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under the christmas tree




「あぁー、疲れた」
城の中で唯一安心して女王らしくないことも出来る自分の部屋に入り、そのドアがガチャン、としまった瞬間、ダガーは王冠をベッドの上に投げた。
それは、誰がどう考えても、王家の宝にするのにふさわしい扱いではない。
そんなことはわかっていたが、どうも肩が凝ってしかたがないのだ。
ずっと世代を受け継がれてきた王冠は、純粋な金でつくられ、豪奢な宝石がいくつもちりばめられている高価なものだ。
だが、その分重量がある。
公式の行事のときなど、かぶることを義務付けられているこの王冠。
長時間頭に乗せていると、首も肩もがちがちになってしまう。
12月初旬、クリスマスシーズンでキリストの誕生日を祝う国民にダガーは大きなもみの木をプレゼントした。
そして、今日はそのキリストの生まれたクリスマスの日だった。
今夜はイベントで、アレクサンドリア城の大きな剣の次にこの国のシンボルになるくらい大きなそのもみの木に、ダガー自身の手で明かりを灯す行事があったのだ。
その間中、冠を落とさぬよう気を使いながらずっとそれを頭に乗せていたダガー。
疲労は限界だった。
肩も首も、腕までもぐるぐるまわしながら、彼女はうっとおしいほどひらひらと豪華なドレスから、動きやすく軽い服に着替える。
それから部屋の大きな鏡の前に座って化粧も全部落としてしまうと、ベッドに座った。
はぁぁ、などとため息をつき、彼女は時計を見上げる。
午後9時。
その時刻を確認した後、ダガーはちょっとくらいいいよね?と自分自身に呟くとそのままベッドに倒れこむように横になった。
今夜は約束があったのだ。
クリスマス。
街中が美しく飾られて、素敵になる今夜。
10時に、今夜点燈したばかりのもみの木のクリスマスツリーの下で、ジタンと待ち合わせ。
デートの約束だった。
その誘いを、先に言い出したのはダガーから。
去年までのクリスマスは一人だったから。
街の、年頃の多くの男女は、美しい夜の街をよりそって歩いていたというのに、彼女は一人だったのだ。
生きて帰ると約束した彼の帰りを信じて、それでも泣きながら、蝋燭に火を灯し、彼が無事でいてくれるように、とひたむきに祈っていた。
どれだけ寂しかったか。
ジタンはよくわかってくれていない、とダガーは今でも思っている。
だから、だから今年こそは、そんな寂しかった時間をとりかえすためにも、ジタンと一緒にクリスマスの街を歩きたかった。
とにかく、その約束の時間まで後一時間。
別になにかすることがあるわけでもない。
約束した場所へは10分もあれば行ける。
あまりに疲れていたので、ちょっとだけ、とダガーは王冠の横で眠りについたのだ。


それが、いけなかったのだろう。


予想がつくかもしれないが。



「寒、、、、」
ダガーは寒さに目を覚ました。
そして、ぐっすりと眠っていたか、かすんでしまう目を擦り、冷え切ってしまった体を震わせながら起きあがる。
そして、しばらくした後、彼女は慌てることとなった。
転寝をしたとき、よく自分がどうして寝具もかけずに寝ているかがすぐに思い出せないことがあるだろう。
今のダガーもそうだった。
なぜ寝巻きではなく服のまま、しかも毛布も何もかけず王冠の横でまるくなって眠っていたのか。
しばらくするまで思い出せなかったのだ。
何気なく向けた視線が窓の外を映し、そこにある、いつもよりも数段美しいイルミネーションの景色を見つけるまでは。
その景色を見つけて、やっとダガーは今夜がクリスマスで、今は女王としての行事を終え、これからジタンとのデートをするはずだったのだと思い出したのだ。
だから焦った。
なぜって、見上げた時計が前回見上げたときよりも、ひどく進んでいたから。

嘘、、、嘘嘘、、、!!!

