モンスーン実験研究の副産物
(山本の放射図の補正)
1979年5月に日本南方洋上から赤道海域にかけて、国際協力による
モンスーン実験研究が行なわれた。この観測で、筆者らは
大気放射量の精密観測を行ない、同時にラジオゾンデ・データ
から得られる上空の気温と水蒸気分布を「山本の放射図」に用いて
大気放射量を計算で求めた。ところが、観測値が40 W m-2も
大きかった。
それまでの中緯度における同様の比較では、両者は±5W m-2
以内の精度で一致していたので、40 W m-2の差は意外であった。
当時、すでに現役を引退していた山本義一教授に、赤道海域で見出した
放射図の誤差を話すと、すぐに納得してうなずかれた。そうして放射図
作成上の仮定の見直しとなった。
1952年に発表された「山本の放射図」(Yamamoto's Radiation Chart)は
当時、世界で最も精度の高い計算方法として知られていた。しかし、この
図式計算法で仮定されていた連続吸収帯(大気放射の吸収の少ない、
波長8~12μm範囲の窓領域)における透過関数に誤差があったのである。
この誤差は、中緯度~高緯度のように大気中の水蒸気量が少ないところでは、
目立たないが、水蒸気量が多くなるにしたがって現われるようになる。
こうしてできた補正表は「水環境の気象学」の表4.8である。この表を
利用すれば、大気放射量は±5W m-2程度の誤差で計算
できることになった。