Good Medical Practice (良質の医療のための原則)

第3版 (2001年5月)


General Medical Council (GMC)に登録された医師の義務

我々は一人一人の患者がその生命と幸福を医師に安心して託せるようにすべきである。そうした患者の信託に応えるため、医師は専門職として良質の医療・ケアを維持し、人命を尊重する責務を有する。医師にとりわけ求められる事は:
- 自分の患者のためのケアを最優先課題とすること
- すべての患者に丁寧に、思いやりをこめて接すること
- 患者の尊厳とプライバシーを尊重すること
- 患者のいうことに耳を傾け、その考えを尊重すること
- 患者が理解できる形で患者に情報を提供すること
- 自分に提供されるケアを決める作業に対して患者が十分に関与する権利を尊重すること
- 専門職として知識・技量を絶えず更新し、最新のレベルに保つこと
- 自己の専門職としての能力の限界を自覚すること
- 正直で信頼出来る人間であり続けること
- 秘密情報に敬意を払い、それを保護すること
- 自己の個人的な信仰・信念が患者のケアに悪影響を及ぼしていないことを確認すること
- 自分自身あるいは同僚が医療を行なうに相応しくないと信じるに足る十分な理由がある時には、速やかに患者を守るための行動に出ること
- 医師としての地位の乱用を避けること
- 同僚とともに医療を行なう場合には、患者の利益に最もかなうやり方でそれを行なうこと。

以上いずれの場合においても、患者あるいは同僚を不当に差別してはならない。上記の目的のためにとる行動については常にその正当性を説明できるようにしておく必要がある。

良質の医療


1. すべての患者は医師から良質の医療・ケアを受ける権利を有する。その本質的な要素は専門的能力の具備、患者・同僚との良好な関係、および専門職としての倫理義務遵守である。

良質の臨床ケア
<良質の臨床ケアを提供する>

2. 良質の臨床ケアのためになされるべきことは以下の通りである:
- 既往歴、臨床徴候、更に必要に応じて適切な検査、に基づいた患者の状態の十分な評価
- 必要に応じて検査あるいは治療の提供・手配を行なうこと
- 必要な場合、適切な行動を速やかにとること
- 必要な場合、他の医師に患者を紹介すること

3. ケアを提供するに当たって、医師に求められることは:
- 専門職としての自己の能力の限界を自覚し、その範囲内で職務を行なうこと
- 積極的に同僚に相談すること
- 診断を下したり治療を提供・手配する時はその任に耐えるだけの能力をもっていること
- 臨床所見、下した決定、患者に与えた情報および処方した薬剤・その他治療法を記載した明瞭、正確かつ最新の診療記録を残しておくこと
- 同じ患者のケアを担当している同僚がいる場合には十分な情報をその同僚に提供すること
- 根治療法が可能であるか否かにかかわらず、患者の苦痛を和らげるのに必要なケアを提供すること
- 薬剤や治療法の処方(再処方を含む)は患者の健康状態と医学的必要性について十分な知識を有する場合にのみ行うこと。患者の最善の利益にかなわないことを知っていながら検査や治療を実施したり推奨しないこと。患者にとって好ましい治療や紹介先があるのにそれを避けたりしないこと
- 薬剤の副作用について報告制度に基づく報告を行い、公衆衛生に関するモニタリングを行う機関からの情報提供要請に協力すること
- 自分が利用できる資源を効率的に活用すること。

4. 患者を治療する自己の能力が設備、装置あるいは他の資源の不備のため著しく損なわれていると信じるに足る理由がある時には、医師はその問題点を可能な限り正すべきである。それが出来ない場合は、自分の所属するトラストあるいは雇用者・契約者にその問題への注意を喚起すべきである。医師は自分が気付いた問題点とその解決のためにとった措置を記録しておきべきである。

医療アクセスに関する決定

5. 医師が提供あるいは手配する検査や治療は、患者のニーズならびに治療の有効性について医師自らが下した臨床判断に基づくものでなければならない。患者のライフスタイル、文化、信仰、人種、肌の色、性別、外見、年齢、社会的あるいは経済的地位についての医師の主観により、提供あるいは手配される治療法に偏りが生じてはならない。患者自身の日頃の素行が患者の現在の病状に大きく関わっているという理由で治療を拒否したり遅延させてはならない。

6. 自分の信念・信仰が患者に提供する治療に影響を与える可能性があると感じる医師は、その旨を患者に説明すべきであり、他の医師に相談する権利があることを患者に伝えるべきである。

