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紅色の水晶

浅桐静人

 ここ最近、雨が降っていなかった。雪が降ってたとかいうオチはなしだ。
 寝苦しい夜が続いていた。言うまでもなく日中はさらに暑くて、昼寝なんかとてもできやしなかった。
 そんな夏のエンフィールドの一郭を、長袖で汗ひとつかかず、しかも三枚も重ね着して歩く青年がひとり。ルーだった。
「ねー、暑くないのー?」
 半袖で軽装、いわば普通の格好をしたローラがその後方から声を掛けた。無視して先を行くルーに遅れじと、いつもより少しだけ早歩きで追いかける。
「ねー、なんでそんな服着てるのー? ねー、ねーって」
 むしろ、ローラの格好でも暑いくらいだ。ローズレイクやムーンリバーに、衝動的に飛び込んでしまいそうなほどに。そこを冬服で歩くなんざ、気違いとしか言いようがなかった。
「ねー」
 不意にルーが立ち止まる。
「暑苦しいから付きまとうな」
 そしてまた歩き出し、ローラとの距離が離れていく。
「それ、全然説得力ないんだけど」
 いつもなら様になり、ローラを怒らせるセリフなのだが、格好が格好だけに全くローラの言う通りだった。
「他人のこととやかく言う前に、自分をよーく見直したほうがいいんじゃない? その格好、見てるだけですーっごく暑苦しいんだよ。ねー、聞いてる?」
 先行くルーは、あまり聞いていなさそうだった。
「どーせまた」
「そうだ。少し違うがな」
 ローラが言う前に、ルーはきっぱりと肯定し、さらに補足した。
「あたし、まだ何にも」
「ふっ、お前が言いそうなことくらいだいたい読めるさ。厚着で出かけたら吉と出たからそうしてるんじゃないのか、だろう?」
 自分が言うはずだったセリフを先に言われて、ローラはあまり上機嫌ではなかったが、まあ、別にとやかく言うような事じゃない。
「そーだけど」
「しかし、正確な事実はこうだ。超能力者が透視のテストをすると、ときに全く当たらないこともある。だが、よく検証してみると、ひとつずれていれば全部正解だとか、順番がちょうど正反対だったりとかな。そんな少し変わった性格のある力もあるんだ。
 そこで、俺は考えた。占いにそういうことがあったって不思議じゃない。検討のため、俺は占いの結果と逆の行動に出ることにした」
 なんとなく論理的な考察にも聞こえるルーの論理に、ローラは一瞬感心した。が、よくよく考えてみれば、
「つまり、薄着でいるのが吉って出たわけ?」
 それが本当なら、妥当な結果だ。もっとも、占うまでもなく実行することだが。それでもあえて逆をとるルーを、理解しろってほうが無理というものだ。
「そうだ。ついでに、外出は控えろとも出たな。今日はもう占いはやるなってのもあったな」
 いったいどんな占いをやったら、そんなに具体的な内容がずらずらと出てくるのだろう。それはそれで興味もあるが、それよりも先に呆れてしまう。
「タロットにトランプに水晶に、手相人相夢相家相、他には占星術や四柱推命、連山帰蔵周易までいろいろあるぞ。連山と帰蔵のやり方は現代には伝わってないがな。俺が推奨するのは、タロットとトランプと水晶と夢占いと占星術だな」
 またしてもローラが訊ねる前に、ルーが答えた。
「多いのは分かったけど、それでもあーしろ、こーしろってのは出ないと思うんだけど?」
 少なくともローラの知る占いでは、“積極的にいこう”とか、一番具体的なものでも、“今日のラッキーカラーはちょっと緑がかった黒っぽいモダンパープルで、ラッキーナンバーは24π±3.3729”とかいうくらいだ。
「それは、数ある占術のうちのひとつしかやらないから、あるいはひとつひとつの占いを別々に考えるからだ。俺は複数の占いの結果を基に、論理的に意味を繋げて、それを占いの結果とする。先述のように、単独では満足しないのさ」
 果たしてそこまでする必要があるのか甚だ疑問ではあったが、まあいろいろと複雑な結果が生まれそうだってことは分かった。
 理論的なのか単なるこじつけなのか、説得力があるのかないのか。ルーが自信、というか確信をもっているのは見て取れるが。
「それでさー、どこ行くの?」
 どこだっていいだろう、と突っぱねられるかと思いきや、ルーの反応は違った。
「ここだ」
 立ち止まり、建物の真正面に向かう。ローラもたまにやってくる場所、水晶の館だった。
「ここの占いって、胡散臭いとか言ってなかったっけ」
 ルーがそんな文句を言っているのを聞いたことがある。が、ルーがここに入っていくのを見たことがあるのもまた事実なのだが。
「そうだが」
「なるほどねー。さっき占ったらここに来るのが吉……じゃなかった、凶って出たから仕方ないだろう、ってとこ?」
 先読みしてローラが言った。いつも自分のセリフを横取りされるので、たまにはルーのセリフを取ってみたかった。
「まあ、だいたいそういうところか」
 ローラは胸中で「やった」と喜んだ。一気に上機嫌になったローラは、ルーに先駆けて水晶の館の扉をくぐろうとした。しかし、そんなこと考えもしなかったが、水晶の館は閉まっていた。ぴったり閉じられた扉に、ご丁寧に張り紙までしてある。
「なになに……。“旅に出ます。探したくても探さないでください”」
「……」
 暑い夏のエンフィールドの路上で、ルーとローラは暑さも忘れ、ただ言葉を失った。

