13.過熱する都市と住民  =近藤純正=

この短文は、2008年11月7日付高知新聞朝刊の
『所感・雑感』に掲載された内容と同じです。

その後のことを追記(本文のうしろに):2008年11月28日

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地球上の気温は上り下りを繰り返しながら、ゆっくり と上昇している。これが地球温暖化であり、その上昇 を抑えるために二酸化炭素を削減する努力が行われて いる。

一方、都市では排熱の増加、緑地面積の減少、舗装道 路の増加などによって気温が上昇している。これは熱 汚染とも呼ばれている。

日本の多くの都市では、実際の気温上昇は地球温暖化 量の2~4倍にもなっている。熱汚染を抑制するには、 二酸化炭素の削減とは別の都市対策が必要である。

それには風通りをよくすること、あちこちに小さい緑 地を多数つくること、ビルを高層化しないことである。 高知の気象観測は、高知市比島町一丁目にある高知地 方気象台の観測場(露場)で行われている。終戦後、 観測露場の周りに住宅が建つようになり、風通りが悪 化し、特に日中の最高気温の上昇が著しかった。

その後の都市化による気温の上昇幅はいったん鈍化す るのだが、最近になって毎日の平均気温の年平均値が 0.3~0.4℃ほど急上昇した。これは高知駅周辺の再開 発に伴い、観測露場の周辺の古い住宅の解体や舗装道 路の面積拡大などの影響によるものである。

詳しくみると、日中の最高気温には大きな変化はない が、夜の最低気温が年間を通じて1℃近くも上昇して いる。冬は過ごしやすくなったが、夏は寝苦しくなっ たことになる。

筆者は、気象観測所の状況を調べるために全国を巡回 していて、最近、静岡県内にある旧三島測候所(現・ 無人観測所)のことを知った。測候所の宿舎跡地(面 積2,300平方メートル、約700坪)が売却され、そこ に13階建てマンションが計画されたところ、住民に よる「測候所を守る会」の反対により、この計画は中 断された。

この問題の発端は、測候所の余剰地を財務局に返還す る際に地元気象台の判断ミスがあったのではないか。 気温などの観測機器を設置する露場の周りに空間的な 余裕を残さず、露場フェンス際から外を売却したこと がよくなかった。

さて、高知は西寄りの風が多いのだが、以前、露場西 側に造られた子供用サッカー練習場に背の高いフェン スがはられ、その東側のフェンスにつるが植栽された。 つるが繁ると、露場の風が弱まり平均気温の上昇が予 想された。

観測は高知市周辺を代表する気象を監視するものであ り、つるの繁茂に影響を受けないことが望ましい。こ のことを3年前(2005年)に気象庁で話したところ、 気象庁から高知地方気象台を経て高知市役所へと伝え られ、つるは移植された。

今年、その現場へ行ってみると、今度は西側のフェン スに別のつるが植えられていた。やがてつるはフェン スに広がり気温の観測値に影響を及ぼし、さらに、練 習場で遊ぶ子供たちを見守る上でも邪魔になってくる。 つるは今のうちに撤去するのが望ましい。

以前、岡山県津山市で、観測露場の近くに成長した樹 木が観測値に影響するので伐採・せん定すべきことを 説明すると、住民や市はよく理解し対応してくれた。 観測所の環境は住民の理解と行動が本当に大切だと思 う。
(高知県吾川郡いの町出身・神奈川県平塚市中里49-6)



追記(11月28日):
上記は、2008年11月19日に開催された高知大学における公開講演 「正しく知ろう地球温暖化」の内容の一部として投稿したものである (「身近な気象」の「M42.正しく知ろう 地球温暖化(講演)」)。

講演に先立ち、前日の18日に気象観測露場に行ってみると、 フェンスのつるは撤去られていた(ただし根は残ったまま)。 だれが撤去したかを知るために、近所の横田さんに尋ねたところ 「数日前に数人が撤去作業しました」という。

そこで、高知市役所みどり課の課長補佐・和田享仁(たかひと)さんを訪ね、 つるを撤去した経緯を尋ねたところ、11月7日高知新聞に掲載された 「所感雑感」を読み、つるの繁茂が気象観測に邪魔していることを知り、 11月14日につるを撤去したという。つるなど植物は蒸散作用により、気温上昇 を緩和する作用があるので、良かれと思って植えたものだという。

高知市役所の素早い対応を誉めたい。このことは19日の講演でも話題とした。

観測所の環境保持は住民の協力が必要なので、23日(日曜日)に観測露場の ある比島町一丁目の町内会長・伊藤篤雄さん宅を訪問し、今後とも観測所の 周辺環境に注意していただくよう、お願いしておいた。
なお、「子供用サッカー練習場」の呼び名ではなく、「こども運動場」との ことである。

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