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 ココロノ・アメ

猫様


セフィロスとの戦いの後、アタシはウータイに戻った。
クラウドからは、がっぽり金を締め上げられたし、そのお陰でマテリアもたっくさん手に入った。
それを持って帰るなり、みんな喜んでアタシを誉めてくれた。
ちょっと照れたけど、別に嫌じゃなかった。
でも、そんなアタシの幸せな毎日は長くは続かなかった。

「ユ、ユフィ?いるか?」
「何だよ、親父。何で、そんなよそよそしいの?」
アタシはねっころびながらせんべいをかじる。
「じ、実はな、お前に紹介したい人がいるんだ。」
親父は苦笑しながらアタシにそう言った。
「何?誰?」
アタシは馬鹿にするような態度で親父に言った。普通ならコレで怒るんだけども、何でか親父は照れながら奥から1人の人を呼びだした。
「初めまして、ユフィちゃん。」
「・・・?誰?こん人。」
アタシは出てきた女の人を指さして親父に訊いた。
すると親父は急に怒りだした。
「『こん人』とは何だ!!口の効き方が悪いぞ!!」
「な、何よ怒りだして・・・。」
すると怒ってる親父をその女の人は「まぁまぁ。」と言ってなだめた。
「そ、そうだな。・・・ユフィ。新しい、お母さんだ。」
アタシは自分の耳を疑った。
「どういう事?」
「だから、私はこの人と再婚するんだ。」
親父は頬を赤めながらアタシに言った。
アタシは急に頭が痛くなった。
(再婚?この女と?)
そう思えば思うほど、呼吸がしにくくなった。
アタシは"きっ"と女を睨み付けると
「勝手にすれば?親父の勝手だよ。」
と言って家から走り出てった。
親父やあの女が、アタシの名前を呼ぶ声が遠くから聞こえてきた。
だけど聞こえれば聞こえるほど、アタシの足は回転を増し、アタシの胸は死ぬほど痛くなった。
気が付けば、もうウータイを出てしまってた。
(でも、まだ駄目だ。ここだと、追いつかれる。どっか、遠い所、どっか遠い所。)
アタシは無我夢中になって、クラウドから金と一緒に奪い取った海チョコボを呼んだ。
「ピューィイ!」
アタシの口笛と共にチョコボはどこからともなく走ってきた。
「よしよし、いい子だね。アタシ憶えてるかい?」
チョコボはあたしに久しぶり会ったんで、えらくじゃれてくる。
「あはは、くすぐったいって。やめてよ、・・・へへ。」
アタシも久しぶり生き物の体温を感じて嬉しくなった。
でも、のんびりとはしてられない。
「行くよ、エアリスの居るところに。」
アタシはチョコボに乗って、とうとうウータイの島から出た。
(二度と帰るか・・・。)
アタシは唇を思いっ切り噛みしめて、チョコボにしっかりとしがみついた。

こうやってチョコボにまたがっていると思い出す。
クラウド達と一緒にいた旅。
アタシはいつの間にか穏やかな表情に変わっていた。
いつも思い出す。
一緒に戦った時のことを。
一緒に泣いた時のことを。
一緒に笑った時のことを。
一緒に怒った時のことを。
今となれば、嫌なことも楽しかった。
(もう一度戻れたらいいのに。)
アタシは急に目の奥が熱くなった。
視界が歪んでくる。

ぐすっ。

アタシはいつの間にか眠りについた。
そして幼き淡き想い出の日を夢で思い出した。
いつもと変わらぬアタシの部屋。
ほんの少しだけ今より若い親父。
少しだけしか変わってないウータイ。
でもそこには決定的に違うものがあった。
そこにはお母さんが居た。
声も、顔も、名前さえも覚えてない。
ただ、あたしが泣くといつも歌ってくれた。
「この子の可愛さ 百より大きい 花を摘めば ものこそ思いぬ 星をもこの子の為に光る 皆はこの子の為にある ねんねんころり ねんころり 明日には又一緒に 遊ぼうや」
お母さんのでたらめな歌。
でもこれを歌ってもらうとアタシはいつもすぐ大人しくなって、眠った。
お母さんの背中はとても温かくて、アタシを抱きしめるその手は風よりも柔らかくて。
お母さんの死んだ時、アタシは泣かなかった。
わかんなかった、死んだって事。
いつでも泣けばお母さんが飛んできて、又歌ってくれると思ってた。
でも・・・
アタシはお母さんがどっかに・・・多分火葬場につれていかれたその次の日から、何かがおかしいって気が付いた。
お母さんの物は全部みんながどっかに持っていった。
それに、お母さんの写真が仏壇に立てられた。
親父はいつもに増してぼーっとしてて、そんでみんなはアタシを見るなり哀れむような顔をして見つめてきた。
そして、一番おかしいのはお母さんが消えちゃった。
当たり前なんだけどね、死んじゃったから。
でも、あの頃は知らなかった。
名前を呼んでも、探しても、何処にも居なかった。
ある日アタシは溜まらなくなって泣いた。
お母さんは来なかった。
「お母さ〜ん、お母さ〜ん。」
泣きわめいても、お母さんは来なかった。
そう、これからも。