 不意にルーが動いた。体中の水分がなくなるかってほど汗を流しているローラとは違って、一滴の汗も見受けられない。
 ローラはふと心配になった。汗は体温調節のメカニズム。水の気化熱を利用して、体から熱を奪う。出過ぎても気持ち悪いが、全く出ないのも危険なのでは。
 そのルーは、水晶の館の扉に触れ、そのまま押し開けた。それほど力は入れていないようだが、扉はあっけなく開いた。
「外出してるのに、不用心だねー」
 特に何も感想を洩らさないルーの代わりに、ローラが正直な意見を言った。
「でも、なんで開いてるってこと分かったの?」
 その質問には答えずに、無言のままルーは水晶の館の中へと入っていった。そもそも、たとえ開いていたとしても、開けたり、ましてや入っていくなんて大いに問題ありだ。
 入っていくのをためらっていたローラだったが、ルーが入って間もなく、どさっという物音が聞こえたので、とりあえず中で何が起きたのか確かめようと思った。
「……」
 気づかれないようにそっと扉に近づいて、声を出さないように気を付けながら中を覗き込む。いささか警戒しすぎではあるが、何事もムードが肝心だ。そこまではよかったが、あいにく暗くて全く見えなかった。
 仕方なく、緊張を解いて、堂々と入っていくことにした。
「こんに……ち……わああ……」
 ローラは全身の力が一気に抜けていくのを感じた。強大な魔力に支配されたかのように、目の前に陽炎が揺らめいた。それほどまでに暑かった。
 なんとか意識を保って、ぼんやりする頭と視界で内部を見渡した。まず目に入ったのは、少し向こう側で倒れているルーの姿だった。
「わたしはぁーやってないわよぉー」
 不意に自分のものでない声が耳を伝って入ってきた。女性の声のようだが、エコーがかかったように声が揺れている。
 反射的に背筋が寒くなった。
「逃げるっ!」
 身の危険を感じたローラは、とりあえず無事かもしれないルーを引っ張ってとっとと逃げだすことを決意した。とにかく人目のつく場所に出たら、そうそう悪質な行動はとれまい。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。変な誤解したまま出ていこうとしないでちょうだい」
 いきなり女の声が弱気になった。それに、どこかで聞いたことがあるような声だった。暑くてかいた汗と冷や汗がごっちゃになった顔で、声の主の顔をしかと目に焼き付ける。
「あなたがルーさんをこんな……」
「断じて違いますっ!」
 放心しているローラに向かって、声の主であり、この館の主でもある占い師(名前不詳)が声を荒らげた。
「ルーさんは入ってきたとたんに倒れたのよ。よほど暑かったのかしら。まあ、こんな格好してたら無理はないと思うけど」
 ローラは改めてルーの様態を確かめた。完全に目を回しているようではあったが、息はある。間違っても息絶えてはいない。
 安心したローラはその場にへたり込んで、そのまま意識を失った。
 繰り返すが……館の中は異様なまでに暑かった。

