高橋会長ヨーロッパゲーム探訪記


第1部:クク捜索の巻

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 年末年始にかけてヨーロッパへ行ってきた。目的はいろいろあるがその一つ がククの調査である。ククは会報第 号で掲載したようにイタリアと北欧で見 つかっており、カードの構成も名前も若干違っている。ちなみにククはイタリ アでの呼び方で、北欧ではキッレ、ニャブなどと呼ばれているようである。イ タリアと北欧の間にはドイツがあるわけであるが、ここでククがみつかるか、 も重要なポイントなのであった。

   探し方はきわめて泥臭い。ある街に着いたら、まず観光案内所でおもちゃ屋 を聞く。ゲーム屋などと言うものは、ないかあっても普通の人は知らないはず である。聞かなくてもその辺を歩いていればおもちゃ屋は見つかる。見つけた ら入ってククのことを聞き、知らなければゲームの専門店を知らないか聞いて みる。こんな方法である。
 もう一つ。ゲーム、特にカードゲームの本である。単なる遊び方ではなく、 歴史などが載っていれば良いし、ククがあれば最高である。本屋も歩いている だけであちこちに見つかるので、入ってはゲームの本のコーナーに行って探し、 なければおもちゃ屋を聞くのである。
 それから博物館もある。その土地の歴史博物館や民族博物館では、遊び道具 が展示されていないとも限らない。

 最初に訪れたのはローマであった。歩きはじめて5分ほどで見つけたのが英 語の本屋。ゲームのコーナーにそれらしきものはなかったが、ワードゲームの 本の中にディクショナリーのフェアリーをいくつか見つけたので購入。本は重 いからなるべく買いたくないのだが、見つけたときに買わないとまず買えない ので仕方が無い。そこのレジにいた男性に話を聞くと、1件の店を教えてくれ た。そこはカードゲームの店らしい。
 その店目指して歩き出して数分。まだそこまではかなりあるところで、遠く に「カード屋」の看板が見えた。『おっ、あんなところにも』喜んで飛び込ん でみるとそこはグリーティングカード屋。普通カード屋といえばそっちが浮か ぶのが自然だろう。だが転んでもただでは起きない。そこでもゲーム屋はない かと聞く。「ちょっと行ってすぐのところにあるよ。」だが行ってみるとある のは本屋だけである。何か聞き間違えたかな、と思いつつゲームの本はあるか と本屋に入ってみると、ゲームが売っているではないか。だが見るべきゲーム も情報も得られなかった。
 歩く事さらに十分。最初の本屋で言われた店に到着。ショウウインドゥにあ るのは・・・なんとククではないか!!ククはまだ売っていたのである。

 イタリアのミラノ、オーストリアのインスブルック、ザルツブルク、ウィー ンを同様の方法で回ったが、ククに関する情報は得られなかった。

 一路北欧へ。スウェーデンの首都はストックホルム。駅の観光案内所で教え てもらったおもちゃ屋はかなり大きい。見慣れたドイツやアメリカのゲームに 混じってスウェーデン産らしく見たことも無いゲームを見かけるが、買うのは こらえて店員にククのことを聞く。
「このゲームについての情報を探しているんですが。」
「情報ならあるよ。」
「えっ!」
「2階に行ってごらんよ。」
もう誰も知らないと思っていたのにこんなに簡単にわかるなんて・・・。嬉し さ一杯で2階に上がるとそこにあったのは「Information」の看板。ククについ ての情報ではなかったのだ。このInformationは主に、壊れたおもちゃの相談を したりするところ。それでも無理矢理聞いてみる。30代位の女性は知らない がここで聞いてみたら、と一件の店を教えてくれた。その店へ急ぐ。
 入った途端にマジックやRPGの箱が目に入る。ここはおもちゃ屋ではない。 完全にゲーム屋である。ニキビ面の若い店員に聞くと、
「ああ、キッレならうちにあるよ。」
なんと!そんな馬鹿な!しかし出てきたのは紛れも無く「KILLE」と書か れたカード。残念ながらこのカードの歴史的背景等について詳しい人はいない とのことだったが、キッレがまだ売っていたとは驚きだった。そしてまた、キ ッレの遊び方が書かれた本も見つけた。イタリアのククとの関連もわかるかも しれない。帰ったらスウェーデン語の勉強をしなければ。
 その隣、ノルウェーの首都オスロ。ムンクの「叫び」を見た私は美術館のす ぐ近くの本屋へ。地下にはゲームもたくさん売っていたので、売り場の若い女 性に話をする。
「あら、そのゲームならあるわよ。でも今は切れているかもしれないわ。」 カードゲームの中を捜してみる。と、確かに「GNAV」と書かれたカードが 1組だけ見つかった。
「他に売っていそうなところはないですか。」
「この先に別な本屋があるわ。そこにもあるんじゃないかしら。」
そこには2組残っていた。その先の大きなおもちゃ屋には無く、店員は存在さ え知らなかった。その店で紹介された専門店で聞くと、最初の本屋に行ってみ ろ、と言われた。