目を疑う、とはこのことだろう。
時計を見間違えたのか、それとも時計が壊れたのか、そのどちらかであってほしかった。
ダガーは目を擦ってその時計を見なおした。
時計が壊れているというのは、この前調整したばかりなので考えにくい。
自分の見間違えであってほしかった。
だが、見なおした時刻は少しも変わらない。

今の時刻は11時。

約束の10時は、すっかり、過ぎていた。
ダガーは混乱した。どうしていいのかわからない。
「あぁ、もうっ!ばか!」
それは自分に向けた言葉。
彼女は疲れていたからといって眠ってしまったことを後悔した。

こんな時間じゃ、ジタンも待っててくれるわけない、、、、
              でも謝りにいかなきゃ、、、、!!

ダガーの行動は意外とあっさりと決まった。
彼女は、よしっ、と気合を入れると、ベッドの下に手を入れた。
隠すようにしてあったそこからでてきたのは、長く丈夫なロープ。
本当なら、怒られてしまうだろう。
女王がこんなことをしたら。
でも、みつからなければ、それで怒られることもないのだ。
どこかの盗賊のせいでおてんばなことも平気でするようになってしまった女王はそのロープの先を窓のところにしっかりと縛りつけた。
そしてもう片方の先を窓の外に長くたらしたのだ。
この技は、ジタンが忍びに入るのに便利だと教えてくれた。
そんな技必要ないと言いながらジタンの説明を聞いていたダガーだが、彼女は最近この技は忍びに入るだけでなく、お忍びで出て行くのにも便利なことに気がついたのだ。
彼女はくくりつけたロープをつたいながら、窓の外に出て、地上におりていった。



とはしたものの、


「どこにいるかしら、、、、?」


ダガーはジタンの居場所を知らなかった。


結局、行く当てがない。
彼女は途方にくれ、同時に迂闊に外に出てしまったことをも後悔した。
今はやんでしまったけど、昨日まで降っていた雪は積もり、足元は白い雪化粧。
綿帽子をかぶった街並みは、こんなにも美しいのに。
ダガーはなるだけ俯いて足元の雪を見ているしかなかったのだ。
そこは街の中心で、ダガーがイベントで外に出たときよりは少ないが、まだ人の通りが多かったから。
あまり堂々と歩いていると、彼女がガーネット女王であると街の人々に認められてしまう。
そんなことになれば、大騒ぎ。
それは避けなければならない。
ダガーは顔を伏せながら、自然と自然と、人通りの少ない道を選んで歩き出した。
ジタンと街中でデートの約束をするのにも、もちろん自分が女王であるとバレる危険は伴うことはわかっていた。
だが、化粧をしてそう顔が変わるわけではないが、最近女王として外に出る際は化粧を施すようにしているダガーが、化粧を全くしていなくて、更に盗賊の青年と歩いていたならば、たいていの街の人は彼女を見てもただの女王に似た人だろう、と見逃してくれる。
だが、化粧を落としても一人で歩いていると、もしかするとガーネット様ではありませんか?と声をかけられやすくなってしまうのだ。
だから、一人で街をあるくことは、避けなくてはならない。
それなのに彼女は慌てたあまりに人の多い街の真ん中に飛び出してしまった。
「もう、いや!」
ようやく人のほぼ通らない路地に出た彼女は足元の雪を蹴飛ばした。
これではジタンは探せない。
この街の宿屋。
そう数は多くないのでそのすべてを当たっていけばジタンは見つけられるかもしれないが、宿屋はもちろん、その周辺の道は人が多すぎて行くことさえ出来ないのだ。
今夜はクリスマスだから、こんな時間になってもなかなか人通りが減らない。
「……」
ダガーは思いつめたように顔をしかめた。
今夜は仕方ない。
ジタンを探すのは無理。
謝るのはまた別の機会にするしかない、今日はもう帰ろう。
そう思ったダガーだったが、実は、城に変えるにも人の多い道を帰らなければならないことに気がついたのだ。
来るときには人に見つからなかったけれど、その危険をもう一度おかすわけには行かない。
帰れない。
そして今すぐに謝りにいけない。
どちらにも動けない。
「どうしよう、、、、、、、」
城に帰るなら、もっと夜がふけて、人気がなくなるまで待たなければならない。
平和なアレクサンドリアとはいえ、あまり遅くなると治安だって悪くなる。
とりあえず、同じところでじっとしていることはよくないと思い、彼女は人気のない道を選びながら、また慎重に歩き出した。