「みず……」
 目を覚まして最初の言葉は、これ以外にはあり得なかった。さすがのルーも、水分補給無くしては生きられない。
「どうぞ」
 間髪入れずに、フードをかぶった謎の女性が水がいっぱいに満たされたコップを差し出した。起きたらまず水を欲しがるだろうと思って用意していたのだろう。ただ、そのせいで水はぬるくなってしまっていたのが残念だった。
 一気に飲み干してから状況を確認すると、足下にローラが転がっていた。ルーの体が無意識にこわばる。
「お前がローラを……」
「ううう……」
 もはや怒鳴り返す気も起こらず、ただ呻いた。が、ルーはそれを別の意味に取って、
「やはりそうか。まさかこの街でころ……」
 ルーの言葉を無視して、“フードをかぶった謎の女性”こと占い師(本名不詳)は、ローラの顔にコップの水を落とした。
「……みず」
「どうぞ」
 半分ほどしか水の入っていないコップを手渡して、占い師はため息をついた。
「二人とも、勝手に私を殺人犯にしないでくれないかしら」
 それだけ言うと、占い師は何かを思いだしたかのように、館の奥――と言っても同じ部屋の中だが――に走っていった。そこに屈んで、何やらごそごそと漁っている。
 顔を見合わせ、ルーとローラは同時に身を乗り出した。見たところ、占い師は鞄に荷物を詰め込んでいるようだった。
「夜逃げだな」
「うん、そうみたい」
「ちょっとちょっと、変なこと断定しないで! ローラさんも同意しない!」
 占い師は怒鳴りながらも手は止めない。何が入っているかは不明だが、一人で持てるかどうか怪しいぐらいの量はありそうだ。荷造りだと思うのも、全く理由がないわけではない。
「違うの?」
「違いますっ! 何日か留守にするだけ」
 語尾に力を入れて、きっぱりと否定した。今のルーとローラにうやむやな返事をすると深みにはまることは考えるまでもない。
「それにしては張り紙までして、ずいぶんと用意周到じゃないか」
 ルーは軽い調子で言ったが、占い師のほうは口ごもってしまった。いくらか間を置いて、占い師は決意したように口を開いた。
「とあるものを探しに行くから、ここを空ける期間が長くなるのよ」
 言うべきことは言ったと占い師は思ったのだが、“とあるもの”などと言っては逆効果だ。
「ねー、何を探すの?」
 間髪入れずにローラが尋ねる。好奇心に瞳を輝かせている。目を向けられている占い師にとっては、“白状しろ”と迫られているのも同然だということに、当のローラは全くもって気づいていない。
「言えばいいんでしょう。紅色の水晶よ」
 これにはローラだけでなく、ルーも反応した。
「紅晶で占いでもするのか?」
「もちろん」
「それは面白い。よし、俺も協力しよう」
 占い師とローラが口を合わせて「ええーっ!?」と叫ぶ。まさかあのルーがそんなことを言い出すとは思いもよらなかったらしい。
「ルーさん、熱でもあるんじゃ……」
 ローラは背伸びしてルーの額に手を当てる。だが、館の中の異常な温度のせいで、熱があるんだかないんだかよく分からなかった。
「うーん、少なくとも25度以下とか50度以上とかじゃなさそう」
「当たり前だ。生きてるという時点で30度以上43度以下ってのは分かるだろうが。まあ、こんな奴は放っておくとしてだな、その紅晶はどこにあるんだ?」
 ローラが「“こんな奴”って何よー!」と突っかかっていたが見事に無視して、ルーが問う。
「本気なんですか?」
 まだローラの喚きが聞こえていたが、ルーは無言で頷いた。有無を言わせないその表情に、占い師は屈した。
「雷鳴山にある洞窟よ。……地図もあるわ」
 いくつかある鞄のうちの一つに入っていた地図を見せると、ルーは目的地を確認してすぐに返した。
「じゃあ、行ってくるか」
 と、さっさと館を出て歩いて行ってしまった。
「あ、あたしも行くー」
 ローラもそれに続く。
 占い師は人知れずため息をついて、また荷物まとめに取りかかった。

