Tail Of Zidane
「(だぁめだぁ〜、眠れねぇ〜!!!)」
あまりの寝苦しさにジタンは耐えきれずベッドから身を起こした。コンデヤ・パタの慣れない小さなベッド、実に寝づらい。ただ、眠れない理由はこれだけではない。
新しい大陸に来てからというもの、実はものすごい疲労がたまっていたりする。
霧の大陸との環境の違いに体がついていっていないらしい。
疲れていると熟睡してしまう、といっていた仲間がいたが、彼は逆に疲れているときほど目がさえてしまったりするのだ。
「(ちょっくら散歩にでも行ってこようかな)」
虫の音が聞こえる。
白い三日月が夜空で冷たく光っている。
コンデヤ・パタは霧の大陸ではあまり見ない石造りの村だ。月明かりは白い石畳に反射して村自体が白く光っているようにも見える。
昼間は気にもならなかった自分の靴音が石の地面によく響く気がした。
夜とは不思議なものだ。
村人が誰も外に出ていないせいだろうか、 昼間のどかだった村に寂しい印象を受ける。
だが、夜の風は心地よい。冷たい風が髪の間を通り抜けていくのがまたなんとも言えない落ち着きを与えてくれたりするのだ。
・・・・ヤバイ・・・
そのとき、別に悪いことをしたわけではないのにあわてて逃げ去りたいような衝動にかられた。
長年盗賊として過ごしてきて、夜に人に見つかっていいことはなかった、という条件反射的なものもあるのだろうが、今は誰にも知られず一人でいたい、という気持ちから来たものだろう。
ダガーが、アレクサンドリアからつれてきたお姫サマが、この村のシンボルだというおみこし舟のよく見える橋の縁に座っているのを見つけたのだ。彼女はまだ自分に気づいていない。
足音を立てぬようジタンはそっとそこから立ち去ることにした。だが、
「ジタン?」
どうしてこうタイミングとは悪いものなのだろう?ふいにダガーがふりかえった。
「よ、よぉ」
あきらかに動揺している声が出てしまった。自分でも、あまりにも情けないと思ってしまうほどの。しかし、見つかってしまったものはもうどうしようもない。
「『よぉ』じゃないわ、こんな時間に何してるの?」
「べつに何かしてるわけじゃないさ。そういうダガーこそ何してるんだい?」
ジタンがダガーのとなりに腰を下ろすと、彼女は天を仰いだ。
「・・・・・・星を、見ていたの」
「嘘だね」
ジタンも彼女に習って空を見上げてみて呟いた。なぜなら、星なんてひとつも出ていなかったから。
「本当は、眠れないの。」
「へぇ」
顔や態度には出さなかったが、ダガーが外に出てきた理由が自分と同じだったことになんとなく共感を覚えていた。
自分達以外誰もいない広場。
どこからか聞こえてくる、夜を奏でるフクロウの鳴き声。
ちょっとしたムードがでている。これはひょっとしてひょっとするとイイ感じになるかもしれない?
「実はオレもダガーのことを想うと眠れなくて・・・」
「星はないけど月は綺麗ね」
「・・・・・」
「最近ね、また寝れないことが多いの・・・」
ジタンは、そう言った彼女の横顔がほんの少しだが青白いことに気がついた。
ダガーの疲労はジタンのそれの比ではないのだろう。箱の中で育った娘サンには一日中歩いたり野宿したりの生活が相当こたえる。なんだか、可哀想になってきた。
「う〜ん・・・ホラ、だからさ、眠れないならオレが添い寝してやるって」
「・・・遠慮しとくわ」
「つれないなぁ、夫婦なんだぜ?」
そうなのだ、コンデヤ・パタの裏の山道に入るために、『なぜか』ダガーとジタンは「夫婦」となった。といっても、ダガーに言わせれば、あくまでも山道に入るためにしかたなく、でのことであって全くもって正式なものではない。かといって、ジタン自身も正式なものだと思っているわけではないが。
ダガーが眉をひそめた。
「だから、それはこの村の中でだけだってば・・・」
「でも、今は村の中にいる」
澄んだ風が、ダガーの黒髪をとかしてゆく。
静かな、夜だ。
「今ならオレたちは夫婦だってことだね」
こんなときに、真面目な顔をして言ってみれば、感情とは雰囲気についてきてくれるものだ。
ほら、顔が赤くなってるぜ、ダガー。
「ねぇ、ジタンの尻尾って・・・」
突然ふられた話にガクリときた。
話題を変えられてしまっては、『イイ感じ』もなにもなくなってしまう。
「その尻尾、昔からついてたの?」
「もちろん」