「!」
どれくらい歩いたか。
いつ人に見つかるかと緊張していたため、ひどく長い距離を歩いたような気がした。
この星の極から、反対側の極へ、そんなガイヤを半周したみたいなそんな長い距離。
歩くことに疲れて、ダガーはふと足を止めた。
そして、目を上げてどきりとした。
人の少ない暗い道を歩いて来ていたのに、そこはあまりにも明るかったのだ。
見上げた先に、美しく明かりの花を咲かせた大きな木があった。
そこにあったのは、ダガーが行事で明かりを灯した、ジタンと会う約束をしていた、クリスマスツリーだった。
明かりを灯したときには木の周りにたくさんの見物人がいたのに、今、木のたつこの場所にいるのはダガー一人だった。
人のいないほうへいないほうへと歩いているうちに広場とは反対のほうにあるこのクリスマスツリーの元に来てしまったのだ。
冬の寒さにも負けない、大きな大きなもみの木は、星を飾りつけたみたいな、暖かな光を宿して。
真っ黒な空の元、恋人達の歩く聖なる夜を、静かに静かに見守っていた。
「はぁ、、、」
誰もいない、クリスマスツリー。
もちろん、ダガーの探す彼も、そこにはいなかった。
「バカだね、わたし」
独り言、というよりも、そのツリーに話しかけたみたいだった。
自分の愚かさに腹が立った。悲しかった。
会うはずだった木の下で。
会うはずだった木の下に立ったことで。
ダガーはまた寂しさを思い出した。
結局、今年もクリスマスを一人で過ごしてしまう。
クリスマスというロマンティックな日に、彼に嫌な思いをさせてしまった。
「怒ってるかな?謝りに行っても、会ってくれないかな?」
城に帰れない苦しさよりも、彼との約束をすっぽかしてしまったことが、強く、苦しい。
「やだ、ほんと、もうやだ」
太い幹に近づいたダガーは、それに寄りかかって座った。
雪の中だがかまわない。
「あぁ〜あ、、、、、、」
なにか元気が出るような、強気な言葉を言おうと思うのに、彼女の口からこぼれるのは、ため息と、後悔の念。
しかも、それは呟くにつれて次第に力なく泣きそうな声になっていった。
向こうのほうに見える広場のイルミネーションがぼやける。
赤や蒼や翠や黄色の明かりが、あっちはあんなに綺麗なのに。
こっちはなんだか暗い気がした。
本当はクリスマスツリーの明かりで暗いはずなんてないのに。
いつのまにか頬に涙がこぼれていた。
冷たい冬の夜風があたっていた頬に、急に暖かいものが落ちたのだ。
ダガーはその頬を乱暴に擦った。
だが、擦ったそのすぐ次から次から、涙は溢れ出す。
なぜか胸がつまり、ひっくひっくと肩が揺れる。
泣くまいとしているのに、彼女の体はその意思に従おうとしなかった。
自分が悪いのに泣くなんて、ジタンに申し訳ないと思った。
その時だ。
ダガーに向かって足音が近づいてきた。
泣かぬように必死になっている彼女はそれに気づかない。
そして、ぎゅっぎゅっと雪を踏む音はダガーの前でとまり、ツリーの明かりが遮られて彼女はようやく顔を上げた。
涙でぼやけた世界に飛び込んできた影が一体誰なのか、すぐにはわからなかった。
