駅
マタロウ様
プラットホームで列車の咆哮が辺りを騒がしくする。煙を訝しげに吐き出す列車は、まるで生き物。呼吸を繰り返す、地球上の生命のように。
駅には、様々な事情を持ち込む者がいる。例えば、喧嘩。
「や、やめるだもんよ〜、サイファ―」
意味も無く、無駄にでかくなった大男が白いコートを羽織る人物に必死で呼びかけていた。大男の肩には『雷神』と重々しく書かれていた。
「指図してんじゃねぇぞ、コラ」
サイファーと呼ばれる白いコートの男は、目の前の中年親父の襟を引っ掴んで睨みを利かせていた。
「ひ、ひぃ!!わ、私はただこんなクソ暑い夏にコートなんて着てないで脱いだ方がいいって・・・」
「あぁん!!!」
もはやチンピラ。もはや不良。もはや―――。この後、数十人の駅員に止められたサイファーと雷神。
駅室にて。
「何が原因かね?」
立派な髭を生やした男が、二人に疑問を投げかけた。すると、サイファーは軽やかに即答した。
「コイツです」
となりの雷神を指す。
「!!」
雷神は椅子を蹴飛ばした。
喧嘩ばかりではない。時には、心温まる事だって起こる。
重い重い荷物を背負った老婆が、駅の時刻表で戸惑っていた。背が足りないことにより、時刻が見えないのだ。
そこへ、キスティス登場。
「どうしたんですか、お婆ちゃん?」
「え・・・ティンバ―行きの列車は何時に来るのかえ?」
「ええーっと・・・ティンバ―行きは・・・9時52分8番線ね。お婆ちゃん、ここ6番線よ」
「ありゃりゃ、6番線かえ。ふぅー・・・」
すると、キスティスは自分の身をかがめて老婆に背を向けた。
「さぁ、お婆ちゃん。乗ってください」
そして、色恋。額に傷のある青年は一番線にて。立て髪金髪の青年は4番線にて。そして、カウボーイハットを被った青年は9番線で。それぞれ、様々な想いを胸に、待っている。もどかしく、切ない気持ちを抱いて、恋人達をプラットホームで待つ。
――列車が来る、恋人達を乗せて。同時に立ちあがり、同時にドアが開く。同時に「おまたせ〜。待った?」と。
そして、同時に「いいや、今来たところさ」と。
完