うねりに誘起された風速変動

(貴重な副産物)
(大切な心がけ)


貴重な副産物

相模湾平塚沖海洋観測塔で、海面上0.5~22mの高さの範囲に小型の風速計 を取り付け、風速の鉛直分布を観測していた。その目的は、海面上の風速 鉛直分布は大気安定度が中立のときは対数分布の形であり、途中の折れ曲がり の「キンク」は存在しないことを証明し、さらに海面の粗度が風速によって どのように変化するかを調べることであった。

この観測では、観測塔から陸上までは、海底ケーブルが埋設されていて、 陸上の研究室ではコンピュータによってデータの採集が行われる。風速計の 回転ごとに発する電気パルスの時間間隔から1秒間ごとの風速を観測する ようにしてある。同時に、電磁カウンターの数字がカチカチと音をたてて 進むようにしてあり、肉眼でも平均風速の鉛直分布が読み取れる。

1969年9月25日夜8時ころ、台風が南方はるか洋上にあり、うねりが来ていた。 このうねりで風速計が壊されていないかと心配し、電磁カウンターの置いて ある研究室に様子を見に行ったときのことである。

電磁カウンターのカチカチという音がいつもと違って、リズミカルに聞こえて くるではないか! そのときの波高計の示すうねりの周期は12秒、波高の 平均は0.9mである。電磁カウンターのリズムの周期がちょうど12秒である。

すなわち、波の周期に同期した風速変動が生じており、たいへん驚いた。 このときの、うねりは南からきているのに対し、約4m/s の風が北から吹いて いた。急いで藤縄幸雄さん、内藤玄一さん、渡部勲さんに観測の体制を とるべく召集をかけた。そうして、連続してデータを採集しはじめた。
当時、研究所の職員宿舎は隣にあったので、それが可能であった。

当時の非粘性流体に対する理論では、波によって誘起される風速変動は 存在することは分かっていたが、実際の海上では、風の乱流スペクトル の中に波と同じ周期のスペクトルのピークがあることは明確には発見されて いなかった。

この発見は、海面粗度(バルク係数)の観測中に得た貴重な副産物である。 その日から約1年間にわたり、風向と波向のいろいろな場合について、 うねりによって誘起される風速変動を解析し、論文を投稿した(Kondo, Fujinawa, and Naito, 1972: J.Fluid Mech., 51, pp.751-771)。

その原稿を読んだレフリーも感動させられたという文面をもらった。著者 が感動して書いた論文は、読者も感動するものだ。

大切な心がけ

観測したデータは、その日の内に処理・解析しよう。 観測状況がすべて記憶にあるうちに、データは処理しよう。 これがデータの良否を正しく判断できることにつながる。

多量のデータのときでも、最低限のデータは処理・解析し、大よその結果は その日の内に知っておこう。その上で、後日になって残りのデータは 処理・解析しよう。データ処理・解析もせずに、1週間とか1ヶ月以上も 放置しておくと、データ収集時の状況を忘れてしまい、貴重なデータ は活かされなくなる。

連続してデータを収集しているとき、普段と違った異常現象が見つかった ときは、器械の故障なのか、それまでに知らなかった新しい現象なのか、 その場で解明しておこう。あとで解明するには、労力が10倍も100倍も必要 になる。


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