7. 臨床的必要性に基づき患者の検査・治療を最優先する努力が医師には求められる。

8. 医師は患者を治療することで自分自身がリスクにさらされるおそれがあるという理由で治療を拒否してはならない。患者が医師の健康や安全に危険を及ぼす恐れがあるときは、患者の状態の検査を実施するか、あるいは治療を行う前に合理的な防御措置を取るべきである。

緊急時の治療
9. 緊急時には、危険に瀕したいかなる者に対しても、しかるべき治療を提供すべきである。

<Good Medical Practice の維持>
最新の動向の把握
10. 医師はその職業生活において常に知識・技量を最新のレベルに維持すべきである。特に、能力開発のための教育プログラムには定期的に参加すべきである。

11. 医療には法に支配されたり、あるいはその他の規制の適用を受ける側面がある。医師たるもの自己の職業活動に関係する法律や規制を遵守し、常にその最新の動きを把握しておく必要がある。

業務レベルの維持
12. 医師はその同僚と協力して自分が提供する医療の質を継続的に評価し、それを高く保とうとする意識を常に持つべきである。特に求められることは、
- 定期的・系統的な医療監査に協力し、正確なデータが収集されるようにすること。必要があれば、監査の結果に応じて自分の行なう医療を改善することも求められる(例:追加的訓練を受けることにより)。
- 自己の職業能力・業績の評価に対し建設的な対応をとること。
- 患者へのリスクを低減させるための匿名化調査や有害事象報告制度に協力すること。

<教育・訓練・査定・評価>
他の医師の評価と紹介
13. 自分が指導したり訓練を行なった者の業績を評価するに当たっては正直かつ客観的でなければならない。満足出来る業務遂行レベルに到達していなかったり、そのレベルを維持できていないのに、十分な能力を持つとの評価を下すようなことがあれば、患者にリスクをもたらす恐れがある。

14. 自分の同僚について紹介したり報告書を書く場合、正直で公正な紹介でなければならない。その同僚の能力、業績、信頼性および行動についての重要な関連情報も付け加えるべきである。

教育・訓練
15. 医師は医学生あるいは同僚の教育に積極的に貢献すべきである。

16. 教育に関する責任を有する医師は、有能な教育者たり得るように技量、姿勢、実務面での自己開発に努めるべきである。更に、学生や経験不十分な同僚が適切に指導されるよう配慮することも求められる。

<患者との関係>
同意取得
17. 医師は患者が自分が受けるケアについて決定を下す作業に十分関与する権利を尊重しなければならない。患者を治療したりその病状を検査する前に、医師の提案の内容と理由、およびそれによって生じる可能性のある有意のリスクあるいは副作用を患者が理解し、それに同意していることを出来る限り確認すべきである。GMCの指針 Seeking patients' consent: the ethical considerations(患者の同意取得ーその倫理的側面)に従うことが求められる。

プライバシーの尊重
18. 患者についての情報は秘密事項として取り扱われねばならない。例外的状況下において、患者の同意を得ずにあるいは患者の希望に反して情報を開示する必要ありと判断した場合、GMCの定めたConfidentiality: Protecting and Providing Information(秘密保護基準:情報の保護と提供のあり方)を遵守すべきであり、GMCあるいは法廷で求められた場合に、開示を決めた自分の判断の正当性を説明できる心積もりをしておかなければならない。

信頼関係の維持
19. 医師と患者の関係が良好なものとなるか否かは信頼度に左右される。信頼関係を確立し維持するために医師がなすべきことは:
- すべての患者に丁寧に、思いやりをこめ, 誠実に接すること
- 患者の尊厳とプライバシーを尊重すること
- 教育・研究への参加を拒否する患者の権利を尊重し、参加拒否によって医師と患者の関係に悪影響が出ないことを確保すること
- セカンドオピニオンを受ける患者の権利を尊重すること
- 勤務時間中は患者や同僚がすぐに自分とコンタクトをとれる態勢をとっておくこと。

20. 医師は患者が寄せる信頼を傷つけるような個人的関係を患者と持ってはならない。特に、医師としての立場を利用して患者あるいはその近親者などと性的あるいは不適切な情緒的関係を持つことは許されない。

