平成17年指定文化財

民族文化財・有形民族文化財
福岡市中央区　鳥飼八幡宮

概要

　神社境内や路傍の小祠に丸石が祠られている光景をよく見かけます。古来石に対して神秘な威力を認める信仰があったと考えられています。そうした石神の信仰は石神･石神井などの地名として現代にも残っています。
　力石とは力だめしをする石のことですが、その由来は神霊の依坐である石を持ち上げることで豊凶･天候･武運等の神意を伺う石占の信仰に遡ると言われています。又、米一俵分の重さを担ぎ上げる力が成人の資格と考えられ、それを証すために用いられた力石もあったようです。聖的な意味をもつ民俗信仰や行事が俗化し、遊戯化･誤楽化する例がありますが、以上のような意味を荷った力石もいつしか若者の力自慢の道具と見られるようになりました。（『福岡市の文化財（無形文化財・無形民俗文化財）』より取意）上げ方には肩上げ、両ざし、片手ざしなど様々な方法があり、「力持」「曲持」の興行にも使われました。
　住吉神社の力石は境内左手に基台の上に載せて置かれています。また境内右手には「奉獻　力石　掛目三拾六貫目」の銘がある力石が石燈籠の基礎か中台を転用した基台に載せて置かれています。

法量・石質等

　　銘文（正面陰刻銘）
　　　「奉獻
　　　　　　江戸
　　　　　稲毛平次郎
　　　　　同　　春吉
　　　　加奈川權次郎
　　　　　竹澤庄吉
　　　　力石」
　　石質　　玄武岩
　　法量　　37.5×82.0×37.0 cm

　　基台（石質・玄武岩、法量65.0×100.5×24.5 cm）
　　基台銘文
　　（背面右から）
　　　「世　綿善　米萬　北与　魚長」
　　（正面内側右から）
　　　「話　郎　郎　吉　□　人」
　　（正面外側右から）
　　　「不□　沖文　沖忠　不木　八百茂　石嘉　□儀　□久　八百松　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　□夘　曽根次　石市　石仁
　　　　鰯權　生吉　奈良嘉　石工嘉吉　筆宗興」

　　　　附　1個　石質・花崗岩、法量36.5×60.5×37.0 cm
　　　　銘文「奉獻　力石　掛目三拾六貫目」

指定理由

　荒戸山東麓のこの地港町が福岡藩の港として機能を充実・整備するには城下町建設以来、多年の経緯が必要でした。二代藩主忠之が江戸からの帰国に際して深港を普請させた寛永二年（1625）から百数十年後、荒戸波戸東端から南に長百二十間の波戸延長工事が完成したことを記念して享和二年（1802）に勧請された住吉神社の境内地に本力石は所在します。
　福岡藩の米蔵である永倉のあった簀子町に東鄰する港町は、文化9年（1812）の家数172軒・人数1116人（「福岡城下町・博多・近隣古図」九州大学蔵）の規模となり、家数・人数は福岡城下町に於て群を抜く数値であり、当地の殷賑を示しています。
　本力石はその銘から加奈川（神奈川）権次郎、稲毛平次郎らの力持ちが持ち上げたものであることがわかります。加奈川（神奈川）権次郎（文政11〜大正4年）は川向村（神奈川県横浜市都筑区川向町）出身、櫛田神社（福岡市博多区上川端町）その他広島県福山市・尾道市など瀬戸内海沿岸にその名を留める力持、稲毛平次郎（明治14年没）は南加瀬村(神奈川県川崎市幸区南加瀬)出身の力持であり、櫛田神社の力石にもその名が見られます。
　恐らく彼等力持ちは一座を組んで全国各地の祭礼などに招かれ興行して廻ったものと考えられます。
　本力石の特徴は基台の石に刻まれた二十数名の世話人です。沖文・沖忠、魚長・鰯權、綿善・米萬、八百茂・八百松、石嘉・石市・石仁等の名は通称或いは屋号であると考えられますが、港町の生業と賑わいを想わせます。また世話人とともに石工と揮毫者の名も刻まれ興行の記念として興行後にあらためて力持ちの名を刻み奉納されたことを想わせます。
　本力石は本市に現在確認できる数少ない力石の一つとして、また全国各地にその名を留めた力持ちの持った力石として、また傍らの「奉獻　力石　掛目三拾六貫目」銘の力石とともに港町の生業と賑わい・息吹を伝える力石として貴重な価値を持ちます。