エアリスの章
ふりかけ様
スラム街の一角に一人の女性がいた。
彼女は花売りをしていたが、今日はまったく一本も花は売れていなかった。
初秋特有の寂しい感じの風が頬をなでる。
ふっと彼女は後ろの建物の柱に寄りかかり、バスケットの中から季節にはまだ早い、コスモスを一本つまんで鼻の前でくるりと回した。
「あなたは綺麗よ、とても綺麗。育てた私が一番良く知ってる。なのに何で売れないのかしらねー…………」
彼女の独り言は前を通る通行人には聞こえない。
彼女はコスモスをそっと頬に当てた。
「私よりずっとずーっと綺麗でかわいくて……………」
「そう?」
声は唐突に聞こえた。びっくりして彼女が振り向くと、ちょうど柱を挟んだ向かいに人懐っこい笑顔の、黒髪の戦士が立っていた。
「俺は君の方が綺麗でかわいいと思うけど………………」
そこで彼はその人懐っこい笑顔のそのまま、彼女の手をそっと握った。コスモスを持ったその手をそっと握り、言った。
「これ、いくら?」
それから彼は毎日のように、彼女に会いに来た。
彼の話は楽しい話ばかりで、彼女は退屈しなかった。
そして日が沈みかけると、
「ああ、そろそろ帰んなきゃなあ……………」
と、本当に残念そうに言い、そして必ず一本花を買い、帰って行く。
彼女は本当に楽しかった。
ある日、彼と出会ってもうすぐ一年になるというころ、その辺り一帯をかなりの大雨が降った。その雨は、嵐のように荒れ狂い、三日ほどもその状態は続いた。
さすがにその日は彼女も花を売りには行けなかった。
風でぎしぎしとなる家の中で、彼女は窓からどしゃ降りの外を見た。
悪い予感がした。
そしてその予感は的中する。
雨上がりの次の日、彼女の花畑は、雨と風でメチャメチャになっていたのだ。
ほとんどの花は売り物にならなくなっていた。
花畑を綺麗に直すのにも時間がかかる。
彼女は、今日は花を売りに行くのはやめて、花畑を元に戻す事にした。
作業中、彼はどうしているだろう、と、ふと気になった。
その作業は、まる一日もかけても終わらなかった。
折れていない花も、ほんの数本しかなかった。
その、折れていない花でさえ、花びらが取れていたりして質は良くなかった。
こんな花を売るなんて、彼にこんな花を売るなんて、とても出来なかった。
こんな時代に彼は毎日花を買いに来てくれる。
そんな彼にこんなボロボロの花は売りたくなかった。
…………でも……………
大雨が降った三日間。そして今日。
たった四日、会っていないだけ。しかしそれが彼女の心を不安にさせた。
もしかして、もう会えないのではないかと思った。
何も根拠はなかったが、たまらなく不安だったのだ。
折れてしまった花をきゅっと抱いた。
予定では二日だった。
二日で済む仕事のはずだった。
しかし実際は…………
あの大雨の前の日、とある村で最近暴れているモンスターを退治せという仕事が来た。
比較的近くの村だったので、すぐ戻れるだろうと思っていた。
しかし、あの雨は道をぐちゃぐちゃにし、モンスターを巣にこもらせた。
モンスターの強さはそれほどでもなく、彼の実力を持ってすれば十分もかからなかったが、村までの往復時間と、モンスターを探すのにかかった時間は、予定の二倍ほどにもなった。
出発してから四日目の真夜中、やっと家に帰り着いた彼は、部屋の電気をつけ、椅子にどさりと座った。
目の前の机には、何の飾り気もないコップに、半分しおれてしまった花がさしてあった。
―――仕方なかった。それがソルジャーとしての仕事なのだから。
…………しかし……………
たった四日、会っていないだけ。しかしそれが彼の心を不安にさせた。
もしかして、もう会えないのではないかと思った。
何も根拠はなかったが、たまらなく不安だったのだ。
しおれてしまった花をそっとなでた。
彼女は小走りに歩いた。
花を売りにでるのは一週間ぶりであった。
この一週間を、人がどう感じたかは知らないが、少なくとも彼女にとっては、あまりにも長すぎた一週間であった。
小走りになる理由はただ一つだった。
それ以外に何があるとゆうのだろう。
少々息を切らせながら、いつもの、その場所を見回した。
――――いない
脱力のような物を感じながらも、さらに探す。
雨をよけた店の軒下。並んで座ったベンチ。花の種を分けてあげた街角………
いない。 いなかった。
仕事が終わってないのかもしれない。 何か用事があるのかもしれない。
理由なんていくらでも……………………あ…る……………
バスケットをぎゅうっと握った。
歯をかみしめた。
下を向き、後ろの建物の柱にもたれた。
「こんなのって……」
「ああ!見つけた!!」
声は唐突に聞こえた。びっくりして彼女が振り向くと、ちょうど柱を挟んだ向かいに人懐っこい笑顔の、黒髪の戦士が立っていた。
「最近こなかったから心配したんだぜ!?もう売りには来ないのかと!」
そこまで彼は一気に言った。
そして息を整え……
「ああ……でも良かった…本当……」
安堵のため息と共に言った。
「………………………」
彼女はそのとき、目が潤んで彼の顔がよく見えていなかった。
彼女が出来たのは、それを知られないよう努力することだけだった。
「?どうか…したか?」
「ん…何でもない、何でもないよ。 あ それより……お花なんだけど…」
彼女は話題をそらせながら言った。
「あの大雨で……みんな折れたりしちゃって……」
彼女は季節にはまだ早い、コスモスを一本つまんで彼に見せた。
そのコスモスは、花びらが一枚無かった。
「こんな花しかないの………ごめんね…」
彼女は肩を落とし、コスモスをみていた。
今すぐ泣き出してしまいそうな雰囲気であった。
「………こんな花……いらないよね……」
彼は優しく笑った。
彼女の手をそっと握った。コスモスを持ったその手をそっと握り、言った。
「確かに……あまり綺麗な花とはいえないかもしれない………でもね…俺は花だけを買ってたわけじゃないんだよ………花と同時に………」
片手で頬にそっと触れた。
「花と同時に君の笑顔を買っていたんだ。」
もう夕暮れも近い……
いつもどうり彼は花を一本買った。そして帰っていく………
彼女は彼の後ろ姿を見送る………
『最近こなかったから心配したんだぜ!?もう売りには来ないのかと!』
『ああ……でも良かった…本当……』
「ザックスーーーーーー!!!」
「何だーーー?」
「どうもありがとう!」
「…え?」
「どうもありがとう!」
「……どういたしまして、エアリス!」
それからしばらくして、彼はどこかに行ってしまった。
………しかし………
「花を売っているのか?」
「ええ。気に入ってくれた?一本一ギルよ。」
「一本もらおうか。」
「ありがとう!」
「………………………………」
去っていく金髪の青年に、彼女は何か、懐かしさを感じていた。
季節にはまだ早いコスモスが、バスケットの中で揺れている…………………
END 9月
30日
はじめまして、みなさん。ふりかけです。
小説楽しんでいただけましたか?そうだと、とてもうれしいです。
今回はエアリスでしたが、またクラウドとかのも書きたいなぁ。
ご感想とかよければ教えて下さいネ。 では!また会いましょう!(会えるか?)
P・S
私がFF7の女性で一番好きなのはユフィです。
エアリスじゃないんです。