目を凝らすように細めて、もう一度涙を擦って初めて、彼女はその影の表情を見た。
無表情だった。
怒っているみたいに。
「ジタン、、、!」
ダガーの前の彼は、コートのポケットに手を突っ込んだまま、無表情で立っていた。
彼が目の前に立っていることが信じられなくて、ダガーはもう一度目を擦った。
でも、見間違いではなかった。
そのことがわかると、彼女は急いで立ちあがった。
「ごめ、、、、、、」
「遅いよ」
謝ろうとしていた彼女の言葉は遮られた。
その、あまりに感情のこもらない声に、ダガーは何も言えなくなった。
やっぱり怒ってる、と。
「なんでさ、こんなに遅いわけ?」
相変わらず彼の表情は変わらなくて、ダガーは苦しくて思わず俯いた。
なんて弁解したらいいんだろう。
どうしたら許してもらえるだろう。
でも、どう考えてみても悪いのは自分で、どこにも弁解して許してもらえそうな道は見つからなかった。
白い息が足元の雪に消える。
だが、次の瞬間、あまりに明るい声が響いたのだ。
「なーんて、ごめん!そんな落ち込むなよ。冗談だって。そんな怒ってないよ」
え、とダガーがジタンを見ると、自分の顔を覗き込んできた、さっきまですこしも色を見せなかったジタンの表情が、もう今は柔らかな色をしていた。
しょうがないなぁ、いまにもそう呟きそうな困った笑顔は、冗談で言った言葉が、ダガーを本気で落ち込ませてしまったことを心配していたのだ。
「約束に遅れたのは、、、まぁ、、、ちょっと腹立ったけどさ。アレだろ?疲れてたんだろ?」
ジタンは照れたように頭を掻きながら言う。
なんでそんなにいろんな事がわかるんだろう。
そう不思議に思ったダガーは、ジタンが時間になっても来ないダガーは知らない。
「(時間になっても来ないから、心配になって窓に上って部屋のぞいて、そしたら、ダガーが寝てたから、起こさないでおいた、、、なんていったら怒るんだろうな)」
ジタンがそう苦笑していたことなど。
戸惑った表情で自分を見てくるダガーにジタンはにこっと笑った。
「無理ばっかして。仕事があるのに無理してクリスマスにデートなんかしなくってもよかったのに。他の日だって出来るだろ?デートなんか」
「……」
「お」
彼の優しさが嬉しかった。
ときどき、優しすぎて心配になるくらいの彼。
でも、ダガーはそんな彼だから好きになった。
切なさと嬉しさと申し訳なさと、言葉では表せない微妙な感情が入り混じり、複雑になった彼女は、苦し紛れにジタンに抱きついた。
「ごめんなさい」
「いいよ、許す。でも、今度からは勘弁してくれよ。待ってるとき、結構寒かった」
「、、、、、、ご、ごめん、、、、;;」
自分の胸に顔を押し付けて、自分の服越しに聞こえるダガーのくぐもった声に、ジタンはあやすみたいな返事を返す。
しおらしく謝る彼女が実にあいらしかった。
でも、謝りながらダガーは彼に見えないことをいいことに顔をちょっとしかめていた。
そして思っていたのだ。
デートが他の日にも出来ると言う彼に。

