都市化の放射冷却に及ぼす要因
(放射冷却を弱める要因の補足説明)
建築物が増え、都市化・高層化が進むと地表面から天空を見たときの
①天空率が変わり、さらに
②人工熱の排出量が増え、③熱的パラメータ
も変わり、大気の上下の④混合作用
によって、夜間の放射冷却の強さが変わってくる。
それらの補足説明は以下の通りである。
①天空率、②人工熱、③熱的パラメータについて:
微風夜間の地表面における熱収支量は小さい。正味放射量=30~80W/m
2程度であるので、10W/m2程度の熱エネルギーの
増減は放射冷却に大きな影響を及ぼす。
①天空率、②人工熱について:
夕方(気温と地表面温度がほぼ等しいとき)の正味放射量について、平坦地
における値と、円錐状盆地底における値との差は、盆地底から眺めた
稜線高度角と共に大きくなる。平坦地における正味放射量と比べたき、
稜線高度角が30度のとき80%程度に、同50度のとき45%程度に減少する。
したがって、放射最大冷却量はこの割合で小さくなる。極端な場合として、
深井戸のような地形では放射最大冷却量はゼロとなる(近藤、1982、第6図)。
ビルの谷間でも同様の関係となる。断面が長方形で高いビルが奥まで続いて
いるとし、ここに冷気が流れ込んできた場合を想定する。ビルの壁面のうち、
地面付近の部分 B では天空はわずかしか見えないので、夜間の放射最大冷却量
はゼロ。したがって、放射冷却はほとんど生じない。
一方、ビルの上端に近い壁面 A では、夜間の放射最大冷却量は水平な平坦面
の30%程度である。なぜなら、大気放射の角度分布のうち、天頂付近から
くる弱い放射①は面 A にたてた垂直線となす角度が大きいこと、また
水平方向に近い方向からくる強い放射②に対して垂直であるからである。さらに
全立体角の半分を占める水平面下からくる放射③は隣のビルの壁面からの
もので、その表面温度は放射を受けるビル壁面とほぼ同じであるからである。
一般に冬期のビル内は外気より高温であるので、内部の人工熱は壁面の外へ出て
くる。
以上の2つの理由により、ビルの壁面は夜間冷却が小さく、高温に保たれることになる。
ビルの谷間の空気は壁面からの赤外放射によって、たえず瞬時に加熱される。
この加熱は下層ほど大きくなる。
③熱的パラメータについて:
夜間に地表面が失う正味放射量は地中伝導熱によって補われている。
地中伝導熱は地中の表面層(深さ0~10cm程度の厚さ)に含まれている
貯熱の放出量に等しい。それゆえ、表面層の熱容量(比熱と密度の積)
が大きければ冷え難くなる。
構造物が建つと、大気と接する表面積が平坦地に比べて増加するので、
水平な面でみたときの地表層の見かけの熱容量が大きくなる。それゆえ、
地表層が同じ物質でできているとした場合、都市では見かけの熱的パラメータ
が大きくなり、夜間の冷却速度は弱くなる。
④混合作用について:
夜間に地表面上にできる気温の接地逆転層(上ほど気温が高くなっている)
は安定で乱流強度は弱く、静かな流れとなっている。このような安定な層
ができたとき、高度10mと10cmにおける気温の差は2~10℃程度と
なる(近藤、2000、図4.7参照)。この大気層内で乱流が
できると、上下に混合されて、安定層の一部が破壊され、気温の鉛直分布は
等温に近くなる。その結果、高度の高い層の気温は下降するが、逆に
地表面に近い最下層(高度数m以下)の気温は上昇する。