虹の名残、ハワイのはかない宝石たち

・「REMAINS OF A RAINBOW -RARE PLANTS AND ANIMALS OF HAWAI'I-」
/写真と文: DAVID LIITTSCHWAGER,SUSAN MIDDLETON
/National Geographic Society ISBN 0-7922-6412-6
(ペーパーバック版も出版されるようです)
 最近ではテレビ番組でも紹介されたハワイのトレッキングの予習、復習に使えそうなハワイの動植物についての本を探してみたんですよ。でも、それに的を絞った本というのはなかなか無いものですねー。植物についての本は日本語で読めるのは後に述べる二冊だけ。

 それでは、と洋書を探してみますと、おお、ありますあります。モンクアザラシの本、海亀の本、などなど。ハワイが魅力的な土地であることは人間ばかりではなく、動植物も知っているのですねえ、改めて感じました。

 これらの書物のなかで一際興味を引かれたのが、最近出版されたばかりのこの書です。
「Remains of Rainbow」
『虹の名残』と訳すのでしょうか。素敵なタイトルです。サブタイトルが付いていますね。
「RARE PLANTS AND ANIMALS OF HAWAI'I」
そう、ハワイの希少動植物の本だったんですね。『虹の名残』このタイトルがよりいっそう心にしみるではありませんか。


☆「Remains of A Rainbow - RARE PLANTS AND ANIMALS OF HAWAI'I-」

 出版はナショナル・ジオグラフィック社。同社は「ナショナル・ジオグラフィック・マガジン」を通して世界各地の生活、自然、風俗文化をアメリカの人々に紹介し続けてきました。世界の地理風俗に疎いと言われるアメリカ人ですが、こういう素晴らしい媒体を持っているのです。本雑誌の素晴らしさ、特に写真の質の高さはかねてから日本でも知られていましたが、日本語版も発刊されるようになってから私達もより容易にそれを享受出来るようになりました。

 時代時代それぞれの視点にてハワイを取り上げてきた「ナショナル・ジオグラフィック誌」が20世紀末近くにテーマとしたのが「絶滅種」の問題でした。

 前号でも紹介しました1995年9月の「滅び行くハワイの生物」。
この号ではハワイ固有の動植物が人間が持ち込んだそれによって絶滅の危機に瀕していることを広く紹介しています。しかし、この外来種による侵略はポリネシア人の漂着の時代から始まっていたのです

 元来火山活動で生まれたハワイ諸島には生物はいませんでしたが、風や波によって漂着、もしくは鳥によって運ばれてきた種子がこの島々に根付き、独自の進化を遂げてきました。漂着したポリネシア人は羽飾りにするため鳥を狩り、土地を開墾、もちこんだタロ、パンノキを植えていきます。

 もちろん、1778年のヨーロッパ人との接触による変化はそれまでのものをはるかに凌駕するものでした。豚やヤギなどによってシダなどの植物が食い尽くされ、ネネ(ハワイガン)はマングースに食い殺され、ハワイミツスイは蚊が媒介するマラリアによりその数が激減しています。8800種以上存在していたという固有の動植物のうち、すでに1000種以上が絶滅、今も数百種が絶滅の危機にあります。これを食い止めるべくさまざまな施策、活動が行われているのですが、ハワイ人の伝統文化を守る運動との対立もあり、有効な手立てとなりえない状況もあるようです。そのなかで成果を挙げていると紹介されるのがキース・ロビンソンさんの活動。野山に分け入り希少植物を採集、愛好家に密かに分配、自身でも育てているのです。

 この記事には絶滅した種、もしくはその危機にある種がイラストと写真によって紹介されていますが、今回掲載させていただく「Remains of A Rainbow」はそれを大版の写真にて記録に留め、かつその現状を広く知らせようとするものです。

 収録されているのは140もの息を呑むような草花、昆虫、かたつむり、モンクアザラシ、ネネ等のカラー・モノクロ写真。ほとんど一枚に一種が、大判のポートレイトのように収められているのです。巻末にはそれぞれの種のプロフィール(英語名、ハワイ名、生息地、個体数等)が掲載されています。これによって、その種にとってなにが脅威になっているのか、そして危機の程度がどれほどのものなのか、を知ることが出来るようになっているのですね。個体数の欄には、たとえば「不明」とあるもの、100をきっているものが存在します。そう、そのうち、本書のような写真ででしか見ることが出来なくなるものがここに記録されているのです。そしてその多くが、「虹の名残」というタイトルにふさわしく、まさに宝石のような美しさ、はかなさを見せてくれています。