 ルーとローラは目的の洞窟へやってきた。雑草やなんかで巧妙に隠されてはいたが、場所を知ってさえいれば、ルーにとって見つけるのはたやすい。
 その隠れた洞窟の中へと一歩踏み出した途端、外の空気とは明らかに違う緩い風が吹いた。
「さすがに涼しいな」
「ってゆーか寒い」
 この状況下ではルーのほうがまともな格好だった。占いの裏も、捨てたものではないかもしれない。だが、少しでも外へ出たら暑い。やっぱり占いはそのまま信じるべきだろう。
「何はともあれ一本道だ。進んでみるか」
 表情を変えずに進んでいくルーを追う形になって、ローラもついていく。進めば進むほど冷え込み、防寒着が欲しくなってくるが、あいにくそんなものは持ち合わせていない。まあ、殺人的な寒さというわけでもないのでそのうち慣れるだろう。
 道は曲がりくねっているものの、ずっと一本道だった。進行方向を決める必要もないまま、ふたりは大広間とでもいうべきところに出た。
 透きとおった氷が、水晶のような塊になって並んでいる。肌寒いのも当然、常に水が凍っていられる温度なのだ。
「わー、きれい。でも、これって単なる氷だよね」
 ローラが塊に触れると、表面が一瞬だけ滑らかになった。爪を立てると、少しだけ削れた。それ以上は、手が動かなくなったのでやめた。
 改めて四方を見渡すと、さっき通ってきたところを含めて4つほど人が通れそうな横穴があった。
「ともかく、やっと広いとこに出たね。ここからの道は3つあるけど……」
 先を行っていたルーも振り向いた。ローラと同じように、どの方向へ進もうか決めかねているのだ。
「どっちだと思う。適当で良いから言ってみろ」
「うーん。左、かな」
「そうか」
 ルーはそう言うと、迷わず右へと進んでいった。
「あたしの意見はどうなったの?」
 どの方向へ進むかは別に気に病むほどのことではないが、左と言って右に進まれるのは気に障る。
「俺は真ん中だと思った。お前は左と言った。だから右だ」
 今日のルーは、占いだけでなく直感でさえも逆を取ろうとしているらしい。真ん中と答えたらどうなっただろうと、ローラはあまり意味のないことを考えたが、いつの間にやらルーの後ろ姿が見えなくなっていたので慌てて追いかけた。
 ルーの背中はすぐに見つかった。さらにその奥に目をやると、何やら赤く光っている。
「もしかして、いきなり正解ルート?」
 声を明るくしたローラに、ルーのげんこつが落とされた。
「何をバカなこと言ってやがる。逃げるぞ」
「へっ?」
 ルーが立ち去った逆のほうをまた見ると、赤い光は鋭い眼の形をしている。五感を研ぎ澄ますと、「ぐるるる」といううなり声も聞こえてきた。
 しかしローラは怯まずに、赤い眼に腕を向けて立て続けに叫んだ。
「ルーン・バレット! ルーンバレット! るーんばれっとぉ!」
 炎の弾が暗闇に向かって飛んでいく。うなり声が聞こえなくなって、「やったー」と思っていたら、不意に後ろに引っ張られた。
「わーっ」
「わー、じゃねえ。こんなところでよりにもよってルーン・バレットなんか連発するなんて、何を考えてるんだ!」
 ルーが指さした、さっき進んだ方向に目をやる前に地面が揺れた。2秒ほどの揺れに耐えてからもう一度目をやると、氷の塊で道がふさがれていた。
 ルーの判断が遅ければあれの下敷きになっていた。一歩間違えれば得体の知れない獣と一緒に閉じこめられていた。そう考えると、ローラは背筋が寒くなった。それと同時に周りの気温も思い出し、全身が寒くなった。
「あらー、派手にやっちゃったわねえ」
 緊張感のない第三者の声が洞窟に響いた。荷物のぎっしり詰まった鞄をふたつ並べ、ゆったりとくつろいでいる占い師だった。
「非心占い師か」
「どうしていきなり不正人間扱いされなきゃいけないの! 美人占い師よ!」
 自分で言うのもなんだったが、非心よりはましだ。ちなみに占い師の顔は、こんな場所でもフードに覆われて見えない。
「それで自称奇人占い師さん、何やってるの?」