良好なコミュニケーション
21. 患者と医師との間の良好なコミュニケーションは有効なケアを提供したり信頼関係を築く上で重要である。良好なコミュニケーションのためになすべきことは:
- 患者の言うことに耳を傾け、その見方・信念を尊重する
- 患者が自分の状態、治療、予後について求めるあるいは必要とする情報を患者に理解できる形で提供する。提供すべき情報には処方する薬、重大な副作用、そして必要であれば投与量も含む。
- 患者の配偶者、近親者あるいは介護者が望む場合には、患者本人の同意を取得したのちに患者の情報をこれらの人々と共有する。患者が同意を与える能力がない場合には、患者が拒否するであろうと信じるに足る理由がない限り、患者に近い人物で患者の情報を必要とするあるいは知りたい人物と情報を共有すべきである。

22. 自分が受け持つ患者が過失等により重大な被害を受けた場合、医師は直ちに事態を改善するために、可能な行動を取るべきである。その際、医師は何が起こったのか、長期・短期的にどんな影響が予測されるかを患者に十分説明すべきである。そうすることが適切であれば謝罪の意を表わすべきである。患者が能力を欠く成人である場合には、患者が情報開示に反対するであろうと信じるに足る理由がある場合を除き、説明は患者のために責任を有する者、患者の配偶者.近親者あるいは患者のケアに関わってきた患者の友人に対して行うべきである。小児患者の場合、親権者、および小児が問題を理解できるほど成熟している場合には小児に対しても、状況を誠実に説明すべきである。

23. 担当する小児患者が死亡した場合、死亡の原因および状況について知り得る限りの情報を親権者に提供すべきである。成人患者が死亡した場合、患者が情報開示に反対したであろうと信じるに足る理由がない限り、同様の情報を患者の配偶者、近親者あるいは患者のケアに関わってきた患者の友人に提供すべきである。

患者との診療関係の終了
24. 稀れではあるが、患者が医師あるいは医師の同僚に暴力を働いたり、施設内で盗みを働いたり、あるいは不適切・非合理な行為をやめないなど、医師と患者との間の信頼関係が損なわれ、患者との診療上の関係を終了させることが必要になることもありうる。そうした場合、診療終結の決定が公正なものであり、上記第5項に違背しないことを確認する必要があり、求められればその決定の正当性を説明出来なければならない。患者が医師本人あるいは医師を含む診療チームについて苦情を述べたこと、あるいは患者のケアや治療が医師の診療活動に経済的影響を与えることだけを理由として患者との関係を終結すべきではない。

25. こうしたケースでは、医師はなぜかかる決定を下すに至ったのかを患者に口頭あるいは書面で説明すべきである。更に、患者のケアの継続のためにすみやかな措置がとられるよう手配すべきである。患者を新たに担当する医師が決まれば、記録やその他の情報を出来る限り早急にその医師に引き継ぐべきである。

<業務遂行にあたっての問題への対応>
同僚の行為・業績
26. 医師は、同僚の医師あるいは他の医療専門職の行為、仕事ぶりあるいは健康状態(アルコールなどの乱用による問題を含む)によってもたらされるリスクあるいは被害から患者を守らねばならない。いかなる場合でも患者の安全が最優先されねばならない。同僚の仕事ぶり、健康状態あるいは行為について重大な懸念があるときには、懸念事項が十分根拠を持つかどうかを判断するための調査を実施し、患者を守るための措置が遅滞なく取られねばならない。

27. 同僚の医師あるいは他の医療専門職が患者をリスクに曝すおそれがあると信じるに足る理由がある時には、医師はその懸念事項を所属機関のしかるべき人物(例:メデイカルデイレクター、看護デイレクター、チーフエグゼクテイブ)あるいは公衆衛生デイレクターまたは管轄地域医療委員会の担当官に雇用主の定めた手続きにしたがって正直に報告すべきである。もし当該地域に適当なシステムがなかったり、地域のシステムでは問題解決が出来ず、しかも患者の安全に関する懸念が解消されない場合には、関連する規制機関に通報すべきである。何をすべきか自信がない場合は、懸念事項を信頼できる同僚に相談するか、自分を支援してくれる機関、専門家組織あるいはGMCにコンタクトをとりアドバイスを求めるべきである。

28. マネジメントの責任を有する医師においては、同僚が患者へのリスクに関する懸念を打ち明けやすい体制を確保しておくべきである。より詳細なガイダンスは小冊子「Management in Health Care: The Role of Doctors(医療におけるマネジメント:医師の役割)」を参照されたい。