 最初のページに登場するのはレフアの花(ハワイ州花)、「え、何故?、ポピュラーな花でしょ」と思いました。たしかにプロフィール欄に『おそらくもっとも知られているハワイ固有植物』とありますね。でも、『脅威』欄にはこうあります。『生息環境の悪化、破壊』と。本書にあるこの「ポートレイト写真」がお葬式用の写真になってしまうのでしょうか?

・「A Hawaiian Florilegium -BOTANICAL PORTRAITS FROM PARADISE-」
  /画:Mary Grierson 文:Peter S. Green
  /National Tropical Botanical Garden,
University of Hawai'i Press
ISBN 0-915809-20-6
☆「A Hawaiian Florilegium -BOTANICAL PORTRAITS FROM PARADISE-」

 皆さん、ボタニカル・アート、つまり植物画というものが広く世界の人々に愛好されていることをご存知であろうか、と思います。写真技術が発達した現在においても写真以上にその対象物を捕らる力を持っていますし、芸術として愛する人々も数多くいらっしゃいます。

 本書は植物画の第一人者であるメアリー・グリアソンさんがハワイの植物を描いた作品を収めた画集となっており、上記のような精緻な写真とはまた違った臨場感を視るものにもたらします。

 メアリー・グリアソンさんはあの有名なイギリス王立植物園、キュー・ガーデンの公式アーティストを1960年から1972年の12年間勤めた人物で、本書に収められた作品は70年代から80年代まで5回に渡って国立熱帯植物園のあるカウアイ島を訪れた際に描かれたものなのだそうです。思い起こせばクック艦長との航海から帰還したジョセフ・バンクスがキュー・ガーデンの園長を勤めていたのでしたね。

 本書は「ハワイ固有種」14枚、「絶滅にひんしている固有種」9枚、「ポリネシアから導入された植物」5枚、「近代にもたらされた植物」15枚、計43枚の植物画が収められています。学術的な価値はともかく、なまめかしいまでの美しさになにか胸がときめいてしまうのです。女神ペレになぞらえられるというレフアの花もなるほど、そうか、と思わせるものがありますね。

・「ハワイの花 熱帯植物170種」/柳 宗民 /日本交通公社
ISBN 4-533-02377-0
☆「ハワイの花 −熱帯植物170種−」

 ハワイの本を読み始めたとき、日本語で読めるハワイ特有の自然、動植物、の本が少ないのを残念に思っていました。ハワイの書店を覗けばそれはもう多くの書がありましたが、なにしろ日本語で読みたかったのです。

 そういったとき、書店にこの本を見つけたときは大喜びでありました。元来、草花への関心薄いいたって風情の無い人間ですが、ハワイは別です。街中で出会う草花、植物園などで出会う植物の名前、由来を知りたいじゃないですか。

 本書はその目的にまさに合致したつくりです。『町を彩る花木たち』、『トロピカルの草花たち』等と分類されたハンディな本書はハワイで気楽に草花に接し、基本的な知識を得るのに好適なガイドブックだと思います。

・「ハワイの花300種ガイド」/武田和男 /朝日新聞社
ISBN 4-02-100029-1
☆「ハワイの花 300種ガイド」

 それからしばらく後、ある雑誌で、腕を見込まれてマウイ島の植物園の運営をまかされた日本の方がいることを知りました。同時に紹介されていたグラビアの花々の鮮やかだったこと!

