見かけ上の関係
(データ解析上の注意)
これは、やや専門的なことになるが、データ解析上の注意点を説明して
おこう。
海上では、陸上に比べて観測が難しく、誤差その他により、ばらついた
データを得ることがある。
図の左側はバルク係数と高度10mの風速の関係である。風速が同じ10 m/s で
波の状態も同じときでも、観測誤差と乱流がもつ性質のために、
バルク係数は一定の大きさとして観測されない。
ここでは、風速は2高度で観測し、左図のプロットに現れた上下のばらつきは
観測誤差のみによって生じたものだとする。
図16A 海面のバルク係数。(左)バルク係数CMと高度10mの風速
U10との関係、(右)バルク係数と摩擦速度u*との関係。
簡単のために、大気安定度が中立のときを想定すると、バルク係数CM
と粗度z0の関係は次式で表される。
CM=k2/ {log(z/z0)}2
・・・・・・・・(A1)
ただし、z は海面からの高さ(10m)、 k はカルマン定数である。
図のバルク係数は風速の鉛直分布の観測から、上式によって計算された値で
ある。
中立時の摩擦速度は、高度 z の風速を U10 としたとき、
次式で定義される。
u*=(CM)1/2×U10
・・・・・・・・・・(A2)
右図は、バルク係数を摩擦速度の関数としてプロットしたものである。
青線で示す線形の関係は、単なる見かけ上のものにすぎない。
なぜなら、横軸の u* は式(A2)で示すように CM の関数で
あるので、当然ながら、縦軸と横軸はきれいな相関関係をもつことになる。
これは簡単な例であるが、論文によっては、縦軸と横軸をいくつかの物理量で
無次元化し、きれいな見かけ上の関係があるかのように示した研究が
あるので、注意が必要である。