交響曲 第34番 ハ長調 K.338 第2楽章 メヌエット

1. 自筆譜の14小節について

交響曲第34番のメヌエットは現存しているすべて(=14小節)が新モーツァルト全集(NMA)の付録に印刷されており、音楽之友社版のミニアチュア・スコアにもリプリントされている。NMAのp.XVIにはさらにファクシミリが載せられており、第1楽章最終ページの裏に第2楽章としてメヌエットが開始され、ページ一杯に書かれた14小節全体が大きく取消線を付けられているのがわかる。おそらくメヌエットは完成されたが、何らかの理由でモーツァルト自身によってカットされたものと考えられる。

このメヌエットの楽器編成は2Ob、2Fg、2Hr、2Tp、Timp、弦楽五部となっており、ハ長調のTpとTimpがフォルテで開始する冒頭は行進曲と見紛うばかりの堂々たる足取りとなっている。4小節毎にフォルテとピアノが交替する形となっているが、14小節の間、Vn1には一つも休符がない。さらに普通8小節目にある筈の反復記号がないので、モーツァルトは16小節をベタ書きしたものと思われる。その理由は8小節目に無かった休符を16小節目には入れるためであったと推定される。第13-14小節でVn2がVn1のオクターヴ下をなぞり始めるのも16小節目の終止を目指してのことであろう。このベタ書きのお陰でTpとTimpは9小節目に躍動感のあるリズムを取り入れることができた。このリズムを冒頭から出すには強烈すぎるからである。

2FgはNMAでは空白となっている。他の楽章は自筆譜以外に筆写譜や出版譜も参考にしているため、2Fgの段に音符が印刷されているが、この楽章は出典が自筆譜だけでしかも自筆譜では2Fgの音符が書き出されていないことに拠っているものと思われる。しかし、NMAのファクシミリを見ればモーツァルトはFagottiとBassiの段を分けて書いており、Vc、Vbと異なる音形の時のみFagottiの段に音符を書き出すことにしていたのが明らかであるから、ここにはBassiと同じ音形を書き出しておくべきである。2Fgに演奏させることにより、第4小節、第11小節の付点音符がK.319のフィナーレの第64小節、第278小節と同様のファゴットらしい効果が得られることになる。

《ハフナー交響曲》K.385がバロック的であるとよく言われるが、このメヌエットはVn2にアルベルティ・バス的刻み、Vn1に紡ぎ出し旋律的無形式感とそれを支えるバスの紋切り型単純性を持ち、よりバロック的であると言えるのではなかろうか。それゆえ、ヴァイオリンの旋律だけを浮かび上がらせるのではなく、管とTimpとバスを生かしたバランスでの演奏が必要となろう。

Allegrettoのテンポはいろいろと試みた。好みではMM130であったが、もう少し速くする必要を感じた。ジャン・ピエール・マルティの「モーツァルトのテンポ表示」に拠ればMM144であり、馴れてくるとこのテンポが適切に感じられたので最終的にはそれに従った。

2. 補作の2小節について

メヌエット前半16小節の終止形を決めるに当たって気になるのは自筆譜の最後に書かれている次頁の第15小節への音高ガイドである。Vn1にgis2 、Vn2にgis1と書いてあるのは7小節目と同じで不思議ではないが、Vaにe1が書かれているのは理解に苦しむ。14小節の終りから終止までの和音はT−W−X−Tとなるのが自然ゆえここはWとなると思われるが、モーツァルトはT−X−Tで書いていたのだろうか? しかし、次頁への音高ガイドは何のためであろう。メヌエット全曲が演奏譜として使われた名残なのだろうか。それとも演奏譜として使われることを前提に作曲したが結局は使われなかったというだけなのだろうか。

第15小節は8分音符をスラーで繋げた先行音形のまま引っ張り、第16小節には終止和音を置くとともに、2拍目、3拍目に低音部を弾ませた。

3. 補作の16小節について

メヌエット後半16小節の頭8小節では新たな展開が必要である。私は、前半で脇役に回っていたVnの同音反復と、刻みをVn1とVn2に奏かせるとともに、前半ではやや遠慮勝ちだったTpとTimpを4小節のフォルテの中で思う存分鳴らさせてやることにした。Vnの同音反復と刻みはどこかK.605 No.2のドイツ舞曲後半がイメージされている。前半最後の2小節は奇しくも無意識のうちに《リンツ交響曲》K.425のメヌエットと同じとなってしまった。