苦情・正式な照会
29. 患者が自分が受けたケア・治療に不満がある場合には、迅速で、オープン、かつ建設的で誠実な対応を期待する権利を有する。こうした対応には、何が起こったかについての説明、そして、それが適当な場合には謝罪も含まれる。医師は、患者の苦情を理由として、当該患者に提供あるいは手配するケア・治療に偏りを生ぜしめてはならない。

30. 医師は患者の治療に関する正式な調査や診療行為に関する苦情処理手続にフルに協力しなければならない。自分自身あるいは他の医療専門職の行為、業務成績あるいは健康に関する情報を、調査権限を有する者から求められた場合には、当該情報を提供すべきである。

31. 医師がその業務成績あるいは行為に関わる理由により職務を停止されたり、診療行為に制限を受けることになった場合には、同様の性格の業務を引き受けている他の組織に対してもその事実を伝えねばならない。そうした組織とは無関係に診療を担当している患者がいる場合で、その患者に提供している治療が業務停止・診療行為制限を受けている分野のものである時には、その患者に対しても事実を伝えねばならない。

32. 同様に、医師は、問い合わせへの返答、および死亡患者に関する検視・調査に関わる全ての関連情報の提供という形で、検視官や地方検察官に協力しなければならない。情報を提供することで自分自身への司法訴追がなされる可能性がある場合のみ医師は黙秘を続けることが許される。

賠償責任保険
33. 自己および患者の利益のため、医師は雇用者がかけている賠償責任保険に担保されてない自分の業務活動をカバーする十分な保険措置を講じるべきである。

同僚との関係
<公平な対応>
34. 同僚に対しては常に公平な接し方をすべきである。法の定めるとおり、医師は同僚(ポストに応募した医師を含む)をその性別、人種あるいは障害の有無により差別してはならない。同僚のライフスタイル、文化、信仰、人種、肌の色、性別、外見、あるいは年齢を理由としてその同僚との職業的関係を偏向させてはならない。

35. 同僚について悪意に基づく批判や根拠の無い批判を行うことにより、患者が当該医師から受けるケア・治療や当該医師の判断に対して抱く信頼を損なうようなことをしてはならない。

<チーム医療>
36. 医療は複数の科がチームを組んでなされることが多くなってきている。チームで診療にあたる場合でも、自分の専門職としての行為および提供するケアに対する医師個人の説明責任は変わらない。チーム医療を行う医師には次のことが求められる:
- 同僚の技量・貢献を尊重すること
- 患者との職業的関係を維持すること
- チームの内外で同僚とのコミュニケーションが効果的になされるようにすること
- 自分の職業上の地位・専門分野、チーム内での自分の役割と責任、患者へのケアの各項目の責任者が誰であるか、について、同僚や患者が理解していることを確認すること。
- チームの諸基準や業務成績の定期的なレビュー・監査に参画し、不備があればその是正をはかること
- チームメンバーの業務成績、行為あるいは健康状態に問題があればオープンかつ支援の姿勢で対応すること。

<チームリーダー>
37. チームリーダーとなる場合には、次のことを確保せねばならない:
- 医療チームのメンバーが本指針に定められた診療基準を遵守していること
- 医師以外の職種の同僚が規制機関の指針を遵守するのを妨げるような問題が発生した場合、そのことがチームリーダーに報告され、対応をとれるようにしておくこと
- チームメンバー全員が患者の安全を確保し、問題があればそれをオープンかつ正直に記録・議論する個人的ならびに集団的責任を有することを理解していること
- 各患者のケアが適切に統括・運営され、疑問や不安がある場合誰に相談すべきかを患者が分かるようになっていること
- 代行が必要になった場合いつでもその手配が出来る体制になっていること- チームの諸基準・業務成績の定期的なレビュー・監査がなされ、不備な点があれば対応措置が取られること
- チームメンバーの業務成績、行為あるいは健康状態に関する問題に対する支援的な対応体制が備わっていること。

38. チーム医療に関するこれ以上のアドバイスはGMCの小冊子 Maintaining Good Medical Practice and Management in Health Care - The Role of Doctors(Good Medical Practiceと医療マネジメント:医師の役割)に示されている。

<職務代行>
39. 休みを取る場合、予め自分の患者へのケアについて適切な手配をしておく必要がある。こうした手配にあたっては医師間の効果的な引継ぎ、明瞭な意志疎通も確保されねばならない。

