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 君が生きている限り……

 BGM...序盤:いつか帰るところ 終盤:バトル1

ピコ半様


 静かに照らす月を真上に、どこかもわからぬ山道をひたすらに歩いている四人組がいた。
 ジタン、ダガー、ビビ、エーコのメンバーは、お互い離れないように気を配りながら慎重に歩いていた。
 時に、崩れやすい道を通ることもあれば、真っ平らな道を進むこともある。
 ときおり現れるモンスターも、あまり対した敵ではない。足場に注意して戦えば勝つことなど楽勝な程度だ。
「ねぇ、ジタン。本当にこっちでいいの〜?」
 疲れ切った表情でエーコが訊いてきた。
「さあな」
 素っ気ない返事を返すと、エーコだけでなくダガーの顔色も一変した。ビビの表情はあいにくわからない。
「そんな! 俺に任せとけとあれだけ見栄を張って、挙句が「さあな」なんて……」
「だ、大丈夫だって! 俺の勘はよく当たるんだぜ? ダガーだって知ってるだろ?」
 ジタンの言う通り、彼の勘はよく当たった。それが盗賊としての勘なのかはさて置き、ダンジョンなどで迷ったときに限り、ジタンの勘は見事的中するのだ。
 だが、普段の状態でジタンの勘を頼りにはできない。現に賭け事では惨敗しているのだ。そのことをダガーだけではなく、みんな理解している。
「確かにそうだけど……」
「だから安心しとけって。絶対に今日中に着くはずだから」
 いったいその確信はどこから出てくるのかと、少なからずその場にいる一同は心底思った。
 しばらくしても、また同じような道を歩いていく四人。
 いい加減に疲れたのか、エーコが駄々をこねはじめ、仕方がないということで暫しの休憩をとることにした。近くにちょうどいい大きさの洞窟があり、そこで休むことに意見が一致した。
 ジタンの見事な技っぷりにダガーだけでなく、エーコやビビも感動したようだった。近くの枯れ木から枝をいくつか折って持ってきたジタンは、見事なまでの迅速さで焚き火を作り出したのだ。
 真っ赤に燃えつつも、風が吹くたびにゆらゆらと揺れる炎はどこか頼りなく感じた。
 疲れたと言うだけのことはあって、エーコは横になるなり小さな吐息をたてて眠ってしまった。それに続き、ビビもうとうとと最初のうちこそ我慢はしていたものの、結局睡魔には敵わず、一際大きな岩を背に眠りについた。
 ダガーはその様子を微笑ましく見送ると、自分も眠くなってきていることに気がついた。
 そういえば、最後に眠ったのはどれほど前だろう? と疑問が浮かんでくる。
 この山に迷いこんだ時には、まだ昼時だった。それよりも前の時刻では、近くの森からようやく出れたとはしゃいでいた。つまり、今日は迷いっぱなしなのだ。
 珍しいこともあるものだと思いつつ、視線をジタンへと向けた。
 焚き火を背に、洞窟の外の風景をじっと見つめている。
 外は暗く、風の音が時に激しく、時に穏かに耳に入る。
「どうしたの、ジタン?」
「いや、べつに……」
 踵を返してダガーの方を見る。ちょうど目が合い、ダガーは驚きながら目を反らした。
 パチパチと焚き火が音を発てるのも、あまり気にならなくなっていた。
「……ちょっと、外見てくる」
 そう言って、ジタンは洞窟の外へと一人出て行ってしまった。
「あ、え、待って!」
 いきなり出ていかれてしまい、どうしたのかと慌ててダガーも飛び出す。
 ジタンの人影は既になく、どこかへと姿を消してしまっていた。
 刹那、風が大きな音を発ててダガーの髪を激しく踊らす。黒い髪を抑えながら、突風の中で必死に耐える。
 独りとはこんなにも寂しかったろうか、とその時になって感じた。ジタンは一人でどこかへと行ってしまったし、エーコもビビも洞窟に置いてきてしまっている。
 周りに仲間がいないだけで、こんなにも気持ちは変わってしまうのかと、ダガーは悲しい気分になりながら思った。
 突風が止み、周囲を見渡す。が、すぐそこにあったはずの洞窟の入り口はそこになく、ダガーは山道の真ん中で一人佇んでいた。
「あ、あれ? ここは、いったい……」
 突然のことに唖然とする。彼女の心の中で、ああ戻ってしまったと嘆く自分がいることに気づく。
 なにも知らない王女だった頃に、また戻ってしまったんだという不安と悲しみに包まれ、どうする術もなく両膝を地に着かせる。
 どこまでも続く虚無の闇を見つめる瞳から、一筋の涙が頬をつたって零れ落ちる。
 なんで泣いているのだろう? 別に泣く必要はないのに、と自分に言い聞かせるようにして思うも、涙は止まる気配を見せなかった。
 恐怖、悲しみ、孤独、そして無力。すべてがダガーを襲う。
 どうしてなにもできないのだろうか。誰かがいなければ、自分ではない誰かの力を借りなければなにもできない。しようとしたことはすべて無力と化して、すべて無駄に終わっていく。
 結局、なにもできないのだろうか? 母と呼べる人も救えなかったように。目の前で倒れていく人々を助けられなかったように。いつ終わるともしれない人生を語る黒魔道士に対し、なにもできず、言えなかったように。
 やはり自分は無力なのだと痛感する傷みは、今まで受けたどんな傷よりも痛く、苦しかった。
 風がまた吹き始めた。