「なんでローラさんに変人扱い。……もういいわ、休憩よ、きゅうけい。これから残りのふたつを探すんですからね」
 “残りの”と強調して自称美人占い師が言った。通路をひとつ減らしてしまったことを責められているようで、ローラはそれ以上の言及を自粛した。
「そうそう、外はもう夕方よ。ちなみに私は泊まり込みだから心配いらないわよ」
 占い師は鞄からつつみを取り出して広げた。弁当だった。泊まりと言うからには、明日や明後日の分もあるのだろう。
 ローラはふと天井を見上げた。外の光は全く入ってきていない。外が朝だろうが昼だろうが夕方だろうが夜だろうが深夜だろうが早朝だろうが、ここの景色は変わらない。秋になっても変わらないだろう。
 今が占い師の言うとおり夕方だとすれば、歩いて帰ったら、出る頃にはもう夜にさしかかるくらいだ。
「じゃあ、そろそろ帰らなきゃ」
「そうだな」
 手を振る占い師に背を向けて、ローラとルーは歩き出した。もと来た曲がりくねった一本道を進む。あの占い師に声も届きそうになくなった頃、ルーはローラに話しかけた。
「あの様子から察するに、水晶の話は出任せだな。だいたい、色付きの水晶で占うなんて聞いたこともない」
「そだね。真剣に探してるふうには見えなかったし」
 占い師(名前不明)の行動を改めて考察すると、どうも本気ではなさそうだった。結局何が目的だったんだろうとローラが首をひねったが、あまりいい答えは出なかった。代わりに、どうでもいい他のことを思い出した。
「ねー、ルーさん。マンボウ占いって知ってる? あの占い師さんが前にやってたんだけど。それと比べたら、紅色の水晶っていうのはまだ常識的だと思うんだけど」
 ローラの頭いっぱいに、マンボマンボ言っている占い師の姿が浮かぶ。
「……確かにな」
 マンボウを水晶玉の代わりにしている姿を思い浮かべながら、呆れた声でルーが呟く。
「まあ、そんなことはどうでもいい。それより、俺が思うに……」
 と、いつものように確信を持った声でルーが切り出した。が、その後に続くはずの理論的な推考は聞こえてこなかった。
 ただ、何かが倒れる音がした。
「うあ……あつー……」
 その音は、ローラがうめきに消された。陽は幾分傾いていたが、今まで涼しすぎる洞窟の中にいたせいで、外の暑さは昼間よりもきつかった。
 ルーのような格好なら、思わず気絶したくなるのも無理はない。現に、ルーはもう草むらで気持ちよさそうに眠っている。とりあえず脈はある。命に別状はなさそうだ。
「ほっとこーっと。うー、それにしても暑いあついあつーいっ!」
 ローラは倒れているルーを残して、ふらふらしながらエンフィールドの街に帰っていった。

 後日、水晶の館の張り紙は、「捜し物のため長期休業中」というものから、男の字で「避暑に出かけます。ご用の方は雷鳴山へお越し下さい」と書かれたものに変わっていた。その真下には、しっかりと洞窟の場所を示した略地図が描かれている。
 さらにその下を見ると、こんな文句も書いてあった。
『なお、館の中は頭が錯乱するほど暑く、我慢比べには最適です。ご自由にお使いください』


あとがき

 季節ネタ。暑いやら寒いやらをネタにすると、ローラを主役にしたくなるのはなぜでしょう。あと、ルーとローラはお気に入りのコンビです。
 今回はとにかくギャグ路線を突っ走ってますんで、随所で意味もなく笑ってもらえたら大成功ってとこですね。最後のほうは完成を急いだせいもあって、ちょっとひねりが足らないかもしれませんが。なにせ、書き終わった30分後にはもうHPにアップロードというスケジュールですんで。(笑) その30分間は、あとがきを書き、このSSをHTML形式に直したりと、やることは詰まっているわけで……。あー、もう時間がない。(笑)
 毎度のことですが、一言でも全然構いませんので感想くださいね。


History

2000/07/27 書き始める。
2000/08/12 書き終える。

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