40. 代行を依頼する場合、その職務に必要な資格、経験、知識および技量を代行医師が有することを確認しておくべきである。代行者は代行業務中、患者のケアに関してGMCの求めに応じて説明する義務がある。

<職務引き受け>
41. どんな職務(代理職を含む)であれ、それを正式に引き受けたからには、後継者を見つける時間を雇用主に与えずにその職を辞してはならない。

<同僚との情報共有>
42. それぞれの患者への医療ケアについて一人の医師(通常は一般開業医)が十分な情報を保有し、継続的治療を確保することが患者の利益に最もかなうことである。

43. 患者についての情報が複数の医療チームにおいて、そしてケア担当者間でどのように共有されるかについて患者に伝えられることを医師は確保すべきである。そうした患者情報開示に患者が反対する場合には、医師は情報共有が患者のケアに有益であることを説明すべきであるが、患者があくまで反対する場合には開示をおこなってはならない。この点に関するより詳細はアドバイスはConfidentiality: Protecting and Providing Information(秘密保護基準:情報の保護と提供のあり方)に示されている。

44. 自分の患者を紹介する時には、患者の既往歴および現症に関するすべての関連情報を提供すべきである。

45.自分が家庭医ではない患者に治療あるいはアドバイスを与える場合は、検査結果、行った治療および患者の継続的ケアに必要なその他の情報を患者が反対しない限り家庭医に伝えるべきである。家庭医の紹介を経ていない患者の場合、緊急時あるいはやむをえない事情がある場合を除いて、治療開始前に患者の家庭医に連絡すべきである。治療を行う前あるいは後に患者の家庭医への連絡を怠った場合、その医師は別の医師が患者を引き受けることに同意するまでその患者が必要とするアフターケアを全て自ら担当あるいは手配する責任を負う。

<委任と紹介>
46. 委任とは看護婦、医師、医学生あるいはその他の医療従事者に依頼して自分の代りに治療あるいはケアを行なってもらうことである。ケアあるいは治療の委任を行なうに当たっては、受任者が当該業務あるいは治療を遂行できる能力を有することを確認しておくべきである。患者および必要な治療について十分な情報を受任者に提供しなければならない。委任を行なった場合でも、当該患者のケア全般への責任は依然として元の医師にある。

47. 紹介とは患者のケアへの責任の一部あるいは全部を他の医療提供者に移転することである。一般的には、特定の目的(自分のところでは出来ない検査、ケアあるいは治療など)のために一時的にその責任を移転することを指す。紹介先は登録された医師とするのが通常である。それ以外の者に紹介する場合には、紹介先の医療従事者が監督機関の求めに応じて説明がきちんとできること、および登録された医師(通常は一般開業医)が当該患者のケアについて全責任を持つ態勢になっていることを確認する必要がある。

誠実な業務遂行

<自分が提供する医療サービスについての情報提供>
48. 医師が自分が提供するサービスについての情報を出版あるいは放送により提供する場合、その情報は事実に基づいたもので、検証可能なものでなければならない。出版にあたっては法の規定および広告基準機構(Advertising Standards Authority)の指針に従うものでなければならない。

49. 提供する情報は自分のサービスの質について不当な形で言及するものであってはならない。病気が治ることを保証したり、患者の弱みや医学知識の乏しさにつけ込むような形での情報提供は一切行なってはならない。

50. 自分のサービスについて公表する情報には、市民にそのサービスを利用するよう圧力をかけるものであってはならない(例:将来の健康への根拠に乏しい不安を掻き立てるような内容)。同様に医師は自らであれ、代理の者によってであれ、患者になる可能性のある市民を訪問したり電話をかけて自分のサービスを宣伝してはならない。

<報告書作成、証言、文書への署名>
51. 医師は報告書の作成、定まった書式の文書の記入・署名、あるいは訴訟や他の尋問における証言を行う時は、誠実で信頼されるふるまいを旨とすべきである。文書に署名する前にその内容の信憑性を確認するための妥当なステップを踏まねばならない。誤りがある文書あるいは情報が不十分で誤解を招く恐れのある文書を作成したり書名してはならない。報告書を作成すること、文書の記入あるいは署名をすること、あるいは証言を行うことに同意した医師は、それを遅滞なく実行しなければならない。