        一生

目が覚めると、アタシは忘らるる都に来ていた。
アタシは疲れ果てたチョコボの頭を、優しく撫でて声を掛けた。
「お疲れさま、ありがとね。・・・休んでていいよ。」
アタシはそう言うと、すぐにチョコボから降りて、 エアリスに会いに行った。

「エアリ〜ス?いる?」
でっかい貝殻のような家(?)の隣の湖にアタシは足をつっこんだ。
アタシはその湖の冷たさを感じた。
でも、何処か温かかった。
「エアリス・・・。アタシの親父ね、再婚するんだって。へへっ、綺麗だったよ、相手の人。でもね、アタシ別に良いんだけどね、再婚は。でも、何かヤなんだよね。へへっ、これって、ワガママかな?」
いないエアリスにアタシは語り始めた。
「何だろうね、この気持ち。」
アタシは苦笑いをしながら少し頬をかいた。
「一人になるから?」
突然湖から声が聞こえてきた。
その声はエアリスそのものだった。
「エ、エアリス!?」
アタシは大声で湖に向かって問いかけた。そして顔を勢い良く水の中へと押しやった。
でも、目を開けても何もいない。
ただ薄暗い蒼い底が、永遠と奥へ繋がっていた。
「ぷはっ!」
アタシは顔を水面から上げた。
「・・・。なんだっだの?」
アタシは自分の顔をひたすら眺めた。水面に映っている自分の顔を。
「一人になるから・・・・か。」
アタシは呟く。
「違うよ、エアリス。アタシ、他人を急にお母さんって見ることが出来ないんだと思う。」
アタシは水面が映し出す、現実の底を見つめる。
「どうして?」
そして、水面に映るアタシが、アタシに問いかけてきた。
「・・・子守歌は、お母さんの物だから。」
淋しげな顔をするアタシがそこに映っている。
「・・・いいじゃないそれで。」
湖に映っているアタシがあたしに優しく声を掛けてくる。
「子守歌を歌うお母さんは、あなたを生んで育ててくれた人。あなたをこれから育ててくれるお母さんは、これからお母さんになる人。それで良いじゃない?」
そっと、水面に映るアタシがアタシに触れようとする。
アタシも水面に映るアタシに触れようとする。

アタシとアタシの手が重なり合った。

とても冷たいのに、何故か鼻がつんとする。
体は冷たく冷え切ってるのに、何故かその手だけ温かい。
だんだん、鼻のつんとした感じが無くなってくると、目の前がぼやっとしてくる。
「わかったでしょ?」
あたしの声でもなく、エアリスの声でもないその誰かの声で、アタシははっと我に返った。「・・・・・・。」
アタシは、ぼーっと湖に足をつけて寝ていた。
(今のは夢?)
そう思うが早いか、すぐにアタシは水面を見た。
さっき見たような感じはしなかった。
「・・・・・・。」
アタシは一人納得すると、少しだけ、ほんの少しだけ口元をちょっぴり上げた。
「行かなくちゃ。」
そしてアタシはあたしを待つチョコボの所へと向かった。
変に温かいのに、嬉しいのに、鼻が痛いのは何故だろう。
つんと来るこの感情をアタシは押さえつけながら、アタシを待ってるあいつの所まで戻っていった。
草原が走る風でカサカサと揺れ、周りの景色はグルグルと変わっていく。
何となくだけど、あの時アタシはやっと一つになったような気がした。
アタシとアタシの手が触れ合った時。
アタシは別に良かった、どうでも。
アタシはただ─────

─────お母さんと会いたかっただけ。

Fin


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