メヌエット後半の後ろ8小節は8分音符をスラーで6個繋げた音形を1小節だけに省略し、2分音符と4分音符のスラーよる組が2回出てくる単調さをおさえた。残り2小節は前打音付きのストンと落ちる終止である。ここでも2拍目、3拍目に低音部を弾ませた。

4. トリオについて

カール・ベームを筆頭にこの交響曲の第3楽章(!)にK.409を配したレコードが幾つかある。しかし、K.409がK.338と何の関連もないばかりでなく、交響曲のメヌエットとしては長すぎるということから批判がなされている。K.338の適切な長さの第2楽章はどんなものか、を知るためにはトリオの復元も避けて通れない。

今回はトリオの補作を試みることはしなかった。その代わり、既存のモーツァルトのメヌエットからトリオを流用することで凌いだ。メヌエット主部の特徴である、ハ長調、同音反復、刻みが和らかく出ているという点に共通性があるK.103(61d) のNo.13 を選んだ。この曲はもちろんボスコフスキーの舞曲全集に入っているが、第9-16小節についてはボスコフスキーがNMA付録の初稿で演奏していたのに対し、ここではNMA本文の最終稿に拠った。

交響曲のトリオとしては少々物足りないし、スタイルも異なっているようだ(Vaが演奏されないことに対しては批判が出よう)。従って、よく耳にする他の交響曲のトリオを流用するよりはまし、という程度にとどまっている

5. メヌエット楽章全曲演奏について

メヌエット楽章の反復についてはトリオを終わった後の主部の演奏も反復を省略しないのが最近の主潮である。この曲は特に前述の通りメヌエット冒頭の繰り返しはベタ書きのため省略できないから、後半もバランス上繰り返さざるを得ないこととなる。結局トータルで延べ144小節となり、MM144で演奏すると180秒すなわち丁度3分かかることとなる。

6. 交響曲のメヌエット楽章としての位置付け

最初に述べたように堂々とした開始部が特徴であるが、交響曲のメヌエットとしては、またK.338のメヌエットとしては異質な感じが否めない。モーツァルトは4楽章を完成した後にメヌエット楽章を削除したのだろうか。それともアンダンテ・ディ・モルト及びアレグロ・ヴィヴァーチェに着手する前にメヌエットを削除したのだろうか。前者であれば少なくも一度は4楽章の交響曲として完成したと言える訳で、メヌエットを復活させての交響曲演奏にも意味があるかもしれないが、後者であればアンダンテ・ディ・モルト及びアレグロ・ヴィヴァーチェは元々メヌエットなしの第2楽章、第3楽章として作曲されたのであり、メヌエットを加えての演奏は様式的にモーツァルトの意図に反することになる。従って私はMIDIファイルに4楽章全部を含めることはしなかった。

モーツァルトがなぜメヌエットを削除したかは今後の問題として提起しておきたい。

Sound交響曲 第34番 ハ長調 K.338 第2楽章 メヌエット

パート設定 CH1: Oboe I, II、CH2: Fagotto I, II、CH3: Corno I, II in Do/C、CH4: Trombe I, II in Do/C、CH5: Timpani in Do-Sol/C-G、CH6: Violino I、 CH7: Violino II、 CH8: Viola、 CH9: Violoncello、 CH11: Basso
制作時の音源:Roland SC-88VL
使用楽譜 NMA: IV/11/6 Anh.および NMA: IV/13/1/1 p.23

HomeTop


作者:野口 秀夫 Hideo Noguchi
E-mail:ホームページを参照ください。
URL: http://www.asahi-net.or.jp/~rb5h-ngc/j/k338.htm
本ページに記載の文章、図表、画像、音楽などの転載を禁じます。
(作成:1997/3/23、改訂:1998/1/3)