 ドイツはハンブルク。駅のツーリストインフォメーションで教えてもらった のは駅前にある大きなデパートのスポーツ&ゲーム館。若い女性の店員にクク のことを尋ねると「置いていない」とそっけない返事。食い下がろうとしたら 中年の女性に交代。こちらが「置いていないのは知っている。北欧でも無いと 思っていたら小さい専門店に売っていた。こういうものは大きい店には無いと 思う。ありそうな専門店を知らないか。」と説明すると、1件の専門店を紹介 してくれた。市電で直行。入った途端にただならぬ店であることに気づく。お もちゃもCD-ROMもない。ただゲームの箱が並ぶだけの正真正銘のゲーム屋だ。 ククについて尋ねると、カードのカタログだというアルバムを持ってきてくれ た。1枚1枚期待を込めてめくる。ほとんど古いトランプかタロットだ。お!! ミラノ版のククを発見!!だが、そこまで。ドイツ版はなかった。ミラノ版につ いて尋ねてみると数年前に何かで手に入れたもので別にメーカーと取り引きが あるわけではないと言う。欲しい旨伝えると倉庫の中を探し回った挙げ句「1 組だけあったよ。」と出してくれた。輸入品なのでちょっと高いが喜んで購入。

 だが見つかったのはここまで。ドイツ、オーストリアでは何の手がかりも得 られなかった。インスブルックの民族博物館にはカードも展示されていたが、 ククはなかった。

 しばらくククから離れていたが(次章以降参照)、ドイツ最終日の1月11 日、大きな事件があった。その日ミュンヘンにいた私は前に来たことのあるお もちゃ屋を訪問、軽い気持ちでククのことを聞いた。翌日は帰国の飛行機に乗 るし、ドイツにヘクセンカードが存在しないことは分かっているからである。 他の国でも専門店にしかなかったことを告げると、店員の一人が専門店がある ことを教えてくれた。さっそく市電で直行。しかし教えられた番地に店はなか った。戻って聞き直すほどのこともないし、適当にあたりをつけて歩き出した ところ店を発見。しかしそこはRPGとシミュレーションの専門店であった。 念のために店主にククについて聞いたところ近くにいいところがあって、そこ でわかるだろうと言う。話の内容から骨董店のようなので期待しないで行って みると、なんと看板はカードコレクション。これはと思って入ってみると、店 とは思えない変な造りだ。銀行のような金をやり取りする部分だけ開いたカウ ンターがあるだけなのである。中にいた若い男性にククのことを聞く。よくわ からないがこれを見てくれ、とカードカタログを何冊か出してくれた。1ペー ジにカードが16枚入るバインダーで、1ページに一種類のカードが入ってい る。これを1ページずつ繰っていく・・・!!。ミラノ版のククを発見。
「これです。イタリアのクク。いくつあります?」
「え〜」パソコンをカチャカチャ。「3つです。」
「3つ買ってもいいですか?」
「どうぞ。」
さらにページをめくると今度はラーセン氏が1979年に復刻したニャブも発見。 だがそれ以上の情報はなかった。
 翌12日、ヨーロッパ最後の日。飛行機の出発5時間前、私はローマに着いた。 まだ時間はある。ククを買って来よう。最初の日に行った店に行く。だがなぜか ショーウインドゥからククは消えていた。中に入って、
「ククください。」
「売り切れました。」
ガーン!!なぜだ!!いつの間に。誰か日本人観光客が買い占めていったのだろうか。 私は足どり重く店を出た。だが神は私を見捨てなかった。時間があるからとちょっ と遠回りした私は、とある店のショーウインドゥにカードが置かれているのを見逃 さなかった。何の気無しに入って見てみるとその一角にあるのは確かにククだ。よ かったまだ生きていた。

 ククが(イタリア以外ではククではないのだがあえてこう呼んでおこう)、 なぜイタリアと北欧で残り、中間のドイツで消えているのかは謎である。例え ばドイツでは様々なオリジナルゲームが生み出されたために伝統ゲームであっ たククが消えてしまったのでは、という仮説も考えたが根拠は薄い。今回、ク クは見つけただけで謎解きまでは至らなかった。今度は謎解きに来たいもので ある。


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