77. 襟裳岬、浦河、室蘭の観測所

著者:近藤 純正

地球温暖化など気候変動の実態を調べる目的で、都市化の影響の少ない 北海道の襟裳岬アメダスと浦河測候所を視察した。また、室蘭地方気象台の 露場の周辺環境も観察した。 (完成:2007年8月28日)

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  	  もくじ
		(1)はしがき
		(2)襟裳岬アメダス
		(3)浦河測候所
		(4)室蘭地方気象台
(1)はしがき
北海道根室方面の気象観測所を視察する旅の続きである。
2007年8月21日朝6時30分帯広発の十勝バスに乗車、途中の広尾でJRバスに 乗り継ぎ、襟裳岬に11時前に到着。広尾からの乗客は、ずっと筆者ひとり であった。

襟裳岬の停留所で下車すると、秋田大学の本谷研博士が待ちあわせ、出迎えて くれた。以後は二人で襟裳岬アメダス、浦河測候所、室蘭地方気象台を見学 する旅となる。

(2)襟裳岬アメダス
バス停留所の近くに駐車場と売店がある。前もって浦河測候所所長・高正俊一 さんから教えてもらってあったように、売店の前を通って白色の灯台に向かって、 150mほど行くと右側にアメダスがあった。

名曲「襟裳岬」(作詞:岡本おさみ、作曲:吉田拓郎、唄:森進一)の 歌詞にある「襟裳の春は 何もない 春です・・・・・」の通り、何もない 岬の感じである。都会にあるようなものはなく、雄大な自然、のんびりと 過ぎる時間がある。

いまの風は4~5m/s程度の軟風で気持ちよいが、襟裳岬の年平均風速は8m/s、 月最大風速は20~30m/s程度と強いためなのか、樹木はなく窪地に潅木が生えて いる程度である。

筆者がこれまで見学したアメダスでは、日本一の理想的な観測所である。 このアメダスは大切に保っていかねばならない。

襟裳岬南から
図77.1 南側から撮影した襟裳岬アメダス(右方の白色建物の左側に見える)、 横に2枚の合成のため歪んでいる。

襟裳岬北から
図77.2 北側から撮影した襟裳岬アメダス(左方の白色フェンスの先端付近)、 横に3枚の合成のため歪んでいる。

襟裳岬先端
図77.3 襟裳岬の先端部、横に2枚の合成のため歪んでいる。

(3)浦河測候所
途中で悪天候に遭遇することもなく、当初の予定通りJR浦河駅には8月21日14時 57分に到着した。歩いて浦河測候所を訪問。翌日22日の午前中も訪問した。 所長・高正俊一さんの案内で周辺環境を見学、現在の状況について 知ることができた。

港を見下ろす標高32.9m(気象標石の海抜)の高台に測候所がある。 北の方向は高くなっており、上のほうに保育所が見える。

浦河北と東
図77.4 浦河測候所屋上から見た周辺の環境、左:北方向(遠方ほど標高が高い)、 右:東方向(見下ろす位置に学校や住宅が見える)

浦河南と西
図77.5 浦河測候所屋上から見た周辺の環境、左:南方向、右:西方向 (遠方に浦河港が見える)

浦河露場、南側から
図77.6 南側から撮影した露場、白色建物が測候所会議室、それに重なって 奥に庁舎、右方の青屋根の2階建ては宿舎(敷地は露場より一段低い)である。 横に4枚の合成のため歪んでいる。

浦河露場、北側から
図77.7 北側から撮影した露場、左側(東側)は一段低い敷地であり、後方に 宿舎がある。横に3枚の合成のため歪んでいる。

浦河露場、北西から
図77.8 北西側から撮影した露場、横に3枚の合成のため歪んでいる。

浦河の望遠
図77.9 浦河港から撮影した望遠写真、左側の赤矢印の下に測風塔(測候所 庁舎の屋上に設置)、右側の赤矢印の下に露場がある(遠方の向かいの山上 の鉄塔と重なって見える)。