だって、『クリスマス』に一緒にいたかったのに、、、!
         他の日でも、なんて、、、、なんて鈍感な人!

そうとは少しも口にはしなかったけれど。
鈍感と思われたことなど露知らず、ジタンははっと思い出して言った。
「そうだそうだ。忘れるところだった」
そして、腑に落ちないような表情をしていたダガーの体を離させる。
ぬくもりが離れて、またそれはそれで寂しくて、ダガーは納得いかなそうに頬を膨らませた。
そんな彼女をまぁまぁとなだめながらジタンは自分の懐中時計を見た。
まだぎりぎりで日付は変わらず、クリスマスの夜は終わっていない時刻だった。
それを確認すると、
「メリークリスマス」
彼はこれ以上ないと言うほどの満面の笑みを浮かべて言ったのだ。
小さな包みを差し出しながら。
「え?」
「クリスマスプレゼントさ」
ジタンの言葉に、あ、と口を開けたダガーは、少なからずまた落ち込んだ。
彼と一緒にクリスマスの夜を歩くことばかりを考えていて、自分は彼にプレゼントを用意することなど、すっかり忘れていたから。
そんな彼女の心を悟ったかそうでないか、ジタンは自分で差し出したその包みを開けた。
そしてその中身をダガーに見せたのだ。
「じゃーん」
ネックレスだった。
18Kの鎖に、銀で鋳造されたチョコボのペンダントヘッドが通されたものだった。
「指輪は前にあげたしな。こんどはネックレス。結構チョコボの表情がかわいくて、オレ的にもお気に入り」
彼はそういってダガーの右手にちょっと目をやった。
ダガーの右手の薬指には、いつもひとつの指輪が光っている。
それは、以前ジタンにもらった指輪だった。
その指輪を片時も離していないと言うことを気がつかれていた事がなんだか恥ずかしくて、ダガーはその右手を隠した。
そーゆーとこがかわいいんだよな、とは口に出さないジタンだが。
彼は手にしたネックレスの鎖の留め具を外した。
「つけてやるよ」
予想もしていなかったプレゼントにびっくりしていたダガーの首にジタンは手を回した。
首筋に自然と触れてくる彼の手の暖かさと、ネックレスの金属の冷たさ。
さっきまでは自分から彼に抱き着いていたのに、今度は彼のほうから自分との距離を縮めてきたことに、ダガーはどきどきと胸を高鳴らせていた。
わざとではないだろうけど、近くなった彼の顔に、ダガーは恥ずかしさのあまり目を閉じてしまう。
「うん、やっぱり似合うな。オレって結構センスあるのかも」
うっすらと頬をピンクに染めて、ダガーはようやくネックレスをつけ終えたジタンを見た。
まさに恥ずかしそうな上目遣いで、彼女は小声だった。
「ありがとう」
「いいってことさ」
手をひらひらとさせるジタン。
ようやく今日はじめて、本当に幸せそうにそうに微笑んでそんな彼を見上げていたダガーだが、その次の瞬間、あ、と声をあげた。
彼女の視線が、ジタンから、彼の向こうに広がる空に移った。
なに?とダガーが見る空のほうに自分も目を向けて、ジタンも、あ、と声をあげる。
白いわた達が、空から降りてきていた。
雪だった。
ふんわりとした牡丹雪が、降り出していたのだ。
「綺麗、、、」
真っ黒な闇の空から真っ白な雪。
ツリーの明かりを反射して、次々と降る雪はそれ自体がイルミネーションのようだった。
ジタンもその美しさに見とれていた。
しかし、綺麗、と言葉をもらしたダガーは、急にそれで寒さを思い出した。
あまりに慌てていて、コートを着てくることも手袋をすることも、マフラーを巻いてくることさえ忘れてきてしまっていた。
いままで寒さに気がつかなかったのは、焦ってジタンを探したり、ジタンの言動にどきどきしていたりしたから。
落ち着いて、じっとして雪を眺めていると、寒さが染み入るように責めてくるのを深く感じるのだ。
だが、やはりジタンは、すぐにそのダガーの様子に気がつくのだ。
「あれあれ、コートも着ないで。風邪ひくよ?」
彼は自分のコートのボタンを外すと、自分もコートは着たままダガーをもコートの中に抱き込んだ。
ぎゅっと、暖かい体に抱きしめられて、ダガーの心臓はまた最高潮に高鳴り、頬も染まる。
どうしてこんなにどきどきさせるのよ、とダガーは呟きかけてやめた。
言おうとしたことは文句であって、でも彼女の心は嬉しさに弾んでいたのだ。
文句ではなくて、言うべきなのはお礼だと思って、ジタンのコートから顔だけを出すと彼女はすぐ近くにあるジタンの顔を見上げた。
だが、自分を見てくれているだろうと思われたジタンは、ダガーを見てはいなかった。
ダガーではなく、空から降りてくる雪を見ていたのだ。
そして、微笑んでいたのだ。
その笑顔が、あまりに穏やかで綺麗だったから。だから、ダガーは彼の邪魔をしないように、彼に体を預けたまま、彼と同じ雪を見た。
言葉は、交わされなかった。
しばらく二人は同じように雪を眺め、その美しさに見とれて。
いつしか、街からはよりそう他の恋人達の影が消えて。
ただ流れるだけの時間だった。
だが、ダガーはすごく幸せだったのだ。
しばらくの時がたった。
どれくらいそうしていたか、彼女はわからなかったけど、
「ジタン」
急にダガーは彼を呼んだ。
うん?と呼ばれたジタンは自分の腕の中の彼女を見た。