<研究>
52. 研究に参加する医師は、患者のケアと安全を最優先しなければならない。医師は当該研究について独立した研究倫理委員会が承認し、患者の同意も得られていることを確認すべきである。医師はいかなる研究を行なう場合であれ、誠実かつ統制の取れた形で行なう義務を有する。研究における医師の倫理的責任に関するより詳細なアドバイスはGMCの小冊子Good Practice in Medical Research - The Role of Doctors(医学研究の指針:医師の役割)に示されている。

<財務・商取引>
53. 医師は患者との経済的関わりにおいては正直・率直を旨とすべきである。特に注意すべき点は:
- 治療に対する患者の同意を取得するにあたっては出来る限り費用についての情報を提供すべきである。
- 治療や他のサービスの対価を請求するにあたって患者の弱みや医学知識不足につけこむようなことをしてはならない。
- 医師は直接あるいは間接的に自分の利益になるような金銭・物品の贈与、貸与あるいは遺贈をするよう患者を仕向けてはならない。他の個人あるいは団体への寄付をするよう患者やその家族に圧力をかけることも許されない。
- 私費治療を受けるよう患者に圧力をかけてはならない。
- 患者に請求する診療費の一部が他の医師に支払う分である場合には、その旨を患者に伝えるべきである。

54. . 医師は雇用者、保険者あるいはその他の組織・個人と財務・商業的関わりを持つ場合には誠実を旨とすべきである。特に注意すべき点は:
- 医師が財務運営に当たる時は、資金が本来の目的のために用いられること、および医師個人の財務勘定とは別の勘定において管理されることを確認すること
- 物品あるいはサービスの購入についての検討に医師が参加する場合には、医師あるいはその家族がその購入において財務的あるいは商業的利害関係を持つ時にはそのことを予め申告すべきである。

<利害の衝突>
55. 紹介を行なったり、治療・ケアを提供・手配する場合、医師は患者の利益に最もかなう形で行動すべきである。医師はその判断に影響を与えかねない誘い、贈り物あるいはもてなしを求めたり受入れたりしてはならない。医師が同僚にそうした誘いを与えてもならない。

<病院、ナーシングホームおよびその他の医療機関への経済的関与>
56. 医師が医療機関、製薬企業あるいはその他の生物医学関係企業に経済的あるいは商業的利害関係を有する時は、これらの関係によって医師の処方あるいは患者の治療・紹介が影響を受けることがあってはならない。

57. 治療や検査のために自分の患者を送ろうとする紹介先に医師個人が経済的・商業的利害関係を有する場合、患者にその旨を伝えておくべきである。その患者がNHS(国営医療サービス)制度下の患者である場合には、health care purchaser(医療サービス購入機関)にもその旨を伝えるべきである。

58. 医師個人あるいはその近親者が経済的あるいは商業的利害関係を有する医療機関において患者に治療を行なうと、重大な利害の衝突が起こる可能性がある。その様な場合にあえて治療を行なおうとする場合、医師の経済的関与度について患者およびその治療費支払者に伝えておくべきである。更に、専門医としてのサービスを提供する医師は、患者のケア全般に責任を有する別の医師から紹介された場合を除いて患者を引き受けるべきではない。residential homeあるいはナーシングホームに経済的利害関係を有する一般開業医の場合は、患者が望む場合あるいは他の選択肢が無い場合を除いて、かかる施設の患者にプライマリーケアサービスを提供すべきではない。あえてその様な患者にサービスを提供する場合には、そうすることの正当性を説明できなければならない。


医師の健康状態

<自分の健康状態が患者に危険を及ぼす恐れがある時>
59. 患者に感染するおそれのある重大な疾患を自分が有する時、あるいは疾患のために自分の判断や職務が有意に影響を受ける恐れがある時、医師は、診療業務を変更する必要があるか否か、あるとしたらどのように変更すべきかを労働衛生分野のコンサルタントあるいは他のしかるべき資格を有する同僚に助言を求め、それに従うべきである。患者に自分が及ぼす可能性のある危険性については自己判断に頼ってはならない。

60. 患者に伝染するおそれのある重大な疾患に自分が罹患したと思う時は、必要なすべての検査を受けると共に、必要な治療ないし臨床業務の変更について有資格者の同僚の助言に求め、それに従って行動すべきである。

この小冊子は完璧なものではない。医師登録の見直しの理由となりうる医療行為・過誤を全て網羅しているわけではない。登録された医師は常に自分の行動・決定の正当性を説明できるよう心積もりしておく必要がある。

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