無人化後に対する提案:
いま世界では気候変動(地球温暖化)が大きな問題となり、国際政治の上 でも取りあげられるようになってきた。気候変動の大きさは100年間につき、 おおよそ0.5℃前後の大きさであり、また0.5℃程度の大きさのジャンプ・ ダウンが含まれている。こうした変動を50年以上の長期にわたり 正しく監視していくことが重要である。都市内にある気象台は都市化の 影響を大きく受けており、もはや地球規模の気候変動の実態を監視でき ない状態にある。

こうした現状にも関わらず、現在の気象庁の方針では、全国の田舎に設置 されている測候所は原則として廃止、無人化し、特別地域気象観測所にすると いう。無人化後は観測所の周辺環境をこれまで通り管理していけばよいの だが、大部分の敷地を不用地として財務省に返納し売りに出している。

気象要素は観測所周辺の環境変化を敏感に受けるので、露場の周辺は可能な 限り広く確保しておくべきである。大きな建物(3階建て以上)や背丈の伸びた 樹木などがないことである。

浦河の卓越風向は地形と関係し、西北西と東南東の風である。これを考慮 するならば、現在使用中の測候所敷地はそのまま残す のが理想的であるが、 最低限は図77.10に入れた青線A-Bより右側(南側)を残し 、露場の東側の一段低い敷地(現在宿舎がある部分)を売却しては ならない。

浦河平面図
図77.10 浦河測候所の平面図(浦河測候所提供)。 緑:露場、赤(下):庁舎と会議室、赤(上):宿舎、青線A-B:無人化後 この線より右側(南側)は観測所として最低限残すべき範囲(庁舎と会議室 をつなぐ渡り廊下の下の階段敷地も観測所に含める)。

浦河露場
図77.11 浦河測候所の露場平面図(浦河測候所提供) 。赤線の範囲内は周囲より高台になって いる部分、この右側(南側)は町有地である。

浦河測候所立面図
図77.12 浦河測候所の立面図(左が北、右が南方向) (浦河測候所提供)。 露場の南東隅に設置された気象標石の海面上の高さ=32.5m、露場の北端と 会議室の水平距離=3m、会議室右端(南端)から庁舎までの水平距離= 15mである。

(4)室蘭地方気象台
2007年8月23日、台長・明石秀平さんに案内されて室蘭地方気象台を訪問。 気象台は高台にあり、想像していたよりも環境のよい場所にあるが、露場 の周辺には高木が生い茂り、時代によって「日だまり効果」の大きさを変えて いるのではないか、と思った。

台長から手渡された気象台の業務概要によれば、気象台の前身である室蘭 測候所は1923年1月1日に室蘭市緑町1番地 に創立。1952年1月に現在地(室蘭市山手町2丁目)に移転、1957年9月に 地方気象台に昇格。1985年6月には現在の新庁舎となった。海面上の高さは 39.9m(気象標石)である。

昭和30年代(1955年前後)に撮影された写真によれば、現在地での旧庁舎は 平屋建てである。

室蘭、北と東
図77.13 室蘭地方気象台屋上から撮影した周辺環境、左:北方向、右:東 方向

室蘭、南と西
図77.14 室蘭地方気象台屋上から撮影した周辺環境、左:南方向、右:西 方向

室蘭、露場
図77.15 室蘭地方気象台屋上から見下ろした露場(右列の乗用車の向こう側、 ほぼ正方形の緑地)、横に3枚の合成のため歪んでいる。

室蘭、望遠
図77.16 気象台の西方にある測量山から撮影した望遠写真、写真のほぼ中央 に見えるビルが気象台

地球岬
図77.17 地球岬のチキウ岬灯台(左:海抜120m)と幸福の鐘(右)。
地球岬の語源はアイヌ語の「ポロチケップ(親である断崖)が転化し、 チケウエ→チキウ→チキュウそして地球になった」という(室蘭観光所の案内書 による)。

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