「引っ張られたりすると、痛いのかしら?」
「当たり前だろ。オレのおケツにつながってんだから」
「(おけ・・・・???)」
ジタンはたちあがってよく見えるように尻尾を大きく振ってみせた。
彼自身も不思議だと思う尻尾。いままで、尻尾の生えた人間を自分以外には見たことがない。
自分は人間ではないのかも、と思ったこともある。
「なんだか、猫みたい・・・」
ダガーが、笑った。
彼女のこんな顔は久しぶりに見た気がする。
不思議な尻尾。
でも、人に笑顔を与えることが出来るのなら、それは素敵な尻尾と言えるかもしれない。
「こんなことだって出来る」
長い尻尾をくるりとひねり、ダガーの手首に巻きつけた。そのままクイッと引っ張ったりしてみると、二人の距離はぐっと近づいたりして・・・。
「尻尾って便利?」
あれ、おかしいな・・・?絶対に怒るか照れるかのどっちかだと思ったのに・・・。
意に反して反応は冷静なものだった。真顔でしかもこんな近くで見つめられると、どうしていいかわからない。
「べ、別に・・・」
便利なわけでもない、と言おうとしてやめた。
また、思いついたのだ、
「魔法の尻尾」
新しい口説き文句を。
「え?魔法の・・・?」
黒い綺麗な瞳を丸くしてダガーがきょとんとした。
「そう、ダガーに笑顔をプレゼントできる魔法の尻尾」
我ながら素晴らしい台詞だと思った。
オレが女だったら、ホレちゃうね。
「すごく便利だろ?」
「そうね」
いつのまにか、雲がはれはじめていた。
星がひとつ、顔を出した。
「ジタンって本当はすごく優しいんだよね。口説いてるフリして本当は元気付けようとしてくれてる」
「そ、そんなに良いふう言われると・・・」
ダガーは笑いながらジタンの尻尾を撫でた。
・・・・本当に猫みたいな扱いをしてくれなくてもいいんだけどな。
なんだかおかしな気分だ。
「その尻尾の力、また借してもらってもいいかしら?」
「どうぞどうぞ、借りたくなったらいつでも呼んでやってよ」
「ありがとう。なんだか、眠れそうな気がしてきたわ。その尻尾、寝不足を解消する魔法も使えるのね」
そう言えば、
「なんだか、オレも眠たくなってきた。一緒に帰ろうか」
無意識のうちにあくびが出た。
座ったときについた砂を払い落とし、再び静かな石畳に靴音を響かせる。
気がつくと 夜空には誰かが宝石箱をひっくり返したみたいに無数の星々が輝いている。
雲は、完全に晴れたのだ。
「あぁ、そうだわ。お願いがあるの」
「なに?」
「コレを、預かっていてほしいの。私の、大事な、もの」
ダガーはそういって身につけていた銀のペンダントをはずした。
ジタンはそれを受け取った。
「いいのかい?そんな大事なものを他人に・・・」
「ジタンに持っていてほしいの」
急に虫の音が遠のいた気がした。
透明な風が駆けぬけてゆく。音をさらっていったのかもしれない。
「どうしてオレなんかに?」
「・・・どうしてかしら?」
降り返ったダガーが突然ジタンの尻尾を引っ張った。
「いてっ!なにする・・・?!?!」
「夫婦だから」
「・・・え・・・?」
「おやすみなさいっ!」
驚いて状況がよくつかめずにいるうちにダガーは走り去っていく。
その姿はみるみるうちに小さくなり、宿の中に消えた。
最後に彼女はなんと言ったであろうか?
『オヤスミナサイ』
違うって、その前、その前。
『夫婦ダカラ』
・・・それ、どういう意味ですか?
黒い空の下に残されたのは、呆気にとられたジタンと彼の手の中のペンダント。
月光で白銀にきらめくそれはダガーの言葉を頭の中に反復させる。
・・・・・やっぱり、オレにホレたね?
夜とは不思議なものだ。
夜自体がロマンティックな雰囲気を持っているからかもしれないが、
ダガーがあんなことを言うなんて。
夜には、人の心を酔わせる力でもあるのだろうか。
「今回は、手応えがあったよなぁ。」
いや、きっと違う。夜のせいなんかではない。
そう、言うなれば・・・
「ちょっと、期待しちゃおうかな」
人に笑顔をプレゼントすることができる、
寝不足だって解消してくれる、
不思議な・・・・いや、
魔法の尻尾。
夜風に静かに揺れる、きっと、その魔力のおかげなのだろう。
・・・また、うにゃにゃの妄想。
最近、恋愛小説がすきで・・・・というか、それ以外ネタが思いつきません。
すいません、なんか、もう、ダメダメ、ですね。