村 政徳     NPO法人京田辺シュタイナー学校・父兄
田中 さつき      NPO法人日本型チャータースクール推進センター・代表
辻 正矩      NPO法人大阪に新しい学校を創る会
中川 綾      教員
西田 章子
原島 阿左美 
林 大介 NPO法人21世紀教育研究所・事務局長
日野 公三     アットマーク・インターハイスクール・理事長 
前川 直央
増田 康仁     NPO法人 湘南に新しい公立学校を創り出す会
増田 俊道     NPO法人大阪に新しい学校を創る会
山上 久仁子
山田 順子     こんな学校にした学校・代表
山谷 真名      子育て環境支援センター・主任研究員
リヒテルズ 直子  「オランダ通信」発行者
脇元 利恵子    NPO法人東京シュタイナーシューレ・理事
NPO法人東京賢治の学校
(五十音順)