 本書を購入してから気が付いたのですが、著者である武田和男さんがその人だったのですね。なるほど、各植物の解説に繁殖方法、日本でも栽培可能か、という記述があり、実際に手塩にかけた方でなければ書けない書なのかもしれない、と思いました。

 本書にも各島で草花に触れられる植物園、ガーデンがあるなどガイドブックとしても利用できるほか、レイの歴史、外来種や有害植物、クラフトなどのコラムも充実。分類や解説が先の「ハワイの花 −熱帯植物170種−」に比べると少し専門的ですので、ハワイ風ガーデンを作ってみたいな、というある程度園芸の知識ある方が有効活用できるかもしれませんね。(この本を探されていた方から教えていただいたのですが、出版社さんでも在庫が無いそうです。書店で見かけられたらチャンスですよ)

・「Hawaiian Flower Lei Making」
/Adren J Bird,Josephine Puninani Kanekoa Bird
  /University of Hawai'i Press ISBN 0-8248-1137-2
☆「Hawaiian Flower Lei Making」

 もし、ハワイで生活する機会があり、そして、身近にハワイの植物と接することが出来たら、そしてその植物をレイなどのクラフトに加工することが出来たら...。皆さんはそんな夢を持ったことはありませんか?

 レイ造りについての本は何冊かあるようですが、一番良く目にするタイトルは本書だと思います。モノクロではありますが、プルメリア、蘭、カーネーション、クラウン・フラワーの花、ティーの葉、マイレの葉、茎などを使ったレイの造り方をステップ毎に解説した書です。

 マイレにはバラのような香りがあり、そのレイは停戦の儀式などに使われたと「ハワイの花 300種ガイド」にも記述があります。しかし、本書によれば最近では真のハワイアン・マイレは見つけることが難しく、輸入物や、他の植物がマイレと称して使われることがあるそうです。しかし、そういった贋物にはハワイアン・マイレ独特の芳香が有りません。

 では、どうするか…。

・「A NATIVE HAWAIIAN GARDEN -HOW TO GREW AND CARE FOR ISLAND PLANTS」
/John L. Culliney,Bruce P. Koebele /University of Hawai'i Press
ISBN 0-8248-2176-9
☆「A NATIVE HAWAIIAN GARDEN -HOW TO GROW AND CARE FOR ISLAND PLANTS」

 「ハワイの花 300種ガイド」を読んでハワイの草花をわが庭で育てられたら…と思われた方々もいらっしゃるでしょ。実際、僕が本書を注文したのはハワイ植物の園芸入門書と思ってのことでした。

 さてと、マイレの育て方はあるでしょうか。
探してみますと、おお、ありました。このマイレの育て方が…。難易度は「Easy」となっていますね。本書の解説にありますが、マイレがフラ・ダンサーの守り神、女神ラカを象徴する植物であることは読者の皆さんのほうが詳しいですよね。

 卒業式や結婚式などに使われることも多く、需要が多いがために先のようなまがいものが出回ったり、不注意なコレクターが自生地の他の植物を荒らしたりすることが多いのだとか。

『確実な解決方法としてレイ・メーカーが自身用のマイレを裏庭で栽培したり、共同の植物園で育てる』ことを著者は薦めています。

 うむむ、しかし、「園芸入門書」にしてはどうも雰囲気が違いますね。
そうなんです。違ったのです。本書の狙いはそこにはありませんでした。本書が対象としている読者は園芸のプロ、もしくは経験を多く持つ人物、希少な植物を守ろうという志を持つ人であったのです。そして、本書の目的はこれまで触れてきたような環境の劣化や外来種に脅かされ、絶滅に瀕している種を守り、ただただ記憶や写真、絵の上での存在に終わりそうな種を守り、育てるための情報を提供すること(本書には63種の栽培方法が収められている)にあったのです。

「本書はそういう流れをせき止める助けとなるために編まれたものである。最近まで、自らの庭で、公園で、校庭で、ハワイ固有種を育てようという人はごくわずかであった。だが、その育て方などに欠くことのできない情報が読み易い形で利用できたら、その状況は変わるであろう」

 そう、本書は第二、第三のキース・ロビンソンさんを育てようという書でありました。日本に住むものが安易に手を出せるものでもありませんし、例え、ハワイに住んでいる人であってもろくな知識が無いまま参加すべきことではありません。ましてや、日本の一部に見られるような愛好家による盗採掘を招くようなことは決して許してはいけないでしょう。ただ、一般の人々にも出来ることがあるのだ、と勇気付ける力が本書にはあります。
 もうひとつ、本書「A NATIVE HAWAIIAN GARDEN」にはこうあります。
「実際、アメリカ全土における絶滅に瀕した種の38パーセントをハワイ固有のものが占めているのだ」

 今ナショナル・ジオグラフィック社を含め、ここまで危機感が高まる背景にはこういった現状があるのですね。