「いつか帰れる場所がある。君を歓迎して迎えてくれる場所が必ず」

 ふと、そんな言葉が脳裏に過った。
 愛想の良い盗賊がいつか言ってくれた言葉だ。その次はなんと言っていたか。

「もしも、この世界のどこにもそれがないのなら。俺が帰れる場所になってやるさ」

 いつもみたいなキザな科白。格好つけて女の人に言う口説き文句が、その時ばかりは違って聞こえた。
 帰れる場所がどこにもなくても、彼なら自分を迎えてくれるのだろうか?
 なにもできない無力な自分を、本当に歓迎などしてくれるのだろうか?
「それは……、違う気がする」
 それではまた同じことの繰り返しだ。人に頼ることになってしまう。それでは、一生無力な女で終わってしまう。そんな気がした。
 無力ではいけない。一国の王女として、力をもたなければいけないのだ。すべての人を救えるほどの力が。
 そう言い聞かせながら、ダガーはなにか聞き覚えのある声を耳にした。
「……ジタン?」
 気がついたら周りを見回してした。いつの間にか周囲は霧に覆われている。なにも見えないけれど、それでもダガーは周囲を見回す。
 そして、人影を見つけた。走ってくる人影。見慣れた尻尾。どこか憎めない、愛想の良い盗賊。
「ダガーっ!」
「ジタン!」
 二人の声が重なり、また二人の影も重なった。
「帰ってみたらダガーがいないから心配したんだ。でもよかった……」
「……ごめん、なさい……」
 顔を紅に染めながら、呟いた。
「謝ることあるもんか。べつに悪いことしたわけじゃないんだ」
 笑みを浮かべながらそう言った。心底安心しきった様子だ。
「……うん」
「まぁ、ここで二人っきりでいるのもいいんだけどさ。いい加減帰らないと、エーコになに言われるか知ったもんじゃないからな」
 らしくない、はにかんだ表情で視線を空に向けた。真っ暗な空には、霧はかかっていない。
 ダガーはここではっとした。今さら気がついたことに、二人は抱き合っていたのだ。
「――!」
 紅に染まる顔が、より真っ赤になる。突き飛ばすようにして、ダガーはジタンを自分から遠ざけた。
「っとっとっと――!?」
 バランスをとろうと、倒れかけた体制を整えようとしている最中に、ジタンの片足が崖を滑った。しまったという表情で、なにか掴まるものはないかと必死に周囲を探す。しかし、それも空しくジタンの体は下降感に包まれた。
 ダガーがそれに気がついたのは、ジタンが離すまいと掴んでいる石がちょうど落ちるか落ちないかの時だった。
 自分のしたとんでもないことに気づき、慌てて手を差し伸べる。
「ジ、ジタン!」
 右手を差し伸べ、ジタンの右手がそれに掴まった。引き上げようと右手に力を込めるも、女一人の力では男を持ち上げることすら敵わず、そのバランスを保つことだけが精一杯であった。
「ダガー! 手を、手を離すんだ!」
「そんなこと、できるわけないじゃない……!」
「これぐらいの崖、盗賊の俺ならどうにでもなるさ!」
「馬鹿言わないで! いくら盗賊でも、この高さでどうやって助かるっていうの!?」
 そう言われて、ジタンは視線を下へと向けて、さすがにやばいと感じた。真下には一面漆黒の森が広がり、崖の所々には変に出っ張っているところがある。
 いかにジタンが盗賊とはいえ、落ちればまず命の保証はなかった。
「……くそっ!」
 どうすればいいのか、ジタンには思いつかなかった。
 そうこうしている間にも、ダガーの力はなくなっていく。
 そして――二人は落ちた。
 ダガーは体を支える力さえ失い、薄れゆく意識の中、下降感に包まれていた。
 このまま死んでしまうのだろうか。それでもいいのかもしれない。なんの役にもたたない無力な女など、世界にはいない方がマシというものだ。自分に言い聞かせるようにして、そう考え込んだ。
 いつだろうか。戦いに敗れそうになり、ジタンは彼女に対してこう言った。

「俺が死んでも、君が生きている限り、俺の生命は永遠に続く……。でも、ダガーが死んだら、俺は生きてはいけない。君が俺の中で生きていようと、いないことには変わりないんだから――」

 彼女の歌う歌詞にもある言葉が、その中に含まれていた。それは彼女とて同じことだった。最も信頼でき、支えになってくれる人がいなくなることは、彼女にとっても死と同じ意味なのだ。
 ――助けなければ。
 彼女が一つの願いを想う時、眩い光が二人を覆った。



 あれからどうなったのだろうか。
 ジタンを引き上げようとしたけれど、逆に自分もろとも落ちてしまって――そこから先を覚えていない。
 気がついたときには、例の洞窟の中で横になっていたのだ。
 隣で寝ていたジタンは、起きて一番に「やぁ、ダガー。よく眠れたかい?」とあくび混じりで言ってきた。
 私の脇で寝ていたエーコも、まだ眠たそうな目を擦りながらのん気に挨拶を交わす。ビビも同様だ。
 あれが夢とは思えず、ジタンにも訊ねてみるものの、
「夢なんじゃないの? だって、そんなことになった記憶はないからなあ」
 などとなにも知らないといった素振りで返すのだ。
 少し疑いながらも、本当にしらなそうなので、それから先は問い詰めなかった。
 悪い夢だったような、それでいて少し良い夢だったような。中途半端な気持ちのまま、ダガーは山道を歩いた。

 それから数時間後。見事、ジタンの勘ははずれることとなる。


――作者の感想
 なんだかよくわからない展開だぞ(笑)
 とりあえず、テーマを\の主題歌からとってみる。
 にしても、書いてるほうが恥ずかしいね(^^;
 これも恋愛小説に含まれるのだろうか?
 だとしたら、これが初! 2時間の苦悩だった(爆)
 既に外は明るい……(現時刻:AM5時45分)


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