ダガーがクリスマスにジタンとすごしたかったのには、ある理由があった。

微笑んでいたダガーがちょっと背伸びをした。
それにジタンはびっくりしたように目を丸くした。

去年までのクリスマスに一人で過ごしていたから、ということだけでない理由。

冬の風に冷たくなった彼女の唇。
それが触れてきて、ジタンの唇に残ったのは冷たい感触。
冷たくはあったが、それは決して嫌なものではなかった。
嫌なもののはずがなかった。

誰が言い始めたのか、クリスマスの夜には伝説があったのだ。

顔を離したダガーが笑っていた。
そんな彼女に何か言おうとしてジタンが口を開いた時、鐘の音が響いた。
それは、アレクサンドリア教会の、クリスマスの日の終わりを告げる鐘だった。
0時0分。日付が変わった。

恋人達なら誰もが憧れる伝説。

そして、先に口を切ったのはダガー。
「クリスマスプレゼント、今年は用意してなかったの。だから、今年はこれで勘弁して?」
初めて彼女からしてきた唇への口付けだった。
キスをプレゼント、という彼女。
彼女の無邪気なそれが嬉しくて、同時に珍しく恥ずかしく感じたジタンは思わず吹き出してしまった。
「な、なんで笑うの!?」
笑う彼の顔が赤いのは恥ずかしさのせいだとダガーは気がつかない。

クリスマスの伝説には、もちろんダガーも憧れていた。

「なんでって、、、そりゃあ」
ジタンは抱きしめていたダガーを、さらに強く抱きしめた。
そして雪のように白い彼女の頬に、自分の頬をぎゅっとくっつけた。
思わず叫んでしまった言葉は。
「嬉しいからだよっっっ!!」



クリスマスの夜にはある伝説があったのだ。







雪の降るクリスマスの夜。













まわりに誰もいないもみの木の下で。

















男女が二人きりでキスを交わすと。














その二人は、一生幸せに一生愛し合って生きていけるのだという。















と、そんなありふれた伝説が。



















ありふれているけど、ダガーはその伝説を信じたかったのだ。










「嬉しかったから、もっとチューして」

「やだ」

「なんでさ」

「だって、クリスマス終わっちゃったもの」

「?」




                          Fin.







ぎぃやーっっっっ!!!!!!(@0@;;;;;;)
あー、間に合った。間に合った、、、(ーー;;;)
何とかクリスマスまでに仕上げたかったの、、、、。
頑張って二日間で全部書いたわ。
っつーか、できるんだね、二日でこれだけ書くなんてことが私にも。
だったら、長編ももっと早いペースで書けてもいいはずなんだけど、、、、
なんでかなぁ、、、つまるのよね、、、長編は、、、、
って、こんなに頑張って書いても、お客様がこれ見てるときはクリスマス後かも、、、、
カナシー、、、、
あぁ、もっとはやくかいときゃよかった、、、クリスマススペシャル、、、、(爆)



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